試乗記

「MX-30 Rotary-EV」でロングドライブ ロータリーエンジンなどマツダらしいチャレンジの塊だった

シリーズ式プラグインハイブリッド「MX-30 Rotary-EV」に試乗

ロータリーエンジンの新たな可能性に挑戦するマツダ

 マツダ「MX-30」はユニークなSUVクーペだ。RX-8以来の観音開きの後部ドアを持ち、マイルドハイブリットから始まり、BEV(バッテリ電気自動車)、そしてマツダの宝とも言えるロータリーエンジンを発電用エンジンとしたレンジエクステンダーを投入して、常に技術のアンテナを張っている。

 久しぶりにそのレンジエクステンダーを引っ張り出してみた。発電用エンジンとして開発されたロータリーエンジンは16Cを1ローター化した8Cになる。なじみある13Bと比較すると1ロータリーあたりの排気量が大きいために外径もひとまわり大きいが、ローター幅の薄い8Cはモーターの横にピッタリ納まる。ロータリーエンジンは小排気量/大出力、しかもコンパクト。しかもエンジン始動時の振動は皆無だ。発電機としてのロータリーエンジンの新たな可能性に挑戦するのもマツダらしい。

 搭載バッテリは17.8kWhのリチウムイオン電池。EVモードではデータ上107kmを走れる。充電は普通/急速とも揃った充電口を持ち、シリーズ式プラグインハイブリッドという位置付けになる。

今回試乗したのは2023年9月に受注を開始したシリーズ式プラグインハイブリッド「MX-30 Rotary-EV」。特別仕様車を含め4グレード展開のうち、今回は「Modern Confidence」(490万6000円)に試乗。ボディサイズは4395×1795×1595mm(全長×全幅×全高)、ホイールベースは2655mm
足下は18インチホイールにブリヂストン「TURANZA T005A」(215/55R18)をセット

 エンジン出力は53kW/112Nm。モーター出力は125kW/260Nmで、PHEVとしては軽い1780kgの車体を走らせる。カタログ値の燃費は15.4km/L。50Lのガソリンタンクからは単純計算で770km走れる。装着タイヤはブリヂストン「TURANZA T005A」(215/55R18)で転がり抵抗とグリップのバランスを取ったタイヤを履く。

発電用の水冷1ローター830cc「8C-PH」型エンジンは最高出力53kW(72PS)/4500rpm、最大トルク112Nm(11.4kgfm)/4500rpmを発生。MV型モーターは最高出力125kW(170PS)/9000rpm、最大トルク260Nm(26.5kgfm)/0-4481rpmを発生。107kmのEV走行が可能なほか、ハイブリッド燃費は15.4km/L

 着座姿勢はやや高めで直前視界は良好、ただしAピラー位置が前方で斜め前方視界は少し煩わしい。またクーペスタイルで左斜め後方に死角もあるが、バックビューモニターで確認することが常態化しているので実用上の不便はあまりないだろう。

 一方でナビが映し出されるディスプレイはマイナーチェンジ前までは1世代前のもので小さい(2024年のマイナーチェンジで10.25インチディスプレイとなった)。

 フリースタイルドアは使い方次第だ。例えば後席にかさ張る荷物を積みたい時はクーペスタイルでは通常のドアでは制約が出てしまうが、観音開きのドアだと比較的容易に行なえる。発表当初に言われた車椅子の収納などはその一例だ。

フリースタイルドアを開閉したところ

 後席のスペースは見た目以上に広く、平均身長の大人が無理なく座れる。座面の前後長も長いので座り心地もわるくない。メリットの半面、前ドアを開けないと後ろドアを開閉できないなどのデメリットもある。

「Modern Confidence」のインテリア。走行モードは「ノーマルモード」「EVモード」「チャージモード」の3種類を用意

独特のロータリーサウンド

高速~市街地でMX-30 Rotary-EVに試乗

 発進加速は滑らか。大型電池を搭載したBEVのような強烈な加速力はないが、滑らかでいつのまにか速度が乗っている感触だ。市街地ではソツない走りで都市の交通に程よく溶け込む。

 乗り心地は荒れた路面を通過する際に少し後ろ脚がバタバタするが、それ以外は滑らかで、高速でのクルージングもクルーズコントロールに任せてリラックスして走れる。ホイールベースは2655mmとこのクラスのSUVクーペとしては標準的だが、床下の重いバッテリのために安定性は優れている。

 高速ではまた違った経験をすることができた。試乗中、豪雨となり容赦なく視界をふさぐほどになったが低重心で1780kgの重量、それに水はけのよいタイヤのおかげで予想以上に安定性が高かった。MX-30 Rotary-EVの新しい発見だ。過信は禁物だが雨の中でもマージンが大きいのはありがたい。一方、ドライ路面ではステアリングのスワリがもう少しほしいところ。

雨に中でもマージンが大きいのは予想以上

 ステア特性は弱いアンダーステアを保っておりワインディングロードでも落ち着いている。ロールやピッチングに不満はないものの、もう少しマツダが作るSUVクーペらしいドライビングプレジャーがほしい。

 注目の8Cロータリーは駆動には関与しないので通常ではあまり始動しないが、バッテリが不足したり大きな電流を必要にしたりする時は独特のロータリーサウンドをあげてまわり出す。そのサウンドはキャビンでも耳に入るが、かつてサーキットで響かせた甲高い音ではなく低周波の音圧の高い音だ。ブーンといえば近いだろうか。そして始動時の振動は皆無なのもロータリーならではだ。

 MX-30 Rotary-EVはもちろん充電口を持っている。構造上、電気を使い果たすことはないので普通充電でも一晩で充電できるので、通勤などの使用は電気だけで賄える。

充電シーン

 PHEVとしての燃費は11km/Lから18km/Lのゾーンを行き来する。郊外路から市街地、高速道路を3名乗車、荷物満載(積載量は限られる)で走りまわった結果は16.5km/Lだったので肌感覚では燃費はわるくないと感じた。PHEVの本領は市街地はEVとしてバッテリを使い、長距離はロータリー発電機のサポートで走るというものだからバッテリサイズも理にかなっている。

 かなり長い時間付き合ってくれたMX30 Rotary-EVはマツダらしいチャレンジの塊だった。返却時には同じ時間を共有した相棒のような親しみが湧いてきた。ユニークなキャラクターゆえに販売台数は少ないが、欧州での評価も高いマツダらしいSUVクーペである。

マツダらしいチャレンジの塊だったMX-30 Rotary-EV
日下部保雄

1949年12月28日生 東京都出身
■モータージャーナリスト/AJAJ(日本自動車ジャーナリスト協会)会員/日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員
 大学時代からモータースポーツの魅力にとりつかれ、参戦。その経験を活かし、大学卒業後、モータージャーナリズムの世界に入り、専門誌をはじめ雑誌等に新型車の試乗レポートやコラムを寄稿。自動車ジャーナリストとして30年以上のキャリアを積む。モータースポーツ歴は全日本ラリー選手権を中心に活動、1979年・マレーシアで日本人として初の海外ラリー優勝を飾るなど輝かしい成績を誇る。ジャーナリストとしては、新型車や自動車部品の評価、時事問題の提起など、活動は多義にわたり、TVのモーターランド2、自動車専門誌、一般紙、Webなどで活動。

Photo:安田 剛