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【インタビュー】初のSUV「DBX」を公開したアストンマーティン バイスプレジデントのリチャード・ハンバート氏など4人に聞く

「スポーツカーの性能とSUVの使い勝手を1台でエンジョイできるクルマ」

2019年11月21日 開催

アストンマーティン初のSUV「DBX」を国内初披露した記者発表会後に、アストンマーティンラゴンダ ヴァイスプレジデント&チーフクオリティオフィサー リチャード・ハンバート氏など4人によるグループインタビューが行なわれた(一番左は通訳)

 アストンマーティン・ジャパンは11月21日、東京 青山の正規ディーラー「アストンマーティン東京」でブランド初のSUVとなる「DBX」を日本初公開する記者発表会を実施。

 これに合わせ、発表会で登壇したアストンマーティンラゴンダ ヴァイスプレジデント&チーフクオリティオフィサー リチャード・ハンバート氏をはじめ、アストンマーティン APAC マーケティング&コミュニケーション ヘッド アンドレアス・ローゼン氏、アストンマーティンラゴンダ メタテクノロジー&ラグジュアリーアクセレレーターオフィス ダイレクター 戸井雅宏氏、アストンマーティン・ジャパン マネージング ディレクター 寺嶋正一氏といった関係者4人と報道関係者によるグループインタビューが行なわれたので、本稿ではその模様をレポートする。

「全幅は2m以下に抑える」とアンディ・パーマーCEOが決断

アストンマーティンラゴンダ メタテクノロジー&ラグジュアリーアクセレレーターオフィス ダイレクターの戸井雅宏氏

――今回、アストンマーティンとして初めてSUVを開発することになったと思いますが、そこで苦労した点などのエピソードがあれば教えてください。

ローゼン氏:DBXはまったく新しいプラットフォームを使ったモデルです。他社ではSUVを開発する時に別のモデルのプラットフォームを流用することがあると思います。われわれはまったく新しいプラットフォームで、他のスポーツカーでも使っている接着剤で構成する接着アルミニウム構造のボディではありますが、プラットフォーム自体は新作となっています。

 また、(DBXを生産する)セント・アサンの特徴的なところとして、ここでは最新の塗装設備を導入しています。これは(本社工場の)ゲイドンとはまったく異なるものです。日本のお客さまは非常に塗装を重視されるので、ゲイドンでも日本のお客さま専用となる塗装工程を行なっているのですが、セント・アサンでは特殊な工程を経て塗装を行なっています。

――DBXは2015年3月のジュネーブショーでデザインコンセプトが発表されて、今年の早い段階で市販モデルのティザーが行なわれました。実質的に3年ほどで走れるモデルが生み出されているわけですが、このハイペースを可能にするため、ボディサイズやパワートレーンといったパッケージングはどのタイミングで決定されたのでしょうか。

戸井氏:アンディ・パーマーがCEOに着任して、彼が真っ先に考えたのが「会社をこれからどのようにしていくか」で、そこで「セカンドセンチュリープラン」を作りました。会社をどのように発展させていくかについて、調査部が中心になって世界中にどのようなラグジュアリーカーのお客さまがいるのかを調べた結果、大別して7つのニーズがあると分かりました。そこにはスポーツカーだけでなく、セダンやSUVのお客さまがいて、それに対してアンディ・パーマーは「われわれはラグジュアリーカーのお客さまのニーズにすべて応えていく」と即座に決断しました。

 そのために、今回のDBXではプラットフォームも新開発して、生産する工場も新しいものです。これはすごい決断ですが、新たなお客さまのニーズにも会社としてしっかりと応えて、新しいギヤを入れていこうということです。こういった決断はかなり早く行なわれました。

DBXのボディサイズは5039×1998×1680mm(全長×全幅×全高)、ホイールベースは3060mm

 ただ、ラグジュアリーカーだからどんなに大きくてもいいのかという点で、デザイナーやエンジニアは「どんなサイズにするか」について激しく議論しました。これは日本のお客さまも注目するところかと思いますが、あまり大きすぎるとクルマが扱いにくくなってしまいます。最終的には「全幅は2m以下に抑える」とアンディが決断して、そこからデザインと車内の広さを両立できるような手法について開発が進みました。これが一番大きなポイントですね。

 車内を広く取るためにパワートレーンはどうしよう、デフギヤはどうしよう、シートなどのレイアウトはどうしようといったことをみんなで工夫していきました。これは日本のお客さまのことも考えてのことですが、まずはサイズをしっかりと決めてから設計しようというのが一番のポイントです。

アストンマーティン APAC マーケティング&コミュニケーション ヘッド アンドレアス・ローゼン氏

――DBXの正式発表は中国で行なわれました。その中国、またアジア圏と日本市場でDBXはどのような反響があると予想されていますか。

ローゼン氏:現時点で非常に良好なレスポンスをいただいています。これまでにシンガポールのクアラルンプール、日本の東京と大阪でプレビューを行なってきましたが、それぞれでとてもいいフィードバックをもらっています。本日公開したのは世界にまだ16台しかないプロトタイプ車両の1台で、アジア太平洋地域にあるのはクアラルンプールに1台、そしてもう1台がこの東京です。これは私たちが日本市場に対してコミットメントしている証で、日本市場で成長していくポテンシャルがあると考えていることを示しています。また、DBXに関してはアジア太平洋地域が最も高成長が見込まれている市場です。

寺嶋氏:アメリカや中国といった市場は、やはりSUVを展開する上で重要です。そのような理由から中国での発表となりましたが、すでに皆さんもご存じのように、CEOのアンディ・パーマーは日本を非常に重要なマーケットだと考えています。そこで日本でもいち早くお披露目して、早い段階で日本市場の展開が進められています。

――昨日の発表後、日本ではどのような反響がありましたか?

寺嶋氏:とても反響が大きくて、販売店からもお客さまからも前向きなコメントをいただいています。受注も順調に進んでいくのではないかと考えています。

――SUVというカテゴリーは、アストンマーティンの既存のユーザーだけでなく、新規顧客を呼び込めるモデルになるかと思います。この点はいかがでしょうか。

ローゼン氏:調査によると、アストンマーティンのお客さまの7割は他社のSUVを所有していることが分かりました。その皆さんにも、今後はぜひアストンマーティンのSUVであるDBXにお乗りいただきたいと思います。

戸井氏:商品企画という面からも、どちらにもお客さまがいると分かっています。アメリカやヨーロッパでお客さまのお宅に訪問すると、大体4~5台のクルマを所有されていて、ポートフォリオとしては、週末に自分で楽しむ2ドア車が2台ぐらいで、奥さまが運転するセダン、家族で使うSUVというパターンが典型的です。そんなお客さまにとって、アストンマーティンの車両を持っていても、他にポルシェやレンジローバーのSUVを所有していて、これまでも「アストンからもこんなクルマが出ないのか」と言われてきました。そんなリクエストに対する商品であることが1点。もう1つが、これまではアストンマーティンで興味があるクルマはなかったけど、DBXを見て買ってもいいなと感じていただけるような新しいお客さまです。

 われわれの調査で、日本には5億円以上の資産を持つ人が約20万人いて、これは世界で第2位になります。それにも関わらず、われわれのクルマの販売はそれほどではなくて、興味はあるけど、使い勝手がよくてかっこいいクルマを求めている人も多いので、そんな方に、ぜひ新しいDBXでアストンマーティンのお客さまになっていただきたいと思っています。

アストンマーティン・ジャパン マネージング ディレクターの寺嶋正一氏

――これまでに各市場で出たさまざまな意見を受け取ってクルマに落とし込んだと発表会で言われましたが、日本市場から出た声でDBXに反映されている部分はありますか?

寺嶋氏:日本のことで言いますと、パーマーCEOはとても細かい部分まで見ています。例えば、ナビゲーションはこれまでのようなレベルだと日本では通用しないとか、TVを見ることができるようにしないとダメだとか、そんな装備の細かいところにまで気を配ってくれるCEOです。また、ここに来ているハンバート氏も同様で、ナビやTVといった装備で日本人が満足できるレベルまで引き上げようという取り組みがDBXでは行なわれています。

戸井氏:車内に荷物を置くスペースがほしいというニーズはグローバルでいろいろとあって、日本のお客さまからも具体的に置きたい物の要望を聞いています。センターコンソールにある「ブリッジ」の下には2Lのペットボトルだったり、ちょっとしたハンドバッグなどを置けるようにしています。ここは車外から目立ちにくいこともポイントです。小物入れのような収納スペースの使い勝手はお客さまから厳しく評価されるところなので、いただいたフィードバックにはしっかり取り組ませていただきました。今回は女性の声も多くいただいて、乗降性といった部分では女性に意見をいただいています。

センターコンソールにある「ブリッジ」など、収納スペースもこだわりのポイント

――DBXでは新しい取り組みが多数行なわれていて、セント・アサンの工場でも新しい設備や試みがあると聞いています。車両の量産のクオリティなどでこれまでと違う部分はあるのでしょうか。

ハンバート氏:セント・アサンでも従来のゲイドンで学習してきた多くのことを受け継いでいて、例えばボディラインでは数多くのポイントを設けて精度を確実なものにしています。そして再発予防。かつてゲイドンで発生したことのある問題が再び起きないようにすること。そしてセント・アサンの工場で新たな問題が起きないようにすること。この2つを重視しています。それはエンジニアリングから製造、さらにサプライヤーの皆さんについても対策を徹底しています。

 また、DBXでは新しいデジタルエンジニアリングも導入しています。デザインや設計といった段階から製造まで、スムーズに遷移できるようにしています。サプライヤーさんとも戦略的な開発を行なっていて、部品を調達する際には十分な性能、十分な数量を供給してもらえるよう密に共同作業しています。

――セント・アサン工場の生産キャパシティはどれぐらいなのでしょうか。DBXは生産が立ち上がってからいつごろデリバリーされる計画でしょうか。

ハンバート氏:生産キャパシティは5000台/年です。DBXの納車開始は2020年第2四半期を予定しています。

106年の歴史で生産してきた車両の95%が今でも走っている

アストンマーティンラゴンダ ヴァイスプレジデント&チーフクオリティオフィサー リチャード・ハンバート氏

――アストンマーティンを選んで購入する人は、他のフェラーリなどとは異なり「乗っている人が少ない」という希少性を理由に挙げる人も多いと思います。一方でDBXは多くの台数を販売するモデルになるかと思いますが、アストンマーティンとしてのブランド力を保っていくにはどれぐらいの台数が適正だと考えていますか?

ハンバート氏:難しい質問ですね。なかなか“ここがいい”というポイントはなくて、需要と供給に任せるしかない部分なのですが、ただ、アストンマーティンのクルマが増えれば増えるほどいいとは思います。しかし、ゲイドンやセント・アサンの生産キャパシティを考えればそれほどの大量生産は不可能なので、これからもラグジュアリーブランドとしての少量生産を維持していくことになると思います。

戸井氏:DBXが量産車であるという考え方はなく、他のクルマと同じようにクラフトマンシップによる手作りで生産しています。エクスクルーシブなフィロソフィーをDBXでも維持していきます。

――とは言え、ラグジュアリーブランドのクルマを持つオーナーとしては、そのブランドのクルマがたくさん走っているのは好ましくないことだと思います。アストンマーティンとしてラグジュアリーブランドとしてのイメージを保っていくにはどれぐらいが上限だと思いますか?

ハンバート氏:ゲイドンの生産キャパシティは年間でおよそ7000台。今後もスポーツカーはゲイドンで生産していきます。なので、そこが限界です。セント・アサンは年間5000台となりますので、合わせて1万2000台ですね。また、アストンマーティンが持つ106年の歴史において、これまでに約9万台しかクルマを作っていません。そしてそのうち95%が今でも走っているのです。ですので、アストンマーティンのクルマを購入するということは、単に車両を購入するというだけに止まらないのです。

戸井氏:あと、これでスポーツカーの台数が急速に増えるというわけではなく、スポーツカーの台数は維持しつつ、SUVというまったく別のカテゴリーが増えるわけです。エクスクルーシビティという部分は損なわれないと思っています。

――スポーツカーメーカーでSUVを手がけるのは後発になると思いますが、ライバルになるであろうマセラティの「レヴァンテ」や、ベントレーの「ベンテイガ」などと比較して、ここだけは負けないといったポイントがあれば教えてください。

戸井氏:“車内が狭くてもビューティフル”というクルマを造るのは簡単なのですが、DBXは、例えば後席のヘッドルームがクラスで最大なんです。すでに世の中にあるレンジローバーのモデルのように、車高が1890mmあるようなモデルと比較してもDBXのほうが広いというのは大幅な苦労を経て実現していることです。アストンマーティン流のビューティフルの定義の中で、4人、5人と乗ってちゃんと使えるSUVを造るというのは、おそらく誰も達成したことのないことだと思っています。

 それから、シャシーは最後まで設計変更を繰り返して「アストンマーティンのクルマとしてこの走りでいいのか」という議論を続けました。最後は大決断をしてeデフ(エレクトリック・リア・リミテッドスリップ・ディファレンシャル)を追加して、サスペンションのエアサスやエレクトロニック・アダプティブ・ダンパーの採用、4輪駆動システムの組み合わせなどで、現段階ではベストなハンドリング性能になっているのではないかとわれわれは自負しています。

 具体的な例としては、DBXは大きなクルマなのでボディのねじり剛性は確保が難しいところなのですが、ほとんど「DB11」と同程度に仕上げています。また、モーターを使った48V式で、ロールバーをぎゅっと抑え込むアンチロール・コントロール・システムにより、コーナーリングで1Gがかかった時のロール角度がDB11や「ヴァンテージ」と同じ0.5度。こんなに背が高いクルマで実現していて、いかにアストンマーティンが走行性能にこだわって開発したか見えるポイントです。細かいところを積み重ねてそのこだわりに応えています。

先進的な電子制御デバイスを多用してアストンマーティンモデルとしての走りを追求した

寺嶋氏:DBXはSUVですが、スポーツカーとしても十分に楽しめるケイパビリティを持っていると思います。DB11並みのスポーツカーの性能とSUVの使い勝手を1台でエンジョイできるクルマになっています。また、「ペットパック」「イベントパック」「スノーパック」といった11種類のライフスタイルパッケージを用意しています。それによってどんなシーンでも楽しめるように設計されていて、そこで必要な道具もすべて提供できます。ほかのライバル車と比べて欲ばりな作りになっていると思います。

――他社のSUVでは広い車内空間を利用して3列シートを備え、多人数乗車を実現しているモデルもあります。DBXの開発にあたり、そういった部分は考えたのでしょうか。また、今後の計画としてはいかがでしょうか。

戸井氏:今回はまったく新しいフロントエンジンのプラットフォームで、ホイールベースを3060mmという数字にこだわっています。ただ、これはあくまで操縦安定性とキビキビした運転性を両立するといったところで、アストンマーティンが初めて出すSUVとして、スポーツカーの走りをしっかりと持たせようというところです。全長も5mほど(5039mm)に抑えています。なので、われわれのコンセプトに3列シートという発想はありませんでした。

 ただ、プラットフォームでは能力として持っていますので、今後お客さまのニーズなどを受けたり、いろいろな方向に向けたチャレンジとして、ないとは言えません。ですが、今回のクルマとしては、まず「きちんと走るSUV」「ビューティフルなSUV」を出すことがわれわれの理想だったので、そのようになっています。

 例えば、ライフスタイルパッケージでは、花火を見に行った時などにリアハッチを開け、そこにDBX専用のシートを車両後方向きに置いてテールゲート越しに楽しんでもらえるイベントパックを用意しています。

 われわれは自動車会社として、時代の変化やお客さまのニーズ、EV(電気自動車)化やCASEへの対応など、いろいろと流れの中で考えていかなければなりません。その時々にあったポートフォリオを会社として考えていくことになります。