試乗記
トヨタの進化型GRカローラを雪上走行、制御がアップデートされた4WDシステム「GR-FOUR」やABS性能を体感
2025年2月21日 13:30
苗場スキー場で行なわれたTOYOTA GAZOO Racingの雪上試乗会
2025年シーズンも苗場スキー場の一画で行なわれたTOYOTA GAZOO Racingの雪上試乗会は、なんと映画「私をスキーに連れてって」で登場したST165型セリカGT-FOURのデモランから始まった。ルーフには昔懐かしのスキーキャリアを搭載。おまけに映画で登場したSALLOTの板まで積んである。そんなセリカがラリードライバーの勝田範彦選手の手により、映画さながらの走りを展開してくれた。
それが終わると今度は勝田選手が進化型GRカローラに乗り、同じ広場をデモラン。今度はキビキビとした身のこなしと、手足のようにクルマが応答していることがうかがえる。もちろん、この2台には38年ほどの差があるのだから当然といえば当然なのだが、いずれにしても今回の試乗会の目玉となる進化型GRカローラは相当に期待できそうだ!
数多くの点が進化した進化型GRカローラ
進化の内容は実に細かい。まずフットワーク系においては、スタビライザーのレートとダンパー減衰力を落とし、スプリングレートは高く設定。コイルスプリングの仕事分担率を8%ほど多くしたとのこと。スプリングは自由長を合わせるために2ステージ化しているところが見た目にも理解しやすいポイントだ。
なお、ダンパーはリバウンドスプリング付きに変更。伸び側を規制してジャッキダウン現象を利用し、内輪の接地変化を少なくすることで、高速コーナーにおける安定性の向上につながったという。
さらに、リアのトレーリングアームの回転中心を30mm上げ、アンチスクワットを少なくしている。リアの沈み込み量が減ることで、フロントの荷重抜けも小さくなったとのこと。これはFF用のブラケットとトレーリングアームを用いることで達成している。ただ、これを行なうとロールしたときにトーインがキツくなる傾向になるので、ロアアームのフロント側の取り付け点を5mm引き上げてその動きをキャンセル。これは穴位置の加工を変更することで対処している。既存のパーツと加工変更という最小限のコストで、少しでも進化させようとしたところはさすがだ。
また、ABSについてもメスが入れられた。上下Gセンサーを使い、ジャンプしそうな状況においてABSが介入しすぎて制動距離が伸びてしまうことを防止したのだ。荒れた路面での制動がどう変化しているかは楽しみだ。
細かなところではボルト類を改めている。ステアリングコラムボルトはワッシャー径をφ20からφ22溝付きに。 フロントロアアームとナックルを取り付けるボルトフランジにリブ追加。リアアブソーバーとボディ取り付けボルトのフランジ厚さを2.1mmから3.1mmに厚くしている。これにより、さらに一体感ある動きになっているそうだ。
一方、パワートレーンは先に登場した進化型ヤリスと同じになったといっていい。エンジントルクは30Nmアップの400Nmを達成。中間域のトルクを太らせたことで、ワインディングやミニサーキットでは効果を発揮してくれそうだ。
また、8速ステップATのGR-DATも進化型GRカローラに搭載された。クルマのキャラクターを考えればこれは待っていた人も多いはず。これらを搭載するにあたり、右フロントにはサブラジエータを、左フロントにはトランスミッションクーラーを搭載。冷却系をセットするために開口部を大きくしているが、それによりテスト時にはニュートラル付近におけるステアリングの甘さが出たという。そこに対処するためにL字の段差をバンパーに備えることで空力を改めて直進安定性を改善している。
ST165型セリカでは4WD機構の訴求にGT-FOURと呼んでいたが、現代はGR-FOURと名付けられている4WDシステムにもメスが入れられた。今回は進化型GRヤリス同様、Trackモードを50:50の固定から60:40~30:70になる可変モードに変更したところが目新しいポイント。Gravelは50:50になり、REARの30:70は廃止となった。
新型GRカローラをツイスティな雪上走行で確認する
というわけで、実は何から何まで進化が見られる進化型GRカローラを、ツイスティな雪上ワインディングで試すことになった。まずは8速GR-DAT仕様に乗り込み、Trackモードで走ってみる。
GRヤリスより200kg、GRカローラのMT仕様よりさらに20kgもフロントが重たいにも関わらず、狭いワインディングをニュートラルに駆け抜けて行くから面白い。特にアクセルオンでクルマの姿勢をコントロールできるところはマル。2024年に以前のモデルで走ったときには重量ばかりが悪目立ちしているようにも感じたが、そんなこともなくなった。トルクが増して低速からのピックアップがよくなったことも効いているのだろうし、可変する4WDシステムもよい方向に動いているように感じる。
もちろん、Gravelを選び一定したステア特性とし、無理に曲げて行くほうが先読みしやすいし、トラクションもよく前に出る感覚はあるが、一般的に乗るのであれば可変はありがたい。
ノーズがインにストレスなく向く感覚は心地いい。その後、ちょっとしたジャンピングスポット(というほど大袈裟なものではないが)において、あえてABSをフル作動させてみた。すると、たしかに接地を失った直後であったとしても、ABSが液圧を減圧することなく、路面にタイヤが噛み込むかのように減速してくれるから不安感はない。これは安心して攻め込めそうだ。
ただ、続いて乗ったMTモデルではさらにノーズがインに向いてくれる感覚にあふれていた。フロント側のたった20kgではあるが、その大半がオーバーハングにあるとなれば効果は絶大。やはりMTモデルのほうが旋回性は高いことは紛れもない事実だ。できるなら、コーナー進入側はTrack、立ち上がり側はGravelみたいな制御になってくれたらとも思うが、それは次のお楽しみにしておきたい。
最後は別の高速コースでGRヤリスを走らせる。やはり軽さは絶大だし、ホイールベースが80mmも短いことで、軽快な身のこなしが感じられる。走りに徹するならコチラかもしれない。しかしながら轍が多くアップダウンやμ変化が連続するシーンでは、まっすぐ走らせることに必死になる場面もあった。このクルマでは可変のTrackよりも、Gravelの53:47の固定配分が快適に感じる。もちろん、コーナーのターンインだけは可変一択なのだが……。
さらに、ステアフィールがGRカローラに対して薄く、ABSもジャンピングスポットの後は制動が伸びる傾向にある。2024年は進化型GRヤリスが先行していたが、いまは進化型GRカローラのほうが一歩リードといった感じだ。
今回の制御をはじめとした各種のネタはきっとGRヤリスにも投入されると思われるが、少しでも早くそれが展開されることを願うばかり。それは新型車だけでなく既存のユーザーに対してもだ。
法規の問題などもクリアしなければならないため、すべてを既存ユーザーに提供することは難しいかもしれないとのことだが、それを実行するために開発陣は検討をしているという。少しでもよいものをユーザーに提供しようというGRの今後の姿勢にも注目だ。