インプレッション

ボルボ「V40(2015年モデル)」

人気のV40がさらに商品力を向上

 60シリーズから始まった「四角くないボルボ」が日本でも人気を博し、「V40」にいたってはボルボ・カー・ジャパン関係者が「スマッシュヒット」と表現するほどの売れ行きを見せている。

 ボルボ車の中で、グローバルでは「XC60」がもっとも売れているのに対し、日本ではV40だと聞いてもとくに不思議ではない。むろんリーズナブルな価格帯であることや、コンパクトな車体が日本にジャストサイズであることが受けているのはいうまでもないが、優れた基本性能や商品性なくして、ドイツ勢が圧倒的に強い日本の輸入車市場においてここまで支持されることはなかっただろう。

 そんな評価の高いV40とはいえ、改善した方がよいかなと感じていた部分がなかったわけではないが、ひと足早く2015年モデルに移行したRデザインに続いて標準モデルもアップデートされた。詳細は既報(http://car.watch.impress.co.jp/docs/news/20141218_681041.html)のとおりで、いくつかの部分に改良が加えられた。

 まずは売れ筋となるSEグレードの最小回転半径だ。これまではリム幅の大きなホイールとタイヤが標準で付いていたため、5.7mと同クラスではかなり大きめだった。車体のずっと大きな「V70」が1回で曲がれる場所でも、V40 SEでは切り返しが必要となる状況もあったほどだ。それがエントリーモデルと同じ5.2mになった。0.5mの違いは明白だ。これで心置きなくSEグレードを選べるようになったというものだ。

撮影車は2015年モデルの「V40 T4 SE」(365万円)。直列4気筒 1.6リッター直噴ターボ「B4164T」エンジンを搭載し、6速DCTを介して前輪を駆動する。ボディーサイズは4370×1800×1440mm(全長×全幅×全高)、ホイールベース2645mm。車両重量は1430kg
2015年モデルになり、先進安全運転支援システム「IntelliSafe10(インテリセーフ・テン)」を標準装備して安全性が高められた。エクステリアではボディー同色のドアハンドルを採用したほか、V40 T4 SEではフロントバンパー下部にヘッドライトと連動して点灯するLEDドライビングライトを装着
タイヤサイズは従来の225/45 R17から205/50 R17に変更され、ホイールのリム幅は7.5Jから7Jへと細められた。これにより最小回転半径は従来の5.7mから5.2mになっている

 視覚的な変化では、フロントバンパー両サイド下端の、海外仕様ではもともとデイタイムランニングライトが装着されている場所に、これまで日本仕様のために専用に起こしたメッキモールが装着されていたところ、SEグレードではちゃんとヘッドライトと連動して光るようになった。外から見ても、やはり点灯しているほうが見栄えもするし、視認性が高まるため安全運転にも寄与することに違いない。

 また、カーナビのサプライヤーが三菱電機となり、ネット接続やボイスコントロールなどの機能が充実し、より使いやすくなった。

V40 T4 SEのインテリア。V40 T4 SEでは「ナビゲーションパッケージ」(HDDナビゲーションシステム、VICS3、助手席8ウェイパワーシート、12セグ地デジTV)などが標準装備される
カーナビやオーディオ、車両のセッティング調整などに対応するマルチメディアシステム「SENSUS(センサス)」を標準装備。インターネット接続機能やボイスコントロール機能を追加するとともに、操作画面が一新された。このボイスコントロール機能とステアリングに備わるジョグダイヤルで目的地設定やラジオ選曲など、多くのSENSUS機能を利用できるようになっている
白を基調とした明るいインテリア。オプション設定の「レザー・パッケージ」(本革シート、助手席8ウェイパワーシート)を装着している
カラー液晶メーターは「Elegance」「Eco」「Performance」の3種類のカラーが用意される

ダイナミック・シャシーからツーリング・シャシーに変更

 乗り心地について、率直なところこれまでは硬いという印象が強かった。それもそのはず、V40はスポーティなキャラクターを訴求するべく、Rデザインには強化したスポーツ・シャシーを与えていたのはまだよしとしても、標準モデルについてもダイナミック・シャシーがデフォルトとなっていた。ところが、ボルボとしても標準モデルは乗り心地を重視するべきと判断したようで、2015年モデルからはスポーティさを残しながら快適性を向上させた、ツーリング・シャシーを導入した。

 具体的には、スプリングをフロント10%、リア12%それぞれソフトにするとともに、スタビライザーをハードからソフトに変更、リアダンパーはモノチューブをやめてツインチューブとした。これによる乗り心地の変化は乗ってすぐに分かる。従来はもっと跳ねや突き上げを感じたように記憶しているが、それらの症状がほぼ気にならなくなった。サスペンションの初期の動き出しがスムーズで、しなやかに入力をいなし、振動を瞬時に収束させる。さらに、編集担当氏に運転してもらって後席にも乗ってみたところ、乗り心地の改善はむしろ後席のほうが顕著に感じられた。新しい乗り味のほうが、より万人に受け入れられることだろう。

 ステアリングフィールも操舵とクルマの反応が綺麗にリンクしている。俊敏で一体感のあるステアリングレスポンスは、これまでもV40の美点の1つと思っていたところ、新型はよりよさを実感させる仕上がりとなっている。これには足まわりがしなやかになったことで、クルマの姿勢変化がより掴みやすくなったことも効いているのではないかと思う。

直列4気筒1.6リッター直噴ターボ「B4164T」エンジンは、最高出力132kW(180PS)/5700rpm、最大トルク240Nm/1600-5000rpmを発生。使用燃料は無鉛プレミアムガソリン

 パワートレーン系も地道に進化している。新しい「T5」では2.0リッター直噴ターボ+トルコン8速ATとされたのに対し、「T4」は1.6リッター直噴ターボ+DCTとの組み合わせとなる。小排気量の直噴ターボエンジンとトルコンを持たないDCTの組み合わせでは、微低速でのギクシャク感が若干顔を出すのは否めない。それでもある程度回せば、ダイレクト感のある加速フィールを楽しめるのが強みだ。以前はもう少しマイルドだったところ、より美点であるダイレクト感を重視した制御になったように感じられる。さらには、もともとV40はセグメントの中でも1.6リッターとしては性能が高いほうであり、そこに期待するユーザーにとっても十分に満足できるであろう性能を味わえるところも魅力である。

 V40が支持される大きな要因の先進安全機能についても、新たに「インテリセーフ10」と名付けられた装備が全車に標準で付いたことも今回のニュースだ。これについては試乗会で試せるものではないので、関連記事(http://car.watch.impress.co.jp/docs/news/20141218_680976.html)を参考にしていただきたい。

 このところボルボの出すクルマには感心させられることが多いのだが、新しいV40もその流れに反することはなかった。全方位にわたってより商品力を高めたV40は、引き続き日本市場で人気を博すことに違いない。

岡本幸一郎

1968年 富山県生まれ。学習院大学を卒業後、自動車情報ビデオマガジンの制作、自動車専門誌の記者を経てフリーランスのモータージャーナリストとして独立。国籍も大小もカテゴリーを問わず幅広く市販車の最新事情を網羅するとともに、これまでプライベートでもさまざまなタイプの25台の愛車を乗り継いできた。それらの経験とノウハウを活かし、またユーザー目線に立った視点を大切に、できるだけ読者の方々にとって参考になる有益な情報を提供することを身上としている。日本自動車ジャーナリスト協会会員。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。

Photo:岡田孝雄