ボルボ、「歩行者検知機能付きフルオートブレーキシステム」を公開
「シティ・セーフティ」をさらに進化、2011年に導入予定の新型S60から搭載

歩行者検知機能付きフルオートブレーキシステムを搭載する国内未登録車のXC60。試乗会は地下駐車場で開催された

2010年3月4日開催



ボルボ・カーズ・ジャパン マーケティング部 広報室 プロダクトマーケティンググループ プロダクトチーム 岡田勝也氏

 ボルボ・カーズ・ジャパンは3月4日、車両や歩行者を自動検知する安全技術「歩行者検知機能付きフルオートブレーキシステム」の試乗会を、都内で開催した。

 同社は昨年発売したXC60に、低速自動ブレーキシステム「シティ・セーフティ」を標準装備した。これは低速域での衝突事故に対する安全装備で、30km/h以下で走行中に前方の車両を検知すると作動し、衝突ダメージを軽減するもの。前車との相対速度差が15km/h以下であれば、衝突を回避できるとしており、前方の監視には赤外線レーザーを用いる。

 今回公開された歩行者検知機能付きフルオートブレーキシステムは、シティ・セーフティをさらに進化させたもので、車両を検知するのに加えて歩行者も検知する。

 歩行者検知機能付きフルオートブレーキシステムについて解説したのは、ボルボ・カーズ・ジャパン マーケティング部 広報室 プロダクトマーケティンググループ プロダクトチームの岡田勝也氏。

ボルボ創業者であるアッサル・ガブリエルソンとグスタフ・ラーソンの基本思想。「ボルボの設計の基本は、常に『安全』でなければならない」ボルボは2020年までに新しいボルボ車が関わる事故や死傷者をゼロにする「ビジョン2020」を提言ボルボ車のかかわる事故は年々減少傾向にある
ボルボで採用されているさまざまな安全技術シティ・セーフティの紹介

 同社の調べによると、追突事故の約93%は前方不注意によるもので、事故を起こしたドライバーのうち、約47%が事故を回避する行動(すなわちブレーキ)をとっていないのだと言う。

 一方、交通事故死亡者数全体のうち、歩行者事故の割合はスウェーデンで16%、アメリカで11%、日本で35%を占めると言う。クルマそのものの安全装備・安全技術のレベルが高くなって乗車中での死亡事故は年々減少しているものの、歩行者事故は横ばいをたどっており、同社は新たな取り組みとして、この歩行者事故をいかに減らすことができるかに焦点を当てた。

 まずはじめに衝突速度と歩行者の致死率の関係について調査したところ、歩行者事故の半分は25km/h以下で発生していることが分かった。また、衝突速度を50km/hから25km/hに減速することで、衝突エネルギーは1/4に減少するとともに致死率が8%から1%に激減することも判明した。

追突事故の約93%は前方不注意によるものだと言う歩行者事故の現状。日本の歩行者事故の割合は各国に比べて高い
衝突事故と致死率の関係。歩行者事故の半分は25km/h以下で発生している歩行者の致死率。衝突速度が下がるにつれて、致死率も減少する
歩行者検知機能付きフルオートブレーキシステムについて

 そこで開発したのが、歩行者検知機能付きフルオートブレーキシステムである。システムはルームミラー前方に搭載するカメラセンサーと、グリルに埋め込まれたデュアルモード・レーダー(ミリ波レーダー)を併用するもの。

 デュアルモード・レーダーは中距離レーダーと長距離レーダーで構成され、中距離レーダーは約50m前方を、長距離レーダーは約150m前方をそれぞれ監視する。中距離レーダーは主に歩行者用として採用されたもので、これはシティ・セーフティには搭載されていない。デュアルモード・レーダーは、物体の有無をセンシングすることと、物体までの距離の測定を役割とする。

 また、カメラセンサーは比較的自車に近いエリアを捕捉するもので、捉えた物体が人かどうかを認知するのに用いられる。

 相対速度35km/h以下の場合は、歩行者と車両との衝突ダメージを回避(完全停止)し、相対速度35km/h以上の場合は、衝突スピードを減速して衝突ダメージを軽減する。システム自体は4km/h~200km/hの速度域で作動するほか、システムの切り替えスイッチは装備されておらず、常時作動すると言う。緊急時はヘッドアップディスプレイにより赤いLEDを点滅させるとともに音でドライバーに警告する。

相対速度35km/h以下では歩行者と車両との衝突ダメージを回避(完全停止)し、相対速度35km/h以上では衝突スピードを減速して衝突ダメージを軽減するシステムの概要レーダー、カメラ、新コントロールユニット、ヘッドアップディスプレイでシステムを構成する

 シティ・セーフティがフルブレーキに対して50%程度の制動力だったのに対し、新システムは名称のとおりフルブレーキで車両を停止するというのも、大きく異なる点。

 歩行者検知の方法は、頭、首、肩、足というポイントを検知することで行っているが、国によって衣装が異なるなど条件が変わるため、それらのデータ集積にも時間を費やしたと言う。また、天候、明るさなどによる検知の正確性の向上も、今後さらに精度を上げていくとしている。

システム開発時の課題。人間を判別するためのデータ収集には5年の歳月を費やしたと言う。日本を含め、世界中の道路をテスト走行し、その距離およそ50万km2011年第1 四半期に日本に導入予定の新型S60にあわせて同システムを採用する予定。シティ・セーフティは標準装備だったが、新システムはオプション装備になる模様

 今回の試乗会に用意されたモデルは、EUスペックで国内未登録車のXC60。歩行者検知機能付きフルオートブレーキシステムは、まだ国土交通省の認可を得ていないため、公道ではなくクローズドの地下駐車場で行われた。

 試乗は、道の中央に置かれたダミー人形に向かって20km/h程度で走行し、クルマが自動的に検知してフルブレーキをかけるのを体感するというもの。車内、車外からその様子を動画でも撮影したので以下に紹介する。

テスト車のXC60タイヤサイズは235/60 R18国内未登録車のためナンバーが異なる
グリルに埋め込まれたデュアルモード・レーダールームミラー前方にカメラセンサーを搭載ダミー人形は「ボブくん」と命名されていた


フルオートブレーキシステムが作動する様子(車外から撮影)


フルオートブレーキシステムが作動する様子(車内から撮影)

 記者も運転したが、ダミー人形とは言え、物体に向かってブレーキを踏むことなく走らせることに慣れていないこともあり、不安な気持ちを抱かずにはいられなかった。しかし、XC60は、ダミー人形すれすれ(車両から人形まで50~60cm程度)でしっかり止まってくれた。

 実際のブレーキの効き方は、徐々にじんわりと効くのではなく、ダミー人形直前で急制動がかかる。停止後はおよそ1.5秒後にブレーキが解除され、ギアがDレンジに入っていれば車両は再び動き出すため、システム介入後はしっかりとブレーキを踏んでいなければならない(実際のシチュエーションではブレーキを自ずと踏んでいると思うが)。

 このように、歩行者や車両との衝突回避、または衝突ダメージを軽減するには、十分貢献するシステムに仕上がっていることを体感できた。

 ただ、試乗会中にはダミー人形を感知できずにぶつかるケースもあった。これは地下駐車場という暗い場所での実験だったこと、テスト車両は実験段階のシステムを搭載していたことなどが原因だと言う。また、本来であれば、システム介入前にLEDの点滅と音でドライバーに警告が入るはずだったが、記者が乗った際はそれがなかった。これについても、今後さらに改善していくとした。

 なお、シティ・セーフティを導入した際、国土交通省から「ドライバーに過信を与えてしまうのではないか」と危惧されたと言うが、今回導入予定のフルオートブレーキシステムはスムーズに交渉が進んでいるそうだ。いずれにしても、乗員の安全性を高めるのは無論のこと、歩行者保護の観点からも、非常に意義のあるシステムなので、本格的な導入に向けてさらなる精度向上に期待したい。

成功例。かなりダミー人形に近いところで止まる
失敗例。照明の暗い地下駐車場で試乗会が行われたため、検知できないケースがあった。ほとんどの試乗時で成功していたものの、ドライバーはフルオートブレーキシステムを搭載しているからといって慢心してはならない

(編集部:小林 隆)
2010年 3月 5日