ニュース
メルセデス・ベンツ、V6+4モーターで1000HP超えのスーパースポーツカー「AMG ONE」 ロードカーにF1テクノロジーを初採用
2022年6月10日 13:00
- 2022年6月1日(現地時間) 発表
F1のハイブリッドドライブ技術をロードカーへ初採用
メルセデス・ベンツは6月1日(現地時間)、パフォーマンス&スポーツカーブランドであるAMGの創立55周年を記念して、2シーターのスーパースポーツカー「AMG ONE」を発表した。
AMG ONEは、F1のハイブリッドドライブ技術を初めてロードカーへ持ち込んだ1台で、イギリスのブリックスワースにあるメルセデスAMGハイパフォーマンスパワートレーンのF1技術者の協力のもと開発。V型6気筒1.6リッター電動ターボエンジンと4つの電気モーターによりシステム最高出力782kW(1063HP)を発生し、最高速は352km/hを誇る。なお、6月23日~26日にグッドウッドで開催される「Festival of Speed」で初走行を予定しているという。
AMG ONEは、F1のハイブリッドドライブ「E PERFORMANCE」だけでなく、モノコックとボディはカーボンファイバー製で、エンジンやトランスミッション、アクティブエアロダイナミクス、プッシュロッドサスペンションに至るまで、多岐にわたってレーシングテクノロジーを採用。リアはエンジンとモーターによるハイブリッド駆動で、フロントはトルクベクタリングを備えたモーター駆動の「AMGパフォーマンス4MATIC+フル可変全輪駆動」となっている。また、純粋なEVのみの走行も可能としている。
ハイブリッドターボエンジン1基と4つの電気モーターを統合
パワートレーンは、ハイブリッドターボエンジン1基と4つの電気モーターを統合。モーターの1つはターボチャージャーに組み込まれ、もう1つはクランクケースに連結して内燃機関に直接設置され、残りの2つのモーターが前輪を駆動させる構造となっている。
電動アシストシングルターボ付きのV型6気筒1.6リッターハイブリッドガソリンエンジンは、現在のF1パワーユニットに技術的に相当するもので、4本のオーバーヘッドカムシャフトをスパーギヤで駆動させつつ、高速回転を実現するために空気圧式バルブスプリングを採用。耐久性を高めるのと市販ガソリンを使用することから、最高回転数はあえてF1のレブリミットより低い11000rpmに設定されている。
ターボチャージャーの取り付け位置を低くするために、排気ガスタービンとコンプレッサータービンを離れた位置に配置しシャフトで連結。このシャフトに約90kWの電気モーターを搭載し、電子制御でターボチャージャーのシャフトを直接駆動させ、コンプレッサーホイールを最大10万回転まで加速させられるという。これはF1ではMGU-H(Motor Generator Unit Heat)と呼ばれる技術で、ドライバーがアクセルやブレーキから足を離しても、常にブースト圧を維持でき、アイドリング回転数(まだ排気の流れが弱い時期)からすぐに、全回転域にわたってレスポンスが大幅に向上し、V型8気筒のNA(自然吸気)エンジンよりも鋭いレスポンスを実現しつつ、低回転域での高トルクも両立できるという。
また、排気ガスの一部を利用して発電機を動かし電気エネルギーを生成して、高電圧リチウムイオン電池に蓄えるか、電動フロントアクスルまたはエンジンの電気モーター(MGU-K = Motor Generator Unit Kinetic)に供給でき、MGU-Kの出力は120kWでエンジンに直接設置され、スパーギヤシステムを介してクランクシャフトに接続されている。さらに、厳しい排ガス規制をクリアするために、燃料の噴射を最適にコントロールしていることに加え、4つの予熱式メタル触媒コンバータ、2つのセラミック触媒コンバータ、2つのガソリン微粒子フィルターを装備して排気ガスを浄化させている。
トランスミッションは、新開発された7速AT(パドルシフト付き)で、軽量化を図るとともに、ボディとの一体化により剛性を高め、スペースをとらない設計としている。シフトロッドと4ディスクカーボンファイバークラッチは油圧制御式で、ギヤ比はシフトアップ後のパワー差を最小限に抑え、エンジンを高回転で維持できるように設計。
革新的なサスペンションを備えた全輪駆動モデル
フロントアクスルに搭載された2つの120kW電気モーターは、それぞれリダクションギヤを介してフロントホイールに接続。また、個別のトルク配分も可能なうえ、制動エネルギーを最適に回収も行ない(日常的な走行条件下では最大80%)、バッテリに蓄積してより長い電気走行距離や駆動性能の向上に利用される。
高速なエネルギー引き出しと高い出力密度が特徴のリチウムイオン蓄電システムもAMGが特別に開発。バッテリセルの配置や冷却方法はF1マシンを模したものだが、純粋なEV走行の航続距離は18.1kmとF1よりも長くなっている。
走行モードは6種類あり、「レースセーフ」モードは、標準的なハイブリッドドライビングモードで、より高い出力が必要な場合のみ内燃エンジンが作動。「レース」モードは、特別な充電ストラテジーを備えたハイブリッド走行モードで、内燃エンジンは連続的に作動し、高電圧バッテリをより多く充電することができるため、常にフル電力を利用することが可能となる。「EV」モードは、すべて電気で走行するモード。「レースプラス」モードは、サーキットのみ使用可能で、アクティブ・エアロダイナミクスの作動、車高はフロントが37mm、リアが30mm下がる。「Strat 2」モードもサーキット走行のみ使用可能で、アクティブ・エアロダイナミクスの作動、さらに硬めのサスペンションチューニング、車高はフロントが37mm、リアが30mm下がる。F1予選と同様に全モーターをフルパワーで駆動。「Individual(インディビジュアル)」モードは、ロードモードにおいて、個人の好みに応じてカスタムできる設定。
革新的なプッシュロッドサスペンションを備えたマルチリンクサスペンションは、車両に対して横向きに装着することでスタビライザーの機能も果たし、非常に急激な方向転換の際にも、確実に車体のロールを防いでくれるという、また、アダプティブ・ダンピングの調整は、走行モードを通じて行なうことができ、C(コンフォート)とS(スポーツ)のサスペンション設定は、EV、レースセーフ、レース、インディビジュアルのドライブプログラムで、S(スポーツ)とS+(スポーツ+)のサスペンション設定は、レースプラスとストラト2のドライブプログラムで利用できる。
専用の鍛造10本スポークホイールは、フロントが19インチ、リアが20インチで、空力性能を高めるカーボンファイバー製のパーシャルカバーを装備。また、9本スポークのマグネシウム鍛造ホイールもオプションで用意されている。タイヤは専用開発のミシュラン「パイロットスポーツカップ 2R M01」で、サイズはフロントが285/35ZR19、リアが335/30ZR20を履く。ブレーキは、フロントに6ピストンキャリパーと398×38mmのベンチレーテッドディスク、リアに4ピストンキャリパーと380×34mmのベンチレーテッドディスクを装備したAMGカーボンファイバーセラミックハイパフォーマンスコンポジットブレーキシステムを採用。F1マシンとは異なりABS(アンチロックブレーキシステム)も標準装備され、ESP(エレクトロニック・スタビリティ・プログラム)も「ON」「SPORT HANDLING MODE」「OFF」の3段階の設定が設けられている。
モータースポーツのトップクラスにインスパイアされたデザイン
カーボンファイバー製ボディのデザインは、モータースポーツのトップクラスにインスパイアされたもので、カーボンファイバー製モノコックをベースにしたミッドエンジンコンセプトは、コクピットはかなり前方に配置され、エンジン&トランスミッションのユニットによって筋肉質なプロポーションを成形している。
フロントビューを特徴づけるのは、車幅いっぱいに広がる大型のフロントバンパーで、台形のセンター部分には大きな白い「AMG」のロゴが配される。また、ボンネットフードのメルセデスのエンブレムは、エアブラシで描かれたもの。
ルーフにはF1マシンに由来するエアインテークが設けられ、ここからエンジンに空気を送り込む。リアには気流の乱れを防ぎ、コーナリングの安定性を向上させる垂直に立つシャークフィンを配置。リアウイングは2ピースの格納式ブレードと調整可能なフラップを一体化している。
エキゾースト・テールパイプのデザインはF1マシンから直接採用されたもので、テールランプには、AMGのブランドロゴのグラフィックデザインと呼応するように、3つのダイヤモンド型照明を採用し、ヘッドランプのデザインとも呼応させたという。
油圧制御によるアクティブ・エアロダイナミクスには「ハイウェイ」「トラック」「レースDRS(ドラッグ・リダクション・システム)」の3モードが用意され、F1のようにボタン1つで作動するサーキット走行用のプログラム「レースDRS」ではリアウイングのフラップが完全に格納し、ルーバーも閉じられることでダウンフォースは約20%減少するが、より速く高速域に到達できるとしている。また、DRSはドライバーがブレーキをかけるか横方向のGの大きさによって自動的に解除されるほか、手動で解除することも可能。
日常での使い勝手や操作性も考慮したインテリア
人間工学に基づいて設計されたインテリアは2人乗りで、専用シートのバックレストは25度と30度の2つのポジションが選べ、ペダルも11段階から調整できるので、最適なドライビングポジションをとることができるという。
インストルメントパネルはスリムな翼型で、2つの高解像度独立型10インチディスプレイを装備。上下がフラットでエアバッグが内蔵されたステアリングは、極限のドライビングシーンでも安全に操作できるよう設計。上部には「シフトランプ」を表示するほか、ドライブプログラム、9段階のAMGトラクションコントロール、DRSの作動、サスペンションの設定などは、ステアリングから手を離すことなくさまざまな機能を作動できる。また、日常での使い勝手や操作性も考慮され、エアコンと電動ウィンドウは標準装備とし、最適な後方視界を確保するためバックモニター用のディスプレイも採用している。
メルセデスAMG社取締役会長のPhilipp Schiemer氏は、「AMG ONEで私たちは限界を超えることができました。現代のF1パワートレーンを公道走行に適合させるという膨大な技術的挑戦は、間違いなく私たちの限界に挑戦することになったのです。開発期間中、多くの人がこのプロジェクトの実現は不可能だと考えたかもしれません。しかし、チームは決してあきらめず、自分たちを信じて取り組んでくれました。私は関係者全員に最大の敬意を表し、このチームの功績を誇りに思います。このようなハイパーカーを車輪の上に乗せることは、確かにユニークなことです。これは、私たちメルセデスAMGが技術的な観点からだけでなく、忠実な顧客との密接な交流という点でも当てはまります。私たちと共に彼らは開発の過程で浮き沈みを経験してきました。彼らは、プロジェクトONEの最初から不可欠な存在であり、次のハードルをクリアしてECE(欧州経済委員会)認証をすべて通過しました。この非常にエクスクルーシブでユニークなAMG ONEを楽しみにしています」と述べている。
また、メルセデスAMG GmbHのテクニカルマネージングディレクターである Jochen Hermann氏は「AMG ONEの性能データは、結局のところ、このクルマに搭載されている技術のほんの一部でしかない。比較的小型で高効率の内燃機関と4つの電気モーターを組み合わせて1063HPを発生するF1パワートレーンを除けば、記念すべき仕事は何よりも排気ガスの後処理です。メルセデスAMGハイパフォーマンスパワートレーンのチームは、ここで本当に素晴らしい仕事をしました。このプロジェクトは、呪いのような部分もありましたが、同時に祝福のようなものでもありました。しかし、私たちは石ころのような道を歩いてきたし、技術者であれば当然、すべての細部に夢中になるものです。使用されている素材、卓越したシャシー部品、空力的な改良に至るまで、複雑さという点では、メルセデスAMG ONEに勝るものはないのです。F1マシンでは、ラップトップを持ったエンジニアのチームがパワートレーンの始動を確認します。私たちのハイパーカーでは、必要なのはボタンを押すだけです。これは、このクルマに注ぎ込まれた膨大なソフトウェアのノウハウを示すものでもあります」と語っている。
テクニカルデータ
ボディサイズ:4756×2010×1261mm(全長×全幅×全高)
ホイールベース:2720mm
車軸幅(フロント/リア):1721/1669mm
車両重量(DIN規格):1695kg
ガソリンタンク容量:55
ボア×ストローク:80.0×53.03mm
排気量:1599cc
システム最高出力:782kW(1063HP)
最高回転数(内燃機関):11000rpm/min
最大出力(内燃機関):422kW(574HP)/9000rpm
比出力(内燃機関)359HP/l
MGU-K(クランクシャフト上の電気モーター)出力:120kW(163HP)
MGU-FL/MGU-FR(フロントアクスル上の電気モーター):2×120kW=240kW(326HP)
MGU-H(電動式排気ガスターボチャージャーの電動機):90kW(122HP)
ターボチャージャー最大ブースト圧:3.5bar
駆動方式:AMGパフォーマンス4MATIC+フル可変全輪駆動(トルクベクタリング付き電気駆動フロントアクスル&ハイブリッド駆動リアアクスル)
トランスミッション:7速オートマチックマニュアル変速機
ホイール:フロント:10J×19、リア:12J×20
タイヤ:フロント:285/35ZR19、リア:335/30ZR20
0-100km/h加速:2.9秒
0-200km/h加速:7.0秒
0-300km/h加速:15.6秒
最高速:352km/h
燃料消費率(重量比):8.7L/100km
CO2排出量:198g/km
電気消費量:32kWh
EV走行航続距離:18.1km