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「Honda e」の第一印象はデザイン家電でした。インテリアスタイリスト川合将人氏を迎えたデザイントークレポート
Honda eのデザイナーたちが、デザインの開発過程を熱く語る
2020年11月9日 10:28
- 2020年11月7日 開催
本田技研工業は11月7日、世界的権威のあるデザインアワードの1つ、レッド・ドット・デザイン賞の最高賞「ベスト・オブ・ザ・ベスト賞」を獲得するなど、世界各国でそのデザイン性の高さが評価されている新型EV(電気自動車)「Honda e」のデザイン開発ついて、インテリアスタイリストの川合将人氏をファシリテーターに迎えたトークセッションを行なった。
本田技術研究所 デザインセンター オートモービルデザイン開発室からは、デザイン全体を統括した岩城慎氏、エクステリア担当の佐原健氏、インテリア担当の明井亨訓氏、CMF担当の半澤小百合氏が参加。さらに、将来デザイナーを目指す学生たちもオンラインで参加した。
まずは全体を統括した岩城氏が「人に寄り添うシンプルでモダンなデザインと、力強くクリーンな走りや取り回しのよさ、さらに多彩な先進機能を搭載するなど、ユーザーの移動と暮らしをシームレスに繋げ、生活のパートナーとなることを目指して開発したHonda e。デザインだけでなく、技術も含めて、なかなか特徴的なクルマができたんじゃないかなと思う。新しい時代に向けてホンダが本格的に作る初めてのEV。どうやれば誰にも愛されるものが作れるかと取り組んできた。その結果、世界的にも評価を頂いて、嬉しい限りです」と挨拶してトークショーはスタートした。
続けてエクステリアを担当した佐原氏は、Honda eをゼロからデザイン開発するにあたり、まずは新車販売の半分以上がEVと、世界で一番EVが普及している街であるノルウェーのオスロへ行き、EVがたくさん街に溢れている状態の勉強から始め、Affinity(親しみやすさ)とModern(ハイテクなデザイン)と2つのコンセプトを掲げたという。
現地では走っているクルマだけでなく、実際に使用している人もリサーチし、借りたクルマで充電リッドの開け方が分からなくて困っていた婦人に遭遇した経験なども明かした。
エクステリアデザインの特長としては、やさしさを感じ、親しみの持ちやすさから丸いヘッドライトを採用。EVはエンジン音が出ないため、動くのか動かないのが分かり難い。そこで、LEDを採用したことで、止まっているときは真っ黒で、走り出すときは点灯して表情がでるように設計。
特にこだわったのはボンネットにある充電リッドで、ガソリン給油口をそのまま電気のプラグにするクルマが多い中、ボンネットの真ん中という一等地に配置。さらに綺麗なガラスの蓋がふわっと開くようにし、中の照明も外から見えるようにしたことで、毎日充電するので生活の一部に取り込まれて、豊かな気持ちになれるようなデザインを目指したという。衝突安全性などクリアしなければいけない基準があり、この部分にガラスを取り入れるのは非常に大変だったと佐原氏は語る。
また、サイドカメラは外部に接触しないかと気にしないで済むように、フェンダーより内側に収まるようにデザイン。そのため、とてもコンパクトなサイズとしながらも、横後方と下を映す2つのカメラ、さらにウインカーの機構を内部に収めることに苦労したという。同じようにドアノブに関しても、前席も後席もボディにすっきりと収まるようにデザイン。使うときだけ触れるようになっている。
ホイールもがっつり走るクルマではなく、気軽に使える相棒のような存在をイメージしており、あえてブレーキディスクやキャリパーを見えないようにデザインしたという。ただし、ブレーキは熱を発生するので、冷却の穴は必要、さらに前後で幅の違うタイヤを履いているため奥行きが異なり、似ているがそれぞれ別にデザインを起こしていると明かした。
インテリアを担当した明井氏は、デザインキーワードの「シームレスライフ」について解説。移動体としての価値だけでなく、クルマと生活をつなぐ存在にしたいと考え、居心地のよさをどのように表現できるか。人と繋がる、社会や暮らしとつながる表現を考えた時、動く自分の部屋「第2のリビング空間」というスタイルにまとめたという。
まず特徴的なのは水平の大型ディスプレイ。ぱっと見で先進性はあるが、インテリア感をどのように出せばいいのか考えた結果、ローテーブルにテレビが置いてあるようなデザインにしたという。ディスプレイがもたらす水平基調を逆に利用し、インパネも水平にしたことで、視認性も高くできている。
室内の照明にもこだわりが盛り込まれ、通常のルームランプは中央部に配置され、スイッチもそこに備わっているが、Honda eではインテリアライト風に4個のをダウンライト採用。さらにスイッチはBピラーに配置。壁にあるスイッチで部屋の照明を点けるかのような操作感を演出したという。
また、Honda eは音声認識によるホンダパーソナルアシストを搭載していて「OK、ホンダ」と語りかけると起動。ナビの設定や音楽の選曲なども可能としていて、デザインだけでなく扱いやすさでもシームレスさを表現したという。
カップホルダーについても一般的には丸い穴となるが、珍しいベルトによって引き出すタイプを設定。また、シートと同じ素材で優しくスマートフォンを保持できるモバイルホルダーも配置したという。
また、CMF担当の半澤氏は、シンプルな見た目と居心地のよさを追求し、素材としてはメランジ調のソファーによく使われる材質と、グレーの濃淡で見せる配色のモノトーンを心掛けたという。そこにウェービングステッチやシートベルト、ウッドパネルなど通常は加飾としての役割はないが、ブラウンを入れることで、乗っていて楽しめる、質感や華やかさを感じられるようなコーディネイトも織り交ぜたという。実はインテリアは1種類しかなく、どのグレードも同じになるので、誰でにでも受け入れやすい仕上がりと、外に持ち出せるインテリアを目指したと語った。
そしてインテリアスタイリストの川合氏はHonda eのデザインについて「第一印象は家電に近いなと思った。いわゆるデザイン家電のような雰囲気を感じた」と明かすとともに、外観もシンプルにまとめられながらも密度が濃く、コンパクトな中に高機能がたくさん盛り込まれている。球状のヘッドライトや色味といったグラフィカルな要素など、視覚の情報が考えて統制されていると強く感じたと語った。
また、今回ショールーム内にHonda eのデザインコンセプトである「アフィニティー&モダン」に合わせてコーディネートした生活空間については、ホワイト、ブラック、ブラウンといった車内と外装の色味をベースに、3つのリビング空間がそれぞれ同じカラーのスキームで構成し、そこから家具へと落とし込んでいるのがポイントで、置いている家具もメインは北欧メーカーのもので、車体を見て印象付けられる大きな面積はボディカラーである白を採用。そこにブラックの小物、座っているシートはグレーという風に統制を取っていると解説。
半澤氏はその解説を聞いてHonda eをすごく理解して頂いていると感銘。自分たちが想像した世界観を伝えるために作るイメージボードが、そのまま具現化された印象だと語った。また佐原氏は、第一印象が家電だと感じてもらったことについて、「クルマは基本的には走るものですが、EVになると充電中に車内で30分過ごすなど、これまでのクルマとは異なる使い方がデザインにも表れるべきだと考えていて、家具や家電などもっと大きなプロダクトデザインが必要になるのではと考えてデザインしてきた」と明かした。
加えて、2019年にはミラノのデザインウィーク(家具を中心とした見本市とデザイン展示イベント)に「ホンダエクスペリエンス」として展示し、クルマ以外の業界の人の反応も上々で、貴重な経験ができたと語った。
さらに川合氏はHonda eのデザインについて「シームレスなデザインがインテリアとどう結びついているかという視点で見たとき、人に優しい質感だったり、ステッチの使い方がモダンだし、ドアにあるステッチは無駄を排除してシームレスを目指しながらも継ぎ目がある。こういったのがインテリアなんだなと感じられておもしろいですね」と語った。
また、コロナ禍において、リモートワークなど企業によっての働き方改革が進んでいることで、家で仕事をする人が増え、奥行きの浅いデーブルなど家の中で無理なく仕事ができる家具などの要望が増えている。すでに家具デザイナーの中でも「ホームオフィス」をテーマにした家具が増えていると教えてくれた。
佐原氏は今後のクルマのデザインについて、デザインは形だけでなく、形と中身と機能と存在がどういった空気を発するかを求められると考えていて、Honda eも形だけで見るとそれほど珍しい形でもなく、EV、インテリア風の内装など、それらすべてで価値となっていくと述べた。
また、明井氏は充電中の車内での過ごし方のシチュエーションを検討する際、車内で仕事をする場面も出たが、開発している当時は「わざわざ車内で仕事したい?」といった話になったが、今はコロナの影響で車内で仕事をする場面もあり得る。まさに時代が追い付いてきた感じと明かした。
最後に統括の岩城氏は「最初にスケッチを見たとき、今までのクルマの概念から大きく踏み出していて、あまりにもシンプル、あまりにも丸ばっかりで、新しいものを作らなきゃいけないという心の準備はあったものの、受け入れ難かった。また、同様に社内の理解してもらうのも大変だった。他のデザイナーですら「あれ大丈夫なの?」なんて空気もあったのですが、このチームは淡々と仕事をして見事に作りあげてくれた」と開発秘話を明かしてくれた。
また、今後のデザインの方向性として岩城氏は、コンパクトなクルマはHonda eや「FIT」「N-BOX」のように角がなく優しい雰囲気な方向性のまま、ボディサイズの大きなアコードやシビックなどは、ここまで丸くはならないとは思うが、ゴツゴツした感じよりはやはりシームレスな方向に進む流れじゃないかと締めくくった。
なお、本田技研工業本社ビル1階(東京都港区南青山)にあるショールーム「ホンダウエルカムプラザ青山」では11月16日まで、Honda eの“デザイン”にフィーチャーした「Honda e Design Event」展示会が開催されていて、デザインコンセプトである「アフィニティー&モダン」に合わせて川合将人氏がコーディネートした生活空間を堪能できる。機会があれば、ぜひ足を運んでみてほしい。