まるも亜希子の「寄り道日和」
“安くてよく走って使えるクルマ”新型アルトに乗りました
2022年1月27日 00:00
1979年に初代が登場してから、国内累計販売台数が526万台以上となっている“国民の下駄グルマ”こと、スズキ・アルト。スズキを世界で闘う大企業に成長させ、2021年に会長を勇退された鈴木修相談役が、社長就任直後に主導して世に送り出した軽自動車として、長らくスズキ軽の中心的存在であり続けたモデルです。そのアルトが、9代目へと生まれ変わったのでさっそく試乗してきました。
“下駄グルマ”というのは、スズキ社内で呼ばれている愛称で、「ちょっと出かけたい時にすぐ履けて、草履よりしっかりしていて、スニーカーよりシンプル」といったアルトの根本ともいえる考え方が表れているんだそうです。初代が「アルト47万円!」というキャッチフレーズで、当時としても衝撃的な価格でデビューを飾ったところからスタートしているので、今も「安くてよく走って使えるクルマ」というのが開発の基本にあるのだとか。
1990年代からは「ワゴンR」が軽の中心的存在に移り変わっていったので、日本にいるとあまりアルトの偉大さを実感しにくかったのですが、それを目の当たりにしたのが2010年と2012年にインドを取材した時です。なんと初めてマイカーを買う人たちの8割近くがアルトを指名するという、驚くべき事実。それも、急激なマイカー需要を見込んでインドの人たちの“下駄グルマ”となるべく、しっかり開発した実力が認められたのだと感じます。
さて、軽自動車でさえ半数近くがハイトワゴンやスライドドアであることを求められるようになった日本で、アルトの存在意義とはどんなところにあるのか。なかなかパッと思い浮かばないまま、新型アルトと対面してみると……。なんとアルト史上初のハイブリッドを設定。マイルドハイブリッドではありますが、電動化の流れが上流だけのものでなく、大きな海へと注がれる河口へと一本化されるところまできたのだなと感じますね。
そして、その効果はちょっと走らせてみただけでも、力強くなめらかな走りとしてアルトの実用性をググッと引き上げていました。大人3名+重いカメラ機材を積んでも、何も知らなければ「ターボかな?」と思ってしまうほど、ものすごく元気よく走るんです。ちょっとそこまでのドライブはもちろん、最近は制限速度が120km/hの高速道路もあるわけで、そうした高速走行でも十分すぎるほど快調。安全装備も充実したし、なにより、先代のアルトからスタートしたスズキの新世代プラットフォーム「HEARTECT」が、いろんなモデルに搭載されて得たノウハウや改善ポイントをフィードバックし、この新型アルトで2巡目に入ったことも、大きく関係しているとスズキの担当者も教えてくれました。
使い勝手だって、贅沢な装備はあんまりないけど、USBもシートヒーターも、紙パック飲料が入るドリンクホルダーもあるし、十分だなと思えます。1~2人で乗る分には、後席が一体式の前倒ししかできなくてもあんまり気にならないですよね。私の運転ポジションに合わせて、後席に座ってみたら予想以上に足下スペースが広くてビックリ。「ボディは小さく、中は広く」「価格は安く、走行性能は高く」という矛盾する要望が、アルトならかなえられるわけです。
例えば都内でも、道がものすごく狭くてすれ違いが難しかったり、電柱や壁などがあって車庫入れが大変だったりする場所はたくさんあります。数値として見ると、最小回転半径はワゴンRも新型アルトも同じ4.4mなんだけど、なんか狭い道を通るならアルトの方がリラックスして運転できるんだよね、というところ。そこが今も変わらず、アルトの強みであり存在意義なのかもしれないなぁと感じたのでした。
ちなみに新型アルトは、2WD(FF)モデルで94万3800円から125万9500円まで。お値段は初代の約2倍以上になってますが、そもそも100万円以下から買える軽乗用車がもう、アルトの他にはミライースしかないという厳しいご時世。アルトじゃなきゃダメな人たちのためにも、がんばってこの変化の時代を生き抜いてほしいクルマです。