試乗インプレッション

マイナーチェンジでここまでやるか、新型マツダ「ロードスター RF」(プロトタイプ)のファーストインプレッション

出力向上、回転限界の引き上げなど「7500rpmまで引っ張れる爽快感は格別」

商品改良のポイントは4つ

 常に改良を続け、年々増していくユーザーの要求を少しでも越していくことで、感動を与え続けているマツダ「ロードスター」が、またもや商品改良を行なった。2015年に登場した現行のND型では、登場およそ1年後の2016年にリトラクタブル・ファストバックの「ロードスター RF」を投入。その後も2017年にはソフトトップを赤く染めたレッドトップ投入時に足まわりの改良も施して質感を向上させている。

 この時はリアサスペンションのアッパーラテラルリンクに備わるゴムブッシュの硬度を下げ、フリクションロスを低減することでリアサスペンションをスムーズに動かすことを可能とし、おかげで路面への追従性やステアリングフィールの向上に繋がったという経緯がある。どこまでも真面目に細かく進化させるその姿勢は、ロードスターというクルマがいかに大切に育てられているかを感じさせてくれるものだった。果たして今回の商品改良はどんな新しいロードスター像を見せてくれるのか? マイナーチェンジとはいえかなり楽しみである。

撮影車はリトラクタブルハードトップモデルの「ロードスター RF」(VSグレード/6速AT)。ボディサイズは3915×1735×1245mm(全長×全幅×全高)、ホイールベースは2310mm。価格は367万7400円
エクステリアでは、従来ではガンメタリック塗装だったアルミホイールのカラーを高輝度塗装に変更(RFのSおよびVSグレード)
VSグレードでは新たに写真の「スポーツタン」を専用色として設定。同グレードでは「ブラック」「オーバーン」も選べる

 今回の商品改良のポイントは4つある。柱となるのは人馬一体感をさらに高めたエンジンの改良だ。後述するが、その変更はエンジン内部に達するまで多岐に渡る大改良といえる。2つ目はカラーコーディネーションの深化である。幌にブラウンを与え、内装色にも明るいスポーツタンと呼ばれるものが採用された。鮮やかさを増したその仕立ては、華やかさがより一層増したといっていいだろう。3つ目は全機種が「サポカーS・ワイド」に対応し、安心して運転を楽しむ環境づくりを行なったことだ。デザインを変更することなくAT車については誤発進抑制装置を装備。歩行者検知のブレーキサポートなども盛り込んでいる。

 そして最後が、ロードスターとしてはじめてテレスコピックステアリングを採用したことだ。ステアリングを手前に30mm引き出すことが可能になったそのシステムは、個人的に昔から懇願していた装備だっただけに嬉しいところ。シートを後退させることで足下のスペースが広がったほか、背もたれを倒し気味にして乗車することが可能になったおかげで、ヘッドクリアランスも良好になった。窮屈な姿勢を強いられることなく、横から見た時の優雅さも備えたことは素晴らしい。

今回の改良により、歴代ロードスターで初めてテレスコピックステアリングを採用した。写真左はステアリング位置を一番奥に、写真右は一番手前にしたところ
ステアリング調節機構には、従来の上下42mmのチルト機能に加えて新たにストローク30mmのテレスコピック機能を採用

 だが、これを実現するにはかなりの苦労があったらしく、社内には反対の声も大きかったのだとか。それは重量増との闘いがあるからだ。ロードスターは「グラム作戦」と呼ばれる軽量化へのトライがどの部品にも課せられていると言われるが、これに反してしまう。そこで、アッパーコラムの材質を鋼管からアルミ材へと変更。重量増を700gアップに抑えた。苦労はそれだけに終わらず、テレスコピックを採用したおかげで衝突試験までやり直したというのだ。ユーザーの要望に応えるために、ここまでの苦労をしている、それがロードスターの優しさだ。

こちらはソフトトップモデルのロードスターに新たに設定された特別仕様車「Caramel Top(キャラメル・トップ)」(6速MT)。価格は309万4200円
特別仕様車「Caramel Top」は「S Leather Package」をベースとし、新採用のブラウンカラーのソフトトップとともにスポーツタン色のインテリアカラーを組み合わせた

「SKYACTIV-G 2.0」で大切にしたのは息の長い伸び感

ロードスター RFに搭載される直列4気筒DOHC 2.0リッター「SKYACTIV-G 2.0」エンジン。改良により最高出力135kW(184PS)/7000rpm、最大トルク205N・m(20.9kgf・m)/4000rpmへと進化した

 さて、ここからは今回のマイナーチェンジのポイントであるエンジンに話を戻す。エンジン改良を行なったのは、主にロードスター RFのみに与えられる2.0リッターエンジン「SKYACTIV-G 2.0」に対してである。概要を言えば最大トルクは200N・mから205N・m、最高出力は158PSから184PS、回転限界は6800rpmから7500rpmへと向上したことだ。だが、もちろんロードスターは速さを追求したクルマではなく、大切にしたのは息の長い伸び感。そしてマツダが最近こだわり続けている躍度(m/s3)を維持することだ。どの領域でも躍度=加加速度を維持し、常に後ろから押し続ける感覚を持たせようと躍起になっている。

 そのためにバルブタイミングを高速化したほか、バルブスプリングの張力をアップ。ピストンの形状を変更することで27gの軽量化を実現。コンロッドについてもボルト径の縮小やボルトの長さを短縮し、形状を見直すことで41gの軽量化を行なっている。さらに、クランクシャフトの形状も見直し、カウンターウエイトを最適配置。また、スロットルバルブの通路面積を28%拡大したほか、吸気ポートの曲がりを修正することでポート面積を18%拡大。吸気流動をピストンの山の高さとともに見直すことでタンブル流の強化を行なうことで、耐ノッキング性と熱効率、そしてエミッションも改善。燃料噴射の微粒化も行なっている。一方、排気バルブ径の拡大や排気ポートの拡大、さらにはエキゾーストマニホールドも内径を拡大するなどして、高回転領域におけるロスを低減した。

SKYACTIV-G 2.0で採用する、スカート部を極限まで小さくするなど27gの軽量化を達成したピストン

 なお、吸気ポート、ピストン、フューエルポンプ、インジェクター、そして多段燃料噴射については1.5リッターエンジンの「SKYACTIV-G 1.5」にも採用されている。今回は試乗の機会がなかったが、そちらの進化も興味深い。

ロードスターに搭載される直列4気筒DOHC 1.5リッター「SKYACTIV-G 1.5」エンジン。従来では最高出力96kW(131PS)/7000rpm、最大トルク150N・m(15.3kgf・m)/4800rpmだったところ、最高出力97kW(132PS)/7000rpm、最大トルク152N・m(15.5kgf・m)/4500rpmに進化

 加えてサウンドづくりにもこだわりがある。リニアに澄んだ力強いサウンドを提供しようと、まずはフライホイールを低イナーシャDMFと呼ばれるものに変更。従来は1つのフライホイールだったが、プライマリーとセカンダリーの2つに分け、その間にバネを設け、2つの回転差、そして捩じりを使って回転数の変動を抑えることで、ギヤが発するラトルノイズを低減することで、車内で感じる音を低減したという。さらに、サイレンサーの構造も改良し、高周波ノイズをカットしつつ、こもり音も軽減したそうだ。マイナーチェンジながらも多岐に渡る改良には驚くばかりである。

サイレンサーの構造も見直され、高周波ノイズをカットしながらこもり音を軽減。低回転から高回転までリニアで伸びのある力強いサウンドを実現した

今までとはまるで違うクルマ

試乗車のロードスター RFはプロトタイプ

 そんな新型ロードスター RFに乗ると、今までとはまるで違うクルマに感じるほど変わっていた。テレスコピックによってスポーツカーらしい低く構えるシートポジションを取り走りはじめると、たしかに旧型よりも澄んだサウンドが感じられる。それは何も全開で走らせている状況ではない。日常域における使い方でそれはたしかに得られるのだ。力強く、けれども荒々しさは削がれたその感覚は、上質さが増したと思えるものだった。

 ワインディングでペースを上げて行くと、レブリミットが拡大されたことがメリットとして確実に感じられる。回転限界が引き上げられたことで、ギヤ選択の自由度がかなり増していたのだ。以前はもう少しエンジンを引っ張りたいところでシフトアップに迫られ、フラストレーションが溜まるドライブを強いられたが、新型ではそのようなことが一切ない。7500rpmまで引っ張れる爽快感は格別だ。速さもかなり増している。

 一方で、シフトダウンも躊躇なく行なうことを可能にし、コーナリングアプローチ時にエンジンブレーキも確実に使うことが可能だ。以前は仕方なく3速でアプローチせねばならない状況で、テールが安定せずにいたコーナーにおいて、新型では2速でアプローチでき、リアが発散しにくくなるといったメリットが生まれたのだ。また、ATモデルでもレブリミット拡大の恩恵は確実にある。以前はダウンシフトを受け入れてもらえない状況が多く、左側のパドルシフトを連打してダウンシフトされるまで待っていることがあったが、新型ではそんなストレスが一切なくなったのだ。いつでもどこでも思いどおりに動くこと、それこそが新型のよさといっていいだろう。ここまで2.0リッターモデルが完成されてくると、1.5リッターモデルのメリットがなくなるかと心配になるほど。以前は「回せない2.0リッター」と「回し切れる1.5リッター」という違いがあったが、まずは2.0リッターモデルが1.5リッターモデルの世界観に追いついたところを評価したい。

 あと求めるとすれば、ソフトトップモデルの軽さにこの2.0リッターエンジンを組み合わせたらどんな世界が見えるかということだ。海外では存在するその組み合わせが日本でも登場した時、現行のND型が完成の領域に到達するのではないだろうか? ここまでさまざまなバリエーションがあるのであれば、エンジン、ボディ、シャシー、インテリアなど、オーダーメイド感覚で選べるロードスターが登場したら面白いかもしれない。求めれば確実に応えてくれるロードスターの開発陣なだけに、そんなモデルが登場するのも時間の問題かもしれない。まだ改良が施されたばかりではあるが、次なる一手が楽しみになるのも、ロードスターならではの世界観である。

橋本洋平

学生時代は機械工学を専攻する一方、サーキットにおいてフォーミュラカーでドライビングテクニックの修業に励む。その後は自動車雑誌の編集部に就職し、2003年にフリーランスとして独立。走りのクルマからエコカー、そしてチューニングカーやタイヤまでを幅広くインプレッションしている。レースは速さを争うものからエコラン大会まで好成績を収める。また、ドライビングレッスンのインストラクターなども行っている。現在の愛車は日産エルグランドとトヨタ86 Racing。AJAJ・日本自動車ジャーナリスト協会会員。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。

Photo:安田 剛