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JVCケンウッドの新たな開発拠点「バリュー・クリエーション・スクエア」内の「ハイブリッドセンター」を見学してきた

JVCケンウッドの価値創造の新たな拠点が「Value Creation Square」。その中にある開発拠点の「Hybrid Center」を見学できる機会を得た

 JVCケンウッドは横浜本社地区を価値創造の拠点「Value Creation Square(バリュー・クリエーション・スクエア)」(略称VCS)として新たに創設し、2024年11月より本格的に稼働を開始した。

 VCSは従来の本社ビルである「The Central(ザ・セントラル)」と「Testing Lab(テスティング・ラボ)」に加え、新ビルである「Hybrid Center(ハイブリッド・センター)」による3つのビルで構成。ハイブリッドセンターは2023年6月から建設を進めて、2024年10月に完成している。

 JVCケンウッドではこれまで事業や分野によって各事業所を分散させていたが、VCSの稼働により技術、研究開発、営業、商品企画、コーポレート部門の各部門が集結。これにより社内での連携がよりとりやすくなり、さらに従業員同士の交流機会も増え、その流れから新事業の創出を含めたこれまでにない発展が期待されている。このことからJVCケンウッドでは、VCSを未来を先取りする発想を生み出す共創の場であり、持続的なイノベーションの創出を実現する”価値創造の拠点”と位置づけている。

 今回は、価値創造の拠点「Value Creation Square」マスコミ向け説明会として、VCS内新ビルであるハイブリッドセンターの見学会が行なわれたのでその内容を紹介していく。

VCSは従来の本社ビルである「The Central(ザ・セントラル)」と「Testing Lab(テスティング・ラボ)」に加え、新ビルである「Hybrid Center(ハイブリッド・センター)」による3つのビルで構成されている。新ビルは2024年10月に完成。11月下旬には本格稼働している
JVCケンウッドではこれら3つに分けて事業を展開する

VCS:バリュー・クリエーション・スクエアとは

 従来はそれぞれの事業分野とコーポレート部門の拠点が分散していた。カーナビやドラレコなどのモビリティ&テレマティクスサービスは東京都八王子市の八王子事業所、無線関係は横浜市緑区の白山事業所、エンタテインメントソリューションは横須賀市の久里浜事業所、そしてイヤホンやオーディオ、メディア事業、研究開発などは本社横浜事業所で受け持っていた。

 それがVCSの完成により一箇所に集結したことで、JVCケンウッドはここをグローバルなメガトレンドに対応でき、持続的なイノベーションの創出を実現する価値創造の拠点とした。また、同時に活気あふれる企業風土を醸成する場としている。

これまでは部門ごとに事業所の場所が違っていた。そして事業所ごとに仕事の進め方にも個性があったが、VCSに集約したことで仕事の進め方も改善していくとのこと
部門の集結は進化する技術や世の中の要求により対応させるためのもの。各種の検証設備が一箇所に集まることもメリットだが、それ以上に各分野の人材が集結して横のつながりが強まることに大きな意味があるという
VCSの全体図。ハイブリッドセンターは地上4階建て。環境に配慮した作りで「ZEB Ready」認証を取得。また、横浜市建造物環境配慮制度の「CASBEE横浜 Aランク」を取得。電源は現在電力会社のものを使っているが、2030年の環境対策に対応するため太陽光発電など組み込めるような作りになっているという

 ここからは実際の建物について、ハイブリッドセンター内を紹介していく。ハイブリッドセンターは1階から4階まで続く大きな吹き抜け構造を持ち開放的な空間となっている。

 従業員が仕事を行なう執務エリアは3階と4階で、1階と2階は各種の試験や評価を行なう設備が入っている。今回の見学会ではすべてのフロアを案内していただいたが、なかでも興味深かったのは、無線や音響メーカーならではの設備である検証設備がある1階と2階だった。

建物外観の特徴は窓の面に取り付けられたパンチングメタルによる装飾。これは日差しの差し込みを軽減させる目的のもの。強い日の差し込みを防ぎつつ、薄暗くなりすぎないものだという。なお、パンチングの入れ方はデザインされていて、周波数や音響のイコライザーのバーを連想させるものとしている
ハイブリッドセンターの入り口。海の横にあることから津波などの対策としてフロアを地面より高い位置にしている

クルマがそのまま入る電波暗室

電波暗室の扉は分厚い金属製

 まずはクルマをそのまま入れられる電波暗室から紹介していこう。電波暗室は以前の事業所にもあったが、ハイブリッドセンターを建設するにあたり、これまで使用していた機材よりさらに大型のものを導入した。

 電波暗室はドラレコなどの開発にも使われるが、JVCケンウッドは自動車メーカーに納入する製品も作っているので、そういったものはクルマごとでの電波暗室での計測を行なうという。

 その理由も伺った。用品であれば、どのようなクルマに付くかは分からないので法規制に関する試験が主になり、クルマに付けての試験にあまり意味がないことから単体での試験となるが、自動車メーカー向けはそうではない。基本的に車種専用にクルマが限定されるので、開発品はクルマに付いた状態での試験が必須とのこと。とくに最近のクルマは航空機並みの電子機器を搭載しているので、自動車メーカーからの要求値はどんどん厳しくなっているという。

 電波暗室の内部は金属の合板でできた作りで、壁にはフェライトと電波の吸収と反射させないための特殊なウレタンが入る。このような作りにすることで電波的な外乱がない状況を作っている。

青い部分が電波を吸収し反射を抑える特殊なウレタン材。壁や天井に使われていた

 そして電波を計測するためのアンテナがあるが、これは4mの高さまで上げることができる。また、クルマを置く床はターンテーブルになっているので高さとあわせてさまざまな方向からの計測が可能だ。ちなみに電波の測定法にはいろいろあるそうだが、この部屋ではクルマから3m離れたところでどのような電波が出ているかを計測している。

電波暗室の内部。手前の機材がアンテナ。4mまで上げることができる。天井までは6mある。JVCケンウッドが前の事業所で使っていた電波暗室より大型になったことで、これまでより幅の広いデータが取れるようになったという
クルマはターンテーブルに置かれるのでさまざまな方向からの計測ができる。こうした機材を自社で所有するメーカーはあまりないという

 なお、このような電波暗室を自社で所有するメーカーはそれほどないようで、持っていない場合は外部の検査機関の設備を借りて試験を行なうが、それだと開発のスピードが遅くなったり、時間に制限があったりして開発にとっては不自由なこと。それだけに自社で建屋として6mの高さがあるフルスペックの実験施設を所有することはより製品を作るために大いに意味のあることだという。

音の反響がない無響室

壁のヒダ状のものはグラスウールの上に布が張ってある作り。触ると柔らかい

 次は無響室。ここは字のごとく音の反響がない部屋で、壁や天井には特殊な形状に加工されたウレタン材が用いられている。また、この部屋には音を反響させてしまう「床」がなく、歩行は床の代わりに張り巡らされたネットの上を歩くのだ。そしてネットの下にも同様の作りの空間が設けてある。

無響室内。床はなくネットが張られた上を歩くようになる。今回はわれわれ外部の人間も入るため、歩きやすいようパンチカーペットが用意されていた
階下にも同様の作りの空間がある

 では、なぜこのような部屋が必要かというと、機器から出てきた音を正確に拾うためである。普通の部屋では音は発生源から聞こえてくるものに加えて、四方に広がった音がなんらかにあたって反響した音も含まれ、それが聞く側にまとめて届いてしまうが、それは音の発生源から出た音ではない。そこで音響機器を作るうえでは音の反響がない部屋で音をチェックする必要があるということ。

こちらはクルマの中での音の試験をする無反響室。クルマを入れるので床はある
ダミーの耳の部分にはマイクが入り、車内での音を拾う
こちらは、スピーカーの音をチェックするための部屋。実はこの部屋はまだ完成しておらず、壁の作りなどは今後変わっていくとのこと
後ろにあるのがクルマ用のスピーカーで、入っているボックスはクルマのドアの体積にほぼ合わせてあるとのこと
天井にはサラウンドシステム用のスピーカー取り付け器具がある

車載スペックを検証する設備

悪路を走行したときのシミュレーションができる振動テスト用の試験機。かなり激しい振動だったが、その状態でまる1日動かしっぱなしで試験する。取材時は電源が入っていなかったが、電源を入れた状態でも同様の試験を行なっている

 耐震に耐熱、過酷な車載スペックを検証する設備もそろっていて、ハイブリッドセンターになってから充実した設備としては振動試験機がある。カーナビ端末などに向けた以前からある規模の試験機とは別に、さらに大型の試験機が導入されている。これにより従来の機材ではできなかった振動や重量物の試験もできるようになるとのこと。

機器の温度に関する試験を行なう部屋。-30℃~80℃(一部100℃まで対応)を一定に保てる機器が46台ある
機器の内部はこんな感じ。試験は長時間にわたるので試験開始後はプログラムで稼働する。そのためほぼ無人だ。これらの機器が46台設置している会社はそうそうないとのこと

ハイブリッドワークを選べるオフィスはフリーアドレス

1階フロアから上階まで吹き抜け構造になっている。12月なので大きなクリスマスツリーが置いてあった

 各種の検証設備の次はオフィス区画についてだ。VCSでは各事業所にいた人材が集まっているので、それぞれで蓄積された知識やノウハウを共有し、技術力をさらに発展させていくことを行なっている。

 以前はカーナビならカーナビの技術部門、商品企画、営業が事業ごとにオフィスを構えていたが、VCSでは製品別ではなく、職種ごとにエリアが分けられているレイアウトになっている。これにより扱う製品は違えど同じ職種での横のつながりができ、そこから新しいものが生まれるということを狙っているとのことだ。なお、JVCケンウッドではワークバランスの充実と生産性の向上を図る目的で、出社して仕事をする「オンサイト勤務」か在宅、もしくはサテライトQオフィスを利用する「オフサイト勤務」が選べるハイブリッドワークを採用しているので、オフィスのデスクはフリーアドレスになっている。

 こうした固定の席を設けないやり方は新しいプロジェクトへの参加があってもスムーズに行なえるものであり、社内イベントとしての技術交流会なども開きやすいものとなったとのこと。

こちらは技術部門オフィス。撮影位置の後にも同様のスペースがある。技術部門ではほかの部署よりデスクが広く、技術部門の仕事内容に合う作りになっている。
JKC PLAZAと名付けられたスペース。すり鉢状になっていて階段部分がベンチにもなり、下のフロアがステージになる。執務エリアを結ぶ通路にあるので気軽に立ち寄れてアイデアの議論などができる場となる
2階から3階への大階段。メインの階段と同様に普通に階段としても使えるが、存在としてはイベントやプレゼンテーションを行なう場。ここも階段がベンチとなり、階下のフロアがステージになる。演劇用の大きなホールのように登壇者は見上げるかたちでプレゼンテーションを行なう
3階から見た光景。ステージの後は外光が入るガラスなので明るいスペースだ。この場所もとくに仕切られていないので、通りかかったときに気軽にプレゼンテーションやイベントをのぞくことができる
4階の執務スペース。この階には営業や企画の部署が入る。建物の中心に階段があり、それを囲むように4つのブロックで執務スペースが設けられていた
多目的に使えるコラボスペース。ガラス張りになった会議部屋もある
天井はすべてのフロアでこのような作り。どこか倉庫っぽいデザインも取り入れている
外壁のパンチングメタルが印象的な建物だが、建物内にもさりげなく同様のデザインが使われていた
建物入り口にもパンチングメタルによる装飾があった

 以上がVCSの見学内容だ。現代のクルマではカーナビやドラレコは欠かすことのできない装備であるし、運転支援装置や自動運転などの進化による車内での過ごし方の変化において、音響や映像機器の重要性も今以上に高まるだけに、VCSから生まれる新しいJVCケンウッドの製品には大いに期待したい。