【インプレッション・リポート】
BMW「X1」

Text by 武田公実


xDrive25i

 スポーツサルーンとSUV(スポーツ・ユーティリティ・ヴィークル)の中間に位置するクロスオーバー的モデルとして、「SAV(スポーツ・アクティビティ・ビークル)」という独自のカテゴライズを行い、世間一般のSUVの概念とは一線を画してきたBMW。X5に端を発し、これまでX3およびX6と順調にファミリーを増やしてきたBWW-SAVに、“末っ子”が誕生した。今年4月下旬から日本でもデリバリーが開始されたX1である。

BMW-SAVの末弟
 車名は1シリーズを連想させつつも、実は現行E92型3シリーズをベースとするというX1。日本に導入されるグレードは、2リッターの直列4気筒DOHC16バルブを搭載する「sDrive18i」と、3リッター直列6気筒DOHC24バルブを搭載する「xDrive25i」の2本立て。駆動方式はそれぞれ異なり、xDrive25iは、そのネーミングの示す通り電子制御で前後駆動力配分を行う「xDriveシステム」を持つ4WD 。一方のsDrive18iは、BMW-SAVとしては初の2WD(FR)モデルとなる。

 エンジンは、どちらもポート噴射式自然吸気で、BMWのお家芸たる吸排気バルブ・タイミング制御「ダブルVANOS」や可変バルブリフト制御「バルブトロニック」を備える。他方、両モデルのエンジンで異なる点は、2リッター4気筒版はクランクケースがアルミ、インテークマニフォールドが2ステージとなるのに対し、3リッター6気筒版はマグネシウム-アルミケースに3ステージのマニフォールドとなる。さらに6気筒版には、ブレーキング時に作動するエネルギー回生システムも備わる。

 トランスミッションは、日本仕様ではZFのトルクコンバーター式6速ATのみ設定。セレクターを左に倒せばマニュアルシフトも可能だが、ステアリングコラムのパドルは、現時点では装備されていない。

スポーティなフィール
 BMW X1は、開発当初から日本市場を意識したとも言われているモデルで、全幅1800mm、全高1545mmと、都市部の機械式パーキングにも収まるような、比較的コンパクトなサイズを持つ。全長も一見したところではずいぶん長く見えたのだが、それはロングノーズを強調したデザインの妙。実際には4470mmという、BMW1シリーズと3シリーズの中間に位置する短さなのだ。このあたりは、BMWの前デザイン担当マネージャー、鬼才クリス・バングル氏の指揮下で製作された作品ならではのことだろう。

xDrive25i

 そしてこのコンパクトなサイズが、走りにも好影響を与えているだろうことは、乗る前から容易に想像がついていたのだが、実際にワインディングロードに長いノーズを向けた瞬間から、SUVについても既成概念を覆すようなフットワークとハンドリングに目を瞠ることになったのだ。

 SUVとしては低い方の部類に入る1545mmの全高とはいえ、やはり一般的なサルーン、ましてスポーツカーに比べれば圧倒的に高いアイポイントを持つのだが、このフットワークと高い視点との組み合わせが、実に個性的に感じられる。また、かなり重めにセットされたパワーステアリングも、スポーツカー的な骨っぽさを強調する。実を言うと、この指向性については、走り出した当初にはかなりの違和感を覚えていたのだが、しばらくワインディングロードを走らせているうちに、何やら不思議な快感となってしまったのである。

 今や、現実にオフロード走行を行うSUVユーザーは圧倒的に少数派となっているのが現状なのだが、このユーティリティと、高いシートポジションゆえの取り回しのよさは、やはりSUV(≒SAV)特有の魅力。その魅力を損なうことなく、スポーツサルーンにも匹敵するフットワークを追求したことには、ある種の潔さを感じてしまう。

 ただ、このフットワークとは引き換えに、乗り心地はハッキリとハード。絶対的な重心の高さも相まって、乗員の上半身はかなり揺すられてしまうのだが、これも個性と思えてしまうのがX1という車なのだ。もちろん、3リッター218PSで1740kgのウェイトを引っ張るがゆえに、現代の常識から見れば特別に速い車というわけではない。それでも、いかにもBMWらしいスポーティなハンドリングは、それを差し引いても充分に魅力的で、まさに「スポーツ・アクティビティ・ビークル」の称号に相応しいと思うのだ。

 これなら、パドルを駆使して積極的にスポーツドライブを愉しみたくなってしまうところだが、残念ながら現時点ではパドルシフトはオプションでも用意されていないという。しかし、近い将来に「M-Sport」バージョンの追加でもあれば、あるいは装着される可能性もあるかもしれないので、是非とも期待しておきたいところである。

 かくして、xDrive25iのテストドライブはあっという間に終わったのだが、同時に筆者の中ではある好奇心が頭をもたげてきた。xDrive25iがこれだけスポーティな走りっぷりを見せるなら、もしかして4気筒2リッター+FR後輪駆動で、ウェイトが150kg軽いsDrive18iの方が、さらにスポーティなフィールを味あわせてくれるのでは?という考えである。

コクピットの景色は近年のBMW車と同じトランスミッションは6速ATのみ

 

新時代のスポーツカー?
 たとえSAVというBMW独自の世界観を持ちつつも、このジャンルは日本で“ヨンク(=4駆)”と呼ぶように、4WDであって当然。あるいは4WDでないSUVなどナンセンスとするピューリタン的な見方があっても決しておかしくは無いだろう。しかしその傍らで、アメリカで人気の高いSUVは、その多くが廉価版として2WD版をラインナップに加えているのも事実。ところが、BMW X1 sDrive18iは旧来のいかなる常識にも属さない、独自のキャラクターの持ち主となっていた。

 まずは、期待のハンドリングについて。xDrive25iの試乗直後に予測したとおり、純粋な後輪駆動ゆえのナチュラルなステアリングフィールと、4気筒エンジンに加えてデフやドライブシャフトを持たないがゆえのノーズの軽さも相まって、xDrive25iよりもさらにスポーティなハンドリングを示してくれる。

 しかも絶対的なウェイトの軽い分だけ、スプリングないしはダンパーのセットをソフトにできたせいなのか、こちらではxDrive25iで強く感じられた強めのハーシュネスは抑えられ、若干ながらしなやかな乗り心地となっているようにも感じられたのだ。

 一方、パフォーマンスについては、エンジンが2リッターNAということで、xDrive25i用3リッターユニットとのパワー差は68PSにも及び、150kg軽い車両重量を差し引いて考えても不利になってしまうのは否めない事実。パワー・ウェイト・レシオはxDrive25iの約7.8kg/PSに対して、sDrive18iは10.4kg/PSという数値となるのだが、その格差は高速クルージングや急な上り坂などの限られたステージ以外で感じることは無い。

 もちろん、BMWのアイデンティティでもある6気筒エンジンにこだわるファンにとって、今や貴重なストレート6のフィールは捨て難いものがあることは充分に理解できるのだが、4気筒エンジンがスウィートなのも、やはりBMWならではのこと。こちらでも格落ち感はほぼ皆無であり、むしろ別次元の魅力を獲得しているかに思われるのだ。

 そしてsDrive18iに乗ったことで、筆者の中でのBMW-X1感が確実に固まることになった。この車は、リアシートを、いわゆる2+2を若干上回る程度の非常にタイトなものと割り切っているあたりからも、この車は、SAVという概念も超越した、BMWが提案する新時代のスポーツカーではないか?と思うに至ったのである。

 あとは“新時代ついで”に、4気筒ゆえの身軽さと高トルクを兼ね備えたディーゼル版の日本国内正式導入にもぜひとも期待したいところなのだが、いかがなものだろうか?

sDrive18i。外観の違いはサイドフェンダーのバッヂと、片側1本出しになるテールパイプ、ホイールSUVとしては比較的タイトな後席

2010年 6月 25日