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NVIDIA AOI Summit Nagoyaで武蔵精密工業の“AI検品システム”紹介
「Jetson TX2」搭載のAI外観検査ボックス「Neural Cube」
2019年6月21日 00:00
- 2019年6月20日 開催
半導体メーカーのNVIDIAは6月20日、製造業の外観検査にディープラーニングを導入した事例などを紹介するAOI(自動外観検査)解説イベント「NVIDIA AOI Summit Nagoya」を愛知県名古屋市で開催した。
この中で、2輪、4輪向けのカムシャフトやギヤ製品、サスペンションアームなどの精密部品を製造する武蔵精密工業の担当者から、同社が取り組んでいるAOI活用について説明が行なわれた。
「AI外観検査ボックス Neural Cubeの御紹介」のタイトルで行なわれた武蔵精密工業 AIプロジェクト 藤田圭祐氏によるプレゼンテーションでは、武蔵精密工業で製造現場に従事する従業員は、約20%を「搬送」、約60%を「段取・加工」、約20%を「検査」の人員という比率としていたが、搬送についてはロボットの導入による自動化を実施。これに続き、検査の領域にAI(人工知能)を導入して自動化。これにより、製造の中核となる段取・加工に注力することができたと紹介した。
具体的な事例として2つの取り組みが解説され、まず、武蔵精密工業の主力製品の1つである「ベベルギヤ」の工程で行なわれたAOI導入が取り上げられた。クルマの左右輪の回転差を吸収する差動装置(デファレンシャル)などに使われるベベルギヤは、材料の切断、プレス、バリ取りといった生産工程を経た後、最終工程で出荷検査を行なっている。大きな力がかかるベベルギヤに問題があると異音や振動が発生し、欠陥が大きかった場合にはパーツが破損して重大な事故が発生する危険性もあることから、万全を期すために全数検査を行なっているという。
この検査でAOIを導入するにあたり、まずは学習用の画像データを撮影するため、カメラと照明を組み合わせた簡易的な器具を作成。この器具でベベルギヤ約3600個(約16万枚)分の写真を撮影したという。この撮影データを使い、写っている製品に問題があるのかないのかをラベル付け。問題がある場合はどのような欠陥なのかもラベル付けしたという。
このラベル付けされたデータを使い、ベベルギヤの場合では「クラシフィケーション」という手法でAIの学習を実施。これにより、問題のないOKの画像と欠陥のあるNGの画像をそれぞれ学習し、欠陥の特徴を蓄積していく。この結果、OKとNGの画像をぞれぞれ約8000用意して検証したところ、OKの画像をOKと判定する確率が98.52%、NGの画像をNGと判定する確率が96.02%と高い精度を確認できたと藤田氏は紹介。
しかし、クラシフィケーションの判定結果は「OKかNGか」だけで、そのままではAIがどんな理由から判定を行なったか人間には分からない。品質管理上で問題となってしまうことから可視化が必要となり、武蔵精密工業では「CAM(Class Activation Mapping)」を利用しているという。CAMによってOKとNGのデータそれぞれでAIがどこに注目したのかがヒートマップ状に可視化され、AIによる判定ポイントがチェックできるようになる。
このような検証を経て、学習済みモデルをNVIDIAの「Jetson TX2」を搭載した武蔵精密工業の推論デバイス「Neural Cube」に実装。ベベルギヤの生産ラインにロボット搬送装置やカメラなどを備える検査工程を新設し、AOIによる出荷検査の自動化が実現された。
次の事例は、複雑な形状を実現するため、複数のパーツを溶接加工で一体化する「溶接ギヤ」の目視検査の自動化。溶接時の火花によるスパッタ(溶接時に飛散する微粒子)がほかのパーツと組み合わされる部分などに付着していると、ベベルギヤ同様の問題を引き起こす危険性があるという。以前にも通常の画像処理で検査する取り組みが行なわれたが、スパッタは溶接で発生するビード(溶接痕)や焦げ跡などと、画像処理では判別することが難しく、断念した経緯があるという。
AOI導入ではベベルギヤと同様に学習用の画像データを収集。溶接ギヤのAI学習では「オブジェクト ディテクション」の手法を使い、欠陥のある製品画像のどの位置に問題があるのかを学習させている。また、溶接ギヤのAOIでは生産レーンのサイクルタイムを満たすことも重視され、検証時に複数用意した学習モデルの中から、要求されるサイクルタイムの基準を満たし、かつ精度の高い学習モデルが選ばれ、この6月から量産ラインに実装。溶接ギヤの出荷検査をAOIで自動化している。
このほかに藤田氏は、武蔵精密工業では開発したAOIの技術を自社で使用するだけでなく、製品化して外部提供も行なっていることを説明。製品開発の初期段階で行なわれる「PoC(概念実証)」におけるAI活用では、自分たちが実際の生産現場でAIを活用している経験を生かし、AI専門の会社は手を出しにくいようなポイントでも提供先の会社と協力して取り組みを行なうことが可能で、精密部品メーカーであることからロボットや治具などの設計・生産も可能だとアピール。実際に4月から金属加工メーカーの日鉄精圧品で武蔵精密工業のAIを活用したPoCを採用しているという。
また、武蔵精密工業の出荷検査でも使われているNeural Cubeは、NVIDIAのJetson TX2に同じくNVIDIAの「JetPack」や、AIを稼働させるためのフレームワークなどをインストール。また、接続するカメラメーカー固有のライブラリについてもセットアップして提供可能としており、導入の手間や作業時間を省けるという。カメラについてはUSB 3.0接続で交換可能。導入会社に合わせて変更可能で拡張性も備えているという。
このほか、製造現場の実情に合わせ、電源はAC100V~240Vのほか、DC24Vにも対応する。実装化の言語は「Python」で一括して開発しているという。提供開始は10月を予定し、予約の受け付けを行なっている。