特別企画

【特別企画】奥川浩彦のWTCC&F1 鈴鹿サーキット撮影ガイド(その2 撮影編)

流し撮りのシャッター速度の基本は1/125秒。そこから上げ下げを

 今年もWTCC(世界ツーリングカー選手権)が鈴鹿サーキットにやってくる。日程は9月21日~22日。そして、今年もCar Watch、デジカメWatchが主催のWTCCフォトコンテストが開催される。

 前回(http://car.watch.impress.co.jp/docs/special/20130913_615329.html)は撮影機材について説明したので今回はいよいよ撮影方法だ。レース撮影と聞いて思い浮かぶのは流し撮りだろう。流し撮りはレーシングカーなど動く被写体をカメラで追いかけながらシャッターを切る撮影方法で、上手く撮れると被写体は静止し背景が流れることでスピード感のある写真となる。

昨年のWTCCで撮影しフォトギャラリーに掲載した写真。シャッター速度1/125秒(クリックすると1920×1080ドットの写真が開きます)
同じくシャッター速度1/60秒(クリックすると1920×1080ドットの写真が開きます)
同じくシャッター速度1/30秒(クリックすると1920×1080ドットの写真が開きます)

流し撮りとシャッター速度

 流し撮りで重要なのはシャッター速度の設定だ。上記の写真はシャッター速度が1/125秒、1/60秒、1/30秒と異なっている。流し撮りといっても撮影シーンや作画意図によってシャッター速度は一定ではない。どのようなシーンでシャッター速度をいくつに設定するかを考えてみたい。

 次の写真は同じ場所でシャッター速度を1/500秒、1/250秒、1/125秒、1/60秒と変化させて撮った写真だ。1/500秒ではあまり動きが感じられない。背景の看板の文字はブレてはいるが読み取ることができる。1/250秒になると少し動きが出てくる。1/125秒になるとだいぶスピード感が増し、背景の文字も細かなものは読み取れなくなる。さらに1/60秒までシャッター速度を落とすと背景の文字はほとんど読み取ることができなくなり、かなりスピード感のある写真となった。

シャッター速度1/500秒
シャッター速度1/250秒
シャッター速度1/125秒
シャッター速度1/60秒

 このようにシャッター速度を変化させることでスピード感に変化を持たせることができる。ではシャッター速度は遅ければすべてよいかと言うとそうでもない。シャッター速度を落とすと背景のブレは増してスピード感は出るが、被写体もブレて失敗写真が増える。流し撮りに最適なシャッター速度は一律ではないので、シーンごとにシャッター速度を考えてみたい。

 写真の勉強を始めると基本的な知識として、静止物を撮る場合は「1/焦点距離」が手ブレしないシャッター速度の目安と言わる。50mmの焦点距離なら1/50秒、200mmなら1/200秒が目安となる。ここで言う焦点距離は35mmフィルム換算となるので、APS-Cのイメージセンサーを搭載したカメラの場合は50mm×1.6(キヤノンの場合)=80mmとなるので、50mmのレンズを装着した場合1/80秒となる。

 あくまで目安なので腕のよい人なら50mmの焦点距離のレンズで1/15秒でもブレないかもしれないし、壁にもたれて撮影したり、机に肘をついて撮影するなど姿勢によっても異なる。フィルムの時代ではないので10枚連写すれば1枚くらいはブレていないということもあるだろう。あくまで目安として「1/焦点距離」と認識すればいいと思う。

 この「1/焦点距離」という基本の部分と、流し撮りのシャッター速度の関係を確認してみよう。先ほどのシャッター速度による違いを比べた画像は70-200mmのズームレンズを94mmにして撮っている。35mmフィルム換算で約150mmだ。静止物ならシャッター速度1/150秒が手ブレしない条件で、動いている被写体を1/125秒、1/60秒で撮るということはそれなりに難しいことが想像できる。次の写真は300mmのレンズ(480mm相当)で、シャッター速度1/30秒で撮影したものだ。「1/焦点距離」=1/480秒の条件で1/30秒で撮るのはかなり難易度が高いことを理解しよう。

300mmのレンズ(480mm相当)を使用してシャッター速度1/30秒で撮影

 幸いフィルムの時代と違って撮ってすぐモニターで確認できるし、フィルム代を気にする必要もない。初心者であれば100枚撮って全部ボツでも気にすることはないだろう。ガンガン撮りまくって慣れることが上達への近道だ。

 筆者は流し撮りのシャッター速度の基本を1/125秒にしている。それをベースに、マシンの速度、レンズ(焦点距離)、背景、被写体までの距離といった条件や作画意図によって上げ下げして撮っている。ではそれぞれの条件でシャッター速度について見ていこう。

マシン速度とシャッター速度

 もし同じコーナーをF1マシンが160km/h、市販車が80km/hで通過したとしよう。それを同じシャッター速度で流し撮りしたら、当然F1マシンの方がスピード感のある写真となる。逆に言うとF1マシンをシャッター速度1/160秒で撮ったとしたら、市販車を同じスピード感で写すにはシャッター速度を1/80秒にしなければならない。

 次の2枚の写真はほぼ同じ位置で同じシャッター速度で撮ったものだ。当然、マシン速度の速いF1の方がスピード感のある写真となっている。WTCCのマシンで同じスピード感を出すにはシャッター速度を落とす必要がある。このように同じ場所で撮ってもマシン速度によって、シャッター速度を変化させないと、作画意図を反映することはできない。

WTCCのマシンをシャッター速度1/160秒で撮影
F1マシンをシャッター速度1/160秒で撮影

 F1の予選では、アタックラップは一段とマシン速度が上がる。それまでより速いと分かっていても、フレームアウトしてしまうこともある。シャッター速度を少し上げてもスピード感のある絵が撮れるし、ズームも少しワイド側にズラした方が失敗を防ぐことができる。

焦点距離とシャッター速度

 手ブレしないシャッター速度「1/焦点距離」と広義では同じ意味となるが、広角レンズはブレにくく、望遠レンズはブレやすい、と言うのがカメラの基本だ。これを流し撮りに当てはめると、広角レンズは流れにくく(スピード感が出にくく)、望遠レンズは流れやすい(スピード感が出やすい)となる。

 逆の言い方をすると「広角レンズでスピード感を出したければ、スローシャッターで撮る必要がある」ということを理解したい。実際に同じ撮影ポイントで撮った2枚の写真を見比べてみよう。

 撮影場所は鈴鹿サーキットの2コーナーのイン側、激感エリアと呼ばれるポイントだ。撮る段階でトリミングを前提としているので、元画像をトリミングなしで縮小したものと、フォトギャラリーサイズ(1920×1080)に加工した写真だ。

焦点距離126mm、シャッター速度1/125秒で撮影
焦点距離53mm、シャッター速度1/30秒で撮影
それぞれフォトギャラリーサイズにレタッチした画像(クリックすると1920×1080ドットの写真が開きます)

 マシンを大きく捕らえている写真は、焦点距離が126mm、シャッター速度1/125秒。これに対し背景のスタンドが写り込んでいる写真は焦点距離が53mm、シャッター速度1/30秒。53mmは35mmフィルム換算で約85mmと広角とは呼べず中望遠と言うのが正しい表現かもしれないが、望遠が中心のレース写真では広角な方と解釈していただきたい。

 フォトギャラリーサイズに加工した写真を見ると、アップで撮った写真はシャッター速度1/125秒でもそれなりにスピード感がある。一方の背景のスタンドを大きく取り入れた写真は1/30秒で撮っているが、もし1/125秒で撮っていたらスピード感のない写真になっただろう。

背景とシャッター速度

 次の2枚の写真を見比べていただきたい。よりスピード感を感じるのはどちらだろうか。おそらくマシンがアップで写っている写真の方がスピード感があると思われる。

スピード感があまりない
こちらの方がスピード感がある

 この2枚の写真の元は同じ写真で、アップで写っている写真はトリミングだけしたものだ。スピード感が増した理由の1つは、先ほどの焦点距離の関係でトリミングしたことにより望遠レンズで撮ったのと同じ効果が得られたからだ。もう1つは背景がシンプルになったこと。背景にゴチャゴチャしたものが写っている場合、それらが流れていないと(ブレていないと)止まった印象の写真となる。

 トリミング前は芝生やアスファルトが大きく写り込んでいるが、トリミングにより写り込むものが減り、背景がシンプルになっている。それにより回転するホイールなどに目が行くことでよりスピード感が増している。言い方を変えると、動きが遅く見えるものが減ったことで、結果としてスピード感が増したと言えよう。

 背景がシンプルな場合、シャッター速度を上げてもスピード感を保つことができる。シャッター速度を上げて撮れば成功率は向上する。高い位置から走るマシンをアップで撮ると、背景が路面だけになることもあるので、その場合は少しシャッター速度を上げて撮ってもスピード感を保ちつつ、成功率を上げることが可能だ。

流し撮りの芯について

 次の2枚の写真を見ていただこう。真横から流し撮りをしている写真はドアの部分の文字はハッキリと写っているが、それ以外、特にマシンの前後の部分は文字がブレている。もう1枚はフロント部分のエンブレムはハッキリ写っているが、マシン後部はかなりブレている。

ドア付近は文字がハッキリ見える。逆バンクのアウト側から撮影
フロント部分は文字がハッキリ見える(クリックすると1920×1080ドットの写真が開きます)

 どちらもシャッター速度1/30秒で撮影した写真で、このようにスローシャッターを切るとマシンの一部だけハッキリ写り、そのまわりはブレて写ることが多い。雰囲気は露光間ズーム(ズームを動かしながらシャッターを切る撮影方法)っぽいがそうではない。

 次の6枚はこの説明のために直線的に走るマシンを横から連写したものだ。最初は斜め前から写すことになり、途中で真横になり、最後は斜め後ろから写すことになる。流し撮りの最中、ファインダーの中でマシンは横方向に回転していることを理解していただきたい。

マシンはファインダーの中で回転している

 この回転は極めて短い時間にも起こっている。シャッター幕が開いている1/30秒の間に、被写体であるマシンは回転しているのだ。そのためレンズがドア付近を正確に追従しても、それ以外の部分は回転方向に動いているのでマシンの前後はブレて写ることになる。

 筆者はブレていない中心部分を「芯」と呼んでいる。この芯をどの部分に持ってくるかを意識しながら撮っている。例えばフォーミュラカーの場合はドライバーのヘルメット。SUPER GTやWTCCなどのハコ車の場合は正面から撮るときはフロント、横から撮るときはドアといった感じだ。

 この芯は同じ撮影条件であれば、シャッター速度を落としていくと小さく(面積が少なく)なっていく。1/250秒であればマシンの前から後ろまで文字がハッキリ見えるが、1/30秒ではドアの一部分しかハッキリ見えない、といった感じだ。

シャッター速度1/80秒、逆バンクのイン側から撮影。芯が大きくなっている

 芯に関してもう少し言及すると、コーナーのアウト側とイン側を比較すると、イン側の方が芯が大きくなる傾向がある。先ほどの直線的に走るマシンを横から連写した写真を、コーナーのアウト側から撮った場合を想像していただきたい。マシンの回転が加わるため、ファインダーの中でマシンはより多く回転することになる。よってマシンの前後はブレやすく、芯は小さくなる。

 逆にイン側から撮る場合、もし60Rのコーナーで60m離れたコーナーRの中心に立って撮影したなら、理論上マシンはずっと真横を見せた状態で走り抜けていくことになる。そのような条件であればスローシャッターを切ってもマシンの前から後ろまで文字がハッキリ見える写真を撮ることができる。実際のサーキットでそのような条件が揃うことはないが、アウト側よりはイン側の方が芯が大きくなるので、スローシャッターを切ったときに成功する確率は高くなる。

 加えて、アウト側の撮影ではピントが大きく移動する。被写体は近付いてきて途中から離れていく。イン側ではその変化が少なくフォーカス面でもイン側の方が成功率は高くなる。

 撮影ポイントの詳細は次回以降に譲るが、WTCCが開催される鈴鹿サーキットの東コースに限定すれば、2コーナーイン側の激感エリア、S字進入の左ターン、S字2個目の左ターンはマシンをイン側から撮影できるポイントだ。

激感エリアでシャッター速度1/125秒で撮影(クリックすると1920×1080ドットの写真が開きます)
S字進入の左ターンをシャッター速度1/100秒で撮影(クリックすると1920×1080ドットの写真が開きます)
S字2個目の左ターンをシャッター速度1/125秒で撮影(クリックすると1920×1080ドットの写真が開きます)

 以上が流し撮りをする際にシャッター速度を上下させる理由だ。幸いなことにデジカメは撮った写真をすぐに確認することができる。撮ってみてシャッター速度を上げたり下げたり試行錯誤しながら数を重ねれば、すぐに上達するだろう。闇雲に撮るよりは、少し基本的なことを理解して撮ることで上達の近道になれば幸いだ。

正面からの撮影は流し撮りより簡単

 レース写真と言えば流し撮りを連想する方が多いと思うが、条件さえ揃えば正面からの撮影は流し撮りよりはるかに難易度は低い。条件は長めの望遠レンズと撮影ポイントだ。WTCCが開催される鈴鹿サーキット東コースに関して言えば500mm(35mm換算)くらいの望遠レンズが欲しくなる。

300mm×1.4テレコン(672mm相当)を使用してシャッター速度1/640秒に設定。逆バンクで撮影
300mm(480mm相当)を使用してシャッター速度1/320秒に設定。ヘアピンで撮影
トリミング、レタッチした写真(クリックすると1920×1080ドットの写真が開きます)

 正面から撮る場合、比較的簡単なのは真正面から高速シャッターで写し止める方法だ。シャッター速度の目安は1/500秒から1/1000秒くらいだ。撮影方法は近付いてくるマシンを、撮りたいポイントの少し手前からファインダーに入れ、シャッターボタンを半押しにしながら、小さくレンズを振ってマシンに追従させながらポイントに来たらシャッターを切る。走行ラインはドライバーによって微妙に異なるので微調整しながら撮ろう。正面からの撮影は一脚を使用すると微調整がしやすくなり手持ちより楽に撮ることができる。

 撮影ポイントで待ち伏せして、マシンがファインダーに入ったらシャッターボタンを押せば撮れそうな気もするが、この方法では上手く撮れない可能性が高い。オートフォーカスを正しく動作させるために、被写体が近付いてくることをカメラに認識させよう。シャッターを切る少し前からファインダーにマシンを捕らえ、シャッターボタンを半押しし、ピント機構を動作させることでピンボケを減らすことができる。

 筆者自身は流し撮りのシャッター速度の基本を1/125秒としたように、正面から撮る場合は1/320秒を基本としている。真正面であればもっと速いシャッター速度を使用することもあるが、真正面から少しズレた位置ではタイヤやホイールが止まって見えないように1/320秒で撮ることが多い。

正面の撮影でもスローシャッター

 高速シャッターで真正面から撮るのは少し慣れれば簡単だろう。ここからは少し応用だ。真正面の少し前後で徐々にシャッター速度を落として撮ると、正面でも動きのある写真を撮ることができる。4枚の写真はシャッター速度を1/320秒、1/160秒、1/80秒、1/40秒と落としていったものだ。このように少しシャッター速度を変えると同じ撮影ポイントでも絵のバリエーションを増やすこともできる。どれが正解ということはない。色々と試行錯誤して、自分のイメージ通りの写真が撮れるようになっていただきたい。

シャッター速度1/320秒(クリックすると1920×1080ドットの写真が開きます)
シャッター速度1/160秒(クリックすると1920×1080ドットの写真が開きます)
シャッター速度1/80秒(クリックすると1920×1080ドットの写真が開きます)
シャッター速度1/40秒(クリックすると1920×1080ドットの写真が開きます)

背面からの撮影

 正面の逆、背面からの撮影は、車速や撮影ポイントなど条件にもよるが意外に難しい。正面からの撮影では、被写体は徐々に近付いてくる。フォーカスを合わせる時間もたっぷりあるし、フレームいっぱいに捕らえる助走期間もある。これに対し、背面からの撮影でフレームに大きくマシンを入れようとすると、フレームインした瞬間にフォーカスとフレーミングをしなければならない。カメラマンにも厳しいがカメラにも厳しい。加えて、筆者の勘違いかもしれないが、カメラのAF性能は近づく被写体より遠ざかる被写体の方が劣る気もする。

S字進入を背面から撮影。進入速度も速くフレーミング、フォーカシングが難しい
レタッチしフォトギャラリーに掲載した写真(クリックすると1920×1080ドットの写真が開きます)
デグナーな立ち上がり。ここはフレーミングにゆとりがある
レタッチしフォトギャラリーに掲載した写真(クリックすると1920×1080ドットの写真が開きます)

サーキットへ行こう

 一眼レフも用意した。レンズもバッチリ。撮影の理屈は……撮った経験のない方はおそらく撮る前に全て理解することはできないだろう。まずはサーキットに行って撮ってみることだ。サーキットのコース脇に陣取って、流し撮りに挑戦してみよう。

 カメラの設定は、ほとんどオートで問題ないだろう。筆者の場合は撮影モードはシャッター速度優先オート、AFモードはコンティニュアスAF(AIサーボ)、AFポイントはセンター1点が基本だ。SUPER GTマシンを正面から撮る場合、ヘッドライトの影響で露出がアンダーになるのでマニュアル露出にすることがあるが、ほかのレースはほとんどオートで撮影している。

 いざ撮影。でもその前に素振りだ。まずはマシンが通るレコードラインに沿って素振りをしてみよう。流し撮りはスポーツに似ている。例えばゴルフのスイングがテイクバックからフォロースルーまで大切なように、シャッターを押す前も後も大切だ。カメラを振るスイング全体がシャッターを押す瞬間に影響する。

 最初はゆとりを持ってフレーミングしたほうがよい。画面いっぱいにマシンをとらえると、マシンのフロントが切れたり、リアが切れたりする。デジカメは後からトリミングするのは簡単なので無理することはない。初めてならそこそこマシンに追従できるように、ゆとりのある焦点距離で撮影を始めよう。

 シャッター速度の基本は1/125秒と書いたが、まずは1/250秒あたりで撮りはじめよう。そこから1/200秒、1/160秒、1/125秒と徐々にシャッター速度を落として感触を掴んでいただきたい。最初はあまり連写を多用するとファンダーの消失時間でマシンを追従することが難しくなる。慣れるまでは連写はしないか、連写しても数枚程度に抑えた方が成功率が高くなるかもしれない。

 単写か連写かは意見の分かれるところだが筆者は連写派だ。過去に実験した結果は、単写の方が成功率は高くなるが、連写した方が成功数は多い。結局、仕事で撮る場合はどれくらいの率で撮れるかは重要ではなく、使える写真が何枚残せるかが重要だ。実際のフィールドではS字、ヘアピンなど撮影ポイントごとの撮影時間は限られている。そこで何枚結果を出せるかを重視している。

 構え方はベテランのプロカメラマンを見ても決まったスタイルがあるわけではない。それはプロ野球のバッターがすべて同じフォームで打席に立つわけではないように、体型や体力などそれぞれ個性があるので、徐々に自分のスタイルを見つけるべきものだと思われる。

 強いて言えばシャッターを押す位置に正対することくらいだろう。横方向に流し撮りをする場合、マシンが来る方向に向かって立っているとスイングの途中で苦しくなる。コースと平行に足を置いて、マシンが来る方向に身体をひねってファインダーに被写体を捕らえ、正面でシャッターを切り、走り去る方向へ身体をひねってフォロスルーを取るイメージだ。ゴルフのテイクバック、ボールの位置(シャッターを切る位置)、フォロースルーと同じだ。

 筆者が流し撮りで心掛けていることはマシンの1点を見ることだ。漠然とファインダーをのぞくのではなく、流し撮りの芯にしたいところに視点を置いて撮っている。もう少し詳しく説明するとAFポイントを芯とするところに合わせる。例えばWTCCやSUPER GTなら正面の撮影ではフロント部分。横方向のならドア付近。そこにあるロゴの1文字に合わせるイメージだ。F1などフォーミュラカーではヘルメットとなる。筆者の腕では狙ったところに必ずしも芯が来るわけではないが、撮る段階ではそこに集中している。

 AFポイントは最もフォーカス性能の高いセンターを多用している。トリミングすることを前提にフレーミングしているので、おそらく8割以上はセンターで撮っている。フレーミングの関係でマシンや芯をセンター以外にズラしたいときだけほかのAFポイントを使用している。

スタンドを背景に入れるためAFポイントを下に移動
フロントにピントと芯を置くためAFポイントを左へ移動
マシンを左に置くためAFポイントを左へ移動
レタッチしてフォトギャラリーに掲載した写真(クリックすると1920×1080ドットの写真が開きます)

 もう1つ心掛けているのはスムーズにスイングすることだ。例えばドアに書かれたロゴの1文字にAFポイントを合わせようとスイングを開始したら、AFポイントがドアミラーに合ってしまったとしよう。その際は、無理に修正せずドアミラーを追い続け最後までスイングしている。また、スイングしている途中でファインダーの中でマシンが上下左右に振れても、無理に修正せずにズレた位置でそのまま最後までスイングしている。それが正解なのかはよく分からないが、筆者はこんなイメージで撮っている。

流し撮りは後回し?

 流し撮りと正面からの撮影をレースの展開から考えてみよう。例えば決勝レースのスタート直後。ベッテルがトップを走り3秒差でアロンソとハミルトンの2台がテール・トゥ・ノーズで続いたとしよう。この状況で流し撮りをすると先頭のベッテルを撮って2位のアロンソを撮ると3位のハミルトンを撮ることはできない。

 1度スイング(流し撮り)して、次のマシンを撮るには通常は2.5秒ほどの時間が必要となる。軽いレンズだとやや速くなり、重いレンズだとやや遅くなる。接近するマシンを連続して撮ろうと思っても、見えないスイングのアームストロング・オズマなら撮れるかもしれないが、普通の人には不可能だ。

 レースの序盤は各マシンの距離が近い。仮に22台のマシンが目の前を通過しても1周目に流し撮りができるのは数台だろう。スタートからしばらくすると、徐々にマシンの間の差が広がってくる。一部はテール・トゥ・ノーズかもしれないが、運が良ければ1周で10台以上のマシンを流し撮りすることができるだろう。

 正面から高速シャッターで写し止める撮影なら、かなり接近した2台でも連続して撮ることができる。ピッタリくっついていると撮りたいマシンに前のマシンが被ってしまうが、0.5秒くらいの差があれば連続して撮ることができる。レースの時間、周回数は決まっているので、効率よく撮るにはこのあたりの展開も計算に入れたい。

 次の3枚は連続して走ってくるマシンを正面から撮った写真だ。23号車を2枚撮って、続く1号車も2枚、さらに61号車も2枚撮っている。Exifのデータは秒までしか表示されないが、最初の1枚の秒の単位は52秒、残り2枚は53秒となっているので最長2秒間に3台のマシンを撮れたことになる。流し撮りだと1台しか撮れなかっただろう。

23号車、1号車、61号車が連続して走ってくる
23号車の後ろの1号車を撮影
その後ろの61号車も撮影。正面なら連続して撮れるが流し撮りは不可能

 このほかにも、太陽の位置でドライバーの顔が見えたり、天候が悪いとブレーキの赤熱が見えたりと条件が整うと撮れる写真もある。撮影のテクニックを身につけると、次は経験値で撮れる写真との出会いもある。多くのカメラマンが集まる撮影ポイントもあれば、自分だけの撮影ポイントを持っている人もいるだろう。

昨年のWTCC。今年は1カ月開催が早まったので太陽の位置が異なる(クリックすると1920×1080ドットの写真が開きます)
シーズンを締めくくるJAF GPは11月開催。夏には撮れない絵が撮れる(クリックすると1920×1080ドットの写真が開きます)

金網対策

 ここまでは通常の撮影テクニックの説明だったが、実際にサーキットに行って観客席から撮影する場合、金網との戦いは避けて通れない。基本的な方法の1つ目は金網より高い位置から撮ること。逆バンクのスタンドの最上段など多くのカメラマンが集まるポイントがこれにあたる。

F1開催時の逆バンクスタンドの最上段。立って撮影している場所はカメラマンエリア

 次の方法は前回の機材編で紹介した脚立を用いる方法だ。スタンドの上段へ上がる方法と考えは同じだが、コースまでの距離が近くなるメリットもある。その次は金網の切れ目を探すして撮る方法。2コーナー付近はマーシャルのいるポスト付近に切れ目があり、望遠レンズを持った人が集まる撮影ポイントがある。詳しくは次回の撮影ポイントの説明の中で紹介しよう。

 では避けられない金網をどうするか。次は金網をボカす方法だ。ピントを合わせた位置(距離)から離れているほど前景、背景はボケるのがカメラの基本なので、金網にピッタリ貼り付いて撮れば目の前の金網はボケやすくなる。ここで注意するのはファインダーでは金網が見えなくても、撮った写真に金網が写ることがある。それはファンダーを見ているときは絞り開放で見えなかった金網が、撮る瞬間に絞り込まれて写ってしまうからだ。目の前の金網をボカして撮るときは、絞り込みボタンなどを使用して事前に確認しよう。普段シャッター速度優先で撮っていても、この時は絞り優先に切り替え、絞り開放で撮るのも1つの方法だ。

 金網をボカす方法はほかにもある。絞り込みにより金網が写り込んでしまう場合はNDフィルターを使用して絞りを開ければ金網をボカすことができる。明るいレンズを使うことも有効だ。F4のレンズよりF2.8のレンズの方が金網をボカすことができる。一部の高級一眼レフはISO感度を50まで落とすことができるので、低感度に設定し絞りを開けることにより金網をボカすことも可能だ。

 金網越しに撮る場合はどうしても絞りの制約を受ける。正面からの撮影はシャッター速度を上げて対応ができるが、流し撮りの場合はどうしても絞り込まれるので金網の回避は難しくなる。天候の変化がある場合は、曇りや雨で照度が下がれば絞り込まずに撮影が可能となるので、金網越しに流し撮りがしたいときは、天気の状況なども考慮したい。

 鈴鹿サーキットの金網は一般的なツヤ有り緑なので、順光の撮影ではしっかり色がかぶることもある。一部ヘアピンは金網をツヤ消しの黒で塗装し、金網越しの撮影がしやすくなっているので、2コーナーから逆バンクも部分部分でいいのでツヤ消しの黒で塗装し、撮りやすくして欲しいものだ。

 今回は流し撮り、正面、背面からの撮影について基本的なノウハウを紹介した。長年撮り続けている方には当たり前の内容かと思うが、初めての方や経験の浅い方は参考にしていただきたい。初めてサーキット撮影をする方は、撮る前には理解できないことも多いだろう。一度サーキット撮影をして、自分で撮った写真を見ながら記事を読み直してもらうと理解できることもあると思う。

 幸いデジカメになって、撮った写真のデータをExifで確認することができる。Exifのデータを見て自分で反省することも上達への近道だ。今回掲載している拡大画像の多くはExif情報を消さないようにしている。日頃、フォトギャラリーで掲載している写真も同様にデータを残してあるので何かの参考になるだろう。

 趣味で撮る写真は責任がないと思うので、100枚撮って全部ボツでも気にすることはない。筆者自身、サーキット撮影を始めた頃は1レースでフィルム10本ほど撮っていて、フィルム1本に1枚気に入った写真があれば1レースで10枚。10戦撮りに行けば年間に100枚のお気に入りが残せると割り切って撮っていた(実際はもう少し多かったと思う)。ポジフィルム代が現像を含め2000円とすると年間20万円のフィルム代がかかった時代と比べれば、デジカメになってコスト面でも気楽に撮影できるはずだ。サーキットを歩き回って、ガンガン撮って、素敵な1枚をフォトコンに応募していただきたい。

 次回はWTCCが間近にせまった鈴鹿サーキットの東コースの撮影ポイントを具体的に紹介しよう。

奥川浩彦

パソコン周辺機器メーカーのメルコ(現:バッファロー)で広報を経て2001年イーレッツの設立に参加しUSB扇風機などを発売。2006年、iPR(http://i-pr.jp/)を設立し広報業とライター業で独立。モータースポーツの撮影は1982年から。キヤノンモータースポーツ写真展3年連続入選。F1日本グランプリ(鈴鹿・富士)は1987年から皆勤賞。