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新しいボルボのデザイン戦略をデザイン部門 バイスプレジデントのジョナサン・ディズリー氏が語る

新しい“90シリーズ”のフロントマスクは「百獣の王」ライオンをイメージ

2017年2月23日 開催

報道関係者向けのデザインセミナーで講演を行なったボルボ・カー・グループ デザイン部門 バイスプレジデントのジョナサン・ディズリー氏

 ボルボ・カー・ジャパンは2月23日、都内で報道関係者を対象に、ボルボ・カー・グループ デザイン部門 バイスプレジデントであるジョナサン・ディズリー氏がボルボの新しいデザイン戦略や、前日に日本市場で発売した新型モデル「S90」「V90」「V90 クロスカントリー」のデザインエッセンスなどについて解説するデザインセミナーを開催した。

「S90」
「V90」
「V90 クロスカントリー」
ボルボ・カー・グループ デザイン部門 バイスプレジデント ジョナサン・ディズリー氏

 ディズリー氏は2001年に瑞ボルボ・カーに入社して16年にわたってデザイン部門に在籍しており、2013年に公開した「コンセプト・クーペ」や2014年に公開した「コンセプト・XCクーペ」「コンセプト・エステート」といったコンセプトカーの開発にも携わっている人物。

 ディズリー氏はデザインセミナーの冒頭で、「私たちはボルボブランドを活性化させようと取り組みを始めたことがあります。それは『ボルボプロミス』という考え方です。そのため、まずはスカンジナビアデザインのユニークさ、特徴といったものがなにかを考えました。ドイツやイタリアなどの競合他社とどのような点が異なるのか、その差異に着目したのです。そして『ボルボとはなんだ』と考えました。スウェーデンや北欧は非常にハイテックな国であり、アイデアもたくさん出て、スウェーデンは多数の特許を持っています。そのような点をコンセプトとして考え、『スカンジナビアのオーソリティ』『スカンジナビアのアクティビティ』『スカンジナビアのクリエイティビティ』という3つを考え出しました」と、現在のボルボが推し進めているデザイン戦略の基本的な考えについて紹介。

「オーソリティ」「アクティビティ」「クリエイティビティ」の3点をデザイン戦略の基本的な考えとして紹介

 それぞれ、オーソリティの点では、ボルボ車のオーナーに医師や弁護士など高い教養を備え、高い地位にある人が多いことを紹介し、そういった顧客はデザインに対する関心が高いと語る。さらにボルボ車オーナーは活動的で、新鮮な空気を吸いに郊外に足を運び、アウトドアでハイキングやセーリング、スキーなどを楽しむといったアクティビティとの親和性が高いと分析。クリエイティビティでは、芸術などに関心を持って生活を楽しんでいると語った。

 こうして基本的なデザイン戦略と3つの核となる考え方を整理したことを受け、ボルボでは3台のコンセプトカーを開発。それがディズリー氏が手がけたコンセプト・クーペ、コンセプト・XCクーペ、コンセプト・エステートであり、コンセプトカーを開発することで「プラットフォームを新しくして、先進技術やデザインなどクルマ造りのすべてを変えることができる」と解説。また、新しい考え方で生み出されたコンセプト・クーペのデザインを一例として挙げ、このコンセプトカーをベースとして新たに市販された「90シリーズ」とコンセプトカーの共通点や類似性などを紹介した。

 具体例としてディズリー氏は、リアビューでメーカー名である「VOLVO」のロゴマークをトランクリッドやリアハッチの高い「プレミアムな位置」まで引き上げ、一方でナンバープレートは車両のデザインにとって重要度が高くないとの考えからバンパーの低い位置にレイアウト。また、文字を1つずつ等間隔に置くことでプラダやシャネルといった高級ブランドと同じようなイメージを連想させるようにしたほか、C型形状のリアコンビネーションランプは水平基調のワイド感を強調するだけでなく、メーカー名のロゴマークに視線誘導する効果も持っているという。

水平基調のラインを多用して広がり感をアピールするS90のリアビュー。これがボルボのクルマであることを強く表現するため、メーカー名を「プレミアムな位置」にレイアウトした
「VOLVO」の文字を等間隔に並べ、プラダやシャネルのようなイメージを与えている
新しい“90シリーズ”のフロントマスクは「百獣の王」であるライオンをイメージしたもの

 また、フロントマスクでは「誇り高いキャラクター」を表現するため、ヘッドライトをほかの多くのクルマで採用されているようなフロントフェンダーまで回りこむ形状ではなく、前方に限定して配置。ディズリー氏はこれを2種類の動物に例えて表現した。新しい90シリーズは「百獣の王」であるライオンに例え、他方にビーバーをあてはめた。弱い生き物は敵に襲われないよう目を側面の高い位置に置き、周囲を広く見渡してびくびくしていることに対し、王者であるライオンは恐れを抱かず、目標をまっすぐに見つめていると表現。そんな優雅でありながら自信を持つ雰囲気をヘッドライトで表わしているという。

 ヘッドライトについては、夜間になるとどこまで行っても街灯などの光がなく、本当に真っ暗な道を長く走るシーンも多いスウェーデンでは極めて重要度が高くなることを紹介。デザイン面で両サイドに縦ラインを持ち、北欧神話の神である「トール」が持つとされる「トールハンマー」をモチーフとしたクリアランスランプが全幅の広さを強調し、夜間走行時でも遠くからボルボ車の存在をアピールすると説明。全車に標準装備するLEDヘッドライトは、灯体に北欧を象徴するバイキングの船を思わせる形状を採用していることを紹介した。

車両の全幅と同じ位置に上下に広がる縦のラインを設定する「トールハンマー」デザインのクリアランスランプ。点灯によって特徴的なラインが現われ、ボルボ車であることをアピール
「トールハンマー」デザインのランプはクリアランスランプだけでなく、ウィンカーとしても機能する
LEDヘッドライトの灯体に、北欧を象徴する“バイキングの船”のような形状を採用
暗いスウェーデンの闇夜を照らすLEDヘッドライト。スウェーデンに生息する「エルク」のような大型動物との接触を避けるため、遠くまではっきりと照らすことは非常に重要な要素だとディズリー氏は語る

 このほかにフロントマスクでは、独自のメーカーロゴである「アイアンマーク」のデザインを、この90シリーズから大幅に変更した理由について解説。従来は中央のVOLVOの文字の背景にブルーを使ってリングの上にレイヤー状に重ねた形状としていたが、文字は小さくして背景をブラックに変更。リングの内側に収めるスタイルとした。また、ロゴを斜めに貫く「スラッシュライン」とロゴ右上に配置された矢印が一直線に連続するよう変更され、多彩な要素を持つこれまでの方向性から創業当時のオリジナルに近いシンプルなデザインを目指しているという。

従来型の「アイアンマーク」(左)と比較して、90シリーズから導入がスタートした新デザイン(右)は大きく方向転換。要素を集約して分かりやすくシンプルなデザインしているという。今後登場するモデルでも順次変更されていく予定

 サイドビューではフロントタイヤを150mm前進させてロングホイールベース化したことを受け、フロントホイールの中心からAピラー付け根までの距離が広がったことを大きな変更点として紹介。これはロールス・ロイスなどの高級車でも多用されているデザインであり、歴史をさかのぼると馬がキャリッジを引く馬車、大型のエンジンをボンネット下に縦置き配置したクラシックカーのポジショニングを連想させるもので、ラグジュアリーなラインであると感じさせるモチーフであることを解説した。

 また、前方のフロントノーズ付近から後方にかけて一直線のラインを設定。車両の長さ感を印象づけ、美しいカーブのラインを表現しているという。このようなラインはヨットで使われている手法で、ヨットではシンプルでエレガントであればあるほど高価なものになると語り、90シリーズでも同じようなイメージを追求しているという。

 このほかにサイドビューでは、歴代モデルで大きな特徴となっていた垂直に近い形状のリアハッチが、V90ではヒンジが前進してリアウィンドウに傾斜が与えられたことについて参加した報道関係者から質問が出た。

 これに対してディズリー氏は、「現在では技術の進化でネット通販が一般化したことで、今の人は販売店で買った洗濯機をクルマのラゲッジスペースに入れて持ち帰ったりはしなくなった。スペース的には十分な容量を備えているので、デザインを優先してこのようにしている」と回答している。また、実車を前にした説明で「ドアパネルに与えた(ドアミラーが設置されている前後の高さの)プレスラインは生産技術の面で非常に高度なものとなっており、こだわった部分なので自分の目で確認してほしい」と語っている。

ロールス・ロイスのクラシックカーを例に挙げ、フロントホイールの中心からAピラー付け根までの距離が長いことが高級感を演出する重要な要素であると解説
インターネットを使った通信販売が普及した現代では、「これまでのように必ずしもスクエアなラゲッジスペースが必要ではなくなった」とディズリー氏は語る
複雑な曲面を描くドアパネルは、ディズリー氏がぜひ実車で確認してほしいと強調するポイント
車高が70mm引き上げられたことなどメカニズム面以外のV90とV90 クロスカントリーの違いについて、ボディカラーとのコントラストを高め、力強さやタイヤの存在感を表現するフェンダーアーチの装着、リアバンパーに「CROSS COUNTRY」の凹文字が刻まれることのほか、S90とV90ではシルクメタルのシルバー加飾となるウィンドウ周辺がハイグロスブラック加飾になることなどをディズリー氏は語った

 インテリアではリニアウォールナットウッドの加飾パネルに、木材の道管孔の凹凸を生かした「オープンポア」と呼ばれる家具などで用いられる技法を採用。木目のラインを合わせるため高い技術が必要になり、ベントレーやロールス・ロイス、ヨットなどで用いられるレベルを実現しているとアピールする。また、エアコンルーバーに設定されたダイヤルは複雑な表面形状を持っているほか、内部に合金を使って強度を高め、操作したときの手応えにまでこだわっていると解説。センターコンソールなどに使われているハイグロスブラックのプラスチックパネルはiPhone 7にインスパイアされたものであると語った。

触感まで重視して、リニアウォールナットウッドの加飾パネルに「オープンポア」の技法を採用
強度を確保して動かしたときの手応えでも重厚感を表現したというエアコンルーバーのダイヤル
車内にあるハイグロスブラック仕上げのプラスチックパネルはiPhone 7にインスパイアされたもの

 このほか、センターコンソールに設置した9インチの縦型タッチスクリーン式センターディスプレイは、北欧メーカーらしく手袋を付けたままでも操作可能な赤外線式のタッチセンサーを採用。また、ボタン類は画面下側に設定された1つだけとなっており、カーナビやエアコンなどの操作はタッチパネル上に表示されたボタンを使用。ボタンは操作に合わせて拡大されて使い勝手を高める。ボルボではさまざまな機能を盛り込むなかでボタンの小型化が進んでいたが、画面表示であればボタンの大きさを自在に変えられることをメリットとして語る。また、ディズリー氏は「私には1歳の息子がいるのですが、もうiPadなどのタッチパネルを触って操作できるのです。これを見て、私はシニアバイスプレジデントのところに行き『もうボタンを付けるのは止めましょう』と言いました」とコメントした。

 通常はあまり使われないような機能を盛り込むことも可能になり、例えば、90シリーズではワイパーアームは止まっているときにボンネット下に収納されるデザインとなっているが、ワイパーブレードを交換するときの定位置に動かすモードも用意しているという。また、これまでは新しい機能が与えられるのは新しいモデルで、その機能を使いたければ新車を手に入れなければならなかったが、これは馬鹿らしいことだと表現している。90シリーズのセンターディスプレイでは、ユーザーが新しい機能を直接クルマにダウンロードできるようになると語った。

 全車にオプション設定されているBowers&Wilkins(バウアーズ&ウィルキンス)のプレミアムサウンド・オーディオシステムは、車両を設計する初期段階から共同作業を開始。スピーカーの取り付け角度やスピーカー表面を覆うカバーに開ける穴の形状まですべてを専用設計しており、90シリーズのインテリアのシート配置などを厳密に取り入れてチューニングを施していることなども解説された。

カーナビやエアコン操作をタッチパネルに集約したセンターディスプレイは、必要なボタンを拡大することで使い勝手を高める。また、表示の切り替えでボタンの数を増やせるので、「ワイパーブレードの交換」といった使用頻度の低い機能も盛り込める
オプション設定のBowers&Wilkins プレミアムサウンド・オーディオシステムは、車両を開発する段階からスピーカー配置などを合わせこんでいるという