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レッドブルへのホンダF1パワーユニット移管については「彼らの要望が来て検討を始めます」

ホンダ モータースポーツ統括 渡辺本部長に聞く

2020年10月16日 実施

本田技研工業株式会社 執行職 四輪事業部長 ブランド・コミュニケーション本部長兼広報部長 渡辺康治氏

 本田技研工業は10月16日、10月2日に発表したF1参戦終了に関する補足オンライン会見を行なった。ホンダは10月2日に2021年シーズンをもってF1へのパワーユニットサプライヤーとしての参戦を終了することを決定。この決定により、レッドブル・レーシングおよびアルファタウリへのハイブリッドパワーユニットの供給を停止する。概要については、10月2日の記者会見で代表取締役社長 八郷隆弘氏が発表したとおりだが、今回は実際にレッドブルとの交渉を担当した執行職 四輪事業部長兼ブランド・コミュニケーション本部長兼広報部長 渡辺康治氏が質問に答えた。

 渡辺本部長はブランド・コミュニケーション本部長として、ブランド部とモータースポーツ部、広報部の3部署を統括。10月2日の会見にも同席している。

──渡辺本部長が実際にレッドブルとの交渉を行なったとのことですが、具体的にどのような形で担当され、どのような内容の交渉が行なわれたのですが。答えられる範囲で教えてください。

渡辺本部長:レッドブルさんとの交渉は、レッドブル側がヘルムート・マルコさん、ホンダ側が私ということでいろんなディスカッションをしてきました。私がこのポジションに就いたのは4月なのですが、元々欧州の事業部長をやっておりまして、欧州にいたということもあります。

 3月にいったんレッドブルの方に行きまして、いろいろとお話しを、ご挨拶も含めてですね、させていただきました。その時点で会社としてもいろんな検討、もちろん何の決定もしてないんですけど、いろんなディスカッションが始まっていました。その状況を含めて、マルコさんの方にお話しをさせていただきました。

 その後はコロナ禍の問題で渡航ができなくなり、テレビ会議を基本として何度もいろんなやりとり、ディスカッションさせていただきました。ホンダはもちろん、ホンダ側で内部での検討がありました。具体的なF1の活動を終了するという方向性については、8月にレッドブル側にお伝えしました。

 そこでもし正式にやめるとなったら、レッドブルが受け入れられるかどうかというところを議論しました。正式には9月末にホンダ側で決め、10月2日に発表したということです。レッドブル側としては、もしホンダが活動を終了するのであれば「速やかに発表していただきたい」と。

 彼らも新しいパワーユニットのパートナーを探していく必要があるし、彼らとしてもある程度のオプションを持っているので。そこについてはホンダがもし終了するということであれば、早く発表して、自分たちも動きたいというようなことでした。

──僕らにとって一番大事なのは、ホンダというブランドだと思っています。ホンダというブランドは、もともと本田宗一郎さんが、そして新興国の名も知れぬメーカーが突如F1に出てきて、しかも最初っから素晴らしい技術を引っ下げてきて勝ったというところからスタートしていると思います。ホンダはF1で勝ってきたというバックボーンが、非常にブランドイメージを支えていると思うのです。ホンダ=F1みたいな。今まで(F1)を辞めたときはですね、いつかやるんじゃないかと、具合がよくないから一時的に止めたんじゃないかっていう。(状況が代われば)F1を継続するという気持ちが見えたんですが、今回はどうやら手を引くというか、完全に止めてしまうというようなことを言ってる。ホンダというブランドイメージをこれからどうやって作っていくのか、そこの戦略を教えていただきたいなと思います。

渡辺本部長:ブランドですが、おっしゃるようにホンダ=モータースポーツ、レース活動。頂点では4輪で言えばF1、2輪で言えばMotoGPと常にモータースポーツが、ホンダのブランドを作ってきたというのはおっしゃるとおりです。

 いまいまの世の中、全体としてのホンダブランドの見られ方が少し変わってきているのも事実です。例えばホンダに求めることでは以前はレースが一番上に来たのですけど、今は安全なクルマとか、優れた品質のクルマとか、ジェットとか少しばらけてきているのは事実です。

 それからモータースポーツのイメージが、若い方々のベストテンから落ちているという状況であります。モータースポーツ活動が重要でないということではないんですけど、少しそういう状況になってきている。その中でわれわれもブランドとしては新たな軸を作って、ちゃんと世の中に伝えていくということはやらなければいけないと思っています。そこはもう少しはっきりさせないといけない。新しいホンダという軸を作っていくということと、モータースポーツ活動そのものは続けていきたいというところはあります。F1は終了しますが、そのほかのカテゴリーのレースを続ける。それによって人を育てる。

 それからドライバー、ライダーの育成をしていく。モータースポーツ全体の振興を図っていくというところは変わらずやっていきたいと思っているのです。

──聞きたいのは、軸のとこですね。その軸を何にするか。

渡辺本部長:少しお時間をいただきながらはっきりさせていきたいと。

──今時点ではないという理解でよろしいですね。

渡辺本部長:今お話できるような状況ではないと。すいません。

──レッドブルさんの方で、マルコさんとかはホンダさんのリソースを受け継いて自分たちでやりたいっていう意思があるというようなことが出ています。実際その辺の話はどれくらい進んでらっしゃるとか、いろいろ可能性があるのかというのをちょっと教えていただきたいと思います。

渡辺本部長:はい。マルコさんの方からは、そういうについてはご意見をいただきました。ただ、具体的に検討しなきゃいけないので、具体的にどういうことを彼らとしてオプションを持っているのか、考えているのかっていうことは、まだこちらには来ていないです。

 われわれとしてはできるだけレッドブルが今後も活動を続けやすいように、できる限りの……サポートと言うと偉そうですけど、協力をしながら進めたいと思っています。レッドブルからの提案を待って、やれることはやっていくというふうに考えてます。

──可能性としてレッドブルさんが自社開発する、サポートするとか支援するのはちょっと分からないですけど、そういうことの可能性は現実としてまだ残っていると考えてもいいのですね。

渡辺本部長:まだ残っています。ただ具体的な話が出ていないので。彼らの要望が来て検討を始めます。

──例えばトヨタさんとか、日産さんは、フルパッケージでクルマを作っています。F1の場合はパワーユニットを供給するというだけで。現状ルノーの方もパワーユニットだけでは、やはりF1ではいろんな広告戦略含めて限界があるのではという考えも持たれてると思うのです。ホンダさんの中ではパワーユニットだけで展開していくことにメリットとデメリットがあると思うんですけれども、それについてどのように会社の中で議論されていたのでしょうか?

渡辺本部長:もともと今回のF1活動等については自分たちがやっているエネルギーマネジメントの技術を使って、どのぐらい通用するかということと、それをさらに高めていくっていう、それが目的でした。

 マーケティングに積極的に使うというような活動方針ではなかったので。そういう意味で言うと、自分たちでやろうとしていることはできたと思っています。ただマーケティング上なかなか使いづらいというのは事実としてありました。ただ、そこがネガで社内で議論したとかそういうことはまったくありません。

──F1撤退の発表の代わりに、例えばフォーミュラEに参戦というような社内での検討というのはありましたか?

渡辺本部長:ないです。F1をやめて別のモータースポーツをやろうということではありません。(記者会見時に)ご説明したように、カーボンニュートラルに向けて進んでいくという中での終了ということです。

 もう少し補足させていただきますと、ご存じの方もいると思うのですが4月に研究所の体制、それから4輪の開発体制っていうのを刷新しました。

 もともと1960年に研究所が独立しました。そのときは未知の領域に踏み込んで、そこで新しい価値を作るために、研究所が本田技研から独立しました。

 徐々にその研究開発の中で、量産開発が占める割合が増えてきてしまっていて、効率の話にいってしまっていました。その中でわれわれが独自性を保っていくには研究所を再度強化する必要があると。量産開発と、それから未知の世界というところを分けないと独創性を保てないということが経営の中でかなり議論されました。

 量産車開発は100%成功しないといけない開発で、未知の開発はほとんど失敗を覚悟しながら、それでも成功に結びつけていく。そういう開発なので、そこを分けるために量産開発は「もの作りセンター」ということで本田技研側に入れました。研究開発、未知の分野は、まず先進技術研究所を作り、そこから先進パワーユニット・エネルギー研究所を作ると。先進技術研究所はどちらかというと、知能化とか自動運転とか、その生産ということですね。

 先進パワーユニット・エネルギー研究所が、八郷(社長)が説明したカーボンニュートラルに向けて2輪、4輪パワープロダクトの壁を越えてジェットを超えて、全体のパワーユニットとして次の世代のパワーユニットと環境エネルギーを作っていく、そういう舞台です。

 ちなみにあと本田技術研究所にあるのがライフクリエーションセンターといって、2輪4輪以外の次の商品を作る部隊です。

 デザインセンターが、今度2輪・4輪を全部束ねた一貫性を持った主張をする部隊。

 それとSakuraというレースの部隊。5つの研究部隊をおいてやると。その中で先進パワーユニット・エネルギー研究所の強化をするために、SakuraのF1部隊を持つと、今そういう決断をしたということです。

──F1以外にはインディやSUPER GT、スーパーフォーミュラに参戦していますが、こちらはあまり撤退というのは考えられないと。F1とこれらのカテゴリーはホンダさんにとってどういう違いがあるのでしょうか?

渡辺本部長:大前提としてモータースポーツ活動そのものはわれわれとしては続けていく。インディはアメリカ独自の活動として取り組んでいまして、HPDでやっていくアメリカの活動であるということです。

 SUPER GTは日本の活動なのですが、F1活動にかかわっている人たちをわれわれの経営判断として先進パワーユニット・エネルギー研究所に振り向けたのが、(F1活動を終了する)理由となります。ほかの活動についてはそのまま続けていくということです。

──今回批判があった部分として、環境問題などはF1に戻られたときもある程度見えていた話で、戻ってきて苦しい時期を経てやっと勝ってきた。ファンとしては怒りが出てくる気持ちは分かるのですが。再参戦を決めたときの見通しが甘かったというのは考えられるのでしょうか? 先進環境技術の当時の見通しが甘くて、今はより重要になってきたと考えられるのでしょうか?

渡辺本部長:見通しが甘かったと言われると、そうではないと言えないので、そういうことになると思います。われわれが思っている、想定している以上に世の中の変化が早いということは感じています。コロナ禍を経験して何か世の中が大きく変わるとは想定してないのですが、変わるスピードがさらに速くなってきているのは、われわれの想定を超えたところはあります。特に持続可能社会に対しての要求が非常に強くなってきていますし、具体的なお話で言うと、ヨーロッパやアメリカの環境規制がもの凄い急速に進んでいます。

 例えばカーブ(California air resources board)、カリフォルニアの規制なども先月発表され、2030年には内燃機関を認めないという行政命令が出されています。もちろん決まってるわけではないのですが、そういう動きになってきています。グリーンディールの中でのいろんな規制強化があり、われわれ2輪・4輪パワープロダクトやジェットをやっている中で、規制に対しての対応を図っていかないと、事業そのものが成立しないという。ここはものすごい高いハードルが設定されている中で、今のやり方ではダメで、今まで以上によいやり方で、それをもっとスピードを上げて低炭素に取り組んでいかないと、この後事業が成立しない。そういう状況であるという想定です。

 ホンダの(過去の)想定が甘いと言われるとそういうことです。そういう状況に今各社がなってきているということです。われわれは自動車だけではなく、本田技研で2輪・4輪パワープロダクトやジェットのすべてを対応していくというところのハードルの高さがあります。

──終了の会見を経て、ホンダの社内、研究所、販売でどのような声や反応が出ているか教えてほしい。また、八郷さんが言われたように再参戦がないということであると、F1はヘリテージという分野に入るが、今後はF1ヘリテージをどうブランド戦略に活かしていくのか?

渡辺本部長:まずホンダ社内の反応ですが、本社でいいますとやはり「残念」「ショック」という声です。もちろん発表前に本社(全体)で事前に話をしていないので。対外的な発表タイミングをもって、社員にも説明していますのでそういう意味では「大変ショック」という声が多かったと思います。

 もちろん人によっては「非常にリーズナブルだ」という人たちも、一方で多くいるものの、全員が全員、リーズナブルと思っているわけではありません。やはりモータースポーツが大好きな従業員が多いので、そこについてはショックということが多かったと思います。

 販売店のみなさまも同じように両面だと思います。やはりF1をかなり活用されているので。そういう意味ではホンダのF1活動、モータースポーツ活動に評価をいただいてる方々には、やはりショックというところもありました。

 海外の方がどちらかというと冷静な意見が多かったと思います。どちらかと言うと「リーズナブル」という意見が多かったです。

 アメリカはインディの関心度が高くて、別にわれわれ意図して同じタイミングでインディの継続とF1の終了を発表したわけではないのですが、アメリカはインディの継続っていうことに納得いただいているということです。

 ヨーロッパは、私もヨーロッパの担当をしていたのですが、カーボンニュートラルの方向をやっていくということに対して非常に分かるというか、「そちらをやらなきゃいけないんだよね」っていうことで理解はいただいていると思ってます。

 基本は、ショックと納得と両方がミックスされた状態です。

 それから、「再参戦はしない」というお話をさせていただいてますけど、今の時点で「再参戦します」って言うこと自体はないと思うんです。本当にずっとお前の会社があるってときに、「ずっとやらないのか?」と言われると、今の時点では分からないです。今の時点で「5年後に戻りたい(5年後に参戦したい)」と思っているわけではないということです。

 ヘリテージをどう使っていくかっていうのは、そもそもヘリテージの使い方があまりまだできてないという認識があります。そこはF1をやめたからといって使わなくなるということではなく、さらにヘリテージとして今まで以上によい活用をしていく、ブランディングに使っていくという方向で考えています。

──F1は来年も1シーズン戦いますし、今シーズンも残り6戦を戦っていかれると思います。これから約1年3か月、どのような形でF1活動を展開して行かれますか? 現場(の山本MDは)は一戦一戦戦っていくとコメントしていましたが、本社としてF1にどのように取り組んでいくのか教えてください。

渡辺本部長:やはり最後、今シーズンもありますけど来シーズンちゃんと勝って終了したいと思っています。今のF1の現場の部隊を可能な限りサポートしていくということ。さらに競争力のあるエンジンを入れていかないと来年成績が出せないと思っていますので、新しいエンジンを来年の頭から投入できるように体制を整え、環境作りやっていきたいということです。新骨格を入れると、エンジンを投入するということで進めていきたい。

 来年の成績、勝利に向けては今の人たちは異動させずに集中してF1活動ができるように、どちらかというとさらに体制強化ぐらいのつもりでやっていきたいと思っています。

──2022年以降のF1との関わり方を、改めて教えていただきたいです。先ほどドライバーの育成のことをおっしゃってますが、若手の子の場合F1を頂点に目指されていると思うんですけど、今後そういう若手の方に対してF1をどう利用されていくか。今後、日本グランプリもあると思うんですけども、どのようにするか教えてください。

渡辺本部長:先ほど少しだけ申し上げましたけど、われわれとしては人材育成、モータースポーツ振興は変わらず活動の柱の1つとしてやっていきます。SRSを中心とした育成活動を強化しながら、それぞれのモータースポーツシーンで活躍できる人たちを育てていく、そういうチャンスを継続してやっていく、提供していくっていうことは続けていきます。

 われわれがF1からいなくなったとしても、F1に行けるような、インディやそういうとこに行ける人たちを育てていきたいということは変わっていません。

 興業振興という観点からすると、日本グランプリも主催者である鈴鹿サーキットが決めることではありますが、ホンダ側としてスポーツ振興をちゃんと考えながらです。鈴鹿は2021年までF1の契約があるのですが、22年以降についても、ちゃんとという趣旨です。

 決定は鈴鹿サーキットと考えていきたいと。21年までまだ契約がある。そういうスタンスで考えていきたいと思ってます。

──前向きに考えてということですね。

渡辺本部長:はい。

──今回のF1参戦終了が、現在海外で働いている人や、将来の人材集めに影響することはありますか?

渡辺本部長:まずは今ミルトンキーンズで働いている人たちがモチベーション高く働けるよう取り組みます。イギリスの会社なので、ホンダが勝手にやめます、解雇ですという国ではなくて、コンサルテーションというプロセスを踏んで、何かその施設が活用できないかと。そういうところも含めてかなりしっかりやりとりをしていくところが、イギリスの場合あります。

 まだ1年半の活動が続く中で、ミルトンキーンズの活用方法についてより協議をして進めています。場合によってはレッドブルさんといろんな話も出てくるかもしれないということで、今のところはいろいろなオプションを検討していくということです。

 モータースポーツ人材の採用に何か影響するかというと、基本的にはわれわれのミルトンキーンズの人たちしか今ヨーロッパにはいないので、そのものとしてインパクトはないと思ってます。いかにして今いる人たちがモチベーション高くやってやれるかというのが課題だと思っています。