インプレッション
ポルシェ「マカンS」
Text by Photo:高橋 学(2015/2/18 08:50)
“コンパクトSUV”クラスに属するマカン
「マカン」は「カイエン」に続くSUVだ。ボディーサイズは4680×1925×1625㎜(全長×全幅×全高)と全幅の広さが目立つが、それでも世界的な流行からすれば“コンパクトSUV”クラスに属する。
搭載エンジンは3種類。ボトムグレードであるマカンが直列4気筒2.0リッター直噴ターボで最高出力237PS/5000-6800rpm、最大トルク350Nm/1500-4500rpm。今回の取材モデルとなった中間グレードのマカンSがV型6気筒3.0リッター直噴ターボで340PS/5500-6500rpm、460Nm/1450-5000rpm。そしてトップグレードのマカンターボがV型6気筒3.6リッター直噴ターボで400PS/6000rpm、550Nm/1350-4500rpmをそれぞれ発生する。トランスミッションはいずれのエンジンも7速PDK(デュアルクラッチトランスミッション)で、駆動方式はフルタイム4WD方式のみとなる。
SUVだが走行性能をしっかりカタログに記載しているあたりはポルシェらしい。それによると、マカン(車重1830kg)が223km/hのトップスピードを誇り、0-100km/h加速は6.9秒。マカンS(同1920kg)は254km/h/5.4秒、マカンターボ(同1980kg)は266km/h/4.8秒。立派なボディーサイズ故に前面投影面積が大きく、さらに空気抵抗係数も0.36(グレードにより差あり)とのことなので最高速は各国のハイパワーSUV並だが、アクティブ制御の4WDシステムによる発進加速タイムは車重からすれば素晴らしい。
エクステリアは見てのとおり、どこからみてもポルシェそのものだ。カイエンが登場した際にはずいぶんと度肝を抜かされたが、そこでスタイルに慣れてしまった。さらに今となっては、ボディー骨格を共通とするアウディ「Q5」よりもまとまり具合からするとマカンが上に位置するように感じられるから不思議だ。
特徴的なフロントマスクは大きなエアインテークが特徴。エンジンフードを持ち上げるとヘッドライト部分がくり抜かれているのが分かる。BMWグループの「MINI」なども採用するこの手法は、ヘッドライトまわりの形状に自由度が生まれるメリットがあるが、実のところ製造コストは意外とかかる。サイドにはホイールベース部分にサイドブレードと呼ばれる加飾を用いた。写真のようなラバブラック塗装(艶消し塗装)のほか、ボディーカラー同色塗装やカーボン仕上げにもできる。間近で見るとなんとも野暮ったい感じだが、ちょっと離れて見るとなかなかどうしてこれがよい。
というのも、そもそもふくよかなボディーデザインを採用しているカイエンやマカンは、サイドに複雑なアクセントラインを入れたとしても“大きくて重たそう”といったイメージを引きずりやすい。事実、カイエンは全高1710mmとマカンよりもさらに大きいのだが、サイドブレードがないためにサイズ以上に大きく見え、もう少し締りがあればと感じてしまう。
もっとも、スポーティなSUVとしてはどうなのかを辛口でいえば、リアバンパーの艶消し部分とラインを合わせてほしいなど数々のリクエストもしたくなるが、カイエン、そしてQ5との違いを明確にする上では非常に効果的だ。
インテリアはかなりのモダン派。ドアを開けるとシフトまわりにスイッチが数多く配置されているため煩雑な印象を受けるが、実はこれ、運転席に座った状態では当然ながら視界の邪魔をすることがない。そればかりかV字型に刻まれ、さらに間仕切りがあることにより運転中に視線を落とさずとも狙ったスイッチにほぼ一発でアクセスできるのだ。欲をいえば使用頻度やカテゴリーに応じた並びになればさらによいのでは、と思うこともあるが、これこそ見た目だけで判断してはいけないと実感した次第。
質感も高い。今回の取材はJAIA(日本自動車輸入組合)主催の輸入車合同の大取材会で、欧州からはドイツだけでなくイギリス、フランス、イタリアにはじまり、北欧、そして北米と、日本市場に輸入されている車両の多くが一堂に会する貴重な場。そのため、マカンの取材後にロールスロイス「ファントム」に乗り、それからシトロエン「DS3」のステアリングを握る、なんていう異種格闘技みたいなとり合わせになるのだが、そうしたなかでもマカンの質感は非常に高く感じられ、質実剛健な無骨さよりもエレガントという言葉が先にくる。また意外なことに、Q5よりも質感は確実に上。まぁ価格を加味すればその通りなのかもしれないが……。
マイルドでフラットな乗り心地
さて、肝心の走りはどうか。これまた取材時間の大半が撮影となるため、残念ながら試乗は15分程度。それでもマカンSの走りは十分の印象的だった。じつは後日、トップグレートのマカンターボにも短時間ながら試乗できたのだが、それとの比較でいえば、しっかり中間グレートの役割を果たした、という印象。「えっ、何? 中途半端なの……」と思われてしまうかもしれないがそうではなく、マカンターボの荒々しさのうち、マックスパワーにはじまる尖った部分だけをマイルドにしたということ。
具体的には、乗り味は終始マイルドで重量級の車両重量をうまく活用したフラットさが際立つ。取材車にはオプション装備としてPASM(アクティブ制御の可変減衰型エアサスペンション)が装着されていたこともそれを助長しているのだろうが、20インチのRSスパイダーデザインホイールも併せて装着されていたことからも、バネ下重量が軽くなる標準の18インチホイール装着車であれば、さらにマイルドな特性をみせていたかもしれない。
とはいえポルシェだ。おっとりしたクルマでは決してない。スポーツクロノ・パッケージを装着していた取材車には、スポーツモードボタンに加えて一段とスポーティな走行が楽しめるスポーツプラスモードボタンが備わる。このスポーツプラスモード、感覚的にスロットルレスポンスはノーマル比30%増しとなり、さらにPASMの減衰特性も専用に固められるため俊敏性は150%にアップ! 7速デュアルクラッチトランスミッションであるPDKの変速レスポンスも同時に向上するため、ここがワインディングであればどんなによかったかと思わせるほどの潜在的なポテンシャルを味わうことができた。
日常的なところでは、ACC(アダプティブ・クルーズ・コントロール)にはじまり、車線逸脱警報のレーンアシストや、レーンチェンジ時に他車との接触可能性が高まった場合にドアミラー内側のLEDで危険を知らせるレーンチェンジアシストなど、各種のADASが選べる。現時点でマカンに「衝突被害軽減ブレーキ」の設定はないが、ACCで使用するミリ波レーダーにより前走車との距離が急激に縮まったと判断された場合に、警報音の発報とステアリングを振動させてドライバーに回避を促し、同時にブレーキ圧を高めてドライバーのブレーキ操作をアシストするPAS(ポルシェ・アクティブセーフティシステム)が用意されていて、これはACCを選択すると同時装着となる。
環境対策としてのアイドリングストップ機構は当たり前としても、いわゆるブレーキホールド機能がメルセデス・ベンツと同じように、事前のスイッチ操作をせずとも停止時にブレーキペダルを踏み込むだけで機能するのは朗報だ。正確には、メルセデス・ベンツのそれよりもブレーキホールドが働くまでに必要なペダルの踏み込み量は少なく、さらに素早く作動するため意図せず働かせてしまうこともあるが、それでも取材会場の周辺市街地(神奈川県中郡大磯町)における交通環境では、その有用性を理解することができた。