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【SGT×DTM交流戦】アウディ モータースポーツ責任者 ディーター・ガス氏、「次のステップはDTMとSUPER GTがそれぞれマシンを交換して参戦すること」

アウディAG モータースポーツ責任者 ディーター・ガス氏

 11月22日~24日の3日間にわたり「SUPER GT×DTM 特別交流戦」(以下、特別交流戦)が、富士スピードウェイ(静岡県駿東郡小山町)で開催されている。この交流戦は日本のSUPER GTと、ドイツのシリーズであるDTMが長い時間をかけてレギュレーションを統合してきた成果として初めて両シリーズが日本で戦う歴史的なイベントとなる。ドイツからはアウディが4台、BMWが3台の合計7台が来日し、SUPER GTからエントリーしている15台のGT500マシンと同じフィールドでレースを行なう。

 この特別交流戦に4台もの車両を持ち込み力の入った体制で臨んでいるのが、ドイツの自動車メーカー「アウディ」だ。「Audi Sport」のブランドでモータースポーツ活動を行なっているアウディは、「quattro」テクノロジでチャンピオンを獲得した1980年代前半のWRC(世界ラリーチャンピオンシップ)参戦や、1999年から挑戦を開始したル・マン24時間レース参戦(13回の総合優勝)がよく知られており、モータースポーツ活動に熱心なメーカーの1つだ。

 アウディのモータースポーツを統括するアウディ モータースポーツ責任者 ディーター・ガス氏は、特別交流戦レース1の決勝レース後に記者会見を行ない、アウディの特別交流戦への取り組み、アウディがSUPER GT/GT500に参戦する可能性などについて説明した。

ブノワ・トレルイエ選手は、アウディジャパンなどの尽力で参戦

特別交流戦を走るブノワ・トレルイエ選手の21号車 Audi Sports Japan RS5 DTM

 現在のアウディはドイツで行なわれているDTM、そして電気自動車のフォーミュラレースとなるFormula Eにファクトリーチームを参戦させており、今回の交流戦には3つのファクトリーチームと、アウディジャパン、一ツ山レーシング、そしてDTMでアウディのプライベートマシンを走らせるWRTのコラボレーションによる21号車 Audi Sport Japan RS5 DTMをブノワ・トレルイエ選手が走らせている。11月23日に行なわれたレース1の決勝レースではそのトレルイエ選手が6位に入り、DTM勢の最上位を記録した。

 そうしたアウディのモータースポーツを統括しているのが、アウディ モータースポーツ責任者 ディーター・ガス氏だ。ガス氏はアウディに加入する前には、チーム・ロータスのF1、そして2001年~2009年にはTMG(Toyota Motorsports Gmbh)でトヨタF1プロジェクトに従事しており、日本のメーカーのメンタリティもよく知っている。また、アウディに加入してからはWECのプロジェクトに従事し、アウディにWECのタイトルをもたらすなどの結果を出し、2017年には前任者のウルフガング・ウルリッヒ氏の勇退に伴ってアウディ モータースポーツ責任者に昇進した。ガス氏は現在DTMとFormula Eというアウディのファクトリーモータースポーツを統括する役割を担っている。

──この富士でのレースに向けてどんな準備をして来たか?

ディーター・ガス氏:どのサーキットへ行く場合でも準備は常にやっているし、シミュレータによるシミュレーションもやっている。だがレースデーに向けてはいつでも何らかの驚きがある。

 その段階ですでにSUPER GTの方が速いと思っていたが、そこまで大きな差はなかったというところだ。それでも現行の(クラス1ではない)SUPER GT車両は空力の開発の自由度やエンジンにも開発の余地がある。トップスピードなどで有利だと考えてきたが、そのとおりの結果になった。

──BOPに関してはどう思うか?

ガス氏:BOPに関してはデータからSUPER GTが速いだろうと予想していたが、そのとおりの結果となった。ただ、オーガナイザーにとってこのバランスを取るのは簡単ではないと思う。明日に向けては今日のデータを精査して改善していきたい。

──ロイクのクラッシュは残念か?

ガス氏:コンディションはとてもトリッキーで難しかった。ミスが起こるのは仕方がないこと。もちろん残念だが、レースを見ると、結局は大きな差は無かったと思う。実際近いところからスタートしたマイク(ロッケンフェラー選手)はどんどん順位を下げていった。

──今日のアウディ最上位はベン・トレルイエの6位が最上位だったが、彼は今シーズン走っていなかったが、その彼がなぜ走ることになったのだろうか?

ガス氏:結果を見ればよかった判断だと思わないか?(笑)。彼はずっと一貫してアウディファミリーでいてくれているが、WECのプログラムが終わった後は、彼のためのいいシートを見つけることができていない。私としては彼を日本でフルシーズン走らせいのだが……それには予算の問題が立ちはだかっている。しかし、このレースでよく分かるように、日本には彼のファンが多くいてサポートしている。今回はアウディジャパン、一ツ山などが協力してくれて彼を走らせることができた。今回のDTM勢最上位という結果はそれが報われたということだ。

──フォルクスワーゲンが内燃機関のモータースポーツからは撤退し、今後ファクトリーモータースポーツ活動はEVに限ると発表した。それに関してアウディはどう思うか?

ガス氏:まだ詳細は理解していないので、具体的なコメントをすることは難しいが、面白い方向性だとは思う。DTMやSUPER GT、カスタマーレーシングなどの電動化に向けてどうするのかはまだ結論は出ていないが、我々はFormula Eのファクトリーレーシングを行なっている。今後どうなるのかは競馬の歴史がどうかを見ればわかるだろう。昔は動力が馬で馬車で移動していて、馬でレーシング活動を行なっていた。レーシングに関しても同じだ。将来ファクトリーレーシングも内燃機関ではなくなっていくのではないだろうか。

小さい投資で大きな効果をもたらすためにはSUPER GTとDTMがそれぞれマシンを交換して参戦させるべき

TMGで働いていたという経歴を持っているため、とても親日的な側面を持つガス氏

──DTMとSUPER GTはグローバルにツーリングカーのチェンピオンシップを作る構想を持っていたが、そこからはやや後退しているように見えるが……。

ガス氏:そうしたプラットフォームを作り、マーケティングをする価値があり、聴衆がいるのであればいつかは可能だと思う。しかし、自分にとって次のステップは、それぞれのチャンピオンシップを、それぞれのクルマを融通するということだ。

 現在ドイツのシリーズに出ているマニファクチャラーがそのうち何台かを日本に送り、その半面日本のシリーズに出ているマニファクチャラーがそのうち何台かをドイツに送るということだ。

 これによりどちらのシリーズもマニファクチャラーの数を増やしてバリエーションを増やすことができるのに、追加コストはさほど多くない。しかし、メディアへのリーチは倍になる。それに対してワールドカップという構想は、ロジスティックスの問題などからコストは大きく上がるし、今回のレースのように22台の車両をそろえるのは難しいだろう。それがスペシャルでエキサイティングなシリーズなのかというのはよく考えないといけない。

──それはアウディがSUPER GTに車両を出すということか?

ガス氏:矛盾するかもしれないが、もちろんどこかからお金を探してこないといけない(笑)。追加のコストがない訳ではないからだ。しかし、さっきも言ったように小さい投資で大きな効果を出すにはお互いに車両を交換するというのが正しい方向性だと考えている。

──RモータースポーツとHWAとの提携が終了(DTMのアストンマーチンはかつてはメルセデスのDTM車両を作っていたHWAが製作し、Rモータースポーツが走らせるという体制だった)したことで、彼のエンジンをどうするかという話になっているが、例えばアウディがエンジンを販売することは可能なのか?

ガス氏:もちろんビジネスという観点では可能だ。ただしその場合にはアウディのブランドではなく他のブランドをかぶせる必要がある。我々はDTMに共通エンジンを常に提案している。すでにDTMは多くの共通パーツを導入しているが、一番高いパーツであるエンジンに関しては共通化を実現していない。しかし、次のコスト削減で大きな効果を出すにはエンジンの共通化の議論は避けて通れない。

 しかし、エンジンは自動車メーカーにとってDNAであるという考え方も理解できるので、この問題が今日、明日に実現するとは思っていない。

──この2年のロイクにとっては厳しいシーズンとなっているが、ロイクへの信頼は揺らいでいないのか?

ガス氏:いつでもロイクのことは信頼している。かれはSUPER GTでも、そして今日の予選の結果を見るとおりDTMでも強いドライバーだ。確かにこの2シーズンは異なる環境で厳しい結果になっているが、次のシーズンでは結果を出してくれると信じているよ。

──日本を楽しんでいるか?

ガス氏:いつでも日本に来るのは楽しみだ、私は日本メーカーで働いていたし(筆者注:ガス氏はトヨタの欧州でのモータースポーツ活動拠点のTMGで2002~2009年までトヨタF1プロジェクトで働いていた)。そして日本のファンはとても熱心だし、関係者のレーシングスピリットに関しては英国についで世界で2番目に成熟している文化だと言っても過言ではない。そして何より食事は楽しみだ(笑)。