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5年ぶりの優勝へ! 鈴鹿8耐を前にホンダ3チームが集結

どのチームも「CBR1000RR」のこれまでにない仕上がりを絶賛

2019年7月21日 開催

ホンダウエルカムプラザ青山にホンダチームが集結

 本田技研工業は7月21日、「決勝直前!鈴鹿8耐ファンミーティング」をホンダウエルカムプラザ青山で開催した。7月29日に開催が迫る「2018-2019 FIM世界耐久選手権 最終戦 “コカ・コーラ”鈴鹿8時間耐久レース 第42回大会」(以下、鈴鹿8耐)を前に、同大会に参戦するホンダの3チームが集結。ライダーや監督らが決勝レースに向けて意気込みを語った。

 ファンミーティングでは、各チームによるトークセッションに加えて、それぞれの参戦車両の前でライダーらと触れあえるサイン会・写真撮影会を兼ねた「ピットウォーク」の時間もたっぷり設けられた。7月9日から行なわれた公式テストでは、3日間を通してのトップタイムとなる2分05秒台を叩き出した33号車Red Bull Hondaの高橋巧選手をはじめ、3チームとも良好な感触を得ていたためか、どのライダーも決勝に向けて気合十分という表情を見せていた。

「決勝直前!鈴鹿8耐ファンミーティング」が開催
鈴鹿8耐を前に、3チームと大勢のホンダファンが集まった
鈴鹿8耐で優勝した歴代のホンダ車両を展示。それぞれ2008年、2006年、2010年の優勝マシン

公式テスト1番時計。ワークス体制で5年振りの優勝を狙う33号車Red Bull Honda

33号車Red Bull Honda

 33号車Red Bull Hondaは、全日本選手権JSB1000で現在ランキングをリードする高橋選手と、スーパーバイク世界選手権で活躍する清成龍一選手、MotoGPでHRCの開発ライダーを務めるステファン・ブラドル選手の3人によるワークス体制で優勝を狙う。

HRC 取締役 レース運営室室長である桒田哲宏氏(右)

 トークショーでは、HRC 取締役 レース運営室室長である桒田哲宏氏が2018年を振り返り、「全体的に力負けしていた。8耐のレース後、マシンのレベルを上げ、ライダーも早めに準備できるようにしてきた。今年は何が起きても大丈夫なような組織づくりをしてきた」と力を込めた。

清成選手と一緒に走ることをずっと希望していたという高橋巧選手(左)

 マシン作りを含め、チームを率いる立場で挑む高橋選手は、「全日本の(ランキングトップといういい)流れのまま、マシンも順調に仕上がってきています。(3人で)一緒に走る機会がなかったので、レースウィークに入ってから調整して、しっかり結果を残せる準備をしたい」と話した。また、チームメイトとなった清成選手とは「ずっと自分は(一緒に走りたいと)言っていました」とのことで、「清成さんが一緒のチームというだけで心強い。絶対組みたいと言い続けてきて、それを実現させてもらったので、結果につなげるしかない」と気合を入れ直していた。

2019年のマシンの完成度の高さを賞賛していた清成龍一選手(中央)

 優勝した2008年の鈴鹿8耐以来、11年振りにホンダワークス体制での参戦となった清成龍一選手は、「久々のワークス体制は光栄。バイクは仕上がっていますし、信頼できる強いチーム。高橋選手は速いし、レースでの強さもある。テストを見ていてもすごくよかったので、そこに頼りすぎないようにしたい」と話した。

 イベント後のプレス向けのインタビューでは、清成選手が「今まで乗った(ことのあるホンダのバイクの)中では(一番できが)いいと思います。今までは正直、どのバイクでどのタイヤをはいてもそれなりに乗れたけど、今回はかなり高いレベルで仕上がっているんじゃないか」と高橋選手の仕上げたバイクを絶賛。エースライダーとして高橋選手の成長を感じているとも話し、「テストで一緒に走ったときに(高橋選手自身が施した)セッティング(のよしあし)を聞いてこないので、相当自信があるんだなと思った。チームをしっかりまとめているのをすごく感じますので、(自分も)しっかりやらないとな、とプレッシャーを感じますね」とコメントした。

「ピットウォーク」の時間。ファンにサインする高橋選手と清成選手

 一方の高橋選手は、それでも満足はしていないという。「(結果は)求め続けるものだと思うので、満足したらそれ以上(の結果は得られ)ないと思う。決勝まで時間はあるし、最終的にみんなで合わせなきゃいけないので、そこに持っていくベースをうまく作れたらいいなと思って目標高くやっていただけ」と冷静に語る。2018年より走行時間を多く取れていることも自信につながっているようだ。

 桒田氏は、2018年からマシンの全体的なポテンシャルを上げることができたと胸を張る。「高橋選手がマシンに対して自信が持てるようになってきたことで、全日本の結果も出ているのだと思う。バイクの状況がきちんと分かる、自信を持って乗れるマシンにはなってきているのではないか」とし、8時間のレース本番に向けては「アベレージのスピードを上げることを考えると、いかにライダーにインフォメーションを与えられるバイクになっているかが重要。そのへんは去年よりよくなっている」と語った。

「なくすものはない」の気持ちで総合連覇に挑む1号車F.C.C. TSR Honda France

1号車F.C.C. TSR Honda France

 2018年の世界耐久選手権年間チャンピオンを獲得し、2019年シーズンは総合3番手につけている1号車F.C.C. TSR Honda Franceは、ジョシュ・フック選手、マイク・ディ・メリオ選手、フレディ・フォレイ選手という布陣。このうちディ・メリオ選手は、2018年の鈴鹿8耐はヤマハから出場していたが、2019年はホンダにスイッチしたばかりとなる。

左からジョシュ・フック選手、マイク・ディ・メリオ選手、フレディ・フォレイ選手

 2019年のCBR1000RRについては、3選手ともマシンの仕上がりのよさに言及。フック選手が「グランドファイナルの鈴鹿、すばらしい今年のホンダのバイクで、チャンピオンシップを獲得するためにベスト尽くしたい」と話せば、ディ・メリオ選手は「バイクはすばらしい。信じられないほどのパワーとパフォーマンスで、すでに昨年より速いラップタイムを刻めている」とコメント。さらにフォレイ選手は「マシンもタイヤもいい。チーム全体でベストを尽くせる状態になっている」と付け加えた。

 鈴鹿サーキットについては、「常に限界で走らないとならず、特に体力的に厳しいサーキット。1スティント15ラップほど走るとグリップを失ってしまう。暑さや湿度もあり、1時間ほどのワンスティントを走るのは厳しい。長年8耐を走ってきて慣れてはいるけれど、鈴鹿サーキットには特徴がいっぱいあって、秘密もたくさんある。走れば走るほど、それを学ぶことができるから、長年走り続けることが大切だ」とフック選手。

 ディ・メリオ選手は「鈴鹿は2003年にWGP(ロードレース世界選手権の125ccクラス)で走ったことがあるけど、非常にテクニカル。テストのときにジョシュにラインを教えてもらったりしたおかげで、調子をつかんでいるように思う」と話し、フォレイ選手は「8時間耐久というのは簡単。8時間走ればいいから。ただ、鈴鹿の8時間は24時間レースの感覚で走る非常にハードなレース。鈴鹿を走るのは5回目だけれど、毎年新たな発見があり、常に勉強している」と述べた。

サインと写真撮影にスムーズに対応していく3人

 また、イベント後のプレス向けインタビューで、フック選手は「昨年は(チャンピオンになるために)守らなければならなかった。リスクを負ってはいけなかったので、プレッシャーが多かった。今年は(ランキング3位なので)すべてのリスクを抱えられる。守るよりもアタックする方が楽」と打ち明ける。「ホンダのパッケージ(マシン)はすばらしいできで、世界耐久選手権にフル参戦しているわれわれは、どこで時間を稼ぐべきか、どこで自分の強いところを出せるかが分かっている。そこがわれわれのアドバンテージだ」と強調した。

 今年ヤマハからホンダにスイッチしたディ・メリオ選手は、マシンの印象について「ヤマハとは全然違う。どちらもポテンシャルはあるが方向性は異なっていて、(ホンダに慣れるため)イメージトレーニングをかなりやった。このバイクはMotoGPマシンのような乗り方に近い。プッシュするのではなく、丁寧に、スムーズに走らせることで性能を引き出すことができる。バイクのベース自体がよく、毎ラップどんどんタイムが上がっていく素晴らしいバイク」と手放しで賞賛。フォレイ選手は「パフォーマンスを発揮できれば結果は必ずついてくる。3人それぞれの走り方に集中することが大切」と分析していた。

 そのように真剣に話す一方で、トークショーでは全員が寿司好きであることが明かされた。来日してからは寿司を「食べるだけでなく作り方も教えてもらった」のだとか。フォレイ選手は「来年は寿司屋をオープンしようかなと思っている。マイクが寿司を握って、自分はボスとなって指示する。ジョシュは見習いで」と冗談を飛ばしていた。

藤井正和チーム総監督(右)

 最終戦となる鈴鹿8耐。ランキングトップとは現在23ポイント差の3位で、年間チャンピオンを獲得するには優勝がほとんど絶対条件だ。藤井正和チーム総監督は、「ル・マン(24時間レース)を落とした(35位完走)のは痛かった。だからここ(鈴鹿)で勝負です。強い者が勝つのはセオリーですが、われわれはそれをひっくり返そうとしている。とても恵まれているし、いいシチュエーションじゃないですかね。なくすものはない。そういう状況で臨めるのはチャンス」とどこまでも前向きに捉えていた。

ライダー3人と藤井氏

急成長を見せる水野選手の率いる634号車MuSASHi RT HARC-PRO. Honda

634号車MuSASHi RT HARC-PRO. Honda

 634号車MuSASHi RT HARC-PRO. Hondaは、エースライダーとしてJSB1000参戦中の水野涼選手、Moto2クラス参戦中のドミニク・エガーター選手と、英国スーパーバイク選手権参戦中のチャビ・フォレス選手の3人体制で挑む。前回の2018年はスタート早々に転倒を喫し、修復して復帰したものの再び転倒してリタイアに終わった。2019年はその雪辱を果たし、完走することが第一の目標となる。

「昨年以上にレースが楽しみになる状態」と水野涼選手(左)

「昨年の8耐は正直振り返りたくない。悔しいのひと言で終わってしまったレース」と、水野選手の口ぶりも重い。が、公式テストでは2分06秒台を記録し、満足できるところも多かったようだ。「昨年に比べるとタイムも上がってきて、総合3番手でテストを終えられました。マシンもバージョンアップして、昨年以上にレースが楽しみになる状態でテストを終えられたと思う」と話す。

「耐久仕様になっているので、(JSB1000のマシンに比べて)セッティングもすごく変わっているし、昨年に比べるとストレートスピードも抑えられている。自分はスプリント仕様でも(2分)5秒台しか出ていないので、耐久仕様で6秒前半まで出せたことを考えると、ポテンシャルは上がってるなと思う」と話すように、マシンの仕上がりは上々。ただ、「トップの高橋選手は5秒台を出している」こともあり、チームやマシンの総合的なパフォーマンスではまだ改善すべきところもある。

 中でも、チームメイトに新たに加わったフォレス選手がどれだけ鈴鹿8耐に適応できるかが同チームにとっての鍵となりそうだ。7月9日からのテストでは水野選手はほとんど走らず、走行機会の多くをエガーター選手とフォレス選手に譲った。「3人が揃うのは最初で最後だったので、ドライのセッションをできるだけ多く走ってほしかった。テスト内容的には(天候が安定せず)ドライとウェットの両方を試せたのはよかったが、気持ち的にはもうちょっとドライで乗りたかったのが正直なところ。もうちょっと時間がほしかった」と振り返った。

エガーター選手もフォレス選手も、チームの方針に理解を示してくれていると話す本田重樹総監督

 本田重樹総監督も、優勝だけにこだわらず、あくまでも2018年のリベンジという心構えで、「まずはきちんと完走する。その先に見えてくるものがある」との謙虚な姿勢を崩さない。「(鈴鹿8耐は)人のセッティングで自分のベストの走りをしなければいけないのが一番難しい。ライダーそれぞれ走り方は自分なりのものを持っているが、どれだけ(自分の我を)殺して、涼のセッティングしたバイクに自分が合わせ込むことができるか」が課題と話す。

 エガーター選手もフォレス選手も、「口ではもう少し(セッティングを自分に合わせたい)と言いながらも、われわれのやろうとしていることに理解を示してくれているので、チームとしては取り組みやすい」と語る本田氏。その一方で、21歳の若手成長株である水野選手のポテンシャルにも期待をかけている。

「ピットウォーク」でサインに応じる水野選手と本田氏

「21歳だったころの(高橋)巧、中上(貴晶)、青山博一と比較しても全然引けを取らない(能力がある)。いい意味で生意気。ライダーとして生意気な部分は大事で、“オレが”という気持ちがないと成長していかないし、速くならないと思う」と本田氏。「(600ccのように)旋回速度が速いバイクのときの気持ちで1000ccに乗ると速いタイム出せるときがある。そういう意味では涼もタイムだけで言えば速かったんだけど、(当時は)1000ccの乗り方ではなかった。しかし(1000ccへの切り替えには)あまり時間はかからなかったので、器用なライダーの1人だとは思う」と評価していた。

チームグッズやグリッドパスが当たる抽選会も開催
ピットに見立てて3台のマシンが並べられた