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三菱自動車、EVレースマシン「MiEV Evolution II」でパイクスピークに参戦

参戦2年目の目標は一挙に総合優勝!

昨年の経験を反映して大きく進化したMiEV Evolution IIで総合優勝を目指す
2013年5月16日発表

 三菱自動車工業は5月16日、6月25日~30日にアメリカ・コロラド州で開催されるモータースポーツイベント「パイクスピーク・インターナショナル・ヒルクライム2013」に参戦すると発表。チーム体制や参戦車両などを公開した。

 パイクスピーク・インターナショナル・ヒルクライム(PPIHC)は、「雲をめざすレース」とも呼ばれる世界的に有名なヒルクライムレース。標高4301mの山頂に設定されたゴールをめざし、高低差1439m、平均勾配7%、156コーナーで構成される過酷なコースを舞台に、1916年から続く長い歴史を持つレースとなっている。

 同社は昨年の大会から「三菱自動車 パイクスピークスチャレンジ」というプロジェクト名でEV(電気自動車)での参戦をスタート。マシンはレースを走りきれるようリファインした北米仕様のi-MiEVレース仕様に加え、i-MiEVのパワートレーンを使って構成されたレース専用車「i-MiEV Evolution」の2台を使い、参戦初年度ながら増岡浩選手がドライブするi-MiEV EvolutionがEVクラスのクラス2位、ベッキー・ゴードン選手がドライブするi-MiEVレース仕様がEVクラスのクラス6位完走という好成績を収めた。

i-MiEV Evolution
i-MiEVレース仕様

 2年目となる今回は、i-MiEVの知名度向上を目的に市販EVのコンポーネントを積極的に利用した前回から大きく路線変更。目標を「ガソリン車まで含めた総合優勝」と定め、参戦車両を大幅に強化。車両名からiが外された「MiEV Evolution II」となっている。

MiEV Evolution II
レース専用車両らしいタイトなキャビン。シャシーは専用パイプフレームで構成され、カーボン製のカウルをまとう。i-MiEVと同じ形状の急速充電ポートはキャビン後方から右向きに搭載されている
MiEV Evolution IIのステアリングとインパネ。メーターパネルとして液晶ディスプレイを設置する
バッテリーの搭載方法、ラジエターの設置位置も大胆に変更。初代モデルではバッテリーをキャビン両サイドに分割して並べていたが、今回からi-MiEVと同様にフロア下に薄く敷き詰めている。ラジエターも外気を下から上に向けて流すほうが冷却効率が高く、軽量化も狙って前方1カ所に変更している
タイヤメーカーは昨年同様ダンロップとなるが、レギュレーション変更に合わせてスリックタイヤに変更。フロントフェンダー後方は大胆に肉抜きされている
全体的にボディが低く抑えられたことで、存在感が強調されているリヤスポイラー。両側フロントフェンダーには、かわいらしくキャラクター化されたイラストステッカーが貼り付けられていた

 参戦発表会では、チーム監督兼ドライバーの増岡浩選手から、昨年のレース報告に加え、「我々はたくさんのカテゴリーから、より市販車に近いラリーを活動の場に選んできました。そこで磨かれた技術やノウハウが、パジェロやランサーエボリューションに生かされ、世界に通用するモデルが誕生しています。また、これまで参戦したレースカテゴリーで常にチャンピオンを獲得してきたことが特徴となっています」とコメント。「今年のパイクスピーク参戦もこれまで同様、世界をリードするEV技術の開発が目的です。EVは将来の環境技術の中核となる技術であり、日本発の先進技術を世界に通用する段階に育てることが私たちの使命です」と語り、三菱がレースに参戦する意義を解説した。

昨年に引き続き、チーム監督兼ドライバーとして参戦する増岡浩選手
ダカールラリー、WRCといった過酷なレースシーンでの活動が、市販モデルの開発に生かされている

 チーム体制では、今回は2台のMiEV Evolution IIを投入し、ドライバーは増岡選手に加え、PPIHCの2輪車クラスでこれまで6回の優勝経験を持つアメリカ人ドライバーのグレッグ・トレーシー(Greg Tracy)選手を起用する。

ドライバーはダカールラリーで2回の総合優勝を手にしたベテランの増岡浩選手に加え、今回からPPIHCに数多く参戦してコースを熟知するグレッグ・トレーシー選手を起用。トレーシー選手はビデオメッセージという形で会見に参加し、「今回のレースで三菱のEVはクラス最速といっても過言ではなく、私自身7回目となる優勝、EVクラスのコースレコード更新を目指して全力でがんばります」と意気込みを語った
EV要素研究部の百瀬信夫部長

 MiEV Evolution IIの車両開発は、EV要素研究部の百瀬信夫部長によって行われた。2代目マシンではパワートレーンにパートナー企業と先行開発中の高出力モーターと高容量バッテリーを投入。バッテリーは床下全面にレイアウトして低重心化を図り、モーターも3基から4基に増やしたことで、モーター出力が240kWから400kWに大幅アップしている。さらに、ランサーエボリューションシリーズでもなじみ深い車両運動統合制御システム「S-AWC」を始め、AYC、ASCといった三菱自慢の電子制御デバイスを惜しみなく投入。ABSを含めた統合制御によって、高次元の旋回性能と優れた操縦安定性を実現している。

昨年度のタイムから今回の優勝タイムを予想。レギュレーション変更と各チームの車両開発の努力によって、優勝するためには昨年度にi-MiEV Evolutionで記録したタイムから45秒の短縮を開発目標としている
モーターとバッテリーを変更し、さらにモーターの追加などによって大幅な出力向上を果たしたほか、高回転域での出力低下も抑制している
バッテリー容量を増やしながら、バッテリーパックの構造改良、ラジエターを2個所から1個所に集約することなどでバッテリーによる重量増を相殺する
参戦初年度はガソリンエンジンを搭載した車両をベースにマシンを開発したが、今回からEV専用設計のシャシーに切り替え、バッテリーの低重心化を実現している
ランエボシリーズで有名なS-AWCなどの電子制御デバイスを投入。まさに三菱らしいEVレーサーが誕生した
初代モデルではi-MiEVのフォルムを色濃く残していたが、2代目では総合優勝を目指すべく空力性能を徹底追求。本格的なレースマシンとして生まれ変わった
MiEV Evolution IIの車両スペック表
車両規則が変更されてスリックタイヤが使用可能になった。8%向上という数値は小さいようだが、最終的には20秒のタイム短縮が見込めるという
動力性能、タイヤ性能、空力性能などの追求で、計算上では目標となる9分30秒台のタイムをクリアする性能を実現。パートナー企業21社との協力は不可欠で、力を合わせてPPIHCに挑戦している
参戦発表会の終盤には質疑応答を実施
総合優勝を狙うライバルとして、エンジン車ではプジョーチームから参戦するS・ローブ選手、EVではチームAPEVの田島選手とトヨタのR・ミレン選手の名前を挙げる増岡選手
PPIHCの参戦を通じ、EVは環境技術として最高であることに加え、意のままになる走行性能や走る喜びなどを両立できるとアピールしたいと語る商品戦略・事業化統括部門長、兼 開発統括部門長の中尾龍吾常務取締役
参戦発表会の冒頭では、昨年のPPIHC参戦時に記録されたムービーも紹介された
会場の片隅には、昨年クラス2位を獲得したことを証明するトロフィーなどを展示。
昨シーズンのレースで活躍したi-MiEV Evolution
同じく2012年度に使われたi-MiEVレース仕様

(編集部:佐久間 秀)