【インプレッション・リポート】
アウディ「TT クーペ 1.8 TFSI」

Text by 岡本幸一郎


 センセーショナルな初代「TT」のイメージを残しながら、ひとまわりボディーサイズが大きくされ、内外装の質感も大きく向上するなど、上級移行をはたした2代目TTが登場したのは2006年のこと。

 早いもので、すでに執筆時点で約6年が経過しているわけだが、もうそんなに経ったのかと思わずにいられないほどで、このクルマは不思議なほど古さを感じさせない。都内では非常に見かける機会の多いクルマであり、昨今のアウディの好調ぶりを象徴する1台に違いない。

 人気の理由は、このユニークなデザインを楽しめることはもちろんとして、価格がそれほど高くなく、初代に比べるとスポーツカーとしての資質もかなり高められているものの、あまり本格的過ぎず、カジュアルに乗れるスポーツカーであるという程好いキャラクターが受けているからだろう。

パワートレーンを変更して大幅値下げ
 登場後には、「ロードスター」や「TTS クーペ」「TT RS クーペ」といった高性能版を加え、バリエーションの拡大を図った2代目TTだが、そのエントリーモデルとして、これまで用意されていたのは、直列4気筒DOHC直噴2リッターターボエンジンを搭載し、駆動方式がFFの「TT クーペ 2.0 TFSI」だった。

 そして、これに代わるモデルとして、エンジンをすでに「A3」などにも採用されている直列4気筒DOHC直噴1.8リッターリッターターボに換装した「TT クーペ 1.8 TFSI」が設定された。エンジンだけでなく、デュアルクラッチトランスミッション「Sトロニック」も6速から7速となり、クラッチを従来の湿式多板から乾式単板に変更。車両価格は、実に従来の1割強に相当する47万円もの値下げとなる414万円となった。

 それでいて装備は従来と同等の水準を維持しており、SDナビゲーションシステムやバイキセノンヘッドライト、スポーツシート、LEDターンシグナル内蔵の電動格納&調整式ヒーター付ドアミラーなどは標準で付く。けっして見かけ上の価格を安く見せるために装備を落とすようなことはしていない。

 ただし、実のところエンジンスペックはかなりダウンしている。これまでのTT クーペ 2.0 TFSIが搭載していたBWA型は、最高出力147kW(200PS)/5100-6000rpm、最大トルク280Nm(28.5kgm)/1800-5000rpmだったところ、TT クーペ 1.8 TFSIのCDA型は、最高出力118kW(160PS)/4500-6200rpm、最大トルク250Nm(25.5kgm)/1500-4500rpmとなっており、数値上は、それぞれ200PSから160PSに40PS、280Nmから250Nmに30Nmも落ちたことになる。

 車両重量は20kgだけ軽くなっており、10・15モード燃費は13.2km/Lから14.6km/Lへと向上しているものの、単純に数字を見ると、動力性能の落ち込みは免れないように思える。

エンジンが変わったことに気づかない
 今回、そんなTT クーペ 1.8 TFSIをドライブするにあたってもっとも興味があったのは、まさにそこで、従来に比べて走りがどうなったのかという点にほかならない。価格が下がったぶん「価値」も下がっていたのでは、それは本当の意味での「値下げ」ではないはずだ。

 ひさびさに触れたTTのコクピットは、適度にタイトながら狭苦しいこともなく、最新のアウディ車のような前衛的なデザインとなっていないとはいえ、スペシャルティ感のあるたたずまいを呈している。右ハンドル仕様のみで、同エントリーモデルを含め全車にパドルシフトが標準で付く。

 撮影車両にオプション装着されていたのは、APS(アウディパーキングシステム)とリアワーニングトーン&クルーズコントロール(価格11万円)、電動シート/フロントランバーサポート(価格15万円)、そして、S-lineスポーツパッケージ(価格38万円)となる。

 S-lineスポーツパッケージの内容としては、専用デザインの前後バンパー、背もたれに専用ロゴの付くスポーツシート、3スポークのステアリングホイール、アルミインサート付きのスカッフプレートなどが挙げられ、足まわりには10mmのローダウンとなるスポーツサスペンションと18インチホイール&タイヤが装備される。

 S-lineスポーツパッケージの38万円という金額は、今回の車両価格の引き下げ分の8割に相当するものだが、メルセデスのAMGスポーツパッケージやBMWのMスポーツパッケージなども価格を引き下げているのと同じく、アウディもこのところS-lineスポーツパッケージの価格を従来よりも積極的に引き下げていることは歓迎したい。

 ドライブすると、低回転域から力強く加速するさまは、従来の2.0 TFSIと大差ない。もしも何も知らされずに乗ったならば、大半の人はエンジンが変わったことに気づかないのではないかと思えたほど。

 そして、フォルクスワーゲン系の一部ダウンサイジングユニットと異なり、あえて燃費面では不利なバランサーシャフトを採用しているこの1.8 TFSIエンジンは、振動が小さく、吹け上がりがスムーズで静粛性も高い。タコメーターを見ると、レッドゾーンが6000rpm過ぎから破線となり、6500rpmから実線で表示されているが、5000回転を超えてからも気持ちよく吹け上がる。ごく低回転域の過給が安定しない領域でピックアップが鈍く感じられることもあるのはダウンサイジング直噴ターボの宿命だが、基本素性としては低速トルクも十分に確保されている。

 ただし、乾式単板クラッチとなったSトロニックは、流れに乗ってしまえば問題ないが、当初採用された従来のA3あたりに比べるとずいぶんよくなったものの、やはり微低速でのつながりは湿式多板クラッチほど滑らかではない。また、実走燃費について、正確に計測しておらず、あくまで感触としてだが、思ったほどよろしくないような気もしなくはなかった。

本来の意味での「値下げ」
 フットワークについては、FF車とは思えないシャープなステアリングレスポンスを楽しませてくれるハンドリングは、アウディらしく小気味よい。2代目TT自体が、アルミとスチールを組み合わせたハイブリッドボディーを採用しているので、比較的軽量であるうえ、同モデルはクワトロに比べて後輪を駆動するための機構を持たないぶん軽く、走りにも軽快感がある。

 とはいえ、S-lineスポーツパッケージの装着もあってなおのことだろうが、乗り心地はかなり固め。それほど荒れていない路面でも跳ね気味で落ち着きがなく、もう少ししなやかさが欲しいところだ。

 S-lineスポーツパッケージを付けない素の状態では、標準車高のサスペンションと、17インチタイヤ&ホイールが与えられ、おそらくそちらのほうがネガティブな要素は少ないはずだが、とはいえせっかくTTを買うのであれば、前述のような魅力的な装備の付くS-lineスポーツパッケージを選びたくなるのが当然の心情であり、悩ましいところだ。

 いずれにしても、スポーツカーとして異彩を放つ存在であり、登場からそれなりに時間が経過しても色褪せることのないTTが、より身近になったことを歓迎したい。

 1.8 TFSIでは、パワートレーンをダウンサイジングしたものの、体感的にはなんら従来の2.0 TFSIと大差なく、装備類は従来と同水準を維持しているのだから、47万円というけっして小さくない金額の値下げに対し、中身の落ち込みは実質的には「無」といってよさそう。本来の意味での「値下げ」である。

 なお、今回はエントリーモデル以外に変更はなく、「TT クーペ 2.0 TFSI クワトロ」(520万円)、「TT ロードスター 2.0 TFSI クワトロ」(535万円)や、高性能版の「TTSクーペ」(694万円)や、2.5リッター直5ターボエンジンを搭載する「TT RSクーペ」(864万円)は従来どおりラインアップされる。

TT クーペ 1.8 TFSI
全長×全幅×全高[mm]4190×1840×1390
ホイールベース[mm]2465
前/後トレッド[mm]1560/1550
重量[kg]1320
エンジン直列4気筒DOHC 直噴1.8リッター ターボ
ボア×ストローク[mm]82.5×84.1
最高出力[kW(PS)/rpm]118(160)/4500-6200
最大トルク[Nm/rpm]250(25.5)/1500-4500
トランスミッション7速デュアルクラッチトランスミッション「Sトロニック」
駆動方式2WD(FF)
10・15モード燃費[km/L]14.6
前/後サスペンションマクファーソンストラット/4リンク
前/後ブレーキベンチレーテッドディスク/ディスク
タイヤ245/45 R17
ステアリング位置
乗車定員[名]4
荷室容量[L]290~700

インプレッション・リポート バックナンバー
http://car.watch.impress.co.jp/docs/news/impression/

2012年 7月 13日