レビュー

【タイヤレビュー】東洋ゴムのオフロードタイヤ「OPEN COUNTRY」シリーズ2モデルを試す

あらゆる路面を走破できる「OPEN COUNTRY M/T」、街乗り性能も有する「OPEN COUNTRY R/T」

BJ・バルドウィンをご存じ?

 クルマ好きならケン・ブロックの名前は聞いたことがあるだろう。YouTubeを検索すれば、容易に彼のパフォーマンスを見ることができる。では、BJ・バルドウィンをご存じだろうか。知らない人はぜひネット検索していただきたい。彼は世界一過酷といわれるバハ1000を、コ・ドライバーなしの単独で2012年、2013年連続で制しているドライバー。

 バハ1000とは、メキシコのバハ・カリフォルニア半島で毎年開催されるデザートレース。1000は1000マイルの意味で、その距離は約1609km。半島の端から端までを不眠不休で走り切る、世界一過酷なノンストップタイムレースなのだ。このレースを1人で走り切り、しかも優勝したというのだからスゴイ! 彼はケン・ブロックと同じトーヨータイヤのサポートを受けてレース活動をしているのだ。YouTubeに彼のパフォーマンス動画がアップされているので、これも要チェック。トヨタ・タンドラの改造車で50m級のジャンプをするなど、強烈なパフォーマーだ。

試乗会場で放映されていたBJ・バルドウィンのパフォーマンス動画【その1】(7分44秒)
試乗会場で放映されていたBJ・バルドウィンのパフォーマンス動画【その2】(9分)

 さて、今回そのBJ・バルドウィンをゲストに、東洋ゴム工業のオフロードタイヤ試乗会が開催された。場所は埼玉県上尾市にあるウェストポイント・オフロードヴィレッジ。モトクロスなどを行なうオフロードコースだ。

ゲストとして試乗会場に訪れたBJ・バルドウィンは1979年9月6日生まれ。“世界でもっとも過酷なオフロードレース”と称されるバハ1000を、セカンドドライバーなしで2年連続で制覇した唯一のドライバーとして知られる

 東洋ゴムでは、2000年代初頭にオフロードルックを楽しむリフトアップ仕様のピックアップや、SUVを志向する新ジャンルが北米で急速に成長すると予測。2003年より販売を開始している。

 では、SUVに乗るあなたに質問。年に何日ぐらいオフロードを走りますか? えっ!? オフロードは走らない!? じゃ、どうしてSUVを買ったのですか? カッコいいからですよね!? そう、つまりSUVはファッションなんです。だったらSUVファッションを完璧にしませんか? ネクタイ締めてスーツを着ているのに靴はスニーカーはないですよね。そういうこと。SUVに履かせる靴はオフロードタイヤなんですよ。

 確かにSUVにサマータイヤやエコタイヤを着けたくなるのもごもっとも。舗装路しか走りませんよね、よほどのマニアでない限り。でも、ファッショナブルにこんなタイヤを装着して、なーんちゃってオフローダー気分を味わうのもいいんじゃないでしょうか。

 ということで、今回試乗したのは米国で絶対的な支持を受け、人気急上昇中という「OPEN COUNTRY M/T」と「OPEN COUNTRY R/T」。現在、20インチ以上のピックアップトラック/SUV用ライトトラックタイヤにおける同社のシェアは、北米でトップの40%になるまで成長している。20インチ以上という大径タイヤというところがミソで、これはタイヤ製造工程にA.T.O.M工法という独自の技術を投入しているから。

2003年に米国などで出荷が始まった本格的なオフロードタイヤ「OPEN COUNTRY M/T」。アグレッシブな外観、あらゆる路面を走破できるパフォーマンス性能と耐久性、優れたユニフォミティといった性能を引っさげて2018年に日本市場に導入することが決定。耐外傷性の向上を目的にサイドウォールにバットレスデザインを採用するとともに、トラクションやハンドリング性能の向上を図るべく周方向に段差を設けたブロック形状を採用。また、カーカスプライを3枚並べる「3プライハイターンアップ構造」の採用とともに、高硬度ビードフィラーや高強力スチールベルトなどによって耐久性を高めた。なお、発売されて以降、マイナーチェンジなしで販売される珍しいタイヤとなっている

 タイヤ製造では、一般的に表面ゴム(トレッド)を1回で巻き付けて貼り合わせる。そうすると横一文字の張り合わせ部ができ、これによってバランスがわるくなる。わずかな凸凹や重量差でも、高速で回転するタイヤにはジャイロ効果が発生して振動などが起きるためにホイールバランス取りが重要になってくるのだ。しかしA.T.O.M工法では1枚の表面ゴムの幅を細くして、リボンを巻くように複数回巻き付けて製造するのだ。これによって貼り合わせがないジョイントレスとなり、タイヤのユニフォミティ(均一性)が大幅に向上する。

 それによってどのような効果があるのかというと、乗り心地や静粛性がアップしたことはもちろん、部分的に厚みを変えることができるのでデザイン性が上がるのだ。それともう1つ、これがイチバン北米で受けている理由なのだが、ホイールバランス取りが容易になる。大径タイヤではバランス取りが非常に難しく、A.T.O.M工法によって製造されたタイヤは、ホイールに組み込んでバランス取りをしなくてもよいくらいに重量バランスに優れているのだという。

高いオフロード性能とともに、街乗り性能も考慮したという新カテゴリータイヤ「OPEN COUNTRY R/T」。トレッド面はオフロード性能を有するアグレッシブなショルダー部と、ブロック剛性を高めてドライ路面での操縦安定性も考慮した「L型連結ブロック」をセンター部に配したハイブリッドデザインを採用。オフロード性能はOPEN COUNTRY M/Tに譲るものの、耐摩耗性やノイズ、ドライ&ウェット性能で勝るという。こちらはすでに12インチ、15~16インチが日本でも販売されているが、今年サイズの拡充を図ることがアナウンスされている

ぬかるみでも何のその

 さて、本題といこう。OPEN COUNTRYはオフロードをメインに開発されたタイヤ。実際、このタイヤでバハ1000などオフロードの過酷なイベントを制覇してきている。その実力をそのまま移入したのがOPEN COUNTRY M/Tだ。

 スタッガードショルダーと呼ばれるサイドビューが勇ましいM/Tにまず試乗。装着した試乗車両はフォード「F-150」の純正オプションを組み込んだチューニングモデル「FX4オフロードパッケージ」だ。その昔、フォードの海外試乗会に呼ばれてF-150のプレゼンテーションを聞いていたら、担当者が「F-150に乗っていれば少々の交通事故では絶対に死にません」と言い切った。凄いこと言うなぁ! 事故の相手はどうなるんだぁ? とか考えながら、ここはアメリカと納得せざるを得なかった。

 あのころのF-150よりも遥かに進化したこのモデル。しかも、コースはモトクロス場で、ジャンプありぬかるみありのハードなもの。走り始めから感じるのは極低速からの強烈なトルク。そして、回転上昇とともに鼓膜を震わすエンジン音だ。誰だってこの環境にいればアクセルを踏み込みたくなる。踏み込みましたよ! FX4はエンジン系に手が加えられていて、ピックアップもアクセルにビンビン反応する。

 しかし、その真骨頂はサスペンション。ホイールトラベルのロングストローク化が効いていて、大きなうねり路の連続でも底を擦らない。さらに少々のジャンプでは底突きしない。そして、このFX4のポテンシャルをしっかりと引き出しているのがM/Tで、実は後輪2輪駆動モードでトラクションコントロールOFFにして走行したが、ぬかるみを見事に走り抜けたのだ。巨大なトルクに負けないトラクション。タイヤのブロックがぬかるみでも噛んでいる感覚が伝わってくる。ホイールスピンをさせ過ぎたと感じたら、わずかにアクセルを戻すだけでFX4を力強く前進させるのだ。

 次の試乗車はノーマルのF-150。そして装着されるタイヤは日本国内でも手に入るR/Tだ。R/Tはよりオンロード性能を強化したタイヤ。つまりオフロードルックに興味のあるユーザー向けのタイヤだ。しかし、ルックスはM/Tに劣らずホンマもんのシルエット。センターに配置されたL字型連結ブロックがイカツイ。こちらも後輪2輪駆動&トラコンOFFを試したが、空転してもちゃんと前進する。

 さらにR/Tは「ランドクルーザー」に装着されて一般道でも試乗できた。意外にパターンノイズが小さく、直進性&乗り心地もよいことを確認。オフロードルックにしたいSUVユーザーが、一般道ではどうかな? 迷っているのなら大丈夫、とお答えします。

 OPEN COUNTRYは米国・ユタ州にあるMOABなどで評価を行ない開発されている。ホンモノの実力を備えたOPEN COUNTRYなら、最近の異常気象でも心強い。

松田秀士

高知県出身・大阪育ち。INDY500やニュル24時間など海外レースの経験が豊富で、SUPER GTでは100戦以上の出場経験者に与えられるグレーテッドドライバー。現在63歳で現役プロレーサー最高齢。自身が提唱する「スローエイジング」によってドライビングとメカニズムへの分析能力は進化し続けている。この経験を生かしスポーツカーからEVまで幅広い知識を元に、ドライビングに至るまで分かりやすい文章表現を目指している。日本カーオブザイヤー/ワールドカーオブザイヤー選考委員。レースカードライバー。僧侶

http://www.matsuda-hideshi.com/

Photo:安田 剛