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SIP-adus 第2期自動運転 最終成果発表会でレベル4自動運転の社会実装などを解説する「自動運転シンポジウム」

2023年3月8日 開催

SIP-adusの「自動運転シンポジウム」が3月7日~8日の2日間に開催された。写真はパネルディスカッションに登壇した株式会社ティアフォー CTO 加藤真平氏

 SIP-adusは3月7日~8日の2日間、2014年から日本政府が官民一体の取り組みとして推し進めてきた「SIP(戦略的イノベーション創造プログラム)」において、自動運転領域で9年間にわたり取り組んできた活動を総括する最終成果発表会「SIP自動運転の成果とその先へ!-成果展示会&自動運転シンポジウム-」を開催した。

 日本の産業界に関連する多種多様な分野で科学技術イノベーションに取り組んでいるSIPの自動運転領域では、トヨタ自動車 先進技術開発カンパニー フェロー 葛巻清吾氏がPD(プログラムディレクター)を務め、2019年度~2022年度の5年間を第2期に設定して活動を続けてきた。

 この3月で第2期の期間も終わり、4月から施行される改正道路交通法で自動運転のレベル4に相当する「特定自動運行」の許可制が開始されるなど、SIPが推進してきた自動運転がこれまでの実験フェーズから社会実装に移行することなどを受け、今回の最終成果発表会が行なわれることになった。

「秋葉原UDX」2階フロアで行なわれた「成果展示会」の様子

 会期中には会場となった東京都千代田区の「秋葉原UDX」2階フロアで、この9年間にSIP自動運転で取り組んできた活動内容を8つのゾーンに分けて展示する「成果展示会」が行なわれ、自動運転について専門家と対話できるカフェスペース「SIP cafe」なども用意されたほか、同5階「UDXシアター」では活動してきた各領域の担当者などが講演する「自動運転シンポジウム」が実施された。

 シンポジウムは「SIP自動運転」「RoAD to the L4」の2種類に分けて行なわれ、本稿では3月8日に開催されたSIP自動運転の第3部とRoAD to the L4について紹介していく。

SIP自動運転シンポジウム 第3部「Society5.0の実現への道のりや、知能化するクルマの“脳”など、これからのモビリティを展望する」

株式会社ティアフォー CTO 加藤真平氏

「Society5.0の実現への道のりや、知能化するクルマの“脳”など、これからのモビリティを展望する」というテーマで進められた第3部では、講演者としてティアフォー CTO 加藤真平氏、ソニー・ホンダモビリティ 代表取締役 兼 COO 川西泉氏が登壇。さらにモデレーターとしてフリーランスコミュニケーションディレクター 土肥亜都子氏も参加している。

「Microautonomy-集合的にスケーラブルな自動運転システムの創出」と題して講演した加藤氏は、まず表題にもあるマイクロオートノミーという言葉が、自動運転の技術で今後の10年に目指す方向性で「いろいろな技術を集め、いかにして物を作れるか」ということを自動運転の世界でも起こしていくためのコンセプトだと説明。

 SIPの活動が始まってからの9年が経過し、自身が創業したティアフォーでも8年に渡って取り組みを続けてきたことで、運転席に人を座らせずに自動運転の車両が公道を走ることができるまでに進化してこられたのはひとえにSIPが実現してきた成果の形だと評価。商用車のジャンルで日本国内で一番進めたいのは大小さまざまなバスだが、いずれにせよ最も大切なのは「ソフトウェアに限らず、ハードウェアまで含めて共通のプラットフォームで行なうこと」だと解説した

公道で運転席に人を座らせずに自動運転車が走行できるようになったことがSIPの大きな成果だと加藤氏
商用車で一番進めたいのは大小さまざまなバスとのこと

 今後の社会実装では、これまでほかの産業で行なわれてきたことと同様に「どうしたらユーザーに受け入れてもらえるか」という要件定義、「どのように開発してテストなどを行なうのか」という開発・検証、「どれぐらいのコストが必要で、誰が細かなチューニングなどを行なうのか」という導入、「実装後に保険なども含めた保守やメンテナンスを誰がするのか」という運用といった要素をしっかりと定めていくことが社会実装と同義だとした。

 これまでは制度のレギュレーションやコンセプトなどを固める段階だったが、これからの5年~10年ではビジネスモデルとしての採算性まで含めて政府が主導していくことで自動運転の社会実装が進んでいくとの考えを示し、新たな活動として立ち上げられたRoAD to the L4ではビジネスを成立させる「プレイヤーの棲み分け」も活動視野に入れており、これは事業者としてとてもありがたいと述べた。

新技術を社会実装してく開発プロセス
事業化についても政府が主導してほしいと加藤氏は語り、RoAD to the L4でも取り組むことは事業者としてとてもありがたいとした

 また、ティアフォーで開発を進めている自動運転システムの解説も行ない、自動運転は極めて複雑にシステムを制御しているため、走行中には大小さまざまな問題が発生する。本当に回避すべきクリティカルなトラブルが発生したときは車両を停止させる設計になっているが、そこまで至らない場合には記録を残しつつ走行を続け、課題のログをすべて残しておいて、あとから確認しているという。

 今後については「グリーン化」が大きな課題になり、産業全体がオープン化されて「誰が何をしているのか」が分かるようになっていくと、新しいプレイヤーが参加できるようになって、もっとよい産業になっていくとした。さらに、現在はソフトウェアによって自動運転の制御を行なっているが、5年後にはすべてがワンチップ化されると予測し、ティアフォーでは半導体チップの生産を目指していると述べ、ソフトウェア開発ではなくそのような半導体チップを量産できるようになるかどうかが国として非常に重要になると指摘した。

ティアフォーで開発している自動運転システムについても解説。走行中には大小さまざまな課題が発生し、すべてのログをあとで確認できるようにしている
ティアフォーでは半導体チップの量産に取り組んでいる
今後は「グリーン化」が大きな課題になる
BEVに限らず電動化された自動運転車を量産できるかどうかも日本の産業界の課題

「AI倫理の考えについてユーザーが理解し、体験することも重要」と川西氏

ソニー・ホンダモビリティ 代表取締役 兼 COO 川西泉氏

「モビリティにおける新たな価値基準の創出」と題して講演した川西氏は、2022年9月に設立された新会社であるソニー・ホンダモビリティについて解説。2018年からソニーでもBEV(バッテリ電気自動車)開発に着手し、軸足の異なる自動車業界の本田技研工業と技術を持ち寄ることで新たなモビリティを造っていけるのではないかとの考えから合弁会社設立が検討されることになったという。

 業界が異なり企業カルチャーにも隔たりがある2社だったが、クルマである以上は「安心・安全」が最も大切で、そこに「感動体験」を生んでいくことの2点を共通のコンセンサスとして設定。そのほかにも社内用語などの違いが数多く存在したが、一方で「新しいものを造りたい」「未知のところにチャレンジしたい」といった気持ちについてはシンパシーを感じ、深く詮索しなくても通じ合えるところがあって上手く進めていけている部分が2社にはあると語った。

「安心・安全」「感動体験」の2つを重視して取り組んでいる

 車両開発については、これまでの延長線上にあるようなクルマ造りではホンダ1社でやってきたことと変わらなくなってしまうので、基本的なアプローチ部分を「車両開発のスタイルをITの見地で変えて造ったらどのようになるのか」と変えるよう意識して取り組んでいると紹介。さらに、自分たちの企業パーパスを「多様な知で革新を追求し、人を動かす」と定義して迷ったときに立ち返るポイントにしたほか、「多様な知」という言葉に、ソニーとホンダの2社だけではなく、オープンな取り組みとしてさまざまな技術やサービスを持つ会社と連携して技術革新を目指していくと述べた。

企業パーパスとして「多様な知で革新を追求し、人を動かす」という言葉を作った

 もともと川西氏はソニーでAIを使ったロボティクス開発に取り組んでおり、ロボットは周囲をセンシングする「認識」、得られた情報を使ってどのように動くかを計画する「思考」、計画に基づいて実際に動く「行動」の3点をサイクルとして活動しているが、自動運転はこれとまったく同じことをしていると説明。ソフトウェアの力を使ってどのように構築していくのかが大切になるとした。

 また、新たな概念として登場している「ソフトウェア ディファインド ビークル」については「移動とは人の体験である」「クルマを売って終わりではなく、車両購入してからが顧客体験のスタート」「サービスはソフトウェアによって進化を継続する」という3つのテーマから成り立っており、これがソフトウェアでモビリティで造っていくことの最大の価値になると解説した。

ロボットのプロセスサイクルは自動運転はまったく同じだと川西氏
「ソフトウェア ディファインド ビークル」の概念を構築する3つのテーマ

 具体的な例として、1月に米国で開催された「CES2023」で世界初公開したBEVプロトタイプカー「AFEELA」(アフィーラ)を挙げ、この車両では自動運転にもつながっていく自律性の進化を視野に入れた「オートノミー」、車内エンターテインメントも含めて楽しさを実現していく「オーグメンテーション」、人との協調や社会との共生を目指す「アフィニティ」という3つのAをコンセプトを掲げているという。

 自動運転に関連するオートノミーの分野では、アフィーラは車体の各所に計45個のセンサーを搭載。将来的な拡張性を担保するため、クアルコム製のECUには計800TOPSのスペックを持つSoC(System on Chip)も採用し、これからの技術発展を目指してソフトウェアの進化で高めていきたいと意気込みを語った。

BEVプロトタイプカーの「AFEELA」(アフィーラ)では「オートノミー」「オーグメンテーション」「アフィニティ」という3つのAをコンセプトに設定
将来的に自動運転を実現するため、アフィーラでは車体に計45個のセンサーを搭載し、計800TOPSのスペックを持つSoCも採用

 このほか川西氏は、自動運転の開発にあたっては、まだ社会的に「AI倫理」が醸成されておらず、人々がAIや自動運転を信頼していないことが課題になるとの認識を示した。今後はAI倫理の考えについてユーザーが理解し、体験することも重要になり、なんらかの形でこの問題にも寄与できないか考えていると述べている。

「AI倫理」の考えをユーザーが理解し、体験することも自動運転の実現で重要になる

「人間が目と耳で動くなら、それと同じようなことを実現したい」と川西氏

講演を行なった加藤氏と川西氏、モデレーターの土肥氏によるパネルディスカッション

 両氏による講演に続き、モデレーターの土肥氏を交えた3人でのパネルディスカッションも行なわれた。

 このなかで、インフラと自動運転の関係について問われた加藤氏は「『グリーンフィールド』と『ブラウンフィールド』という言葉があって、グリーンフィールドというのは目的に合わせて1から作り上げたエリアのことですが、自動運転はグリーンフィールドの方が絶対にやりやすいですね。自動運転ありきで車線や交差点が作られている方が問題が簡単になるからです。しかし、現実的に考えるとすべての地域で都市開発はできないので、今ある都市にいかにして技術を入れていくかというのがブラウンフィールドという考え方で、今の取り組みとしては今ある都市のインフラにいかに自動運転を導入するかが『運行設計領域』という、ODDとも呼ぶのですが、『雨ならやらない』『難しい交差点があるところではやらない』といった条件を制約して導入していく流れになっています。これがインフラが整っていれば、雨の日でも走れるようになって、難しい交差点でも自動運転できるようにODDを広げていけます。なので、インフラがしっかりしていればユーザーの(自動運転の)体験は上がっていくと思います」と回答。

加藤氏

 同じ質問に対して川西氏は「自動運転の発展は自動車メーカーがどんどん造っていくということだけじゃなく、社会インフラの中にどれだけ融合していくかということだと思います。ただ、バランスという面もあって、国やメーカーの違いによってアプローチの違いも感じるんですよね。日本の場合は比較的安全が一番なんです。もちろん安全は大事です、これは絶対の大前提で大事なんですが、違う言い方をすると、人間の場合は地図がなくても歩いていけますよね。目と耳を使って、つまりセンシングだけで動いているんです。なので、地図がないと動けないというのは実はおかしいんです。それをやっているのがテスラだと思うんです。あまりテスラについてコメントできないですが、ともかく、自分がどの方向にどう進むか、どんな形で進むのかの決め方が各社で違うのかなと思います。自分たちでは一般の人が利便性を感じるためにどうしたらいいのかを追求したいので、ある一定の条件下でしか体験できないというより、より多くの人が体験できるような世界を実現していきたいと思っています。人間が目と耳で動くなら、それと同じようなことを実現したいと、漠然とした言い方ですが、そういった方向感を持っています」と答えた。

川西氏

 人間の目の話に関連して、ソニーではイメージセンサーの技術も持っているところについて質問され、川西氏は「一番ポイントになるのは周囲の認識で、どこに進んだらよいのかを判断する大前提として、まず前方に障害物がないということです。それを見極める力がセンシングになります。ソニーではそこの半導体を持っていてビジネスも行なっていますが、その部分の性能差が将来を非常に大きく左右するのかなと思っています」。

「また目の話をすると、生物の進化を考えて『目が付いたこと』というのはすごく大きな進化の源泉になっていると思うんです。太古のカンブリア大爆発の前はそんなものはない微生物だったところが、目という特別な進化を行なったことで周りを識別できる力がついたので、そこを研ぎ澄ませることが非常に重要。そのあたりは根源的なところでクルマの要素に近い部分なのかなと常々考えています」と語っている。

フリーランスコミュニケーションディレクター 土肥亜都子氏
SIP自動運転シンポジウム 第3部「クルマの“脳”は誰が作る~自動運転を支える半導体からOS、アプリまで」(1時間47分50秒)

RoAD to the L4シンポジウム 第1部「自動運転レベル4等先進モビリティサービス研究開発・社会実装プロジェクト(RoAD to the L4)」

経済産業省 製造産業局自動車課 ITS・自動走行推進室長 福永茂和氏

「自動運転レベル4等先進モビリティサービス研究開発・社会実装プロジェクト(RoAD to the L4)」というテーマで進められた第1部では、まず、経済産業省 製造産業局自動車課 ITS・自動走行推進室長 福永茂和氏のあいさつで、SIPのこれまでの活動と今後に向けた展開について語られたあと、講演者として産業技術総合研究所 RoAD to the L4プロジェクト プロジェクトコーディネータ 横山利夫氏が登壇した。

産業技術総合研究所 RoAD to the L4プロジェクト プロジェクトコーディネータ 横山利夫氏

 横山氏は自動運転の社会実装について、交通事故の削減や高齢者などの移動手段確保、ドライバー不足の解消などで社会的な意義が大きいと位置付け、一方で技術的な難易度も高く、実現するためには各種制度やインフラ整備なども必要になると説明。社会実装に向けたアプローチとしては、個人所有の自家用車ではさまざまな条件下で最大限に利用してもらうという観点から「可能な限りの自動運転のレベル向上」を図っていき、商用車ではMaaS(Mobility as a Service)領域で走行距離を5~10kmと制限しつつ、高度な自動運転技術を搭載して社会実装を目指すとした。

 RoAD to the L4プロジェクトでは「無人自動運転サービスの実現及び普及」について具体的なKPI(重要業績評価指標)を定めて取り組み、これに合わせてIoTやAIを活用した新しいモビリティサービスの普及、必要となる人材の確保や育成、社会受容性の醸成などを図っていく。このためには技術開発、環境整備、社会受容性の向上といった総合的な取り組みが求められ、3要素を並行して進めつつビジネスモデルを構築して事業化を加速させていき、2025年度には自動運転移動サービスを50か所程度で実現。2027年度には自動運転移動サービスの本格的な普及を目指していくというロードマップを示した。

自動運転の社会実装は交通事故の削減や高齢者などの移動手段確保、ドライバー不足の解消などで社会的な意義が大きい
商用車で先行実装を進め、自家用車での量産開発につなげていく
RoAD to the L4プロジェクトの概要など
2025年度に自動運転移動サービスを50か所程度で実現し、2027年度には自動運転移動サービスの本格的な普及を目指す

 MaaSによる自動運転の社会実装にあたって、同プロジェクトではさまざまな対象となる事業者に向けた実装の手引きの作成を進めており、例として車両やシステムの安全性に関する内容の事例について解説。この分野では「安全戦略ワーキンググループ」という枠組みで検討を行なっており、レベル4自動運転移動サービスを社会実装するための安全性審査を効率化させるため、これまでに4回の開催してきた会合では、「歩行者の脇を自動運転車両が通過する場合にどのような振る舞いが必要になるか」「交差点通過時に、交差点の通過先の状況、交差する車両の位置や速度をどのように想定すべきか」などについて検討してきていると語り、CGによる想定シーンの動画を交えて解説を行なった。

 今後の推進計画としては、すでに紹介した2025年度に自動運転移動サービスを50か所程度で実現するという目標達成に向け、モデル地域での実証実験、事業モデルの構築、社会受容性の向上などに向けた取り組みを進めながら、検討を進めている自動運転移動サービスの事業者に対して実装を加速させるための支援を行なっていくという。

 また、関連するプロジェクトとの連携も非常に重要であるとの考えを示し、「自動運転による地域公共交通実証事業」「スマートモビリティチャレンジ」をはじめとする国や地方自治体、事業者などが主体となるさまざまな自動運転の実証実験が存在しているため、それらと連携して自動運転の社会実装進めていきたいと締めくくった。

国内で行なわれる実証実験や自動運転移動サービスなどの情報を集約して類型化を行なうほか、問題点を洗い出して支援を行なっていく
「安全戦略のワーキンググループ」の概要と具体的な活動例
目標別の取り組み内容を示すロードマップ
関連プロジェクトとも連携して自動運転の社会実装進めていく
RoAD to the L4シンポジウム 第1部「自動運転の社会実装に向けた“いま”と“これから”」(1時間41分20秒)

RoAD to the L4シンポジウム 第2部「各地の自動運転移動サービスの取組紹介」

RoAD to the L4シンポジウム 第2部の登壇者

「各地の自動運転移動サービスの取組紹介」というテーマで進められた第2部では、自動運転に取り組む地方自治体の関係者5人が講演者として参加。自治体ごとに取り組んでいるサービスについて紹介したあと、パネルディスカッションが行なわれた。

茨城県境町の取り組み

茨城県境町 企画部 地方創生課 課長 川上透氏

 最初に講演した茨城県境町 企画部 地方創生課 課長 川上透氏は、フランス製の自動運転バス「ナビヤ アルマ」を活用した町作りについて説明。鉄道が走っておらず、バスの運行本数も少ない境町では、高齢な住人が生活するためいつまでも自分でクルマを運転する必要があることが課題になっていた。しかし、2019年にインターネット記事で他地域で自動運転バスが運行していることを知った町長がSBドライブ(現BOLDLY)の佐治社長と面会し、その場で同社の自動運転バスを境町にも導入することを決断した。

 すぐに町議会でも導入が議決されたが、ちょうどコロナ禍に入るタイミングだったことから実際の導入は半年以上経過した2020年11月に1路線で運行をスタート。当初は始発と終点の2か所に停車するのみだったが、4か月後には病院や銀行前など6か所に、住民から土地の提供を受けてバス停を追加。さらに小学生が通学で利用する実証実験も行なわれた。

公共交通の脆弱さを自動運転バスの導入で解決
町長の決断を受け、臨時議会を開いて自動運転バスの導入が議決された
町内中心部で2020年11月に運行開始

 その後も定常運行の実績が認められ、それまで車内に常駐する必要があった保安要員を撤廃できる規制緩和の適用、8か所のバス停を設定する第2ルートの新設などが行なわれ、2022年2月には地域一体の活動が評価されて「第1回クルマ・社会・パートナーシップ大賞」が授与されているという。地域の利用者からも「買い物に行けるようになった」「塾の送り迎えがいらなくなった」「免許を返納しても生活できる見通しがついた」などの反響が寄せられ、境町における経済効果をBOLDLYは約7億円と試算しているという。

 今後は住民アンケートなどの結果を受け、公共交通の空白地帯への路線延伸、ダイヤ改正などを行なって“誰もが生活の足に困らない町”の実現に向けて努力を続けたいと締めくくった。

小学生が通学で利用する実証実験も行なわれ、2021年8月には第2ルートもスタートするなど活動が広がっていく
活動が評価されて「第1回クルマ・社会・パートナーシップ大賞」を受賞

長野県塩尻市の取り組み

長野県塩尻市 先端産業振興室 室長 太田幸一氏

 長野県塩尻市 先端産業振興室 室長 太田幸一氏は、塩尻市で展開しているMaaSとDX(デジタルトランスフォーメーション)の取り組みについて説明。

 塩尻市では地方創生プロジェクトとして自動運転のAIオンデマンドバス、「KADO」と呼んでいる公設のクラウドソーシングなどを実施。塩尻市でも民間会社が運営していたバス路線が撤廃され、それ以降は20年以上に渡って市営のコミュニティバスを運行しているが、年間予算が1億円ほどかかっているおり、交通DXに取り組むことになった。

塩尻市ではMaaSとDX(デジタルトランスフォーメーション)などに取り組んでいる
市街地ゾーンと田園ゾーンを両立する田園都市構想を目指しているが、地域交通に課題を抱えている
MaaSを地域DXの中核プロジェクトに位置付けて取り組みをスタート

 塩尻市では民間企業と共通目標を定めたアライアンスの締結で進めている点が特徴になると太田氏は語り、2025年度をターゲットとして集中的に取り組みを実施。予算規模の大きい活動になるため、交通政策に産業、雇用、教育といったほかの事業も取り込んで地域インパクトを出しているとした。

 具体的には自動運転バスを運行するため多数の民間企業と連携し、同時に自動運転で必要となる3次元地図の制作などをKADOの取り組みで受注。地域住民の需要を創出し、住民の参加意識を高めている。さらに自動運転バスのオペレーションでも地域住民に参加してもらい、現地人材による運行を行なってコスト削減を進めていることも特徴としている。

民間企業との共通目標を定めたアライアンス締結で交通DXに集中投資
国からの各種支援を受け、民間企業との連携を実現。交通DXにKADOの取り組みによるクラウドソーシングでる3次元地図の制作も受注している
小学校の校庭で自動運転バスを走らせ、子供たちに試乗してもらう「自動運転講座」も実施

新潟県佐渡市の取り組み

新潟県佐渡市 観光振興部 交通政策課 課長補佐 計良好昭氏

 新潟県佐渡市 観光振興部 交通政策課 課長補佐 計良好昭氏は、今年度からスタートした自動運転導入に向けて始まった取り組みについて紹介。

 離島の佐渡島にある佐渡市は東京23区の1.4倍ほどの面積を持つが電車は走っておらず、地域交通の中心は路線バスとなり、マイカーやタクシーが面で補完するようなスタイルになっているが、バス会社でも運転手不足から減便せざるを得ない状況となっており、今後に向けて自動運転バスの導入が検討されることになった。

 導入にあたっては地域での受容性を重要なポイントに位置付け、「座談会」「ワークショップ」「試乗会」「映像配信」などを実施。全体ニーズを把握しつつ、住民目線、観光客目線でどのような交通課題があるかを探り、合わせて自動運転がどのようなものか理解を深めてもらっているという。

佐渡市は東京23区の1.4倍ほどの面積を持つが、地域交通の中心は路線バス。しかし、バス会社でも運転手不足などの問題から減便になる状況となっている
自動運転バスの導入に当たり「座談会」「ワークショップ」「試乗会」「映像配信」などを実施
住民の生活改善に加え、観光客の増加にも対応する必要がある

 この活動によって得られた移動ニーズを分析したことで、既存の交通環境の改善ではなく、交通全体の設計を見直す必要が出てきていることも明らかになったため、「生活や観光の足となる近距離移動のエリア内オンデマンド交通」「市街地と居住地域を結ぶエリア内シャトル」「市街地同士を結ぶ閑散エリア間シャトル」などの用意を理想的な交通として、佐渡市の交通マスタープランに加えて検討していくと語った。

愛知県の取り組み

愛知県 経済産業局 産業部 産業振興課 次世代産業室 室長補佐 中野秀紀氏

 愛知県 経済産業局 産業部 産業振興課 次世代産業室 室長補佐 中野秀紀氏は、産業振興と地域課題の解決の両面から見た自動運転に対する取り組みについて説明。

 愛知県内では「常滑市」「長久手市」「名古屋市」の3か所で自動運転の実証実験を行なっているが、これはさまざまな地域で活動する交通事業者などに参考にしてもらうためのビジネスモデル構築を狙って行なっているという。

 常滑市での実証実験は、中部国際空港と周辺地域を含めた広いエリアで、人工島にある空港と対岸を結び、洋上の橋で横風に負けない安定した自動運転が求められる「パークアンドライドルート」、対岸一帯にある駅やショッピングモールなどを周遊する「市街地ルート」の2種類を運行。パークアンドライドルートでは高速道路がルートに含まれ、自動運転に磁気マーカーも活用していることが特徴になっているという。

 長久手市での実証実験は、園内に「ジブリパーク」もオープンして話題を呼んでいる「愛・地球博記念公園」の閉鎖空間で実施。園内の道路は歩車分離がそれほどしっかりしていない状況だが、大型バスによる自動運転を安全に運用できているとアピール。AIによる画像解析で歩行者を検出し、車両が通過するときには道路側に設置されたスピーカーからメッセージ音声を流して注意喚起。さらに5G通信による映像を使った遠隔監視で高い自動運転率を実現している。

愛知県内では「常滑市」「長久手市」「名古屋市」の3か所で自動運転について実証実験
中部国際空港周辺での実施事例
愛・地球博記念公園での実施事例
名古屋市 名駅南~栄南地区での実施事例

 名古屋市での実証実験は、知事からのオーダーによって名古屋市中心部での自動運転を実現するためにスタートした取り組みで、現在は名古屋市の名駅南~栄南地区の約3.6kmの区間で運行。持続的な運行に向けて付加価値を持たせるため、車両のウィンドウに特殊フィルムを貼って画像投影を可能にし、移動中にWeb会議に参加したりプレゼンテーションなどを行なえる「動く会議室」として活用できるようにしていることも特徴になっている。

 今後はより安心・安全で付加価値の高いモビリティサービスの実現を目指していき、中部国際空港周辺で一般客を乗せた定常運転に近づけ、2024年度には名古屋駅~鶴舞間の都市部における自動運転の実現にチャレンジしていきたいとコメントした。

栃木県の取り組み

栃木県 県土整備部 交通政策課 課長 髙山誠氏

 栃木県 県土整備部 交通政策課 課長 髙山誠氏は、「栃木県ABCプロジェクト」と名付けて行なっている自動運転の導入検証事業について説明。

 2025年度に栃木県内のバス路線の一部で自動運転バスを本格導入することを目指して開始された同プロジェクトでは、事前に県民を対象として行なったアンケートで自動運転に対する不安の声が多く寄せられたことを受け、実証実験を行なうことで自動運転の安全性を体感してもらうため、実際に体験してもらうため実証実験で県民の試乗機会を多数用意しているという。

2025年度からの自動運転バス本格導入を目標とした「栃木県ABCプロジェクト」
地域交通における公費負担の増大、運転手不足などの課題を自動運転バスの導入で解消していく
県民に自動運転を体感してもらうことも実証実験の大きな目的

 実装実験は県内を地域特性別に「中山間地域」「観光地」「市街地」に分け、10か所での実施を計画してこれまでに6か所が終了している。2021年6月に行なった茂木町での実証実験では自動運転のレベル2からスタートし、伴走車や交通誘導員などの配置を行なって安全を確保。公園内で行なった壬生町での実証実験ではレベル3の自動運転も行ない、このほかにも期間中には交差点での路車協調支援、観光客が車外の風景と合わせて楽しめるデジタルサイネージの活用、地元で実施されている夏祭りと連動した子供たちの乗車体験、ラウンドアバウトの通過など、多彩なシチュエーションで自動運転について検証を行なってきた。

 こうした活動により、実際に自動運転バスに乗車した人のアンケートでは体験前に42%だった不安の声が12%まで低下している。今後は交通事業者との協力によって運行路線を使った実証実験に着手し、多くの人に体験してもらって自動運転の周知を広げていきたいと意気込みを語っている。

茂木町で行なわれた実証実験の概要
小山市で行なわれた実証実験の概要
壬生町で行なわれた実証実験の概要
那須塩原市で行なわれた実証実験の概要
那須町で行なわれた実証実験の概要
宇都宮市で行なわれた実証実験の概要
RoAD to the L4シンポジウム 第1部「自分のまちで自動運転車を走らせる」(1時間32分55秒)