インプレッション
レクサス「LC」(公道試乗/岡本幸一郎)
2017年4月30日 10:00
専用の生産ラインを設定
よりエモーショナルなブランドになるためには、それを象徴するクルマが不可欠。そんなレクサス(トヨタ自動車)の思いから生まれたラグジュアリークーペが、いよいよ現実のものとなった。
量産モデルゆえの制約のある中で、理屈抜きにかっこいいデザインと気持ちのよい走りを本気で極めるためには、生産の仕方も従来と同じままではいけない。そこで「LC」のために1日あたり48台が生産される専用のラインが元町工場内に用意された。
まずそこでLCがどのように生産されるのかを見学した。これまでいろいろな工場を見てきたが、そこはまったく異質な空間であった。白く塗られた明るい工房には空調ダクトもなく、それぞれの作業者が受け持つ領域が多く、大量生産車よりもはるかに長い時間をかけて人の手を介して丁寧に組み立てられていく。最後のチェック工程には若い女性の検査員が配されていることにも驚いた。
実車と対面すると、イメージしていたよりもずっとなまめかしくグラマラスなフォルムに目を奪われる。デザイン力の高さと、それを具現化した生産技術の高さを感じさせる。他の誰にも似ておらず、あくまでレクサスらしく、それでいてこれまでのレクサスにもない独特の雰囲気を見せている。
色気のあるインテリアも、欧米のプレミアムブランドに負けていないどころか、同じ価格帯のクルマ同士ならLCが圧勝とすら思えるほどだ。トランクは広くはなく、天地方向も浅いが、ゴルフバッグ1個ならなんとか積めそうだ。LCはそれでいい。
好きなのはV8、選ぶのはハイブリッド!?
ドライブしたのは、元町工場を起点に高速道路やワインディング、市街地を走りつつ京都までというルート。ハイブリッドとV8ガソリン、LDH(レクサス・ダイナミック・ハンドリングシステム)を搭載したSパッケージという3モデルに乗ったのだが、これまでのレクサスとは違う次元で開発されたことが、触れるほどにヒシヒシと伝わってきた。
運転環境はよい意味でそつがなく、低めに設定されたヒップポイントも印象的ながら、視界もいたって良好だ。ドアミラーに映るLCならではの大きく張り出したリアフェンダーも新鮮な感覚だ。そして、何台かのLCが編隊を組む姿を後ろから見ていると、そこだけ周囲から浮いて見える感じがした。
ハイブリッドとガソリンの50万円という価格差は、税制面での優遇を考えると実質的にほぼ同じになり、金額ではなく純粋に好きな方を選んで欲しいという意味で設定されたのだが、実際に双方をドライブするとどちらの仕上がりも素晴らしく、もし自分が買うとしてもどちらを選ぶか最後の最後まで迷いそうだ。
5.0リッターの排気量を持つガソリンは、期待どおりの大排気量のV8らしい豪快な加速と突き抜けるように響く快音が魅力だ。7000rpm超までまわる痛快な吹け上がりと、感性に訴える重厚なサウンドを、ラグジュアリーカーとしての静粛性とスポーツカーとしての演出を絶妙なバランスの中で楽しませてくれる。
そんなわけで、もともと大排気量で多気筒なエンジンを好む筆者としては、もし買うとしたらどちらを選ぶかとの問いには迷わずガソリンV8! と答えたところだが、ハイブリッドをドライブして、予想以上の出来のよさに驚き、大いに悩むことになってしまった。
これまでのTHS系は徐々に改善されてきているが、どうしてもアクセルワークに対してリニアでない印象が拭えなかった。ところがLCの新しいマルチステージハイブリッドは、分類するとTHSの一員となるが、まったく別物と言えるほどの進化を遂げている。ON/OFFともにアクセルワークに対する応答が非常にリニアで、変速の制御も本当に10速ATを搭載しているかのように歯切れがよい。また、高速で巡行していても頻繁にEV走行になることも印象的だった。全体として、とてもインテリジェンスを感じさせる仕上がりである。同じくV型6気筒3.5リッターエンジンとモーターを組み合わせた「GS450h」ともぜんぜん違って、THSがベースでもここまでできることに感心せずにいられなかった。
そんなわけで、筆者の「好み」としてはやはりガソリンなのだが、「選ぶ」のは大いに悩んだ末、今ならハイブリッドになりそう。ガソリンの古典的な味わいも好きだが、ハイブリッドの先進性に魅力を感じる。むろん、予想外にドライバビリティが高かったことが大きい。
乗り比べると、モーターの強みで下からトルクフルなハイブリッドと、上で伸びるガソリンというキャラクターの違いは明白だ。また、0-100km/h加速としてはガソリンが0.2秒上まわって4.7秒という。ただし、もっと短いスパンでの加速はハイブリッドが速いそうだ。燃費についてはJC08モード燃費では倍以上も違うところ、高速燃費ではそれほど大きな差はなかったが、市街地を含めるとハイブリッドがだいぶ優位であることには違いなさそうだ。
車両重量を忘れさせる
フットワークの仕上がりもなかなかのものだ。ステアリングの切り始めの手応えとリニアな応答にこだわったというハンドリングの味付けも、これまでのレクサスにはない境地を感じる。欲をいうと、高速道路でのレーンチェンジのような状況では、やや初期の動きが早いと感じるときもあるが、ワインディングで見せる俊敏な回頭性と軽やかな身のこなしは、約2tという車両重量を忘れさせるほどだ。LDHやLSDを持つSパッケージは、さらに俊敏でかつ操縦安定性も高い。
乗り心地の快適性も上々だ。そこはあくまで“ラグジュアリークーペ”としての価値を意識したことをうかがわせる部分であり、他ブランドに対してもレクサスが得意とする要素である。もう少ししっとりとしたしなやかさが表現できるとなおありがたいところだが、現状でも十分に満足できる。
こうして触れている間ずっと、いたるところからスペシャルなクルマに乗っていることをヒシヒシと感じさせてくれるクルマであった。そして、どうすればオーナーが喜んでくれるかを、非常によく研究して作り込まれたことを感じた。日本でもLCのようなクルマがようやく出てきたことを、とても喜ばしく、そして頼もしく思う次第である。