【インプレッション・リポート】
アルテガ「GT」

Text by 河村康彦



 

 「アルテガGT」なる新着輸入車をテストドライブした。え? それってどこのメーカーのクルマ?? と、そう訊ねられても無理はない。

 実は冒頭の“アルテガ”という部分がメーカー名。元々は自動車向け電子システム・サプライヤーの会長職に就いていたクラウス・ディター・フルーレスなる人物が、2006年にドイツに設立したのがこのメーカーの起源であるという。

 そんなこのブランドの具体的な作品が初めて陽の目を見たのは、2007年のフランクフルト・モーターショーの舞台。出展された2シーター・ミッドシップモデル「GTクーペ」が、何とも抑揚に富んだ大胆かつスポーティなスタイリングの持ち主であったことは、そのスタイリングを手掛けたのがかつてはBMW「Z8」やアストンマーティン「DB9」「DBS」などを担当し、現在ではアメリカで独自の高級プラグイン・ハイブリッドモデルを生産するフィスカー・オートモーティブを率いるヘンリック・フィスカーと聞けば、思わず納得! でもある。

 同社は、実はその後の2011年ジュネーブ・モーターショーで、GTをベースにEVバージョン化した「アルテガSE」も正式に発表済み。設立早々にしてそんなモデルを手掛けることができた点に、今では“電動化”の先駆者でもあるフィスカー氏がデザインを担当したこととの関係性が感じられるものでもある。

 前出設立者であるフルーレスが去り、現在ではポルシェやBMWで新型車の開発を担当した経歴の持ち主というペーター・ミューラーが社長となったアルテガ。ちなみに「アルテガ」というのは造語で、英語表記の「ARTEGA」の中に「ART」の文字が含まれるように、芸術や美術性を追求する、インスピレーションや情熱に溢れた会社であることを示したものでもあるという。

パワーパックはフォルクスワーゲン製
 そんなアルテガの最初の作品「GT」の、極めて大きなハードウェア上の特徴――それは、全長わずかに4mそこそこというコンパクトなスポーツカー・ボディが、アルミニウム材によるスペースフレーム式の骨格に、カーボンファイバーで補強されたポリウレタン素材(ボンネットフードとテールゲートはカーボンファイバー製)によるパネルを組み合わせた、強靭でありつつも極めて軽いものであるという点にある。

 実際、3.6リッターという排気量から最高300PSを発するV型6気筒エンジンを搭載しながら、その重量は乾燥状態でわずかに1132kgに過ぎないという。当然その動力性能は目覚しく、0-100km/h加速は4.8秒、最高速は270km/hと、まさにスーパースポーツカー級のデータをマーク。そんな軽さとミッドシップ・レイアウトということから、開発にあたっては同様の特徴を持つポルシェ・ケイマンがひとつのベンチマークとされたとも伝えられる。

 そんなアルテガGTが搭載するトランスミッションは、6速仕様のデュアルクラッチ式のみ。先に紹介の3.6リッター・エンジンと合わせてこのモデルに搭載されるそうしたパワーパックは、実は「フォルクスワーゲンから供給されているユニット」という点もトピックだ。

 300PSと350Nmという最高出力/最大トルク値からも想像が付くように、実はこのエンジンの出力スペックは、かつての「パサートR36」などフォルクスワーゲン車に搭載されたものとほぼ同一の内容。この種の少量生産スポーツカーにありがちなさらに過激な専用チューニングが施されなかったのは、このパワーパックをアルテガが譲り受ける条件として「独自のチューニングは施さない」というフォルクスワーゲンとの約束事が課せられているためという。

 それでも、先に紹介の動力性能データを知れば、それが一級のスポーツカーとしても十分満足に足るものであることは明らか。むしろ、どうしても整備拠点数の限られてしまうこうしたモデルとしては、“汎用品”を用いることで高い信頼性が得られるというメリットの方が大きいという考え方もできそうだ。

運転しやすいピュアスポーツカー
 いかにもピュアなスポーツカーらしい極めて低いポジションのシートに、ヒップポイントと同レベルの高さにレイアウトされたペダルに向けて「足を前方へと投げ出す」姿勢で腰を降ろす。そもそも左ハンドル仕様しか生産をされていないというのが残念だが、視界は想像と覚悟をしたほどわるくはない。

 いや、長いステーの先にマウントをされたドアミラーやルームミラーを介してのものも含め、全方向への視界はなかなか良好。後にワインディング・ロードへとでかけると、こうした視界がスポーツドライビングの際にも大きな助けになっていることを教えられた。

 さすがに、背後から耳に届くエンジンサウンドは“同エンジン”を搭載したフォルクスワーゲン車で体験したものよりも遥かに勇ましいが、フォルクスワーゲンでは「DSG」を謳うトランスミッションの制御も、「エンジン同様特別なチューニングは行っていない」という。

 結果として、街乗りシーンでも扱いづらい神経質さなどは皆無だ。車両重量が軽くウエイト/パワーレシオに優れているためか、微低速時のアクセル操作によるギクシャク感はわずかに目立つが、ブレーキをリリースした段階での“クリープ現象”もそのまま残されているので、慣れればスムーズに走らせることはたやすいはずだ。

 基本的な走りのテイストで唯一気になったのは、「中立付近で手応えに欠けるステアリング・フィール」だった。率直なところ、電動式パワーステアリングが生み出すそれは“ひと昔前のフィーリング”。直進位置での据わり感に欠け、動き出しの感触がプラプラとちょっと頼りない点だけは、一級スポーツカーとして物足りない。

 ただし、それはすでに開発側にも認識があるとのことだから、追って遠からずリファインが行われるはず、と期待したい。それを除けば、硬めだが荒さのない乗り心地や、ガタピシとした“低級音”を発することのないインテリアなど、手作りメーカーの作品にありがちないわゆる“際モノ感”が漂わないのもこのモデルの特長。

 ちなみに、フロントのトランクルーム容量は「ボクスター/ケイマンの半分程度」というのが実感。が、キャビン内シート後方にアタッシュケースなら数個が置けそうなスペースが確保されているので、「2人で数泊」程度の旅で困ることはなさそうだ。

思いのほかに真っ当な作品
 こうして、街乗りシーンでも“なかなか使える”ことがハッキリとしたアルテガGTだが、やはり本領を発揮するのはワインディング・ロードに到着してから。そこでは、まさに「水を得た魚」のごとくますます活き活きとした走りのテイストを提供してくれることになったのだ。

 前述のように、今ひとつスッキリとしないステアリング・フィールにより、決して「苦手」とは言わないものの、かと言って「大の得意科目」とは感じられなかったのが高速道路上での直進性。

 しかし、右へ左へとコーナーが連続するこうしたセッションでは、そうしたネガティブな面はもう気にならない。フロントの軽さが作り出すシャープな回頭感や、濡れた路面でもしっかりと加速の効く高いトラクション能力、後輪側もしっかりと仕事をしている感覚の伝わるバランスのよい制動感などが、何とも“よくできたスポーツカー”を操っている感覚をタップリと味わわせてくれるのだ。

 そんなこのモデルを「オーセンティックな3ペダル式のMTで乗ってみたいナ……」という気持ちも正直皆無ではないものの、しかしシフトワークは“人間業”を遥かに超越したシームレスで素早い作業を続けるデュアルクラッチトランスミッションに任せ、自らはステアリングとアクセル/ブレーキワークに専念するというのも、なかなか現代的で楽しい操縦感覚であることもまた確か。

 ちなみに、シフトをマニュアル操作しようとパドルに指を伸ばすと、その位置がかなり遠めであることに気がついた。ライトやウインカーのスイッチ類などと同様、これも「フォルクスワーゲン製のアイテムを譲り受けた」結果の仕業ということであろうか……。

 年産わずかに500台ほどの製造を行うに過ぎない、まだ創業5年にしかならない新興メーカーによる初の作品――そんな一報を耳にした時点では、そうしたところからどのようなクルマが生み出されるのかは正直不安の方が大きかったもの。

 しかし、いざ実際のモデルに触れてみれば、それが“思いのほかに真っ当な作品”であったことは、ここまで紹介して来たとおりの内容だ。「当分は、このモデルとその電動化版の2タイプのみで勝負を賭けて行く」というアルテガ。が、実際に見て乗った今の段階では、そんな戦略が世界の市場で軌道に乗り、さらなるアイディアとデザインに基づいた次期作品が誕生する時を、心待ちしたくもなるものだ。

 

全長×全幅×全高[mm]4015×1882×1180
ホイールベース[mm]2460
前/後トレッド[mm]1534/1570
重量[kg]1132
エンジンV型6気筒DOHC 3.6リッター直噴
ボア×ストローク[mm]89×96.4
圧縮比11.4
最高出力[kW(PS)/rpm]220(300)/6600
最大トルク[Nm/rpm]350/2500
トランスミッション6速デュアルクラッチAT「DSG」
駆動方式2WD(MR)
前/後サスペンションダブルウィッシュボーン
前/後ブレーキベンチレーテッドディスク
前/後タイヤ235/35 ZR19 / 285/30 ZR19
前/後ホイール8.0J×19/9.5J×19
定員[名]2
価格1189万円

インプレッション・リポート バックナンバー
http://car.watch.impress.co.jp/docs/news/impression/

2012年 3月 26日