インプレッション
トヨタ「カムリ」(2017年フルモデルチェンジ)
2017年8月1日 12:03
歴史あるカムリがフルモデルチェンジ
「カムリ」の歴史は長く、深い。初代カムリの登場は1980年。スポーツクーペ「セリカ」の4ドアスポーツセダンという位置づけでデビューした。FRレイアウトで「18R-GEU」という2.0リッターDOHCエンジンも懐かしい。それから「ビスタ」との姉妹車としてセリカの名が取れたカムリが登場し、カムリにつながる直系の先祖となる。輸出が始まったのもこのモデルからだ。
その後、北米でベストセラーカーに成長し、15年連続でトップセールスを記録するトヨタ自動車にとって重要なクルマとなった。現在カムリは世界100カ国以上で販売され、地域によって投入されるカムリも変えられているなど、世界で愛されるために必要な車型を揃えるに至っている。その結果、世界累計販売台数は1800万台を超える。
今回フルモデルチェンジを受けたカムリは、パワートレーンからプラットフォームまで一新され、日本、北米などグローバルで1車型となった画期的なモデルで、渾身のフルモデルチェンジだ。
昨今、プラットフォームの刷新が各社で行なわれているが、トヨタではそれが顕著だ。「プリウス」から始まって「C-HR」、今後に続くCセグメント。レクサス「LC」で登場したLクラスFR車用、そしてこのカムリクラスで開発された「GA-K」と呼ばれるLクラスFF用である。
新しいプラットフォームに共通しているのは強固で軽く、安全対応に優れているだけでなく、低重心、慣性モーメントに優れていることだ。いずれもしっくりして素直なハンドリングや乗り心地はこのプラットフォームによるところが大きい。
また、搭載する直列4気筒2.5リッター「A25A-FXS」型エンジンはゼロスタートの新開発で、高い熱効率と出力を両立することを狙っている。ボア×ストロークは87.5×103.4mmという超ロングストロークで、14:1という高圧縮比により熱効率は41%に達している。直接/間接噴射のD-4Sでは、さらにバルブ挟角を従来の31度から41度に広げ、ここから発生する強いタンブル流と直噴インジェクターの組み合わせで高速燃焼を強化した。エンジン単体の出力は131kW(178PS)/221Nmを発生する。この新しいA25A-FXS型エンジンでは、大容量EGRや電動ウォーターポンプなど、拾い上げればきりがないほど新技術が投入されている。
ハイブリッドシステムは「THSII」に変わりはないが、プリウスから始まったTNGA(Toyota New Global Architecture)に則った軽量化と効率化を推進させた。トランスアクスルはリダクションギヤの平行軸歯車化などで全長が30mm短縮された。また、心臓部のPCU(パワーコントロールユニット)も小型軽量化が推進され、トランスアクスルの上に配置されたことで全体的にコンパクト化が図られた。またHVバッテリーも小型化され、日本仕様ではリチウムイオンが採用された。コンパクトになったので、バッテリーの搭載場所がシートバックからリアシート下に移動され、ラゲッジルームを圧迫することはほとんどなくなった。
デザインは堅実だが、アメリカ人がいうところの「ホワイトブレッド(食パン)」イメージを脱却すべく、伸びやかで華やかなデザインに一新された。トヨタのキーンルックを進化させたフロントデザインをはじめ、最新のクーペデザインを採用しつつ居住性を両立させた、トランクまで流れるルーフラインが新型カムリの特徴だ。
サイズは全長が4850mmから4885mmと35mm伸び、全幅は1825mmから1840mmと15mm広がった。このサイズ感なら日本国内でもサイズアップ分の大きさを強く感じないだろう。逆に新しいプラットフォームは全高を25mmも低くする効果をもたらした。このため、一層ワイド感が強調されることになっている。ホイールベースは50mm長くなり2825mm。トヨタのFF最上位モデルに相応しいしっかりしたセダンだ。
ドライビングポジションは相対的にヒップポイントが下げられたので、安定感のある落ち着いたものだ。ただ低いだけだと前方視界がわるくなるが、スカットルも絶対値で40mmも下げられているので視界が遮られることはない。フィット感のあるシート、ハンドル、ペダル、シートの位置関係は適切で、ドライビングポジションは取りやすい。斜め前方の視界の確保など、日本車ならではの視界のよさ持っている。
そしてインテリアは明るくて華やか。整理され過ぎた窮屈さから脱却した、伸びやかさがあって快適な空間だ。また、ラゲッジルームではHVバッテリーがリアシート下に移動したので大きな容量を確保できており、さらにシートバックが倒れ、室内と繋げることも可能となった。ゴルフバッグは4個(9.5インチ)が搭載可能になっている。
上級セダンに相応しい静かなキャビン
今回の試乗会では3種類あるグレードの中で「G」と「G“レザーパッケージ”」に試乗できた。タイヤは17インチと18インチの両方に乗ることができたが、最初は17インチを履くGから。
まずストンと収まりのよいドライビングポジションと、視界の明るさ、取り回しのよさを感じる。最小回転半径は17インチでは5.7mで、ホイールベースが伸びた分だけ大きくなっているが、扱い易さはむしろ向上している感じだ。
それはスタートして最初の街角でハンドルを切ったところから感じられた。操舵力が軽くて、かつ路面からのフィードバックと保舵感があり、安心できる。この好感触はこの後の郊外路で速度を上げた領域でも継続して感じられた。緩いワインディングロードでもロールがよく抑えられていながら、路面の凹凸をうまく吸収してハンドルを乱されることが少ない。切り返しでもステアリングギヤ比が小さいのか、少ない操舵量ですむ。
重心高が下がっているので、普段の運転でもキビキビとした動きというより、スッキリとしたハンドリングと言えば適切だろうか。ちなみにサスペンションは、新しい高剛性プラットフォームに合わせて新規設定されたフロントストラット、リアダブルウィッシュボーンとなる。
乗り心地もハンドリング同様にストレスを感じないスッキリしたものだ。路面を横断するように引かれた滑り止めの連続段差でも突き上げやバタツキが最小で、サスペンションは見事にショックをいなしてくれる。このセグメントのモデルでも接地が抜けたり、サスペンションが暴れたり、あるいは突き上げが強かったりするモデルも存在するが、新型カムリの場合は気づかないうちに通過してしまう。同時に静粛性もピーク音がよく抑え込まれているので、上級セダンに相応しい静かなキャビンになっており、心地よくドライブできる。
さて新しいパワートレーンはというと、これも期待に応えてくれる出来だった。ハイブリッドシステムはさらに進化して、モーターの活用範囲が広がった。具体的にはゼロから大きなトルクを発生する発進時のモーター走行が自然で力強い。また、ラバーバンドフィールもかなり抑えられており、アクセルの踏み代に応じてエンジン回転が必要以上に上がらない。新エンジンの低中速トルクの向上とレスポンスの向上で、ハイブリッドとの相性がさらによくなっていると感じられた一面だ。フル加速ではエンジン回転が先行するが、日常的な強めの加速ではハイブリッドを意識することはほとんどないと言ってよいと思う。追い越し加速でのレスポンスも不足はなく、市街地から高速道路までドライバビリティに優れている。
18インチタイヤはG“レザーパッケージ”だったこともあり、タイヤグリップなどは優れているものの、タイヤからの突き上げやシート表皮が硬めのために多少乗り心地が硬く感じられた。カムリの性格を考えると、個人的には17インチの方が好みだ。
インターフェイスではヘッドアップディスプレイが見やすく、必要な情報はここに表示される。かなり整理された操作系だが、慣れるまでは階層が深くて咄嗟に出せないこともあり、さらに使いやすさの工夫が必要だ。このインターフェイスはどのメーカーも悩みの種なのだが。
また、新型カムリは衝突回避支援パッケージ「Toyota Safety Sense P」が装備され、全車速追従機能付きのACCをはじめ、駐車場から後ろ向きに出るときの安全を確保できる「リアトラフィックアラート」や「ブラインドスポットモニター」もオプション選定できる。
新型カムリは好印象だった。ないのは4WDぐらいだろうか?