まるも亜希子の「寄り道日和」

ブリヂストンの挑戦に出会える「Bridgestone Innovation Gallery」

エントランスを抜けると、高い天井で明るく開放的な空間が出迎えてくれるBridgestone Innovation Gallery。実はこの壁面は、11種類のクルマを原寸大で表現したドットアートになっていて、ドットを通して差し込む光が幻想的な雰囲気をつくっています

 2024年からS耐(スーパー耐久シリーズ)の公式タイヤサプライヤーとなることが発表されていたブリヂストンですが、ハンコックが工場火災によりS耐へのタイヤ供給を停止せざるを得ない状況となったことから、急遽、第2戦の富士24時間レースからブリヂストンが供給開始することになったというニュースがありましたね。大企業なのにこのスピーディーな動きに驚かされるとともに、モータースポーツに情熱を傾けるたくさん人々を救ったことに感銘を受けました。

 そのブリヂストンが、イノベーションを通じて新たな価値を創造し、持続可能な社会の実現に貢献するためのさまざまな変革を推進する拠点として開設したのが、東京都小平市にある「Bridgestone Innovation Park」。オフィスやラボ、コミュニケーションエリアやテストコースといった多くのエリアが集まっていて、従業員、社会、パートナー、顧客をつなぎ、共創する場として新しいアイディアがたくさん詰まった場所となっています。

 この中で、予約なしで誰でも見学できるエリアとなっている「Bridgestone Innovation Gallery」に行ってきました。といっても少し前のことになるのですが、コロナ禍による行動制限がとけた隙間を狙って行ったら、その後また厳戒態勢になってしまったためにレポートできず、ずっと温めていたものです。2023年のスケジュールについてはGWの期間は休館していますが、5月8日から通常通り開館するとのことで、お蔵入りにするのも悲しいのでご紹介させていただきますね。

 クルマで訪問すると、施設の目の前に駐車場があります。エントランスを入ると、天井が高くてとっても開放的な雰囲気の空間に出迎えられます。イノベーションギャラリーでは期間限定のイベントや企画展などが随時展開されていて、私が伺った時にはこのスペースに武蔵野美術大学との産学プロジェクトの作品が展示されていました。モビリティデザインを専攻する学生が、2050年の世界を想定して将来のモビリティデザインを提案し、それをカタチにした作品たち。展示スペースには、その作品がどのような発想から生まれ、どのような未来で活躍し、人々に何をもたらすのか、といった緻密なプレゼンテーションも一緒に描かれているので、思わずじっと見入ってしまいます。

私が訪れた時には、ブリヂストンと武蔵野美術大学による産学プロジェクトの作品が展示されていました(現在は終了)。この産学プロジェクトは10回目を迎えたものだそうで、2050年の世界を想定したモビリティデザインを表現した作品です。この「i-KI」では、自分だけのマイタイヤを育てるという発想や、タイヤノイズをサウンドとして捉える視点に感心してしまいました

 7つの作品があって、どれも私にはとても思いつかない、素晴らしい発想と作り込みなのですが、いちばん心に響いたのは大下遼真さんの作品「Influencer mobility i-KI」。ベースとなるフォルムとしては、フォーミュラカーのようで私たちの世代にも馴染みやすいのですが、たとえば「タイヤを使った証が色や形で集積されて、長く使って自分だけのマイタイヤを育てる」ことができたり、「タイヤノイズをドライビング体験を盛り上げるサウンドとして活用するトレッド」というアイディアが目からウロコ。どこか笹餅のようなふんわりとした包まれ感を表現しているデザインにも、素直に乗ってみたいな、と思わせる魅力がありました。現在はこの企画展は終了していますが、その時その時でまた素敵な企画展が行われていると思うので、楽しみですね。

2029年の打ち上げを目標としている、月面ローバ「ルナクルーザー」を支えるタイヤも原寸大で見ることができます

 さて、常設展示も見応えたっぷりです。4つのエリアを通じて、ブリヂストンの挑戦、安心安全な暮らしを支えたいという想い、幅広い分野での創造と共創、未来に広がる姿まで。今まで知らなかったこともたくさんあるし、きっと、私たちの暮らしや仕事などへのヒントも見つかるような気がします。途中、クイズ形式になっている展示もあるので、子どもと一緒に行っても楽しめそうですね。

 ニュースで見た人も多いと思いますが、トヨタとJAXAで開発を進める月面ローバ用タイヤの原寸大も展示されています。マイナス170度にもなり、放射線が降り注ぐという過酷な月面ではゴムが使いものにならないため、オール金属で作られたタイヤです。でも、月面はサラサラの砂なので、砂漠を歩くラクダの足の裏をイメージして、フカフカとした肉球の感触を参考にしているのだそう。展示は手を触れることはできないのですが、近くでよく見るとちょっと毛羽立っているようにも見えて、とても興味深かったです。

 こうして、1つ1つをじっくり見ていたらあっという間に時間が経ってしまいそうな、イノベーションギャラリー。ほかにも見どころいっぱいなので、ぜひお出かけしてみてくださいね。

まるも亜希子

まるも亜希子/カーライフ・ジャーナリスト。 映画声優、自動車雑誌編集者を経て、2003年に独立。雑誌、ラジオ、TV、トークショーなどメディア出演のほか、エコ&安全運転インストラクターなども務める。海外モーターショー、ドライブ取材も多数。2004年、2005年にはサハラ砂漠ラリーに参戦、完走。日本自動車ジャーナリスト協会(AJAJ)会員。2006年より日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。ジャーナリストで結成したレーシングチーム「TOKYO NEXT SPEED」代表として、耐久レースにも参戦。また、女性視点でクルマを楽しみ、クルマ社会を元気にする「クルマ業界女子部」を吉田由美さんと共同主宰。現在YouTube「クルマ業界女子部チャンネル」でさまざまなカーライフ情報を発信中。過去に乗り継いだ愛車はVWビートル、フィアット・124スパイダー、三菱自動車ギャランVR4、フォード・マスタング、ポルシェ・968、ホンダ・CR-Z、メルセデス・ベンツVクラスなど。現在はMINIクロスオーバー・クーパーSDとスズキ・ジムニー。