インプレッション

ボルボ「XC90(2016年1月フルモデルチェンジ)」

すべてが新しくなった

 このところパワートレーンの大改革を実施してきたボルボが、すべてを新しくして次のフェイズに入る。その皮切りとなる2代目「XC90」では、新世代プラットフォーム「スケーラブル・プロダクト・アーキテクチャー(SPA)」の採用、Drive-Eパワートレーン前提の開発、新世代ボルボ・デザインの導入、さらなるステップへ進化したインテリセーフという4つを柱に、すべてが新しくされた。

 なお、2016年初頭のデトロイトショーにおいて、XC90が「2016北米トラック&SUVオブ・ザ・イヤー」に輝いたことを、日本の読者諸氏にも念を押してお伝えしておきたい。

 新世代ボルボ・デザインは、それまでのボルボの既成概念を打破した2010年ごろからの流れからすると、むしろ控えめでコンサバな印象に戻ったように感じられる。ところが実車を目の当たりにすると、ディテールまで実に表情豊かに作り込まれていることが分かる。

 もう1つ、新世代ボルボでは理想的なプロポーションを実現できたと自負しているという。そこでのポイントは、前輪の車軸とAピラーの付け根までの長さにある。デザイナー氏いわく、FR車はそこが決まるからスタイリッシュであるのに対し、今までのボルボでは難しかったところ、新世代ではそれができていて、XC90はまさしくその第1弾になるという。

今回試乗したのはスーパーチャージャー付きの直列4気筒 2.0リッター直噴ガソリンターボエンジンを搭載する7人乗り(3列シート)の「T6 AWD Inscription」。トランスミッションは8速ATで、4輪を駆動する。オプションのエアサスペンションなどを搭載しており、ボディサイズは4950×1960×1760mm(全長×全幅×全高。標準サスペンションでは15mm高くなる)、ホイールベース2985mm。ボディカラーはクリスタルホワイトパールメタリック。車両本体価格は909万円
「T6 AWD Inscription」に標準装備される9.0J×20サイズの10スポークアルミホイール(タイヤサイズ:275/45 R20)
「T6 AWD Inscription」ではT字型ポジションライト、ヘッドライト、フロントフォグランプ、テールランプともにLEDを採用
こちらは22インチアルミホイール(タイヤサイズ:275/35 R22)、専用グリルなどが与えられる「T6 AWD R-DESIGN」。車両本体価格は879万円

 インテリアも、これまでの一連のボルボ車と雰囲気が一変した。デザインのテイストが新しくなるとともに、クオリティ感が飛躍的に高まった。用いられている木やアルミニウムの素材感も独特だ。また、初代XC90はボルボがフローティングセンタースタックを採用する前に登場したわけだが、新しいXC90でも採用されていない。ということは、新世代ボルボではフローティングセンタースタックを採用しないということなのだろうか。

 インフォテイメント系では、スイッチが8個にとどめられているのが特徴的だ。操作系を極力シンプルにするというのは、最近では他メーカーでも見受けられる傾向だが、ボルボでも採り入れる方針のようだ。

インテリアカラーはチャコールで、アンバーカラーのシートは「T6 AWD Inscription」に標準装備となるパーフォレーテッド・ファインナッパレザーを採用
本革巻きのステアリングホイール。「T6 AWD Inscription」ではステアリングヒーターを標準装備
オレフォス(Orrefors)製のクリスタルを組み合わせるシフトノブ。トランスミッションは全車8速ATを組み合わせる
センターコンソールにはカップホルダーが備わるほか、エンジンのON/OFFとドライブモードを切り替え可能なスイッチにはダイヤモンド型の刻みが施される
オプション設定の大型パノラマ・ガラス・サンルーフ
こちらもオプション設定のBowers&Wilkinsプレミアム・サウンド・オーディオシステム(1400W、19スピーカー)
4種類のカラーから選択できる12.3インチ大型液晶メーターパネル
本革シートと同じ素材を用いたキーケース
新型XC90では、赤外線方式のタッチスクリーンを備えた縦型の9インチディスプレイを全車標準装備。ナビゲーションや空調設定、ドライブモードの表示、各種車両設定などが行なえる。「Apple CarPlay」にも対応

 シートも大幅に進化して、形状が見直されたことで快適性が向上している。前後スライドやリフター、クッションエクステンションの長さなど、いろいろなものの調整幅がとても広いうえに、ランバーサポートやサイドボルスターも電動で幅広く調整できるので好みに合わせやすい。さらにはマッサージ機能も付く。

 後席はシアターレイアウトになっていて、2列目は3分割で、独立してスライド機能があるのは便利。中央席がインテグレーテッドチャイルドクッションとなっているのもボルボならではである。

3列シートレイアウトを採用
2列目の中央席はインテグレーテッドチャイルドクッション機能が備わる
2列目シートは40:20:40の3分割可倒式、3列目シートは50:50の分割可倒式。「T6 AWD Inscription」は2列目シートにもシートヒーターが標準装備される

 3列目へのアクセスについては、2列目の肩の部分を押し上げるとラクに乗降できるスペースが現れるので問題ない。3列目シートの対応身長が従来の160cmから170cmになったというだけあって、たしかに広くなっている。ヒール段差はそれほど高くなく、足の置き場は狭いものの、シート下に足が入るのでなんとかなる。大きめのアームレストやカップホルダーに加えて、3列目専用エアコンの吹き出し口があるのもよい。

 ラゲッジスペースは、3列目をたたむことでかなり広い空間が出来上がる。遅ればせながら、足の動作でテールゲートを開けられる機能がボルボとして初めて採用されたこともニュースだ。

2列目シートと3列目シートに座ってみたところ。3列目シートはタイトではあるが対応身長が従来の160cmから170cmになり、広くなったことが実感できる

4気筒エンジンでもこの走り

 ボルボは今後、排気量2.0リッター未満で4気筒以下のエンジンしか開発しない方針を明らかにしているのはお伝えしているとおり。ただし、ほかのモデルならまだしも、XC90になると少なからずインパクトがある。思えば初代XC90で用意された、ヤマハとの共同開発であることも話題となったV8エンジンからすると、気筒数は実に半分で、排気量は半分以下である。

 今回試乗した「T6 AWD Inscription」は、新しいT6エンジンを搭載する車種の中ではもっとも高いスペックが与えられており、むろん従来の直列6気筒3.0リッターターボのT6と比べてもパワー、トルクともに上回る。

スーパーチャージャー付き直列4気筒 2.0リッター直噴ガソリンターボエンジンは最高出力235kW(320PS)/5700rpm、最大トルク400Nm(40.8kgm)/2200-5400rpmを発生。JC08モード燃費は11.7km/Lだが、オプションのサンルーフ、エアサスペンション装着車は11.4km/Lとなる

 すでにT6エンジンを搭載した「XC60」にも乗っているので感触は掴んでいるが、今回XC90で走ってみて、ボルボがトップラインの90シリーズでもこれで問題ないと判断したことに、あらためて納得させられた思いである。

 踏み込みに対してレスポンスがよく、低回転域から力強いトルクを発するのは、さすがはスーパーチャージャー付き。高回転域にかけての吹け上がりもいたってスムーズで気持ちよい。軽量化を図ったとはいえ2tを超える車体をものともせず引っ張ってくれる。

 音については、さすがに6気筒や8気筒のようなわけにはいかないが、多くの人にとって現状でも大きな不満はないと思われるサウンドチューニングがなされている。

快適ながら気になるところも

 フロントにボルボ初のダブルウィッシュボーン、リアには温故知新のインテグラルアクスルを採用したシャシーの味付けもなかなかのもの。ボディへのボロンスチールの使用比率が全体の40%弱と非常に高いことも特徴だ。

 乗り心地はいたって快適そのもの。ダイナミックとコンフォートを選べる電制サスペンションは選んだとおりに乗り味が変わるが、どちらを選んでも快適であることに変わりはない。大柄ながらクルマの動きがとても素直で分かりやすく、操縦感覚としてはそれほど大きさを感じさせない。

 ただし、少し気になったのは音と微振動だ。不快というほどではないが、少し全体的にワナワナすることをとくに後席で感じた。また、パワートレーン系から発せられる音はよく抑えられているものの、フロアから伝わってくる音はやや大きめ。このあたりはボロンスチールの使用比率が高いことが少なからず影響していそう。加えて、大きめの段差を乗り越えたときにリアでやや早めに底付きを感じた。

 一方で、3列目はそれなりだろうとたかをくくっていたのだが、前述したようにそこそこ広いことに加えて、乗り心地も2列目に近い雰囲気に仕上がっていたことが印象的。これはかなり頑張ったといえそうだ。

 ところで、今回の試乗車はエアサス仕様だが、カーボン配合リーフスプリングという仕様もある。機会があればぜひ乗ってみたい。

 新採用されたパイロットアシスト機能も試してみたところ、非常に重宝することを実感した。ロングドライブで確実にドライバーの負担を減らしてくれるはずだ。

 このところ何が起こっているのかと思わずにいられないほど、ボルボ車には驚かされることが多かったが、それはXC90も同様だった。XC90から始まる新世代ボルボが、大いに期待できるものであることを確信した次第である。

岡本幸一郎

1968年 富山県生まれ。学習院大学を卒業後、自動車情報ビデオマガジンの制作、自動車専門誌の記者を経てフリーランスのモータージャーナリストとして独立。国籍も大小もカテゴリーを問わず幅広く市販車の最新事情を網羅するとともに、これまでプライベートでもさまざまなタイプの25台の愛車を乗り継いできた。それらの経験とノウハウを活かし、またユーザー目線に立った視点を大切に、できるだけ読者の方々にとって参考になる有益な情報を提供することを身上としている。日本自動車ジャーナリスト協会会員。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。

Photo:安田 剛