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ジェイテクトのFF車向け新型トルセンデフ「Type-D」に伊賀試験場で試乗

小型&軽量化でオープンデフと置き換え可能

ジェイテクトの新型トルセンデフ「Type-D」。従来の「Type-B」よりコンパクト&軽量となり、FF車に内蔵しやすくなっている

 電動パワーステアリングやベアリング、工作機械で知られるジェイテクトは、同社伊賀試験場において新製品の体験会を報道向けに開催した。この体験会は、まだ市場に投入されていない各種製品を紹介するもので、新製品の説明および試乗が実施された。

 本記事ではその新製品の1つ、新型トルセンデフ「Type-D」を紹介する。

 トルセンデフはトルク感応型のLSD(差動制限装置、Limited Slip Differential)で、これまでは主に「Type-B」がフロントデフやリアデフに、「Type-C」がセンターデフに使われており、電子制御を用いない高性能なデフギヤとして知られている。リアデフはスバル「WRX STI」など高性能車に採用され、センターデフはアウディのクワトロ(4WD車)などに採用されているのをご存じの人も多いだろう。

トルセンデフの概要
トルセンデフの効果
ブレーキ制御との協調

 このトルセンデフ、とくにType-Bの役目だが、一般的なオープンデフと比べて差動制限を行なうことに特徴がある。例えば左コーナリングの際にアクセルをONした場合、一般的なオープンデフではクルマはアウト側に向かう、つまりアンダーステアが出やすくなる。

 一方トルセンデフが装着されたクルマでは、アクセルONをした場合に外側のタイヤにより多くのトルクを配分。これにより内向きのモーメントが発生し、外にいこうとする力を打ち消すような働きが発生し、小さなステアリング舵角でスムーズな旋回ラインを描けるという。コーナリング中のアクセルOFFの場合も、アクセルONと力の向きは違うものの、同様に安定方向のモーメントを発生させ、安全に減速しやすい。

 差動制限ギヤによるトルクベクタリングを行なうことで、直進加速安定性、旋回減速安定性、旋回安定性が向上するアイテムとなっている。

 このようによいことずくめのトルセンデフ「Type-B」だが、採用例がプレミアムカーに限られていたのは、オープンデフに比べ大きくなりがちで、なおかつ機械加工精度を必要とする部品点数などが多く高価となっていたため。また、左右輪のトルク分配比であるTBR(トルクバイアスレシオ、Torque Bias Ratio)が2を超えることもあり、スポーツ車両向けという性格を持っていた。

 そのほか、現在は4輪それぞれにセンサーを持つようなESC(Electronic Stability Control)などが普及したことから、各輪を独立にブレーキ制御できるようになり、いわゆるブレーキLSDを実現。空転するタイヤを個々にブレーキ制御することにより、オープンデフでありながらトルクベクタリングを可能としているクルマも多く見かけるようになってきた。

サイズを小さく、FF車でも使いやすい低TBRに

 ジェイテクトが開発した新型トルセンデフ「Type-D」は、従来の「Type-B」からギヤのかみ合い構造を変更。プラネットギヤセット数も減少させることで軽量化とコンパクト化を実現。全長を23%短縮し、質量を17%軽減したという。また、TBRも1.7からと低く設定できるようになり、緩やかな差動制限を可能とした。これらにより、FF車の前輪部分に組み込むことが容易となり、運転時の違和感も小さくできたという。

新型トルセンデフ「Type-D」
従来型トルセンデフ「Type-B」
従来型トルセンデフ「Type-B」の差動制限部
この新しいギヤによって「Type-D」の軸長短縮などが可能となった
フロント向けLSD開発の動機
新型トルセンデフ「Type-D」の構造
新型トルセンデフ「Type-D」の軽量化
軸長短縮による軽量化

 実際にオープンデフのオーリスと、新型トルセンデフ「Type-D」のオーリスをウェット円旋回で乗り比べてみたが、オープンデフのオーリスでは40km/hほどからグリップを失い気味に外に膨らんでいくのに対して、Type-D搭載のオーリスでは50km/h近くまでそのような現象は起きにくい。また、特筆すべきは膨らんだ際の収束のよさで、アクセルをOFFした際に狙ったラインに戻りやすいものだった。

オープンデフのオーリスと、新型トルセンデフ「Type-D」のオーリスをウェット円旋回で乗り比べた

 このType-D搭載のオーリスのセッティングは、加速時TBRが1.8(ロック率29%)、減速時TBRが2.2(ロック率37%)。減速時のTBRは低μ路旋回スロットルOFF時の安定性向上のために高めに設定したという。

 トルク感応型であり、機械動作で制限するためか、非常に人間の感性と近いものがあり、運転しやすく安心感が高いのが印象的な試乗だった。

 もちろん同様なことは、現在の電子デバイス制御を使えばオープンデフでも実現できる。例えば同様のウェット円旋回において外側のタイヤに多くトルク配分するようにブレーキを個別制御すればよいが、人間がアクセルを踏んでいるのにブレーキをかけるという制御になり、非常にセンシングが難しい上に、原理上ブレーキパッドも減っていく。ただ、トルセンデフ「Type-D」があれば、ベースの制御はトルク感応で機械的に行なわれ、対応できなくなった際に個別電子ブレーキ制御を入れればよいので、より制御は楽になるだろう。

 ジェイテクトとしては、今後FF車向けへの採用を働きかけていくとのことなので、安全性も高く、運動性の質感も高いトルセンデフ「Type-D」の搭載量産車の登場を楽しみに待ちたい。