試乗レポート
アバルトがチューンアップした「595」シリーズを一気乗り!!
「ピスタ」「ツーリズモ」「コンペティツィオーネ」
2020年9月21日 08:01
マイクロコンパクトと表現をしたい3mに満たない長さと、材料削減と軽量化への挑戦を連想させられる強く丸みを帯びたプロポーションを持ったボディの採用。加えて、いずれもパワーパックをボディ後端にひとまとめとしたRRのレイアウトを備えたことなどから、かつて日本の路上を席巻したスバル「360」との共通性を思わずイメージさせられるのが、奇しくもタイミングも同様でのデビューを果たしたフィアットの2代目「500」というモデル。
その愛らしいスタイリングをモチーフに、2代目「パンダ」と共通のFFレイアウトを基としたメカニカル・コンポーネンツを用いて、2代目500の生産終了から30年という時を経て2007年に蘇ったのが今へと続く3代目のモデルだ。
ここに紹介の「595」シリーズはそんな3代目500をベースとしながら、モータースポーツへの参戦やそのノウハウを生かしたチューニング・パーツの販売、さらにはコンプリートカーの開発など1949年の設立以来フィアットと密接な関係を築いてきたアバルトがチューンアップを手掛けたハイパフォーマンス・バージョンだ。
145PSを発するエンジンを搭載するベースの595に加え、165PSのエンジンを積んだ「595 Turismo(ツーリズモ)」とそのオープントップ・バージョンである「595C ツーリズモ」。さらには、同じ1.4リッターの排気量ながら180PSもの最高出力を叩き出す心臓を搭載する「595 Competizione(コンペティツィオーネ)」まで、元来の500が備える高い実用性に加え、見た目や走りの点で強い個性をアピールしながら幅広い選択肢が用意をされていることも、595シリーズならではと言える魅力の1つになっている。
3つの顔の595を乗り比べ
そんなシリーズの中から今回は、165PSエンジンを搭載の595C ツーリズモと「595C Pista(ピスタ)」、そして180PSエンジンを搭載する595 コンペティツィオーネの3台をテストドライブした。
ちなみに、ピスタは240台が販売される限定モデルで、通常は設定のないブルーのボディにリップスポイラーやブレーキキャリパー、ドアミラーカバーやリアのディフューザーにイエローのアクセントカラーがあしらわれた刺激的でお洒落なルックスに、フルオートエアコンやマットブラック仕上げのアルミホイールなどを標準採用することが特徴。
そんなピスタとツーリズモの今回のテスト車は、共に電動スライディング式のソフトトップを備え、車名中に「C」の記号が与えられたカブリオレ・ボディの持ち主。ただし、トランスミッションは、前者が通常のMTで後者が「ATモード付5速シーケンシャル」と表記をされる2ペダル式MT仕様と2タイプに分かれることに。
前述のように、いずれも165PSエンジンを搭載するこの2つのグレードは、205/40R17サイズのタイヤやリアにコニ製ダンパーを用いたサスペンションを採用するなど、心臓以外のランニング・コンポーネンツは基本的に共通。
結果として「トランスミッションの違いによる走りのテイストを検証」というカタチとなったが、そんな比較チェックはなかなか興味深い走りの味の差を教えてくれることともなった。
5速MTとATモード付き2ペダルMT、走りが楽しめたのは……
ピスタ/ツーリズモで共通の1.4リッターターボ付きエンジンの出力スペックは、トランスミッションの違いには影響されることなく同一の値。165PSの最高出力は5500rpmで得られ、210Nmの最大トルク値を発生するのは2000rpm。ただし、ダッシュボード上のスイッチ操作でスポーツモードを選択すると、最大トルク値は230Nm/2250rpmまで上昇するという、いわゆるオーバーブーストの機能を備えている。
結論を言ってしまえば、そんなエンジンとトランスミッションの組み合わせで、よりスポーティで好感を抱くことができたのは実は2ペダル式トランスミッションを装備するツーリズモの方だった。
前述スペックが示す通り、この心臓は特に高回転に強いタイプではない一方、同時に2000rpmを下まわるとトルク感もめっきり痩せてしまうという特性の持ち主。かくして、そんな比較的狭いトルクバンドをキープするためには、オートモードで用いていれば自動的にトルクバンド内を狙った制御を行なってくれる2ペダル式の方が、全般に都合よく感じられることになったのだ。
「あっ、これはちょっとトルクバンドを外したかな」と感じたシーンでも、2ペダル式であれば指先のパドル操作1つでよりイージーに素早く“補正”が可能であることもメリットの1つ。個人的には「MT派」を自認しつつも、今回ばかりは「595は2ペダルの方がよいかな」というのが実感だったのだ。
実は、トランスミッションのギヤ比も完全に同一ではなく、1速2速間のステップ比は2ペダル仕様の方がクロスした設定。これもあって、トルクバンドをキープするにはなおのこと「2ペダル仕様の方が有利」と、そう感じられることにもなった。
もちろん、通常のMT仕様には「ダッシュボードから短く生えたシフトレバーを操作すると同時に、クラッチワークの楽しみがある」と、それも確かに事実ではあるもの。が、そんなマニュアル操作自体を楽しみの1つと考えるのであればなおのこと、ギアボックスはぜひとも6速化してほしかったと思うことになった。
595の中でも抜きん出たコンペティツィオーネ
一方、595シリーズの中にあっても「これは特別」と思えたのが、その名もコンペティツィオーネといかにも“やる気”を感じさせられるグレード名の持ち主だ。専用チューンが施された心臓は、180PSを発揮。通常時は230Nm、スポーツモード選択時は250Nmという最大トルク値も、シリーズ内では圧倒的だ。
595 コンペティツィオーネ
このモデルの格別ぶりは、すでにアイドリングの場面からも連想をさせられる。本格的デザインのディフューザーを挟んで、その左右から4本出しをされたテールパイプからは、ハイパフォーマンスエキゾーストシステム「レコードモンツァ」によって調音がなされた、1.4リッターという小排気量らしからぬなんともレーシーなサウンドが吐き出されるからだ。
テスト車のトランスミッションは5速MTだった。とはいえ、そこは1120kgに過ぎない重量と180PSエンジンという組み合わせで、ウエイト/パワーレシオはわずかに6.2kg/PS。サベルト製のヘッドレスト一体型バケットシートへと身を委ね、アクセルヘダルを深く踏み込むと、“際立つ速さ”を提供してくれたことは言うまでもない。ダッシュボード上部に「これ見よがし」にレイアウトされたブーストメーターの針が激しく右に振られると同時に、コンパクトなボディは弾けるように速度を増して行く。
締め上げられたサスペンションがもたらす乗り味は、潔いハードさという印象。そんな乗り味と共に提供されるのが、「これぞまさにゴーカート」という、ダイレクトなハンドリング感覚だ。
いずれにせよ、今となっては「極端なまでにコンパクト」な595のボディのサイズは、ちょっと山岳地帯へと踏み込めば、タイトなワインディングロードが無数に待ち構える日本では大きなメリットの1つ。全幅が1.9mに達するようなハイパフォーマンスカーでは、自身のレーンをはみ出さないように走るのが精一杯といったシーンでも、より理想的な”アウト・イン・アウト”のコース取りを楽しめたりもしてしまう。
595が、まだ「アバルト500」を名乗っていた時代からの、時が流れても飽きられることのないこのモデルの人気の秘密は、こうして「見ても乗っても」得も言われぬ楽しさを味わわせてくれる点にこそあると納得なのである。