インプレッション
日産「リーフ マイナーチェンジ版」
価格、航続可能距離を改善
Text by Photo:安田 剛(2013/1/16 00:00)
2010年末に発売した日産「リーフ」が、登場から2年で早くも大規模なマイナーチェンジを行った。発売以来、世界で4万台オーバーの販売台数を記録し、最も売れているEV(電気自動車)の称号を得てはいるが、2016年度までにルノーと合わせて世界で150万台を売ろうという当初の目標にはほど遠い。だからこそ少しでも多くの人々へ普及させるために、今回はあらゆる努力を行ってきたのだ。
EVの普及へ向けてのハードルは主に3つ。価格、航続可能距離、そしてインフラ整備である。その問題を少しでも解決しようというのが今回のマイナーチェンジに込められている。外観上で変化を読み取ることはなかなかできないが、中身は相当に進化しているようだ。
まず価格に対しての答えは、グレードの見直しに反映されている。従来はX:376万4250円~G:406万350円という価格体系だったが、XとGに加えて廉価版のSが追加されたことにより、334万9500円~413万3850円に改められた。SはLEDヘッドライトがハロゲンに変更され、アルミホイールではなくスチールホイールとなるなど、装備の簡素化が行われているが、およそ42万円もエントリー価格を下げたのだから凄い。また、いずれのグレードでもサイドエアバックとカーテンエアバックをレスオプションすることも可能で、その場合の価格体系は327万6000円~406万350円となる。これに国からの補助金・最大78万円を差し引くと249万6000円~328万350円となる。皆様、いかがでしょう? ここまで来ると少しは現実味が帯びてくると感じるのではないだろうか?
外観よりも中身を磨いた
続くは航続可能距離への回答だ。従来JC08モードで200kmだったそれは、今回のマイナーチェンジによって228kmへと1割以上伸びたのだ。捉えようによっては「たった28kmしか伸びていないの?」と思うかもしれないが、リアルワールドではそれ以上によくなっているというから期待が高まる。
なかでも注目すべきポイントは軽量化対策だ。まず、従来はラゲッジスペースに存在したインバーターが、ボンネット内に納められた。結果としてラゲッジスペースは330Lから370Lへと拡大。DC/DCコンバーターや車載充電器などを新規に作り、インバーターと一体化されたそのユニットが軽量化への第一歩だった。このパワーユニットには減速比やモーターも一体化されている。これによりボンネット内の景色は従来と異なる仕上がりとなった。さらに、バッテリーの軽量化にも着手。これは主にバッテリー自体というよりはバッテリーを取り巻くケースを軽量化したとのことだが、この領域だけでおよそ20kgの軽量化に成功したという。結果として重量は初期型に対しておよそ80kgも軽くなっている。
航続可能距離を引き延ばすための対策はそれだけじゃない。モーターの効率をアップさせたほか、回生量を増やすためにATセレクターにBレンジを新設(ナビゲーションシステム搭載車のみ)。従来7km/hでカットしていた回生ブレーキを、3km/hまで遅らせる制御も盛り込んだ。また、ヒートポンプ式のヒーターを採用することで、モード電費だけでなく実用電費も向上。室内に与えた熱を逃がさないように、天井内側にアルミフィルムを張り巡らせる対策も行っている。エネルギーを少しでも効率よく使うための対策に抜かりはない。さらに、メーター内にバッテリー残量を表示することも可能になり、バッテリーを最後の最後まで使いきれる環境を整えたことも見逃せない。
3つ目のハードルとなるインフラの整備については、本来クルマ側で対策できるものではないが、そこに対してもリーフは真摯に向き合っている。それはナビゲーションシステムに与えられたEV専用のITシステム・EV-ITの大幅な進化である。これは給電スポットの空き状況をひと目で判断することが可能になったことが目新しい。従来は給電スポットに先客がいた場合、そのクルマの充電が終わるまで待たされるシーンがあったが、その機能を活かせば混雑を避けることができる。それ以外にも、電費を落とす要因となる勾配を避け、省エネルートを検索できるようになったことも特筆すべきポイントだ。
1台の車としての正常進化
こうしてEVとして正常進化を図った新生リーフではあるが、その一方でクルマとしての魅力も高めてきた。なかでも最も目を引くのが最上級グレードのGに標準装備、Xにオプション装着可能な17インチホイールだろう。結果としてタイヤサイズは205/55 R16から215/50 R17へと拡大されている。この変更や軽量化に合わせて減衰力特性やリアサスペンションのブッシュ硬度を変更している。
さらにダークメタルグレー、ブリリアントホワイトパール、ホワイト(S専用)の外装色が追加となったほか、ブラック基調の内装も追加された。オプションで本革の選択も可能である。内装に関する変更は、主に北米市場から要求されたものとのことだが、おそらくリーフを高級車として捉えている層がそんなリクエストを行ったのだろう。高級感はかなり高まった。また、ボーズ製のスピーカーやアラウンドビューモニター、そしてプラズマクラスターを選択することも可能。ヒルスタートアシストが標準装備となったこともトピックだ。
こうして魅力を高めたリーフにいよいよ乗り込んでみると、電磁式のパーキングブレーキが足踏み式に変更されたことや、バッテリー残量が表示されるようになったこと以外はそれほど変化を感じない。これは目先の目新しさに走らず、地道な努力をしてきた自信の表れか!?
だが、走ってみるとその実力はヒシヒシと伝わって来る。真っ先に感じたことは車体が以前よりも軽くなり、かなり軽快に動くようになったということだった。従来の乗り味はまるで高級車かと思えるほどドッシリとしたものだったが、新生リーフは身のこなしが軽く、フツウのFF車になったかと思えるバランスを展開している。ただし、軽快に走るようになったとはいえ、頼りなくなったわけではない。新たに採用された17インチの足まわりは、ルックスの向上だけでなく確実に路面を捉えてくれる。リセッティングされたフットワーク系も、フワフワ感がなくなり、フラットに走ってくれるようになったことが好感触だ。
モーターの変更に従い、最高出力は80kWと変わらないものの、最大トルクは280Nmから254Nmへとダウンしているが、ギヤ比の変更や前述した80kgの軽量化があるため、加速感は従来と変わらないか、むしろ強くなっているとさえ感じる。ちなみにモーターノイズはやや減少した。トルクダウン=遅いとならなかったところは、あらゆる領域を突き詰めて改良を行った効果が確実に反映されたということだろう。これで電費が高まるのなら一石二鳥。メーカーのテストデータによれば、0-100km/h加速で3%のタイム短縮をしているそうだ。
走っている途中、今回新たに加わったBレンジを試してみたが、この減速感はかなりのもの。ガソリン車の2(セカンド)レンジくらいの減速度が得られる。平坦な街中や高速道路などを走るシーンでは、減速しすぎてしまい、そこから再び加速を必要とし効率がわるい。Bレンジはあくまで下り坂で介入させるべきだと感じた。
それよりも街中で使うべきはECOモードだ。今回はセレクターではなく、ステアリングに供えられたECOボタンでそのモードを選択するようになったが、これによりスロットル特性はマイルドになり、航続可能距離を延ばすことができる。Dレンジノーマルモード、DレンジECOモード、Bレンジノーマルモード、BレンジECOモードと4つの制御を選択が可能になったことで、今まで以上に状況に合わせた走りが可能になる。この組み合わせでいかに航続可能距離を延ばすかも、ドライビングの楽しみとなるだろう。
こうして価格から航続可能距離、そして走りまでを充実させたリーフは、初期型から比べればかなりの進化を果たしたことが手に取るように伝わって来る。そこからはEVを普及させようという日産の意気込みを感じずにはいられない。その努力が多くの人々に受け入れられることを期待したい。