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三菱電機、落下物を自動操舵で回避する「自動運転レベル3技術」を初公開
「空中ディスプレイ」「コンパクトな人工知能」などの次世代技術も発表
(2016/2/19 17:37)
- 2016年2月17日 開催
三菱電機は2月17日、新規発表を含めた同社で開発中の技術の概要、実機などを公開する「2015年度 研究成果披露会」を開催した。この発表会では多方面に渡る研究成果が披露されたが、Car Watchではそのなかでもクルマに関係する内容について紹介していく。
披露会は、まず三菱電機 執行役社長の柵山正樹氏による挨拶から始まった。「この開発成果披露会は1981年から開催しているもので、今回で33回目となります。この披露会では私どもを成長させていくための研究成果をご紹介させて頂くので、よろしくお願いします。この研究開発というものは会社の成長戦略を推進する要であります。そこで私たちは、短期、中期的な研究開発だけでなく、2020年度以降に成果が出るような、いわゆる未来志向の研究開発についても戦略的な投資を行なっています。これからの世の中の変化に敏感に対応し、短期、中期、長期それぞれのバランスを取りながら研究開発を進めていきたいと思っています」と語り、最後に今回の研究成果披露会のテーマが「未来社会への貢献」であることが紹介された。
続いて、三菱電機 常務執行役 開発本部長の近藤賢二氏が登壇。近藤氏からは今回の研究成果披露会の内容についての説明が行なわれた。「三菱電機は2020年までに、現在よりもう1段高いレベルの成長を目標としているので、その成長を実現するために強い事業をより強くし、そしてソリューション事業を含む新たな強い事業の創出していき、そこで生まれた強い事業同士を組み合わせることで事業を強化していくことに取り組んでいます」とのことだった。
そして近藤氏は「こういった成長を実現していくには、機器単体ではなく、サービスも含めて提供していくことがポイントだと考えています」と語り、そのためにはIoT、ビッグデータ、人工知能などの技術を活用することが重要になるので、この分野の開発に力を入れていく方針であると解説された。ただし、これはこれまで続けてきた機器中心のもの作りをやめるということではなく、三菱電機の機器をコアとして、総合電機機器メーカーとしてさらに発展させていくものであるとのビジョンを明らかにしている。
「空中ディスプレイ」
さて、それではいよいよ研究成果披露会の具体的な内容を紹介する。まず最初は、今回が初公開となる「空中ディスプレイ」について。このディスプレイは対角約56インチの大型映像をスクリーンなどのない空間に映し出すという技術。構造はどうなっているかだが、まず、ベースの映像を映すスクリーン、そしてビームスプリッターと再帰性反射シートという3点がメインになる。スクリーンに映る映像の光は斜めに置かれたビームスプリッターで反射。その光をさらに再帰性反射シートで反射することにより、光が空中に設定したポイントで再収束。この再収束した光が人間の目には「空間に浮かんだ映像」として認識されるのだ。
ただ、人間の目は物理的な目標がない空間に焦点を合わせることに慣れていないので、空中映像がある位置が分かりにくいという課題があったという。そこで今回は、空中映像のポイントに加えて、両サイドに壁を設けてそこに空間に映した映像とつながるガイド映像を表示して、空中映像領域のポイントを明確化していた。
この技術は、例えばスタジアムなどの空中に大型映像を映したりすることで、これまでにない臨場感を生み出す効果があるという。これに対して「高速道路の出口やPA(パーキングエリア)の入口などに逆走防止の空中映像を出すことなども可能なのか」と質問してみたところ、「日中の明るさへの対策などまだまだ課題はあるが、可能性としてはあると思う」との回答だった。
「コンパクトな人工知能」
次に紹介するのは、車載機器や産業用ロボットに搭載するための人工知能の開発について。この研究も今回初めて披露されたものになる。人工知能は従来から存在しているが、大規模なサーバーが必要で、なおかつネットワークを使って通信していたが、今回発表されたのは「コンパクトな人工知能」だ。
そもそも人工知能は「ディープラーニング(深層学習)」と呼ばれる機械学習アルゴリズムで高度な推論を可能としているが、多層的なネットワーク構造を用いて推論するので、必要な演算量やメモリー量が膨大になる。これに対して三菱電機は、ネットワーク構造と計算方法を効率化して新たなアルゴリズムを開発。入力されたセンサーデータなどの特徴のうち、重要な「枝」のみを残すことで、従来の推論の精度は保ったまま人工知能をコンパクト化した。これによって、例えば画像の認識については従来の人工知能から演算量と使用メモリーを90%削減できるという。
「衝突を回避する先進運転支援システム」
そして、この「コンパクトな人工知能」を具体的に生かしているのが「衝突を回避する先進運転支援システム」という技術。今回展示されていたのは、周囲の状況を考慮した追い越し走行と緊急回避走行についてだった。これは自車と衝突の可能性があるものの位置など全周囲の状況を把握するアルゴリズム、それに予測できない急激な状況変化で被害を最小限にする操舵アルゴリズムの2種類で構成されている。
実例として挙げられていたのは、前方を走るトラックから積み荷が落ち、それを検知して回避するというシチュエーションだった。荷台から落ちた積み荷自体も動いており、落下後にどの方向に転がっていくか分からないので、その動く予測範囲をリスクマップとして計算。同時に自車との距離も計測し、それらのデータから回避できる方向にステアリングを切るというものだった。
今回は開けた場所で2台のみが走行するという状況だったが、人工知能と360°センシングなどの機能を組み合わせることで、周辺の状況をさらに細かく考慮した制御も可能になる。例えば走行車線を走っているときに、追い越し車線を走るクルマの接近を考慮しながら前走車を追い越すといったことも自動運転で可能になるのだ。これは早期の実証に向けて研究を進めている技術でもあり、日本政府が2020年ごろに実用化を目指している「自動運転レベル3」を実用化するための要素技術ともなっている。
「蓄電池性能オンライン診断技術」
続いては「蓄電池性能の劣化度推定技術」について。この技術は今後ますます増えてくるハイブリッドカーやEVにも搭載が予測される技術だ。そもそも蓄電池は使用していくうちに蓄電容量や内部抵抗といった性能が劣化していくもので、従来は蓄電池の性能を調べるためには蓄電システムを一時停止して、いったん残量を空にしてからフル充電状態になるまでの時間を測定していたので、ハイブリッドカーやEVでは蓄電池の状態確認が困難だった。それに対して三菱電機が開発している新技術では、蓄電システムを使用しながら計測した蓄電池の電流と電圧を独自のアルゴリズムで処理することで、蓄電容量や内部抵抗といった性能を劣化度としてリアルタイムに測定できる。
蓄電池の残量推定に関しても、従来は「蓄電池の現在の容量に対する割合(残量)」を推定していたのに対して、新技術では「蓄電池が貯めている電気量」を推定するため、電池の残量が分かりやすくなっている。さらにその残量の推定値も誤差1%以下という高い精度を実現している。このように蓄電池の劣化度がチェックできるようになれば、ハイブリッドカーやEVで電池交換のタイミングが適切に判断できるし、こういったクルマを中古車として購入するときにも車両の状態をより正確に確認できるだろう。
自動運転に関連する技術も展示されていたが、今回はクルマに搭載する技術ではなく、自動運転基盤の整備についてのコンセプトを紹介。このシステムでは中核となる交通管制システムがあり、そこからの情報によって道路上のクルマが「協調型自動走行」を行なうので、自動運転車単体での運用よりも渋滞や交通事故などの発生を効果的に抑制できる。さらにこのシステムを使えば道路上のクルマにはっきりと優先順位を付けることができるので、例えば緊急車両が通行するときは周囲のクルマを交通管制システムの指示で停車させたり、進路上の信号機を制御することで現場や病院までノンストップで到着するといったことも可能になるのだ。
また、カーシェアリングもユーザーがクルマが置いてある場所まで行くのではなく、自動運転でクルマを経路に回遊させておける。クルマを使用したい人はカーシェアリング車両が停車可能なエリアからリクエストを出し、そこにクルマが自動的に配車されるという仕組みだ。この技術は2020年代前半から市場環境の進展に応じて順次適用していく予定と紹介された。
このほかにも多くの研究成果が解説されていたが、そのなかでもクルマに関わりがありそうなものとして、公共交通機関を使うときに無駄のない乗り継ぎを実現する「公共交通シームレス化ソリューション」が紹介されていた。
これまでの公共交通機関は固定されたダイヤに利用者が合わせる形態で、駅などでの待ち時間が長くなったり乗り換えで迷ってしまうこともあった。それに対して、利用者の予定に対してダイヤが動的に変化するというサービスの提案。鉄道やバスはそれぞれに運行管理センターがあるが、これを統括する「総合スケジューリングセンター」を設けることで、交通状況や利用者の要望を取り入れて全体的に見て最適なダイヤを提供するというサービスだ。これによって、待ち時間や移動距離の少ないシームレスな公共交通が作り出されるとのこと。
今回の披露会では、長期的なビジョンから「コンパクトな人工知能」のように「2017年度以降に順次製品化予定」といった近い将来の実用化を目指す技術まで幅広く紹介されているが、いずれも製品化によってクルマに大きな変化をもたらしそうな技術だけに、今後もさらに研究開発が進展していくことを期待したい。