特別企画

【特別企画】SUPER GTタイヤメーカー インタビュー 2012-2013(ブリヂストン編)

「2013年もチャンピオンと全勝を引き続き目指す」

 SUPER GTタイヤメーカー インタビュー 2012-2013の第2回は、ブリヂストン。日本の、いや世界でもトップクラスのタイヤメーカーであるブリヂストンは、2010年までGT500のチャンピオンタイトルを独占してきたが、2011年ミシュランにその座を初めて奪われた。2012年はその座を奪回しようと1年を戦ってきたが、8戦中5勝と勝ち数は多かったものの、勝利が複数のチームに分散したこともあり、チャンピオンの座を奪回できなかった。

2012年第1戦岡山、第8戦もてぎを優勝した38号車 ZENT CERUMO SC430(立川祐路/平手晃平)
第3戦セパンを優勝した18号車 ウイダー HSV-010(小暮卓史/カルロ・ヴァン・ダム)
第6戦富士を優勝した12号車 カルソニックIMPUL GT-R(松田次生/ジョアオ・パオロ・デ・オリベイラ)。ブリヂストンユーザーは、勝利が複数のチームに分散していた

 しかしながら、ウエイトハンデのない開幕戦と最終戦をブリヂストンユーザーである38号車 ZENT CERUMO SC430が獲得するなどの結果を残した。こうしたブリヂストンのSUPER GT 2012年シーズンと2013年シーズンの展望について、ブリヂストン MSタイヤ開発部 設計第2ユニット 課長 細谷良弘氏にお話をうかがった。

天候と予測不可能な不運に翻弄された1年だった

ブリヂストン MSタイヤ開発部 設計第2ユニット 課長 細谷良弘氏

──2012年シーズンを振り返っていかがですか?
細谷氏:率直に言って、いろいろな事が起こったシーズンだったということに尽きると思います。弊社がターゲットにしていたタイヤ性能という意味では、ある程度までは達成できたと考えています。

 ただ、レースにはつきものと言いますか、予測不可能な事態がたくさん起こりました。例えば、第2戦の富士では12号車(インパル)がトップを走っていたのに終盤に雨が降ってきたことで最後の最後で順位を落としてしまった。

 また、同じように第4戦の菅生での12号車と23号車(ニスモ)のニッサン同士討ちも痛かった。これまで菅生はブリヂストンは苦手なサーキットでミシュランさんが有利なサーキットと言われていたので、予選で前を占めた時にはレース展開にも自信があったんですが……。非常に残念でしたね。特に、昨年弊社の陣営に戻ってきて、いきなり3勝をマークした23号車(ニスモ)が2012年シーズンに1回も勝てなかったというのも残念です。

──確かにシリーズが決まってしまったオートポリスでも天候に翻弄された面はありましたね。オートポリスでは何が起こっていたんでしょうか?
細谷氏:弊社のユーザーチーム様は、雨が上がる方向を想定して、全車浅溝をつけてスタートしたのです。しかし、予想に反して雨は上がらず、そのタイヤをずっと使い続ける結果になり、結果的に途中でタイヤを交換しなければならなくなってしまったのです。

 では、何台かは深溝でスタートすればと思われるかもしれませんが、各チームが勝利に向けて戦略を練っている中、現場での判断は非常に難しいものがありました。実際、熊本市内ではすでに雨は上がっているなどの情報もあり、途中からドライになると全チーム考えていました。浅溝でスタートしてドライに変えていくという戦略での成功例も多かったこともあり、結果的に全車浅溝でスタートすることになってしまったのです。

 これはあくまで結果論なんですが、逆に雨が上がっていれば浅溝からスリックに交換してという展開になっていれば、他メーカーさんはどうしたのという話しになっていたと思います。ただ、レースは結果がすべてなので、言い訳はできません。

──2012年シーズンは、2011年シーズンに続いてGT-Rが非常に強力な年になりました。ブリヂストン陣営のGT-Rが勝利を取りこぼしたためシリーズを失った面はあると思います。ですが、開幕戦と最終のハンデのないレースで勝利することができています。これは大きな意味があったのでは?
細谷氏:そう言っていただけるのはありがたいのですが、SUPER GTはウエイトハンデがあるルールの中で、誰が速いかを決める勝負です。そうしたルールも含めてトータルに速くなければチャンピオンにはなれません。弊社としてはウエイトハンデが増えても、他のタイヤメーカーさんと同等か、それを上回る性能を発揮するタイヤを作ることが開発目標になります。それを達成できずにシリーズを落としたことに対しては言い訳はできません。

──2012年シーズンを100点満点で点をつけるとすれば何点ですか?
細谷氏:開発という意味では、手を抜いているつもりはありませんので、80点をつけたいのですが、シリーズを2年連続で落としたので0点です。ブリヂストンとしては、圧倒的な強さでシリーズを獲るというのが至上命題ですので。

DTMとの車両規定統一に伴うタイヤ規定変更には不満を表明するも、すでに対応を開始

──2012年シーズンはSUPER GTのレギュレーションが変更され、予選1回目までに決勝の第1スティントで利用するタイヤを登録しなければいけなくなったり、タイヤメーカーのテスト時間が減ったりしました。また、合同テストの時間は増えました。その影響は?
細谷氏:予選1回目までにタイヤを決める規定の影響はそれほどなかったですね。タイヤテストに関しては合同テストの時間が増えたことで、弊社のユーザーチームの中で、テストを走る時間が極端に少ないチームがあるという状況は改善できたので、それはよかったと思っています。弊社にとってというより、チーム間での公平性が保てるようになった点で歓迎しています。

──SUPER GTシリーズを統括するGTA(GTアソシエーション)は2014年にDTM(ドイツのツーリングカー選手権)とGT500の車両規定を統合するということを発表しています。特に、フロントタイヤのサイズを小さくするということがタイヤメーカーに求められていると聞いていますが、これらについてどのようにお考えですか?
細谷氏:これは弊社だけでなく、他のタイヤメーカーも含めての統一見解だと思いますが、率直に言って非常に残念ですね。タイヤメーカーに対しては向こう(DTM)のルールに合わせる形で導入しますと、一方的に通知された形でした。例えば、新しい車の仕様はこんなので、これぐらいのタイムを想定して、重量やダウンフォースはこのぐらいだから、タイヤサイズはこうしましょうという技術的な議論はまったくない。DTMに合わせることありきで決められてしまうので、非常に残念でしたね。

 ただ、契約でこれで行きますという最終決定がされてしまったので、弊社としてはそれに従って開発はスタートさせつつあります。現状は、クルマが軽量化され、ダウンフォースが増えるという方向性だと聞いています。そこにタイヤサイズが小さくなることが加われば、タイヤへの負担が増えていくことになるので、それを取り返す開発をすることになります。

──なぜ、そうした話になってしまったのでしょうか?
細谷氏:正直我々にも分かりません。車両側に合わせる必要があるとか、コスト削減のためだとされているのですが、タイヤメーカー側の一致した見解としては開発も違うサイズのタイヤでやるなどしなければいけませんので、むしろコストアップになる。なぜ、そのような方向性にするのか、今でも疑問を持っています。

──2013年は韓国でエキシビジョンレースをするなど、SUPER GTは国際化に向けて再び動き出そうとしています。これについてどう評価していますか?
細谷氏:今までだと、モータースポーツはヨーロッパの文化を輸入してという形でした。しかし、アジアでモータースポーツ熱が高まることで、ヨーロッパ、アメリカ、アジアという3つの山ができあがることになることはよいことだと思います。新興国へアプローチしていくことも含めて、歓迎したい動きですね。

2013年も全勝とチャンピオン奪回を狙っていく、GT300はまず1勝

──GT300に関しては参戦2年目となりましたが、いかがでしたか?
細谷氏:みなさんもご存じのとおり、2012年のGT300は車両間の差が大きくなってしまっていました。弊社のサポートしているチームはいずれも、JAF-GT規定の車両でしたので、正直諦め感があったのは否めないです。しかし、その中でもARTA Garaiyaは2012年が最後だったのですが、JAF-GT向けの小さなサイズのタイヤをつけていた中ではかなり善戦できたと思っています。

 また、ハイブリッド車のCR-Zも、シーズン途中からというハンデがありましたが、シーズン終盤に向けてホンダさんやM-TECさんの頑張りもあって車がどんどんよくなっていきました、それを弊社もアシストできたかなと考えています。CR-ZのタイヤはGT500と同じサイズを利用していますが、ミッドシップとハイブリッドという特徴に配慮する必要がありました。例えば、トルクの出方がハイブリッド車は独特なのです。

──ハイブリッドつながりという意味では、レーシングタイヤでも市販の低燃費タイヤみたいな流れはないのでしょうか?
細谷氏:そういう取り組みもしなければならないのでしょうね。省資源とか、転がり抵抗低減とか、そういったところも訴求できればと思っています。ハイブリッド車両は、弊社のユーザー様以外にももう1台いますので、そこに勝つという意味で2013年シーズンこそは表彰台の中央に立たせたいなと思っています。

──2012年に最も進化したと感じたドライバーやチームはありますか?
細谷氏:もちろん全チーム、全ドライバー頑張っていただいていますよ(笑)。ただ、強いて挙げるということであれば、17号車と塚越広大選手と金石年弘選手ですね。HSV自体の調子があまりよくないときでも、17号車はしっかりと上位に来ていることが多かったです。

 例えば、JAF GPのレース1では、もう少しで優勝できそうな2位でしたが、そもそも富士ってHSVがあまり得意ではないサーキットのはずなんですが、気がつくとしっかり上位に来ている走りができています。あまり目立っていないかもしれませんが、2011年から2012年にかけて大きく進化したチームとして挙げられると思います。

──2013年の体制についてはいかがでしょうか?特にGT500では台数多い中で頑張っていくことになりそうですか?
細谷氏:基本的には2012年の延長線上にある体制になると思います。GT500に関しては現在のルールの最終年になりますので、最後をしっかり飾りたいです。台数ですが、1エンジニアとしては、正直1台とか2台とかでみっちりやれるほうが楽しいとは思います。しかし、仮に弊社が供給できるのが1、2台になってしまったら、レースが成り立たない。これはトップメーカーとしての責任だと考えています。

──ずばり目標は?
細谷氏:これも変わりません、チャンピオンと全勝を引き続き目指します。

【お詫びと訂正】記事初出時、ARTA Garaiyaの表記に誤りがありました。お詫びして訂正させていただきます。

笠原一輝

Photo:奥川浩彦

Photo:安田 剛