試乗記

日産「GT-R Premium edition T-spec」試乗 高精度重量バランスエンジン部品を採用した2025年モデルの熟成を味わう!

GT-R Premium edition T-spec:2035万円

GT-Rの2025年モデルの「Premium edition T-spec」を試乗する機会を得た

NISMO Special editionと同じ高精度重量バランスエンジン部品を採用

 ひさびさにドライブした日産「GT-R」は、2025年モデルの「Premium edition T-spec」だ。大きな変更のあった2024年モデルですでにやりきった印象もあったが、2025年モデルでは、これまで「NISMO Special edition」のみの特権だった「高精度重量バランスエンジン部品」であるピストンリング、コンロッド、クランクシャフト、フライホイール、クランクプーリー、バルブスプリング(吸気)、バルブスプリング(排気)を採用したのが注目すべきポイントだ。

 また、エンジンルーム内に赤文字で匠の名が刻まれたアルミ製ネームプレートと、ゴールドのモデルナンバープレートが配された。

ボディサイズは4710×1895×1370mm(全長×全幅×全高)、ホイールベースは2780mm、車両重量は1760kg、最小回転半径は5.7m
GT-R Premium edition T-specのボディカラーは、試乗したアルティメイトメタルシルバーのほかに、ブリリアントホワイトパール、ダークメタルグレー、メテオフレークブラックパール、ミッドナイトパープル、ミレニアムジェイドの計6色を設定

 T-specは2024年モデルでは計100台限定の特別仕様車だったところ、2025年モデルも生産に限りがあることには違いなさそうだが、一応カタログモデルになった。Premium edition T-Specの価格は2035万円と値上がりして、2000万円を超えたのも印象的だ。

 2024年モデルで採用された、空力性能を向上させる新しいデザインの前後バンパーやリアウイングを初めて目にしてもうすぐまる2年が経過するが、めったに見かけることがないせいか、いまだに新鮮に感じられる。

 専用にカラーコーディネートされたコクピットも、慣れ親しんだデザインながらひとあじ違った雰囲気がある。カーボンセラミックブレーキや鍛造ホイールなどの特別装備が与えられており、サスペンションチューニングも専用となる。

オプションの専用レイズ製アルミ鍛造ホイールが標準装備となる。サイズはフロントが20インチ×10Jのインセット+41、リアが20インチ×10.5Jのインセット+25、カラーはブロンズ。また、専用カーボンセラミックブレーキ(NCCB:Nissan Carbon Ceramic Brake)も標準で装備。フロントがブレンボ製モノブロック対向6ポッドキャリパー(φ410mmフルフローティングドリルドローター)、リアがブレンボ製モノブロック対向4ポッドキャリパー(φ390mmフルフローティングドリルドローター)となる
フロントホイールが通常モデルの9.5Jよりも太い10Jとなるため、専用の拡幅フロントフェンダー(後部アウトレットダクト付き)が標準装備となっている
全グレードマフラーはFUJITSUBO製チタン合金製マフラーを採用
LED式ハイマウントストップランプ付きリアウイングは全グレード標準装備
テールにはT-spec専用バッヂがあしらわれる

レスポンスとスムーズさが向上

 エンジンを始動すると、新車外騒音規制対応の新構造マフラーの採用により2023年モデル以前に比べて控えめになったアイドリング音が、あらためて印象深く感じられる。しばらく走ってみると、すでに十分すぎるほど圧倒的なVR38DETTの最高出力や最大トルクに変化はないものの、もともと素晴らしかったエンジンフィールがさらによくなっているように感じられた。

内装はPremium edition T-spec専用で、ブラックを基調に専用コーディネーションが施されるほか、インストパネルとサンバイザーはアルカンターラ仕様。本革巻ステアリングも専用色で、ベロアメッキステアリングエンブレムとアルミフィニッシャー付き
前席は本革とパールスエードのコンビシート
センターコンソールやスカッフプレートにも「T-spec」専用プレートや文字が刻まれる

「高精度」の部品の採用が伝えられたとおり、走りの精度感も高まり、瞬発力とともに吹け上がりのなめらかさが増している。踏み込むとどこからでも加速装置のように強力にブーストして力強く吹け上がり、トップエンドにかけて頭打ちになることもなく、むしろ勢いを増すかのように伸びやかに加速していく。レスポンスとスムーズさが向上したことで、大排気量のV6と大容量のターボチャージャーとの組み合わせが、より大きな相乗効果を発揮しているように思えた。

ゴールドのT-spec専用カバーが配されたV型6気筒3.8リッターツインターボエンジン「VR38DETT」は、95.5×88.4mm(ボア×ストローク)で圧縮比は9.0。最高出力419kW(570PS)/6800rpm、最大トルク637Nm/3300-5800rpmを発生。そこに6速DCT(デュアルクラッチトランスミッション)が組み合わせられる。WLTCモードでの燃費は7.8km/L、ガソリンタンクの容量は74L
「GT-R Premium edition T-spec」と「GT-R Track edition engineered by NISMO T-spec」のみ、赤文字で匠の名が刻まれたアルミ製ネームプレートと、ゴールドのモデルナンバープレートをエンジンルームに採用する

 エキゾーストサウンドについても、絶対的な音量を抑えつつもアクセルを踏み込むと加速に合わせてサウンドが巧みに変化して、いかにも高性能車をドライブしているという高揚感をこれまでどおり味わえるところもいい。

 Rモードを選択すると過激になるというよりも、隙間を詰めて走りの一体感が増すので、公道でも乗りやすくダイレクト感のある走りを味わえるようになる。アクセルオフでパンパンいうような演出はGT-Rらしくない気もするが、イマドキの高性能車としてはあったほうがいいということだろう。

足まわりのよさを再確認

T-specには専用にチューニングしたサスペンションが装着されている

「T-spec」の「T」というのは、時代を牽引するクルマであり続ける「Trend Maker」でありたいという思いと、しっかりと地面を捉え駆動する車両「Traction Master」であるという考えにもとづいている。

 メインで試乗した箱根のワインディングで感じた、アンジュレーションを越えたときにタイヤが路面にしなやかに接地して粘りながら路面に押しつけるような感覚は、まさに「Traction Master」にほかならない。

 T-specには専用にチューニングしたサスペンションのほか、NISMO用の色違いレイズ製アルミ鍛造ホイールやカーボンセラミックブレーキが標準装備されるが、これらにより足まわりはひきしまっているのによく動き、バネ下が軽く、路面にタイヤを上手く追従させて車体をぶれさせることなくフラットな姿勢を保つ。

 段差や凹凸を乗り越えたときに“ガツン”とくる衝撃や音もよく抑えられている。快適で上質なドライブフィールは、歴代GT-Rの中でも際立っている。軽快でスッキリとした回頭感もかつてなかったものだ。

軽快でスッキリとした回頭感軽快でスッキリとした回頭感を実現している

 サスペンションをコンフォートモードにすると、さらに快適な乗り心地となるが、一方のRモードでワインディングを走っても乗り心地は硬くない。むしろ、俊敏さとダイレクト、ガッチリ路面を捉える感覚が増して、それはそれで好みだ。

 圧倒的に速くて安定しているが、乗せられているかのような感じと評されていた従来とは違って、重さ感が薄れ、意のままに操れる感覚が増してきたのもGT-Rの深化の1つ。

 ともすると安定しすぎているとつまらなくなりそうなところ、GT-Rはそうじゃないところも偉い。刺激的でありながら安定して走れて安心感もあり、そこに絶大なドライビングプレジャーがあり、そのレベルが年々引き上げられて、洗練度も増してきたというニュアンスだ。

最新のGT-Rは意のままに操れる感覚が増したように感じた

 その上でT-specは、路面をなめるようにとはいわないまでも、GT-Rなのにこれだけ快適に気持ちよく走れて上質さを味わえるところがたいしたものだ。フル転舵でターンするときのガガガというデフの引きずりも気にならなくなり、より扱いやすくなっている。

 究極のドライビングプレジャーを追求するというコンセプトのもとに開発され、2007年に誕生して17年が経ち、本質を受け継ぎながらも別物のクルマになった最新のGT-Rを、もうこれ以上やることなどないのではと思っていたのだが、こうしてしっかり深化と進化をとげてきたことに感銘を受けた。

 すでに最終章を迎えていることには違いないが、依然として存在感は大きく、最後の最後までまだまだ何かやってくれそうで、興味は尽きない。

17年間、深化と進化をとげてきたGT-Rへの興味は尽きない
岡本幸一郎

1968年 富山県生まれ。学習院大学を卒業後、自動車情報ビデオマガジンの制作、自動車専門誌の記者を経てフリーランスのモータージャーナリストとして独立。国籍も大小もカテゴリーを問わず幅広く市販車の最新事情を網羅するとともに、これまでプライベートでもさまざまなタイプの25台の愛車を乗り継いできた。それらの経験とノウハウを活かし、またユーザー目線に立った視点を大切に、できるだけ読者にとって参考になる有益な情報を提供することを身上としている。日本自動車ジャーナリスト協会会員。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。

Photo:高橋 学