試乗記
フィアットのミニバン「ドブロ」「ドブロ マキシ」に試乗 5人乗りと7人乗りで走りに違いは?
2023年8月16日 09:00
高速道路に乗って、目指すは海!
ジリジリと照りつける太陽に負けじと手を伸ばすと、届きそうなほどにモクモクと大きな入道雲が夏気分満点の午前10時。私たちは5月に日本初上陸したフィアットのビッグなニューフェイス、ドブロとドブロ マキシを都心から連れ出し、海を目指していた。すでにご存知の方も多いように、ドブロは商用バンをルーツに持つミニバンで、2列シート5人乗りがドブロ、3列シート7人乗りがドブロ マキシ。本国では3代目となり、シトロエン・ベルランゴやプジョー・リフターという兄弟が先に日本上陸して大人気となっている。
東京・青山で行なわれた発表会&プチ試乗会で都心の一般道を走らせた感触がとてもよかったので、今度はちょっと高速道路を使ってロングドライブをしてみたいと思っていた。始めにステアリングを握るのは、ショートボディとなるドブロ。千葉の海に向かうべく首都高速道路に入った。
ドブロのインパネやシートには、まったく凝った演出が見当たらない。人によってはチープに感じるブラックの樹脂で覆われ、シートの表皮もいたってシンプルなモノトーン空間となる。でも思いのほかそれが寂しいと感じないのは、大きなフロントガラスからの景色や、ステアリング中央にデンと鎮座する赤いフィアットエンブレムの存在が、むしろ際立って目に映るからだろうか。
インパネのレイアウトはベルランゴと共通で、センターコンソールにダイヤルタイプのシフトセレクターが備わる。スマホなどちょっとした小物が置けるトレイや、助手席とを隔てるように立派なリッドつきの収納があり、ドアポケットも大きめ。運転席の頭上に備わるオーバーヘッドコンソールの容量もたっぷりで、助手席の前にはこれまた大容量のアッパーボックスがある。これなら、こまごましたモノが多くなりがちなファミリーユースでも、便利に使えるのは間違いない。またシフトセレクターの左斜め上に、「いったい何を入れるのだろう?」というナゾの丸い凹みがあり、私はのど飴を入れてみたり、リップクリームを立てかけてみたりしたところ、なかなかよかった。実用車と言いつつ、こうした想像をかき立てるモノが車内に1つや2つあるのは、日本人が欧州車、とりわけイタリアンブランドに乗ることで感じられるユニークな部分でもあるかもしれない。
そしてタイトなカーブやアップダウンが続く首都高で、ドブロの走りは案外といい調子だった。一般道ではちょっと目立ってしまうロードノイズや1.5リッターディーゼルエンジンの音が、車速が上がるにしたがって不思議となじんでくるというか、元気に走ってる感を高めるエッセンスになってくる。加速と減速のコントロールが頻繁なシーンでは、8速ATがしっかりと仕事をするようで、キビキビとした反応が得られることにも感心した。全高が1850mmあるから、もっと上屋が左右に揺すられるかと思いきや、しっかりとした接地感とボディの一体感がある。
もちろん、乗用車として作られた国産ミニバンと比べてしまえば、静粛性や加速フィールの上質感といった面では一歩、二歩、譲るのは否定できないが、東京湾アクアラインの風を受けてもビクともせず、安心して突き進んでいく感覚は頼もしい限りだ。最高出力は130PS、最大トルクは300Nmとなるので、追い越し加速も再加速も不満はない。悠々としたおおらかな走りに、すっかり身を任せているうちに海辺へと近づいていた。
続いてドブロ マキシに乗り換える。ドブロとのボディサイズの違いは、全長が365mm延びて4770mmになり、全幅1850mmは変わらず、全高が20mm高い1870mm。ホイールベースも195mm延びて2975mmになる。そしてドブロが車両重量1560kgのところ、ドブロ マキシは100kg増しの1660kg。タイヤサイズはどちらも16インチだ。運転席に座った印象はまったく変わらないのだが、バックミラーを見ると、ちょっと長くなったなという感覚はある。
そして走り出した印象も変わらないかと思いきや、接地感がさらに高まり、ステアリングフィールの剛性感が少しアップしたようにも感じる。重くなった分をネガではなく、うまく安心感や上質感につなげているところは素晴らしい。速度が上がるにつれてフラットな乗り味が強まっていき、80km/hくらいからがとても快適だ。カーブでは多少の沈み込みはあるものの、動きが穏やかでジワリとした荷重移動が手に取るように感じられるので、まったく不安がないどころか思い通りに操っている満足感が得られて面白くなってくる。
ミニバンとしての使い勝手はなかなかのもの
しばらく走らせたあと、浜辺に停めてぼーっと海を眺めてみた。夏にはちょっと暑すぎるけれど、風が気持ちのいい時期ならこんなところで後席をフラットにして昼寝でもしてみたいものだ。ドブロ マキシは3列目シートが取り外し式なので、2列目シートをたたまなくてもゴロリと横になれるくらいのスペースは確保できる。子供のお昼寝なら最適だ。もし、大人が足を伸ばして本格的に眠りたいならば、2列目シートを前に倒せばフロアの奥行きは2.23mにもなるから、長身の人でもゆったりと横になれる広さになる。ちなみに3列目シートの1脚の重さは、約17kgとのこと。ちょっと重いが、頑張れば私でも積み下ろしができるくらいで、操作も一度覚えれば簡単。外したシートを置いておく場所さえあれば、いろんなアレンジが楽しめる。2列目シートをたたみ、さらにヘッドレストとアームレストを外せば助手席までフラットになり、この状態での容量は2693Lにもなる。愛犬のケージや自転車、サーフィンのロングボードなど、大モノを積むことが多い人にもドブロ マキシは頼もしい。ただ、3列目シートは前倒しも可能なので、取り外さなくても普段の使い勝手は良好だ。
そして今回は海から自宅へ乗って帰り、家族3人でお出かけをしてみた。娘は助手席に座りたいと言い、景色がよく見えると喜んでいる。私はせっかくなので、3座独立した座面となっている2列目シートの真ん中に座った。3列目シート用のフロアマットは敷かれているのに、2列目シート用のフロアマットがなぜか「本国から取り寄せ中」というのはご愛嬌。シートベルトが3列目シート左側の天井から出てくるようになっているので、手を伸ばして引き出すのがちょっと大変だが、装着してしまえばとくに違和感はなく、前方が開けている視界が新鮮だ。折りたたみ式テーブルを停車中に使ってみると、スターバックスのトールサイズのカップがまぁ、なんとなく入ったような……、ちょっと浮き気味のような……といった塩梅だ。でも娘の携帯ゲーム機をちょっと置いておいたり、マクドナルドのポテトを食べるときなどに大活躍するだろうと思った。
乗り心地のよさは青山での試乗の際にも感心したポイントで、場所が変わってもフラットライドは健在。短時間だが3列目シートにも座ってみると、少し運転席との会話には声を張る必要があるものの、背もたれや座面が立派な大きさで足もとスペースにも窮屈さはないので、押し込まれている感覚がなくて快適だ。3列目シート用にもカップホルダーと12Vソケットがあるので、これなら長時間過ごすことも苦ではないだろうと感じた。
スライドドアが手動開閉ということには、最初の数回の乗り降りでは「あ、そうだ手動なんだ」と戸惑ったが、そのうちになんの躊躇もなくガラガラッと開けるようになるので、人間はすぐに慣れるものなのだと実感。電動機能があれば便利なシーンがたくさんあるのは承知の上で、なければないでそれに順応するのみ。きっと、至れり尽くせりの国産ミニバンから乗り換えたら「あれがない、これがない」と最初は寂しく感じるかもしれないが、そうでなければ困るほどのことはなく、むしろ自分たちらしくいろんなアレンジをしたくなる土台が用意されてるのだと感じる。
こうしてドブロ/ドブロ マキシを非日常と日常の両方で試乗してみると、シンプルだけど個性的な内外装と、広々空間でまず心を解放してくれる。そしてだんだんと、やりたいこと、行きたい場所、過ごしたい時間がフツフツと湧いてくる。ミニバンって、本来こういうものだったなと思い起こすことができた、豊かなドライブとなったのだった。