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日産、金型を使わずにボディパネルの少量生産を可能にする「対向式ダイレス成形」技術説明会

R32 スカイライン GT-Rなど旧車ボディーパネルの商品化を検討中

2019年10月2日 開催

「対向式ダイレス成形」を行なっているロボット2台

 日産自動車は10月2日、金型を使わずにボティパネルを成形する技術「対向式ダイレス成形」を開発して実用化したと発表。同社の追浜工場にて報道陣に成形の様子を公開する技術説明会を開催した。旧型車のボディパネルやアフターサービス部品の商品化を予定しているという。

「対向式ダイレス成形」で旧型車のボディパネルを生産可能に

 発表した対向式ダイレス成形は5年ほどかけて開発。棒状の工具を取り付けたロボットがパネルを徐々に変形させて成形する「インクリメンタル成形」技術を応用したもの。ロボットを2台対向で配置し、工具の動きを連携しながら複雑な形状を成形していく。

 ボディパネルは現行車種の場合は金型を作りプレスで大量生産するが、旧型車用の補修パーツといった少量生産では金型の製作コストが割高となり、期間もかかり対応できない。一方、職人によって手作りをする方法もあるが、非常に数が少ない場合は有効だが、小規模な量産には時間もコストもかかってしまう。

各方式の比較。対向式ダイレス成形は小規模な量産に向く

 そこで、対向式ダイレス成形は年間100枚といったような需要に対する小規模な量産に向く。具体的には旧型車のボディパネルなどで、パネルの3Dデータがあれば製作が可能。もし3Dデータがない場合でも、3Dスキャナーで現物をスキャンしてデータを作成すれば製造が可能だ。

 日産では1990年代くらいまではボディパネルの3Dデータがあるとしているが、それ以前はないことも多く、データがないクルマは3Dスキャナーによって現物からのデータ取り込みで対応していく。

 対向式ダイレス成形を使った具体的な供給パーツなどはこれから検討していくが、価格的にも実際に修理を希望する人が負担できる範囲の金額を目指していく。

コンパクトカーのボンネットフードは5時間ほどで成形

 追浜工場では、実際の成形の様子と成形したパネルが公開された。成形には2台のロボットが先端に取り付けた工具でパネルを押し、形を作り出していく。実際に動く様子はゆっくりで、目に見えて形が作られていくというものではないが、加工のデモンストレーションが始まって30分もすると形ができていることが分かる。

対向式ダイレス成形を実行中

 成形のデモに使われたパネルはスカイラインのリアパネルアッパーで、複雑な形状から加工の最初から最後まで23時間を要するもの。一度で成形できず、凹凸が極端なところは成形用のダイが必要になるなど完全なダイレスではないが、小規模の生産においては、通常の金型を使ったプレス成形よりもコストも期間も短くなるという。

加工途中の様子
左の画像に対して30分が経過。新たに縦に形作られ、工具が当たったところの艶が変化している
日産の新しいボディパネル成形技術「対向式ダイレス成形」デモンストレーション

 そのほか、展示されたパネル成形に要した時間は、試作した現行ノートのボンネットフードの表面側は5時間、裏側の骨組みとなるフードインナーは10数時間、細かいパーツであれば1~2時間ほど成形に時間がかかったという。

現行ノートのボンネットフード。手前が通常工具利用で表面に傷や凹凸があるが、奥のものはダイヤモンドコーティングで加工し、塗装して艶が出るほど滑らか
裏側のパーツ。フードインナー
小型のパーツも作れる。錆などで消失しそうなパーツが新たに作れるのは旧型車オーナーには心強い
3Dスキャナー

 そして、ロボットが成形加工をしている間は、人間が立ち会うことなく加工が進むため、時間がかかってもロボットに作業を任せておくことができる。

 この加工にはロボットの操作プログラムはもちろん、さまざまなノウハウが詰まっており、金属の材質や厚みの違いによる加工の違いなどは、日産が持つ金型でプレス成形するノウハウも役立っているという。

ロボットの先端に取り付ける工具。右がダイヤモンドコーティングしていないもの、左がダイヤモンドコーティング済
ダイヤモンドコーティングの有無による作成物の違い。手前がダイヤモンドコーティング工具で作られたもの
スカイラインのリアパネルアッパー
スカイラインのリアパネルアッパー
スカイラインのリアパネルアッパーの成形にはダイが必要になる

 ロボットの先端に装着する工具も、通常の工具では加工した材料の表面は傷だらけになるが、先端にダイヤモンドコーティングを施した工具を使うことで、滑らかな加工表面を実現した。

日産自動車株式会社 車両生産技術開発本部 冨山隆氏

 日産自動車 車両生産技術開発本部の冨山隆氏によれば「発表されているインクリメンタル成形は、NC加工機を用いて成形するのが主流。日産が開発したのはロボットに成形工具を持たせて、加工自由度にフレキシブル性を持たせ、小さい部品から大きな部品まで治具や工具を用意すればどんな部品でも作れる」と特徴を説明。「大きな部品のリアパネルやフードといったところには実用例は発表されていない」と優位性を強調する。

ユーザーの要望
量産ボディパネルの生産工法
量産ボディパネルの生産工法でプレスしている様子
金型を使った場合の期間は約1年
インクリメンタル成形技術

多様化するニーズに対応する、新車の生産にも期待

 技術説明会では、日産自動車 車両生産技術開発本部 常務執行役員の吉村東彦氏が「自動車を取り巻く環境が変化し、軽量化のために材料の変化と生産技術の革新が求められる」と説明。自動運転についても、センサーの装着とボディデザインの両立のため、生産技術の開発が求められるとした。

日産自動車株式会社 車両生産技術開発本部 常務執行役員の吉村東彦氏
自動車を取り巻く環境
電気自動車の軽量化を支える生産技術
センサー類が増加
マスカスタマイゼーションへの取り組み
塗装技術はフィルム加飾を検討
インクリメンタル成形の紹介

 なかでも、ユーザーのニーズの多様化があり、量産と少量生産の両立が必要とし、フィルム加飾技術でツートーンカラーのクルマの生産を容易にするほか、GT-R NISOMO 2020モデルで採用したCFRP(炭素繊維強化プラスチック)の採用、そして「気に入った日産車を乗り続けたい」という旧型車向けニーズには「インクリメンタル成形」といった技術が必要とした。

日産自動車株式会社 執行役副社長 日産生産・SCM 担当 坂本秀行氏

 また、説明会には日産自動車 執行役副社長 日産生産・SCM 担当の坂本秀行氏も訪れた。現在は主に旧型車用のパーツなどを想定しているが、坂本氏は製造のスピードがまだ不十分とした上で、スピードが解決した場合は新車の製造にも採用する可能性を示し「国内で売っているような台数のクルマなら、この技術でカバーができる。成形にプレスの型がなくなるのは画期的で、造形自由度も上がるので、本当はそこを狙っている」と語った。