特別企画

【特別企画】奥川浩彦のWTCC&F1 鈴鹿サーキット撮影ガイド(その1)

WTCCフォトコンテスト開催記念企画

 2013年もWTCC(世界ツーリングカー選手権)が鈴鹿サーキットにやってくる。日程は9月21日~22日。そして、今年もCar Watch、デジカメWatchが主催のWTCCフォトコンテストが開催される。このWTCCフォトコンテストは、一昨年は78名・308点、昨年は140名・504点の参加者・応募点数と年々盛り上がりみせている。今年も多くの力作が応募されるだろう。

2012年のWTCCフォトコン大賞(吉橋康樹氏)

 過去2回と異なるのは、開催時期が1カ月ほど早くなったことだ。過去2年はF1日本グランプリの直後に開催されたが今年は3週間前となった。秋分の日を含め3連休中の開催となるし、F1との間に給料日を挟む人も多く、過去2年より観戦しやすくなったと思われる。

 筆者のレース写真撮影ガイドの記事も、以前はF1日本グランプリを対象とし、ここ2年はWTCCを対象としていたが、今年はWTCC、F1と世界選手権が続くので、WTCCとF1で鈴鹿サーキットに行かれる方を対象としたい。東コースはWTCCの撮影を中心に、西コースはF1の撮影を中心に紹介していこう。

 すでにF1のチケットを購入した人で、F1で一眼レフデビューを考えている方もいるだろう。F1と比べるとWTCCは撮影ポイントもそれほど混雑しない。加えて同時開催のスーパー耐久は予選が30分×3回、決勝が40分×3回で合計3時間半とWTCCより走行時間は長い。しかもフルコースを走ってくれるので、ヘアピン、スプーンなど西コースでも撮影できる。F1直前に鈴鹿サーキットで撮影ポイントの確認や練習をするには最適なイベントとなっている。また、F1と比べてチケット代も段違いに安価(パスポート1日付きで大人は前売り5000円)だ。

撮影機材について

 走っているマシンを大きく撮るなら一眼レフカメラがお勧めだ。コンパクトデジカメでも20倍ズームといった望遠に強い機種はあるが、オートフォーカスの速さや精度、ファインダーの見やすさ、撮りやすさなどを考えると圧倒的に一眼レフカメラに分がある。

 ピットウォークなどの撮影ならコンパクトデジカメでもスマートフォンのカメラでも問題はない。今年はコンデジ賞に加えスマホ賞もあるので一眼レフを持っていない人は走るマシン以外を狙いたい。逆にスマホで走るマシンを上手く撮れたら、難易度が高いだけに入選の可能性は高くなりそうだ。

 人気の高いミラーレス一眼はサーキットの撮影には不向きだ。基本的に液晶モニターを見ながら撮影する機種(ミラーレス、コンデジ、スマホ等)で動く被写体を撮るのは難しい。ファインダーを覗いて撮るタイプが無難な選択だ。EVF付きのミラーレス一眼という機種もあるが、話が複雑になるのでここでは省略したい。

 さて、一眼レフと言っても選択肢は多数ある。プロの方はキヤノン、ニコンのそれなりに高価な機種を使用しているが、一般の方がサーキットで撮影をするなら、ほぼすべての機種で問題なく撮ることはできるだろう。デジタル一眼レフが普及してから10年近く経つので、少し前の機種でも充分な性能を持っている。懐具合と相談して機種選択をすればよいだろう。すでに持っている方はそれを使い倒していただければよい。

 ちなみに筆者が使用しているのはキヤノンのEOS 7D。2009年の発売時に購入した1台目は昨年お亡くなりになったので、現在は2台目と3台目の2台体制で撮影をしている。昨年までは2007年に発売されたEOS 40Dも使用していて、比べればEOS 7Dの方が優れていたが、使えないレベルではなかった。なので、現在売られている機種はもちろん、少し前の機種でも特に問題はないだろう。

筆者が現在使用しているEOS 7D
EOS 20Dで撮った画像(2009年撮影)。2004年製のカメラでも撮れないことはない
EOS 40Dで撮った画像(2012年撮影)

 どの機種でもよいと言われると逆に迷う方もいると思うので、これから一眼レフを買ってレース写真を撮ることを前提に機種選択のポイントを簡単に書いておこう。

 撮像素子(イメージセンサー)の大きさは、「フルサイズ」と呼ばれる大型のものより、小型の「APS-Cサイズ」の方がレース写真には向いている。フルサイズ、APS-C以外に「(マイクロ)フォーサーズ」という撮像素子もあるが、筆者はサーキットで使用したことがないのでレース写真の撮影に向いているか分からない。

 では、なぜAPS-Cなのかというと、望遠レンズを多用するレース写真では、APS-Cであればレンズの焦点距離が1.5~1.6倍になるため、300mmのレンズなら450mmや480mm相当となり、遠くのものをよりアップで撮れるからだ。

 レンズの価格もAPS-Cを選択すればかなり安く抑えられる。200mm F2.8(APS-Cで1.6倍なら320mm F2.8相当)と300mm F2.8、300mm F4(APS-Cで1.6倍なら480mm F4相当)と500mm F4のレンズの価格差は大きい。価格の差も大きいが、サイズの差(特に重さ)も大きいので、初心者は撮像素子がAPS-Cの機種を選択するのが無難だろう。

 次は連写性能。連写性能とは1秒間に撮影できる枚数で、高い(多い)ほど気持ちよく撮ることができる。現在筆者が使用しているEOS 7Dは秒8コマ、以前使用していたEOS 40Dは秒6.5コマだが、40Dは7Dと比べ、もの凄く遅く感じることがあった。

 人間は贅沢かつ慣れやすいもので、秒5コマのカメラを使い始めた頃は速いと感じたのに、秒6.5コマを使うと秒5コマを遅いと感じ、秒8コマを使うと秒6.5コマも遅いと感じてしまう。秒3コマで撮れないことはないが、可能であれば秒5コマ秒以上の機種を選択したい。

レンズ

 サーキットの撮影では望遠レンズが主役となる。少し気合いが入るとカメラボディーよりレンズのほうが高価な買い物となるだろう。一眼レフ用の交換レンズは「焦点距離」(○○mmという数字)と「明るさ」(F○○という数字、F値と言う)で表される。

 レンズの焦点距離は、数字が大きい(長い)ほど望遠となり、遠くのものを大きく写すことができる。明るさの数字は小さいほど明るいレンズとなり、ピントが合わせやすくなり、夕暮れなど暗めのシーンでも速いシャッター速度で撮ることができる。

 数字だけ見るとレース撮影では、長くて明るいレンズがよいということになるが、プロやハイアマチュアが使う400mm F2.8とか500mm F4のようなレンズは極めて高価だし、サイズも大きく重い。

 APS-Cのボディーを前提とすれば、レース写真でよく使うレンズは200~300mmくらいとなる。実際にはもっと長いレンズが欲しいシーンもあるが、現在のカメラは画素数が多いので撮った後にトリミングすることで、そこそこ回避することも可能だ。実際、筆者が使用しているEOS 7Dの解像度は5184×3456ドットで、Car Watchで使用する画像の最大サイズは1920×1080ドットだ。なのでフレームいっぱいに撮らなくてもトリミングで済ませることは多々ある。大きなポスターで使用するならフレームいっぱいに撮るべきだが、筆者にそのような仕事の依頼が来ることはないと思っている。

元画像のフレーミングは空間がたっぷり
トリミングしてフォトギャラリーに掲載した画像

 参考までに筆者が使用しているレンズは主に300mm F2.8と70-200mm F4がコースサイドの撮影用。最近は大人の事情であまり撮っていないが、レースクイーン用は85mm F1.8。それと標準ズームだ。300mm F2.8以外はカメラ本体を含めそれほど高価な機材は使用していない。

 幸いなことに最近は観客席ではなく、報道エリアで撮ることが多いので、少しだけコースに近いため、短めのレンズで事足りている。以前はレンズの焦点距離を延ばす1.4倍のエクステンダー(テレコンバーター)を使用してしいたが、最近はそれも使用することがなくなった。

 必要とする焦点距離はサーキットによっても異なる。今回WTCCとF1が開催される鈴鹿サーキットは比較的コースに近いところで撮影できるので、200~300mmのレンズでもそこそこ撮ることが可能だ。筆者の様にキヤノン製のAPS-C一眼レフであれば焦点距離は1.6倍となる。300mmのレンズに1.4倍のエクステンダーを使用すれば300×1.6×1.4=672mmとなる。フィルムの時代からすれば、随分恵まれた環境と言えるだろう。

 ズームレンズか単焦点レンズかは意見の分かれるところだ。筆者は趣味で撮っていた頃は単焦点派だったが、仕事の義務感を感じて撮っている現在はズームレンズを使用している。やはりズームのフレーミングの自由度の高さとレンズを交換する手間を減らせるというメリットは大きい。以前使用してた200mm F2.8や100mm F2のレンズは気持ちよく撮れた感じがするが、最近は自宅の防湿箱から出ることはなくなり70-200mmのズームを多用している。

 手ブレ補正機能は動く被写体を撮るレース写真にはそれほど重要だとは思っていない。あって困るものではないので、価格やほかの撮影との兼ね合いで判断すればよいだろう。

 初めてデジタル一眼レフを買うと、標準ズームレンズが付属してくることが多い。標準ズームだけではサーキット撮影は難しいので、サーキット用に買い足すレンズとしてお勧めしたいのは70-200mmクラスのズームレンズだ。筆者は70-200mm F4を使用していてそれほど不満を感じることもないが、70-200mmにはF2.8という選択肢もある。明るいレンズは画質面などのメリットもあるが、重さや価格というデメリットもある。あまり安いレンズはお勧めしないが、ある程度のレンズであれば無駄になることはないし、子供の運動会などほかの撮影でも利用価値は高い。

 少しサーキット撮影にハマってきたら300mm以上の単焦点レンズが欲しくなる。結論から言うと最初は300mm F4がお勧めだと思っている。そこそこ軽く、カメラバッグにも入るサイズは魅力的だ。

 筆者は30年ほど前、フィルムの時代にサーキットで撮影を始め、その1~2年後に300mm F2.8のレンズを購入した。当時はマニュアルフォーカスなので、自分の目でピントを合わせる必要があった。300mm F2.8のレンズはもの凄くピントの山がよく見えた記憶がある。

 オートフォーカスの時代(まだフィルム)になり300mm F4のレンズを購入した。F2.8がF4になったのは、カメラがピントを合わせてくれる様になったこともあるが、独身時代と違って数十万円のレンズを買う根性がなかったのが本音だ。その後、仕事でサーキット撮影をするようになり再び300mm F2.8を使用するようになった。やはりF4のレンズよりF2.8のレンズは人間の目でピントが合わせやすいように、オートフォーカスのカメラでもピントが合う確率は高くなったと感じている。

 F2.8のレンズはよいことばかりかと言うとそうでもない。動く被写体を撮影するには重さはデメリットとなる。若い頃は300mm F2.8のレンズを手持ちで振り回せたが、歳をとると厳しいものがある。サーキットの撮影では一脚を使用するので重さはそれほど気にならないが、航空ショーを撮りに行った際は被写体に追従できず苦戦したことがある。その数年前に300mm F4での撮影は楽勝だったが、F2.8に代えての撮影では真上を通過する戦闘機にまったく追従できなかった。

初めて撮りに行った航空ショー。レンズは300mm F4(一部×1.4エクステンダー装着)を使用。軽いレンズは振り回しやすく楽に撮影できる

 サーキットの撮影も慣れるとレーシングカーを追うことは難しくないが、初心者にはそれなりにハードルは高く、マシンがフレームからはみ出すことも珍しくない。その点では最初は重いレンズより、軽いレンズで撮り始めた方が楽に撮れるだろう。レンズのスペックだけでなくその辺りも考慮してレンズ選択をしていただきたい。

その他の機材

●一脚
 一眼レフカメラとレンズが揃ったら、次に必要なのは一脚だ。実際にサーキットに足を運んでみると分かるが、大きな望遠レンズが並ぶ撮影ポイントでは、一脚の使用率は極めて高い。カメラを支える道具としては三脚が一般的だが、スポーツ系の撮影では一脚を用いることが多い。三脚は周りの撮影者の邪魔になるし、動く被写体の撮影では機動力に欠ける。

 300mm F4クラスの望遠レンズでもレンズ側に三脚座が用意されている。この様なレンズを使用するときは、一脚があると撮影はグッと楽になる。手ブレ防止の効果もあるし、重いレンズとカメラを構えた状態で支えてくれるので腕への負担を軽減できる。

 一脚は伸ばしたときの長さに注意して製品を選びたい。平らな地面で使用するだけならファインダーが目の高さにとどけばいいが、土手など斜面で使用する場合や、自分が台に乗ったときは、短い一脚だとファインダーの高さ目の高さより低くなってしまう。とは言え収納時の長さも持ち運びを考えると大切なので、バランスを考えて購入していただきたい。

●NDフィルター
 シャッター速度1/15秒とか1/30秒といったスローシャッターで撮りたい場合はNDフィルターがあったほうがよい。NDフィルターは、レンズに入る光の量を減らして、シャッター速度を遅くすることができる。快晴の日にスローシャッターを切ろうとすると、レンズの絞りの限界(F32とか)に達してスローシャッターが切れないことがある。その様なときにNDフィルターを使用すれば、絞りを開けることができる。

 絞りの限界に達しなくても、高画素化が進んだデジタルカメラは光の回折現象により絞り込むと画像がボケてシャープさを失ってしまう。特にAPS-Cの場合、フルサイズより画素ピッチが小さくなるので影響がでやすい。NDフィルターは同じシャッター速度であれば絞りを開けることができるので、小絞りボケとも呼ばれるこの現象を軽減することもできる。筆者はND4(絞り2段分)のフィルターを用意し、絞り値ができるだけF11以下になるようにしている。実際にはレース写真でスローシャッターを切った場合、小絞りボケが気になることは少ないが、気分的にはあった方がいいと思っている。

 NDフィルターによる副産物としてイメージセンサーの埃対策もある。デジタル一眼レフはレンズ交換などでセンサーに埃が付着し、撮った画像に写り込むことがある。撮影前日に綺麗に掃除しても、サーキットでレンズ交換をする際に付着することもあるので、運がわるいとしか言いようがない。

 センサーに付いた埃はレンズの絞りを絞り込むほど画像にハッキリと写り込む。日頃チェックされていない方は、望遠レンズをF値最大に絞り込んで、白い壁を撮っていただきたい。その際ピントは合わせず、ブレも気にする必要はない。F22~F32あたりまで絞り込むと、F8くらいでは気付かなかった埃が写り込むことがある。

 随分前にテスト用に撮った画像があるので見ていただきたい。青空をF32からF22、F16と絞りを変えて撮ったものだ。F32ではハッキリ写り込む埃も絞りを開けるにしたがって徐々にボケていき、F5.6ではほとんど見えなくなる。

絞りF32
絞りF22
絞りF16
絞りF11
絞りF8
絞りF5.6

●脚立
 最後は脚立だ。撮影ポイントによって脚立があったほうが撮りやすい場所がある。例えば金網の上から撮ることができるとか、人垣の上から撮ることができるといったケースだ。WTCCでは2コーナーのイン側に激感エリアが設置される。ここは筆者のお勧めの撮影ポイントだ。人気の高いポイントなので、柵の前はすぐに観客で埋まってしまう。こんなとき脚立があれば最前列に並んだ人垣の上から撮ることが可能だ。脚立は2段でも3段でもよい。価格も1000円程度で買えるので絶対ではないがあると便利だ。ただし、他人の迷惑にならないように、使用シーンや持ち運びには注意したい。

脚立に乗れば金網の上から撮影できる
激感エリア。最前列は観客で埋まることが多い
脚立に乗れば人垣の上から撮ることができる

 今回はサーキットでの撮影を前提に機材について紹介した。次回は流し撮りなど撮影方法について紹介したい。

奥川浩彦

パソコン周辺機器メーカーのメルコ(現:バッファロー)で広報を経て2001年イーレッツの設立に参加しUSB扇風機などを発売。2006年、iPR(http://i-pr.jp/)を設立し広報業とライター業で独立。モータースポーツの撮影は1982年から。キヤノンモータースポーツ写真展3年連続入選。F1日本グランプリ(鈴鹿・富士)は1987年から皆勤賞。