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北海道苫小牧市に自動運転バス 「苫小牧駅前」〜「海の駅ぷらっとみなと市場」で実証運行スタート

2023年9月19日 発表

苫小牧市の実証実験に使用される自動運転バス

 北海道苫小牧市で、自動運転バスの実証運行がスタートした。9月20日~10月15日の期間、市街地エリアの「苫小牧駅前」からウォーターフロントエリアである「海の駅ぷらっとみなと市場」までの片道約2.5kmの区間を、1日5便運行。11か所の停留所を結んで、速度約20km/hで自動走行する。乗車は無料。

 実証実験は、苫小牧市と、全国各地で自動運転バスを活用した移動サービスの実現に取り組むソフトバンクグループのBOLDLY、地方自治体の地方創生プランの策定支援などで実績を持つ山下PMCの3者によって行なわれ、地区内回遊交通の起点となる駅前の活性化や、MaaS事業促進に向けた検証を実施。スマートシティ実現への道筋を描くことになるという。また、市民に未来のモビリティ体験を提供すると同時に、観光拠点でもある海の駅ぷらっとみなと市場への集客や魅力の発信にもつなげる考えだ。

苫小牧市役所で行なわれた出発式でのテープカット

 9月19日9時30分から苫小牧市役所で行なわれた出発式では、苫小牧市の岩倉博文市長があいさつ。「苫小牧市は、1973年に人間環境都市を打ち出してきた経緯がある。そして、現在は新たな技術を採用し、市民の課題に寄り添いながら、苫小牧市スマートシティの構築に取り組んでいる。今回の自動運転バスの取り組みはその一環となる。公共交通の維持、存続に向けては、運転手不足の課題や、2024年問題などの壁がある。自動運転バスへのチャレンジが、これらの課題解決の一助になることを期待している。東胆振1市4町による定住自立圏構想では、さまざまな課題解決に挑戦しており、経営の効率化に向けてスクラムを組んでいく。その点で、今回の自動運転バスには、各町長も関心を寄せている。期間中に大勢の市民に試乗してもらいたい」と述べた。

中央があいさつする苫小牧市の岩倉博文市長

 出発式には、東胆振地域の白老町の大塩英男町長、安平町の及川秀一郎町長、厚真町の宮坂尚市朗町長、むかわ町の竹中喜之町長も参加し、テープカットを行なった。また、地元のゆるキャラであるとまチョップも参加した。

出発式に参加したとまチョップ。得意のファイトポーズを取った
とまチョップが乗車してみるが頭が引っ掛かって乗れないというひと幕も
東胆振の5首長が試乗を行なった

 今回の自動運転バス実証事業は、苫小牧市における「苫小牧駅周辺ビジョン」のスマートシティ推進と、「とまこまい版MaaS構想」策定に向けた取り組みのひとつと位置づけている。また、「苫小牧市地域公共交通計画」に盛り込まれた「新たなモビリティサービスの導入に関する調査研究」の一環として実施する。さらに、国土交通省の「地域公共交通確保維持改善事業費補助金(自動運転実証調査事業)」の対象事業に選ばれている。

 2023年9月2日~3日に開催した「TOMAKOMAI MIRAI FEST 2023」でも、イベント会場と周辺駐車場の間で自動運転バスの実証運行を行なった経緯がある。

 自動運転バスには、フランス製の「ARMA」を使用し、11人の乗車が可能。事前に設定したルートを自動で走行する。車内にはオペレーターを配置するとともに、遠隔監視も行なうことで、走行中の安全管理を行なうという。また、車内は乗客が向かい合い、ロの字に座れるようにしているという。運行時間は、初日となる9月20日は14時~16時、9月21日~10月15日が、10時~16時となっている。

「108 ART PROJECT」の企画によるラッピングを施した自動運転バス

苫小牧市役所を出発する自動運転バス

 自動運転バスの車体には、「108 ART PROJECT」の企画によるラッピングが施されている。苫小牧市が目指している「ウォーカブルなまちづくり」をコンセプトに、アーティストの原游氏がデザイン。内装デザインには苫小牧東中学校美術部の生徒も参加した。

内装デザインを考える苫小牧東中学校美術部の生徒たち
中学生がデザインした車内の様子
車内もかわいいデザインが施されている
バスの中には生き物がいるという設定

 108 ART PROJECTは、山下PMCが事務局となり、2021年に発足。ビル建設地の仮囲いなどにアートを施し、まちの景観を豊かにし、にぎわいのあるまちづくりに貢献することを目指している。今回のラッピングは、このノウハウを生かしたもので、市民が親しみやすい車体を完成させた。

デザインのタイトルは「スタスタ トコトコ 苫小牧」

 作品タイトルは、「スタスタ トコトコ 苫小牧」で、原氏は「不思議な生き物が人を乗せて市内を行き交うというイメージでデザインした。バスのフロントは手で顔を隠していて、サイドは足、バックは尻尾。恥ずかしがり屋で、まだ生まれたばかりの生き物。自動運転バスも生まれたばかりのテクノロジーであり、そこを重ねた。また、バスの中には中学生が考えた生き物がいる。生き物の中に住んでいる生き物である」とコメントしている。

 実証運行に参加しているBOLDLYは、SBドライブとして2016年に設立。2020年に社名を変更した。これまでに全国各地で約130回にわたって自動運転の実証実験を行なった実績を持つほか、自治体や企業に対する自動運転車両の導入支援やコンサルティングを行ない、国内4か所で自動運転バスの社会実装を実現している。また、30種類のモビリティと接続可能な自動運転車両運行管理プラットフォーム「Dispatcher(ディスパッチャー)」を開発。複数台の車両を1人で管理できるよう設計しており、コストメリットの創出や人手不足解消が可能になり、自動運転サービスの安全安心な運行に貢献できるという。

BOLDLY 市場創生部パートナーリレーション課の丹野敬大氏

 BOLDLY 市場創生部パートナーリレーション課の丹野敬大氏は、「苫小牧市での実証運行は、市街地でありながらも障害が少ない点が、これまでの実証運行との大きな違いとなっている。また、近隣店舗などの協力を得て、ほとんどのバス停を敷地内に置いているのも特徴である。レベル4の運行に向けては、道路の走行難易度が低く、路上駐車路駐も少ないため、他地域の実証と比較して手動介入が少なく、レベル4を実現できる可能性が高いと予想している。また、テスト走行中から市民の注目度が高く、多くの方に自動運転バスを体験して、知っていただくよい機会になると感じている。今後の社会実装に向けた土台づくりができると期待している」と述べた。

 BOLDLYの事業は、自動走行を行なうことを目的とせずに、自動運転車両の社会実装を目的にしている点が特徴だという。「単に自動走行のセットアップをして終わりではなく、地域の自治体、企業、住民と密に連携し、実装効果を向上させていくことを心掛けている」と語った。

 一方、山下PMCは、施設建築のPM(プロジェクトマネジメント)やCM(コンストラクションマネジメント)の専業会社であり、施設建築によるハードウェアによる事業展開だけでなく、ソフト面でもハードウェア官民連携事業による地方創生の取り組みを支援している。2022年度には、苫小牧市から「苫小牧駅周辺ビジョン策定業務」を受託しており、このなかで、苫小牧市に対してMaaSの導入を提案。今回の実証スキームの構築をはじめ、実証運行における周回ルートや事業者候補の検討などを支援した。

山下PMC 事業創造推進本部第6部都市創造部門クリエイティブプロデューサー兼プロジェクトマネージャーの山﨑智志氏

 山下PMC 事業創造推進本部第6部都市創造部門クリエイティブプロデューサー兼プロジェクトマネージャーの山﨑智志氏は、「自動運転は、街のインフラを刷新し、駅前など街の風景を変える可能性を秘めている。自動運転を単なる新しいテクノロジーと捉えるのではなく、街を鮮やかにしてくれる触媒と捉えており、街づくりというオセロの盤面が、いっぺんにひっくり返るような変化になる。ここに、都市開発や街づくりを生業としている山下PMCが関わることは必然であり、大きな意義がある」とコメント。「今後は、自動運転バス実証事業の成果と課題を分析して、MaaSの具体的な構想やさらなる実証事業の展開を進めていく。具体的には、医療MaaSの実現、ドローンによる空のモビリティ活用などを企画、実装していきたい。また、グリーンエネルギーの活用など、GX推進における実証事業も検討している。スマートシティの顔となるような苫小牧駅前整備や、ウォーカブルでにぎわいのある中心市街地の発展、ウォーターフロントエリアの街づくりを支援していく」と述べた。

 また、自動運転バスのラッピングについては、「交通課題の解決だけでなく、自動運転バスという新しいモビリティ体験がきっかけとなり、住人同士の新しいコミュニケーションが生まれ、街ににぎわいが生み出されることを期待している。108 ART PROJECTは、そのためのきっかけであり、苫小牧らしいラッピングによって、市民が自分ごと化するためのコンテンツとも位置づけている」と語った。

公道を自動走行している様子
自動運転バスのために設置されたバス停
自動運転バスの走行ルート