インプレッション

日産「ノート e-POWER メダリスト&NISMO」(公道試乗)

小さくない「e-POWER」効果

 2016年11月の月間販売台数ランキングで、日産車として「ノート」が実に30年ぶりとなる首位となったのはお伝えしたとおり。もしも12月もノートが首位になれば、日産車として45年ぶりとなる2カ月連続の月販首位だったのだが、トヨタ自動車「プリウス」がわずか373台差でノートを上まわり、その夢はかなわなかった。

 明けた2017年1月には再びノートが1位、「セレナ」が2位に続き、今度は日産車として32年ぶりにワンツーフィニッシュを達成したことが大いに話題となった。ところが2月はプリウスが首位に返り咲き、ノートは1099台の差で2位となった。というように、登場から5年も経過したクルマでありながら、「e-POWER」効果により一躍“ときのクルマ”となった感のあるノート。その人気は単発ではなく、けっしてまぐれではなさそうだ。

 購入者は今までEV(電気自動車)に触れたことのなかった人も少なくなく、試乗して独特の加速感を味わい、まさしくひと踏みで気に入って購入にいたるというケースが非常に多いそうだ。これまでも何度か実車に触れてきた筆者も、その気持ちはよく分かる。

 今回は軽井沢まで日帰りでロングドライブすることに。拝借したのはカタログモデルの頂点に立つ「メダリスト」。内外装が上質に仕立てられていたり、静粛性を高めるためフロントとリアドアに吸音材を増量しているのが特徴だ。

今回試乗したのは標準車のノートでハイエンドに位置付けられる「e-POWER メダリスト」。価格は224万4240円。ボディサイズは4100×1695×1520mm(全長×全幅×全高)、ホイールベースは2600mm。ボディカラーはギャラクシーゴールド
エクステリアではVモーショングリル内のブルー加飾がe-POWER専用のものになるほか、LEDヘッドライトやフォグランプなどを標準装備。足下は15インチアルミホイールにブリヂストン「B250」(185/65 R15)の組み合わせ
e-POWERでは自然吸気の直列3気筒DOHC 1.2リッター「HR12DE」エンジンを発電専用に搭載し、駆動用モーターによって前輪を駆動する。モーターの出力は最高出力80kW(109PS)/3008-10000rpm、最大トルク254Nm(25.9kgm)/0-3008rpmを発生。JC08モード燃費は34.0km/L
インテリアではオプション設定の「プレミアムホワイトインテリアパッケージ」(5万4000円)を採用

 あらためて走ってみても、モーターが生み出すリニアで瞬発力のある加速フィールはインパクトがある。このクラスの競合車にはない価値を感じさせる。とくに日本のようにストップ&ゴーを繰り返す状況に向いている。やろうと思えば駆動用バッテリーがなくても成立しそうなシステムといえるが、小さいながらもバッテリーを積んでいるので回生ブレーキによりエネルギーを回収することもできる。日本で使うにはいろいろ実に理に適っているわけだ。

 さすがに高速道路では、大人しく走っていてもエンジンが回りっぱなしになるのは無理もなく、モーター駆動は高速走行が苦手という先入観もあるところだが、加速にはまだまだ余力を感じさせる。もっと高い車速になると話は別だろうが、日本で日常的に使う速度域ならまったく問題なくカバーできている。

 強く加速させたいときにはエンジン回転数も高まる。タコメーターがないので、どのぐらい回っているか正確には分からないものの、発電専用エンジンの動き方はときおりまるでエンジンで駆動しているのかと思うほど。そのあたりの自然な感覚にもこだわったことがうかがえる。

 減速のためブレーキを踏んだ瞬間や減速している途中で不意にエンジンがかかることがあって、どういうロジックでこうなっているのかと思っていたら、どうやらそれは回生失効時(バッテリーが満充電になり、これ以上は回生できない状態)にエンジンを回すことで電力を強制的に消費して帳尻を合わせているというのが理由らしい。荒技ながら納得である。

成人男性3人乗車で高速燃費23.0km/L超をマーク

高速巡行では106.2kmを走って平均燃費23.6km/Lをマーク

 燃費については、本気のエコドライブはあらためてチャレンジするとして、今回は成人男性3人乗車+撮影機材積載で、燃費を意識しつつもごく普通に走行した。すると、東京都下の平日午前の下りのやや混んだ一般道を約30km走って18.6km/Lをマーク。まずまずではないかと思う。これ以外にも予備で20~30km程度の区間で何回か燃費を計測したところ、概ね17~18km/L台だった。

 高速巡行時は、100km/h程度で106.2kmを走行して23.6km/L。これもまずまずではないかと思う。ただ、高速道路ではやはりACCが欲しくなる。ましてやノートはクルーズコントロールの設定もない。基本設計の古いクルマゆえ仕方がないのだろうが、そこは今後に期待したいところだ。

 ところで今回は後席にも比較的長く乗る時間があったのだが、このサイズながら後席の居住空間が広く確保されているのもノートの強みだとあらためて感じた。ひざ前や頭上は十分に広く、サイドウィンドウも切り立っているので横方向も余裕がある。メダリストの場合、前述の差別化により、ほかのグレードより静粛性も高いように感じられた。

 アクセルOFF時に強く回生するワンペダルドライブについては、ペダルを踏みかえる手間が減ってドライバーにはよいが、同乗者にとっては不意に強めの減速Gが出ることが気になるときもあるだろう。同乗者がいるときは、回生の弱いノーマルモードを選んだほうが無難といえば無難だ。

NISMOとe-POWERによる走りは?

2016年12月に発売された「ノート e-POWER NISMO」(245万8080円)

 別の機会にドライブした「ノート e-POWER NISMO」のこともお伝えしておきたい。

 赤のアクセントが印象的な内外装や、レカロ製バケットシートが心をくすぐる。e-POWERが出る前から、ノートにおけるNISMOの販売比率は比較的高く、実際に街中でもよく見かけるのだが、e-POWERでも走りの楽しさが変わることはなかった。

ノート e-POWER NISMOのエクステリアでは専用のフロントグリル、リアバンパー(リアフォグランプ付)、ルーフスポイラー、サイドシルプロテクター、LEDハイパーデイライト(車幅灯連動)、シャークフィンアンテナを装備。また、NISMO仕様らしくフロントクロスバー、フロントサスペンションメンバーステー(トンネルステー)、トンネルステー、リアサスペンションメンバーステー、リアクロスバーなどでボディ補強を行なうとともに、専用チューニングコンピューター(VCM)を搭載して独自のアクセルレスポンスや回生力を実現。足下は16インチアルミホイールに横浜ゴム「DNA S.drive」(195/55 R16)を組み合わせる
インテリアはブラックを基調に各所に赤色のアクセントを与える仕様。本革とアルカンターラのコンビネーションとなる3本スポークステアリングなどを装備する
NISMO専用スエード調スポーツシート(前席)
オプション設定のレカロ製スポーツシート(前席)

 標準車に対して加速と減速の仕方やシャシーが専用にチューニングされているのだが、こちらのほうが好みに合う人も少なくないことだろう。回生の仕方についてもNISMOのほうが直感的で、標準車のように50km/hを境に強さを変化させることなくリニアな特性としている。引き締まった足まわりは路面への当たりがやや強いものの、姿勢変化が小さく、動きがシャープで軽快なハンドリングは乗っていて楽しい。これには各部に配した専用のボディ補強も効いていることに違いない。

 高速走行時のフラットな走りにも、NISMOらしくレースのテクノロジーを活かしたエアロダイナミクスのノウハウが効いていることに違いない。このようにベース車との価格差が小さいわりに内容はなかなか濃い。そんなNISMO仕様をe-POWERでも選べるのがうれしい。e-POWERの燃費と加速にスポーティなルックスと走り味が融合した、他にはない魅力を凝縮した1台である。

【お詫びと訂正】記事初出時、メダリストに「リアサイドウィンドウに静粛性を高めるため厚いガラスを採用している」と記載いたしましたが、正しくはフロント/リアドア吸音材の増量でした。お詫びして訂正させていただきます。

岡本幸一郎

1968年 富山県生まれ。学習院大学を卒業後、自動車情報ビデオマガジンの制作、自動車専門誌の記者を経てフリーランスのモータージャーナリストとして独立。国籍も大小もカテゴリーを問わず幅広く市販車の最新事情を網羅するとともに、これまでプライベートでもさまざまなタイプの25台の愛車を乗り継いできた。それらの経験とノウハウを活かし、またユーザー目線に立った視点を大切に、できるだけ読者の方々にとって参考になる有益な情報を提供することを身上としている。日本自動車ジャーナリスト協会会員。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。

Photo:中野英幸

Photo:原田 淳