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【GTC2014】リアルタイムレンダリングが可能になったホンダの試作レス確認ツール「TOPS」
Tesla K40×200ユニットのGPUクラスターで実現。新型「フィット」の輪切り映像掲載
(2014/4/21 12:18)
- 2014年3月24日~27日開催(現地時間)
半導体メーカーのNVIDIAは、同社のソリューションや技術などを同社の顧客や開発者に対して説明するイベント「GTC(GPU Technology Conference) 2014」を3月24日~27日(現地時間)の4日間にわたり、米国カリフォルニア州サンノゼにあるサンノゼコンベンションセンターで開催。自動車関連のセッションも数多く用意されており、本記事では本田技術研究所の井出大介氏が行った「TOPS: Real-Time Automotive Appearance Evaluation for Non-Prototype Design」と題したセッションをお届けする。
TOPSは、2013年に日本で開催された「GTC Japan 2013」において紹介された、ホンダの「4輪の試作レス開発に向けた外観品質の確認ツール」。TOPSとは、Total Objective and Physical Simulationの略で、ツールの名前どおりすべての部品を物理レベルでシミュレーションしている。具体的には、クルマの設計に用いられているCADツール「CATIA」からデータをコンバート。ネジ1本からシミュレーションデータとして持つことで、あらゆる視点からクルマを眺めることができる。
●NVIDIA、「GTC Japan 2013」で同社の自動車向けソリューションを解説
http://car.watch.impress.co.jp/docs/news/20130805_610233.html
部品データには素材(マテリアル)データが付加されるほか、TOPSでは環境光や背景も再現。例えば東京の空の下で見たクルマと、カリフォルニアの空の下で見たクルマの違いも描き出す。米国版アコードでのデモがキーノートセッションで行われたが、井出氏はこのセッションで3代目となる新型「フィット」のデモを実施。フィットを自由に輪切りにするなど、TOPSの実力を実演していた。
TOPSがクルマ作りの現場で活躍するのは、「クルマが環境下においてどのように見えるのか?」ということを確認できることにある。ただ確認できるのではなく、ネジ1本からシミュレートされているため、実物を試作したときと同じように確認できる。クルマ作りには、実車スケールでのボディーデザインの確認、インテリアの確認などは欠かせないものだが、それでも部品1つ変更したときに毎回試作は行っておらず、そもそも試作をシミュレーションに置き換えていこうと流れが加速している。
その際に問題になるのはシミュレーション精度で、3D CADではできないような次元までTOPSはシミュレーションしようとしている。井出氏は、その実例として、3D CADによるシミュレーションと、TOPSによるシミュレーションの違いを示し、「3D CADでは分からないような部品の違いが、TOPSでは分かる」と紹介した。
また、TOPSでは、部品に入射する光が部品でどのように反射しているかのシミュレーションも行って写真レベルの絵を描き出している。そのため、部品同士の映り込みによるクオリティの悪化もチェック可能で、新型フィットのリアリフレクターの映り込みはTOPSのシミュレーションでチェックしつつ、美しいものに変更された。記者自身はクルマ作りに立ち会ったことはないものの、リフレクターのわずかな映り込みといったレベルまでのチェックが行われ、クルマが作られていることに正直驚いた次第だ。
GTC 2014では、このTOPSが進化していることも明らかにされた。シミュレーション品質の向上はもちろんだが、シミュレーション速度も向上。たとえば、これまで5秒かかっていた1シーンの再現は、0.1秒へと高速化。計算速度は画面内のオブジェクト数による部分が大きいと思われるが、50倍の高速化を実現し、リアルタイムに品質チェックが可能になったわけだ。
これを実現したのが、GPGPUが可能なNVIDIAのグラフィックスカード「Tesla K40」で、1枚あたりCUDAコアを2880個搭載。並列計算が得意なグラフィックスカードで、主にワークステーションなどに搭載している。井出氏がリアルタイムTOPSのために構築したシステムは、このTesla K40を8基搭載するサーバーを25ノード用意したもので、Tesla K40×200の計算能力を持つもの。汎用計算が得意なCPUなどは、1つから2つに増えても能力は約1.4倍ということが多いが、井出氏によるとTesla K40は50ノード時で、96%のスケーラビリティを持つという。つまり、50個のTesla K40を用意すると48倍の計算能力を得られた(理論値ではないのがポイント)わけだ。
Tesla K40×200の計算能力で実現したリアルタイム性を保つために、ログインユーザーは10に制限。これにより、自動車の開発者は、ストレスなく新型車のできばえをチェックすることができるようになった。セッションでは、「TOPSはアニメーションしないのか?」という質問が出たが、それに対し井出氏は「アニメーション機能はない。なぜならTOPSはチェックツールだからだ」と答えていた。部品を組み挙げることでクルマの細部にどのようなことが起きていて、どのように干渉しているのか。そして、さまざまな環境下でネジ1本に至るまでクルマはどう見えるのかをじっくり確認していくツールと位置づけている。
最後に井出氏は、今後のTOPSの開発の方向性として、実際のクルマとまったく同一に見えるようにさらにシミュレーション精度を引き上げていくという。その理由として、「我々の会社にはタフなレビュワーがいる」と語り、TOPSと実車の細かな違いまで指摘するホンダの自動車開発者の優秀さを誇っていた。