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ホンダ、2018年4月発売予定の新型「ゴールドウイング」技術発表会レポート
開発コンセプト、7速DCT、ダブルウィッシュボーンサスについて解説
2017年11月29日 14:47
- 2017年11月28日 開催
ホンダモーターサイクルジャパンは11月28日、東京モーターショー2017に出展された新型「Goldwing Tour(ゴールドウイング ツアー)」「Goldwing(ゴールドウイング)」(以下、新型ゴールドウイング)の技術発表会を青山本社ビルで開催した。
ゴールドウイングは1975年にデビューした長距離ツーリング向けの大型バイクであり、歴代5モデルにわたって進化を遂げてきたホンダモーターサイクルのフラグシップモデルである。そして6世代目になる新型ゴールドウイングは、新開発の水平対向6気筒エンジンや7速DCT、それに独自開発のフロントダブルウィッシュボーンサスペンションなどを採用した長距離ツアラーモデルとなっている。
これまでの考え方から脱却した新型ゴールドウイング
今回の発表会には新型ゴールドウイング開発責任者の中西豊氏、サスペンション開発責任者の桒原直樹氏、駆動系開発責任者の藤本靖司氏の3名が出席。中西氏からは開発のコンセプトについて、桒原氏からは独自開発のフロントダブルウィッシュボーンサスペンションについて、そして藤本氏からは7速DCTについての解説が行なわれた。
中西氏ははじめに、「まずはゴールドウイングの42年間にわたる歴史を振り返り、私たちの考えを簡単に説明します。このバイクは初代より“進化する”ということを貫いてきたものです。ただ、この進化については歴代の開発責任者から『常にお客様が進化させてくれた』という発言が残っています。つまり、開発に関して常にユーザーの声を生かしたモデルチェンジを繰り返してきたということです。それだけに、アメリカをはじめとする70以上の国でお客様にご愛用いただいているグローバルモデルに育てていただきました。そして現在までの累計販売台数は79万5000台という数字になっています」と、ゴールドウイングが長い歴史を持ち、愛用者も多い存在であることが語られた。
続いて「お客様と使用環境が世界中に広がるなか、我々も歴代開発者同様、開発前にお客様の声に耳を傾けてまいりました。結果はゴールドウイングが一貫して掲げてきたテーマである『The King』そのものの見直しを必要とするほどのものでした。これはどういうことかというと、立派、豪華であるということが大きくて重いということの言い訳になっていないか、快適さはともすれば退屈になっていないか? など、私たち自身が前提条件と思い込んでいたことが正しいことなのかという部分から脱却し、いま一度モーターサイクルの魅力の原点に戻って“快適なスポーツバイク”という普遍的な価値の再構築を行ないました」と、新型が歴代モデルとは大きく考え方を変えたものであることを語った。
新型ゴールドウイングでは、開発テーマとして「二人の感動にいっそうの輝きと充実を The Honda Premium Tourer」を掲げている。これについて、中西氏をはじめとする開発陣は「運動性能、動力性能、快適性、それに質感の高さを追求しました。そしてこれらの技術、機能が表現された完成車の姿、これは紛れもなくゴールドウイング固有のものであり、今回目指した革新の方向性の正しさを裏付けるものだと考えています。また、フラグシップモデルであるということは、これからの時代に向けたホンダモーターサイクルの考え方を提案、発信するものでもあります。すなわち、新型ゴールドウイングはホンダモーターサイクルの最先端の姿を世に顕す存在でもあるのです」と語った。
ダブルウィッシュボーンサスペンションを採用した理由
次に新型ゴールドウイング サスペンション開発責任者の桒原氏がマイクの前に立った。桒原氏からはダブルウィッシュボーンサスペンションの特徴とこの機構を投入した目的、その効果の説明があった。
桒原氏からは「ダブルウィッシュボーンは路面からのショックを吸収する際、作動方向以外の入力が入りにくい構造です。そのためサスペンション自体の動きがスムーズになり、乗り心地のよさが得られます。また、上下のアームでタイヤを支える剛性の高い構造でもあるので、これが操縦性のよさにもつながっています。さらにキャスター角などアライメントの設計自由度が高いので、操縦性を高めていくことができるのです」との説明が行なわれた。
また、「乗り心地と操縦性のよさを生かしながら、アームに対してタイヤの取り付け方向を90度変えて(4輪の構造に対して)独自の構成としたのが、新型ゴールドウイングに採用したダブルウィッシュボーンサスペンションです。このサスペンション構造と水平対向6気筒エンジンを積むゴールドウイングの車体とのマッチングは非常によく、これらを組み合わせることで乗り心地や運動性能を高めることができました。さらに車体をコンパクトに仕上げることも可能になっています」と語った。以下、部分ごとの解説はスライド画面と合わせて紹介する。
人馬一体感を作り出す7速DCT
次に新開発の水平対向6気筒エンジンに組み合わせている7速DCTについて、解説を本田技術研究所 二輪R&Dセンターの藤本氏が行なった。
登壇した藤本氏からは「皆さんご存知のとおり、2輪車用DCTの技術はホンダ独自のものです。本日はそのDCT開発の目的、進化の方向性、そして新型ゴールドウイングに採用した第3世代の多段7速+リバースのDCTの特徴を簡単に説明したいと思います」という前振りのあと、「DCTはMTと基本的な部品構成は同じです。大きな特徴をいいますと偶数段、奇数段のそれぞれに対応したメインシャフトとクラッチを備えているところがあります。そしてこれらを電子的に制御することでシームレスな有段ATを実現しています。2輪車に採用するにあたっては、エンジンレイアウトの制約があるためDCTの内部構造のうちメインシャフトをインナーとアウターに分けた同軸2重管構造にすることで、非常にコンパクトに仕上げることに成功しています」とDCTについて解説を行なった。
そして「私たちは究極の目的を“操る楽しみの創造”というところに置き、その実現に向けてDCTの進化を図ってまいりました。DCTはクラッチとシフト操作からライダーを解放しつつ、ダイレクトな駆動力を伝達できるためバイクのファン要素をスポイルしないシステムです。欲しいトルクや加速感が思ったように取り出せるという人馬一体感を作り出すことが、私たちがDCTの性能に求めるところなのです」と開発の背景について語った。
さて、第3世代のDCTだが、これは“充実感を高める”という部分に着目して開発を進めたという。これについては「ギヤレシオの設定に関してですが、新型ゴールドウイングのパワーフィールを余すことなく楽しんでいただくことに加え、シフトの質感の向上を狙って7速化としました。実際のレシオは図で紹介したように低速側をクロス化。これは仕様頻度の高いギヤゆえにレシオを近づけて変速ショックを軽減することが狙い。そして7速側をワイドに設定することで、ゴールドウイングの走り方として想定される高速道路での巡航でエンジン回転数を抑え、巡航時の静粛性に大幅に貢献しています。なお、このレシオは多段化が進む4輪にある高級車種にかなり近い設定となっています」とのことだった。
最後の項目は電子制御についてだ。従来では変速ショックを軽減するには半クラを長く設定する必要があったが、これは上質なシフトフィーリングやスポーティな操作感とは相反するものでもあった。対して新型ゴールドウイングでは電子制御スロットルであるTBW(スロットルバイワイヤ)とDCTの協調制御を行なうことでより早く、より上質な変速を可能としている。
具体的には、変速ショックの原因でもある慣性トルクの分だけあらかじめ吸入空気を差し引くような制御を加えている。なお、ウォーキングモード時はTBWで適切なエンジン回転をキープ。さらにこのモードではABSとも連携しているので、例えば坂道でのずり落ち時には自動でブレーキを掛ける制御もある。
藤本氏はDCTはほかの技術との親和性が高いと見ており、例えばセンシングデバイス、コンピュータ、AI制御技術などの進化とともにもっと進化していくものと考えているということだった。以上で新型ゴールドウイングの技術発表会は終了。現車は2018年4月にHonda Dream店で発売されるということなので、興味のある方は販売店で確認してほしい。