日産、2010年度内に投入する低燃費技術を発表 新型マーチはアイドリングストップ機構を備え26km/Lの低燃費を実現 |
日産自動車は7月6日、2010年度に市場投入予定の新型車に搭載する低燃費技術に関する発表会を、横浜のグローバル本社で開催した。発表された技術は次のとおり。
・クラストップとなる26km/Lの低燃費を実現する小型車用新開発パワートレーン
・世界最高水準の厳しい規制「ポスト新長期規制」に適合したクリーンディーゼルAT車
・独自技術で優れたエネルギー効率を実現する新開発ハイブリッドシステム
・量産車初のデュアルインジェクターを採用した新開発1.5リッターエンジン
・2.5リッターエンジン並みの出力と燃費性能を高次元でバランスさせた新開発1.6リッターガソリン直噴ターボエンジン
執行役員 西村周一氏 |
■CO2排出量削減に向けたさまざまな取り組み
これら技術についてや、CO2排出量削減に向けたアプローチ方法について、同社でパワートレーンの開発を担当する執行役員 西村周一氏が説明を行った。
上記の技術は、2006年末に同社が掲げたCO2排出量削減への取り組みである中期環境行動計画「ニッサン・グリーンプログラム(NGP)2010」の一環として研究開発を進めてきたもので、2050年までにCO2排出量を90%削減(対2000年比)することを目標としている。この目標を達成するための技術の1つが今回発表された内容で、最終的に電気自動車や燃料電池車が必要とし開発を進めているが、「当面は内燃機関で30%、ハイブリッド車で50%程度CO2の排出量を削減できる」(西村氏)とし、電気自動車などと並行して研究・開発を行っている。
CO2排出量を削減していくために、まずエネルギーロスをいかに低減するかに着目したと言う。そもそも、クルマを動かすにはさまざまなエネルギーロスが発生しており、エンジンが発生する力が100だとすると、熱損失や機械損失(フリクション)などによってパワートレーンに伝わる力は20程度まで落ち込んでしまうと言う。こうした多大なエネルギーロスをどう減らしていくかがCO2排出量削減の鍵になる。
エンジンでは「熱損失」「ポンプ損失」「機械損失」をポイントに、VVEL(バルブ作動角・リフト量連続可変システム)やCVTC(連続可変バルブタイミングコントロール)、ダウンサイジング過給、気筒数削減など、それぞれの損失を低減させる技術を開発し、2006年以降、積極的に市場投入している。
トランスミッションでは、いかに最良燃費点でエンジン回転数をキープできるかが鍵になると言う。ポイントは2つで、1つはギアの段数を多段化、もう1つはワイドレンジとなり、それを実現するには「無段変速のCVTがより効果的」(西村氏)と述べる。
また、エネルギーロスを防ぐとともに、エネルギーを回生することも重要と言う。回生するエネルギーは「熱エネルギー」と「運動エネルギー」の大きく2つに分けられ、すでに同社では運動エネルギーの回生をティーダ/ティーダ ラティオ、ノート、キューブなどで実用化しているが、熱エネルギーの回生は技術的に難易度が高いわりに変換効率が低いことから、現時点では研究中としている。
■新型マーチはアイドリングストップ機構搭載
発表会では、2010年度内に投入する新開発エンジンの紹介も行われた。まず、小型車用新開発パワートレーンについてだが、これは今月発表となる新型「マーチ」に搭載されるもので、新開発の1.2リッター3気筒エンジン、副変速機付きエクストロニック CVT、アイドリングストップ機構を搭載する。
軽量・コンパクトな3気筒エンジンは従来の4気筒エンジン「HR12DE」をベースにしたもの。主な特徴は、一般的な4気筒エンジンと比べて可動部品が少ない上に、シリンダーブロックに真円ボア加工技術などを採用したことにより、従来の同排気量の4気筒エンジンに対してフリクションロスを20%低減したほか、回転軸の重量バランスを工夫したことで4気筒並の音振性能を実現すると言う。
HR12DEエンジンとエクストロニック CVT |
副変速機付きエクストロニック CVTは変速比幅を7.3とし、これは7速AT以上のワイドレンジと言う。軽量コンパクトに仕上がり、さらにフリクションを約30%低減することに成功した。
アイドリングストップ機構は自然なフィーリングを重視したと言い、エンジン再始動に必要な時間を0.4秒とした。最大停止時間はおよそ3分間だが、電力の使用状況や環境などによって停止時間は異なる(およそ1~3分間)。燃費はアイドリングストップ機構によって約8%向上すると言い、これら新開発の技術によって、新型マーチの10・15モード燃費は26km/Lを実現した。
なお、新型マーチは勾配約6%以下の坂道であればクルマが下がることなくエンジンを再始動できる機能を有する。これはヒルスタートアシスト機構として独立した機構を設けたわけではなく、副変速機機構を利用し内部ロックすることで実現した機能だと言う。
4気筒エンジン「HR12DE」をベースに開発された3気筒1.2リッターエンジン | エクストロニック CVT | アイドリングストップ |
■クリーンディーゼル搭載のエクストレイル AT車は7月発売
高分散型リーンNOxトラップ触媒を用いたクリーンディーゼルエンジン「M9R」は、エクストレイルのMT車に搭載して2008年から発売されているが、いよいよ7月にAT車を発売する。
高分散型リーンNOxトラップ触媒は、従来の触媒で見られた触媒の効率ロスを大幅に抑え、貴金属量の低減と安定した排出ガス浄化を可能としており、AT車もポスト新長期規制に適合すると言う。
クリーンディーゼルエンジン | 7月に導入されるAT車もポスト新長期規制に適合 |
■ハイブリッドシステムを搭載するフーガは今秋発売
独自開発となるハイブリッドシステムは、1モーター2クラッチのパラレルフルハイブリッド。高出力のリチウムイオンバッテリーは年末に発売予定の電気自動車「リーフ」と同構造で、ガソリン車を超えるレスポンスとコンパクトカー並みの燃費を実現すると言う。
モーター走行時や減速時に抵抗となるエンジンを切り離すことで、モーター走行時はモーターのパワーを無駄なく使えるほか、減速時にはタイヤの回転エネルギーを回生する。
このハイブリッドシステムを搭載するフーガは、今秋に発売される。
今秋発売のフーガに搭載されるハイブリッドシステム | 1モーター2クラッチのパラレルフルハイブリッドシステム |
■ジューク ターボは今秋発売
6月に発売した新型コンパクトスポーツクロスオーバー「ジューク」は、1.5リッター4気筒エンジン「HR15DE」を搭載した。コンパクトなインジェクターを気筒あたり2つ装備するデュアルインジェクターを採用し、燃焼効率の向上、フリクションの低減によって同クラスのガソリンエンジンと比較して燃費を約4%向上することに成功した。
発表会では、高出力と低燃費を両立させるダウンサイジングコンセプトに基づいた1.6リッター4気筒エンジン「MR16DDT」も展示され、これは今秋発売予定のジューク ターボに搭載される。MR16DDTはガソリン直噴システムとターボを組み合わせ、2.5リッターエンジン相当の出力/トルク性能を発生する一方で、燃費性能は1.8リッター並みに抑えられていると言う。
MR16DDTエンジン | MR16DDTエンジンは2.5リッターエンジン相当の出力/トルク性能を発生すると言う |
HR15DEエンジン | 量産エンジンで世界初となるデュアルインジェクターを採用したHR15DEエンジン |
■クラストップレベルの低燃費モデルにのみ名付けられる「PURE DRIVE」シリーズ
次世代環境技術を搭載し、各セグメントでクラストップレベルの低燃費を実現する“エンジン進化型エコカー”「PURE DRIVE」シリーズについて、常務執行役員 片桐隆夫氏が説明した。
PURE DRIVEシリーズは、アイドリングストップ、クリーンディーゼル、ハイブリッドなど次世代環境技術を搭載し、クラストップレベルの低燃費を誇るモデルにのみ名付けられる総称。同シリーズの第1弾はアイドリングストップを搭載する新型マーチで、クリーンディーゼルを搭載するエクストレイルを第2弾、フーガ ハイブリッドを第3弾とし、2010年度内に第4弾まで投入することを発表した。
常務執行役員 片桐隆夫氏 | 現在ラインアップするエコカー減税(環境対応車普及促進税制)対象車は20車種 |
2010年度からゼロ・エミッションとPURE DRIVEの2本立てでCO2削減を進めていく | 2010年度はPURE DRIVEシリーズの第4弾まで投入する予定 |
(編集部:小林 隆)
2010年 7月 7日