試乗記

BMWのコンパクトなバッテリEV「iX1」試乗 同等クラスと比較して強みはどこか?

2023年2月に発売された新型BEV(バッテリ電気自動車)「iX1」

WLTCモード走行可能距離は465km

 思えば21世紀になったころにX5のみだったBMWのXモデルは、とくに近年、増殖のスピードを増し、いまや8モデルがラインアップされるほどになった。エントリーとなるX1は2010年に誕生した。初代モデルは縦置きの後輪駆動であることが特徴だったところ、2代目からは横置きの前輪駆動なり、今回の3代目では、BMWのスモールコンパクトセグメント初の完全BEV(バッテリ電気自動車)である「iX1」の設定が最大のポイントとなる。

 発売当初に日本に導入された「iX1 xDrive30」は、最高出力140kW(190PS)、最大トルク247Nmの同じ電気モーターを前後に搭載したAWDとなり、システムトータルでは同200kW(272PS)、494Nmというスペックを実現しており、同150kW、300Nmの2.0リッター直4ガソリンターボを搭載する「X1 xDrive20i」をだいぶ上まわっている。0-100km/h加速は5.6秒となかなか速い。ボディ床下に66.5kWhのリチウムイオンバッテリを搭載し、WLTCモードでの最大の走行可能距離はセグメント最長の465kmに達している。

 本稿執筆時点では、モダンかつエレガントな「xLine」とスポーティな「M Sport」の2タイプのデザインラインが698万円という同一の車両価格でラインアップされている。ガソリン車の「xDrive20i」が586万円、少し遅れて追加されたディーゼル車の「xDrive20d」が606万円となっているが、補助金等を考慮すると大差はなくなるので、本当にお好みで選べることになる。

 エクステリアデザインはエンジン車と基本的に共通ながら、フロントの印象的な真四角で大きなキドニーグリルの内側は、BEVゆえふさがっている。最新のBMWデザインの意匠を採用したというアダプティブ LED ヘッドライトも、やはり印象的だ。

今回試乗した「iX1 xDrive30」のボディサイズは4500×1835×1620mm(全長×全幅×全高)、ホイールベースは2690mm。フロア下にリチウムイオンバッテリを搭載し、容量は66.5kWh。一充電あたりの走行可能距離は465km
エクステリアでは大型なキドニーグリル、環状のシグネチャーを2回繰り返すツインサーキュラーを進化させたアダプティブLEDヘッドライト、立体的なLEDリアコンビネーションランプなどを特徴とする
足まわりは18インチホイールにコンチネンタル「EcoContact 6」(225/55R18)の組み合わせ
最高出力140kW(190PS)、最大トルク247Nmを発生する電気モーターを前後輪に持ち、システムトータルの最高出力は200kW、最大トルクは494Nm

 パッと見た感じ、BEV化により車内のどこかのスペースが削がれるなどの影響を受けた印象はない。ラゲッジスペースは、エンジン車が540~1600Lであるのに対し、BEVのiX1はフロア下の作りの違いなどにより、490~1495Lとやや小さくなっているが、十分な広さが確保されていて使い勝手に不満はない。リアシートはいずれも40:20:40の3分割可倒式となっている。

インテリアではメーターパネルとコントロールディスプレイを一体化したBMWカーブド・ディスプレイを採用したほか、シフトレバーを廃止し、センターアームレストに操作系を全て納めることでモダンな印象を高めた。後席は大人3名が座れる空間を確保すると共に、40:20:40分割可倒シートを採用

BOOST機能がおもしろい!

 いまどきの欧州製SUVは、コンパクトクラスでも幅が大きなものが増えた中にあって、全幅が1835mmにとどめられたのは日本のユーザーにとってはありがたいことだ。4500mmという全長のわりに長めの2690mmというホイールベースは、居住空間の確保やバッテリの積載の面でも有利だろう。全高および最低地上高はエジンン車よりも何らかの理由で微妙に小さい数値となっている。

 眼前にBMW カーブド・ディスプレイが並び、シフトレバーがなくスイッチになっていたり、iDriveコントローラーのなくなった車内の雰囲気は基本的にエンジン車と同じだが、BEVとして必要な情報が表示されるようになっているのはもちろん、始動時には印象的なサウンドの演出とともにシステムが目を覚ますのもBEVならではである。エントリーモデルでありながら高い質感が与えられていることにあらためて驚く。

 ガソリン車でもその完成度の高さ感心したばかりだが、BEVのiX1はさらに洗練度では上まわっている。この静かでなめらかで上質な走りとリニアなレスポンスを内燃エンジンで実現するのは至難の業に違いない。

 加速は極めて俊敏で力強い。アクセル操作に対して多少のショックを許容しているのは、耐久性にも十分に配慮した上でのことだろうが、その方がダイレクト感や速さを体感できるからだろう。Bレンジにするとほぼワンペダルドライブ状態となる。

 おもしろいのが、独自のBOOST機能だ。ステアリングホイールの左側だけ「BOOST」と書かれたパドルがあり、引いてONにすると10秒間だけ一時的にアクセルレスポンスとパワー感が高まり、まるで加速装置を作動させたかのようにドーンと加速する。もちろん電費面ではよろしくないし、何度もずっとONにし続けているとそのうちセーフモードに入ってしまうのかもしれないが、取材時には暑い中でけっこうな回数を試しても問題なく連続使用できて楽しめたことをお伝えしておこう。

ステアリングホイールの左側に「BOOST」と書かれたパドルが用意される

BEVとしての強み

 車両重量は2030kgと、ガソリン車の「X1 xDrive20i」よりも400kg近く重いにもかかわらず、そうとは思えないほどドライブフィールは軽やかだ。バッテリを居室の下に敷き詰めたことで重心が低く、前後重量配分も車検証によると前軸重が1030kg、後軸重が1000kgとバランスがよいこともあって、より動きが素直で正確に応答する質の高いハンドリングを実現しているのもBEVとしての強みだろう。

 試乗した「xLine」は18インチタイヤを履き、アダプティブダンパーは付かないが、2tを超える車体を支えるために足まわりもそれなりに強化されているはずだ。そのせいかときおり荒れた場所などでは路面への感度の高さを感じるシーンもなくはなかったものの、足まわりはそこそこよく動いて乗り心地も概ね快適にまとまっている。そういえば、X1やiX1にはランフラットタイヤが標準装着されていないのだが、それも少なからず効いているに違いない。

 ドライブモードの選択により、走りと車内のビジュアルやアンビエント、空調等の設定をより多くのバリエーションから好みに設定することができるのもおもしろい。装備面では、BMWのエンジン車にあるパーキングベンチレーション=換気ではなく、BEVの強みで冷暖房が使えるパークエアコンという機能が装備される点も強み。また、BMWならではのリバースアシストという機能も、BEVだとより動きがスムーズになる。さらには、エンジン車ともどもエントリーモデルながら、運転席のアクティブシートのバックレストに備わったランバーサポートをいろいろ調整できるほか、背中の下部をマッサージする機能まであるのもありがたい。

 ガソリン車のX1もよかったが、BEVのiX1はいろいろな面でさらによかった。BMWはエントリーモデルでもここまでやるのかということにも驚いただけでなく、このところ増えてきた同等クラスのBEVの中でも、多くの面で一歩リードしているように感じられた。

岡本幸一郎

1968年 富山県生まれ。学習院大学を卒業後、自動車情報ビデオマガジンの制作、自動車専門誌の記者を経てフリーランスのモータージャーナリストとして独立。国籍も大小もカテゴリーを問わず幅広く市販車の最新事情を網羅するとともに、これまでプライベートでもさまざまなタイプの25台の愛車を乗り継いできた。それらの経験とノウハウを活かし、またユーザー目線に立った視点を大切に、できるだけ読者の方々にとって参考になる有益な情報を提供することを身上としている。日本自動車ジャーナリスト協会会員。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。

Photo:安田 剛