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マツダ、新型「CX-3」のディーゼルノック音を抑制する「ナチュラルサウンドスムーザー」の仕組み

目視できないエンジン内部の振動を、CAE解析で解き明かして「動吸振器」を設置

ピストン(上)とコンロッドを接続させるためのピストンピン(下側左)の内部に設置されるのが、CX-3で新採用されることになった「ナチュラルサウンドスムーザー」(下側右)だ

 国内に導入されるモデルは、SKYACTIVE-D 1.5のディーゼルエンジン搭載車だけになる新型「CX-3」。2014年から販売が始まった4代目「デミオ」で初採用された小排気量のディーゼルエンジンは、1.5リッターながら最大トルクはデミオで250Nm、CX-3で270Nmとなり、2.5リッターのガソリンエンジン並みのトルクを発揮する。新型デミオをオーダーしたオーナーの約60%がディーゼルエンジンモデルを選んでいるというのも頷ける結果だ。

 CX-3は、多くの基幹部品がデミオと共通となっているが、質感にこだわって開発した車両なので、単にそのまま流用しているわけではない。先ほどの最大トルクにも言えるが、制御を変更してCX-3はデミオから20Nmトルクアップしている。車重が重たくなったことに加え、実車でテスト走行を行った結果として、どうしても同じスペックでは物足りないと判断したからだ。

 また、数値には表われていないが電子スロットルの制御も専用となっていて、デミオよりアクセル操作に対してより忠実度を増している。MTモデルはギヤ比もハイギヤード化していて、スムーズな加速や俊敏性の高い動きを手に入れている。

 このように、デミオと同様のSKYACTIVE-D 1.5を搭載したCX-3だが、制御などの中身はオリジナルと言ってよい。そして、CX-3から新規に採用される技術が、ディーゼルエンジン特有のガラガラ音を抑制する「ナチュラルサウンドスムーザー(Natural Sound Smoother)」になる。

「S5-DPTS(i-ELOOP装着車はS5-DPTR)」型の直列4気筒1.5リッター直噴ターボディーゼルエンジンは、最高出力77kW(105PS)/4000rpm、最大トルク270Nm(27.5kgm)/1600-2500rpmを発生。車格アップに合わせて最大トルクをデミオ比で20Nm高めた
ガソリンエンジンを設定しないCX-3のため、ディーゼル特有のガラガラ音に「ナチュラルサウンドスムーザー」の採用で対応している

独自のCAE(Computer Aided Engineering)解析技術でガラガラ音の原因を追求

 そもそもディーゼルエンジン特有のガラガラ音は「ディーゼルノック音」が原因となっていて、内燃パーツが振動することによりシリンダーブロックやヘッドが揺れ、その振動が音になって聞こえてくるというのが原理になる。

 国内メーカーでディーゼルエンジンの先鞭をつけるマツダは、「CX-5」をはじめ「アテンザ」「アクセラ」にSKYACTIVE-D 2.2を導入しているが、その2.2リッターエンジンでもディーゼルノック音の対策や遮音は行ってきたという。だが、これまでピストンとコンロッドの内燃パーツに関しては、常に高速で動いていることから、どの程度の振動が起こっていて、それがディーゼルノック音にどのように影響しているか調査するのが難しかった。

 しかし、ほかの部品を調査してもディーゼルノック音の原因が掴めなかったため、ピストンとコンロッドの振動について調べたという。そこで判明したのが、ピストンを質量、コンロッドをバネとする上下伸縮振動が発生しているということ。ディーゼルノック音で言えば、3.5kHz前後にピークがあるということだった。

エンジン近接音の3.5kHz前後にディーゼルノック音のピークがあることを解明
CAE解析により、ピストンとコンロッドによる共振がガラガラ音の発生元であると結論づけた

 ピストンとコンロッドが振動することで発生するディーゼルノック音の対策として生まれたのが、新技術の「ナチュラルサウンドスムーザー」。具体的には、中空となっているピストンピンの中にダイナミックダンパー機構を持ったパーツを圧入。この圧入したパーツが上下に振れることでピストンの振動を打ち消す仕組みとなる。同じ周波数の振動物を加えることで、元の振動を打ち消すという原理を利用している。

 ナチュラルサウンドスムーザーは非常に精密なパーツで、すべての個体に対して振動検査を行い、合格したものだけを出荷している。周波数を3.5kHzに合せるためにはミクロン単位の精度が必要で、かなり精密な生産ノウハウが必要となるそうだ。

ナチュラルサウンドスムーザーの両サイドが振動と逆位相に動いて共振を減衰
3.5kHz前後のディーゼルノック音を大幅に低減することに成功した

 実際に試乗車を運転して比較していないので、ナチュラルサウンドスムーザーが持つ実際の効果は体験できなかったが、録音した音を聞き比べると、エンジン音はもちろん聞こえてくるが、その奥から響いてくるディーゼルノック音が抑制されている。エンジン音のクリアさが増してクリーンな音になったと言えばよいのかもしれない。実車での差は誰でも分かるとのことで、開発を担当したエンジニアも「ガソリンエンジンのようなサウンドになった」と感じたそうだ。

 ナチュラルサウンドスムーザーはCX-3独自の技術ではなく、SKYACTIVE-Dを開発していくうえでたどり着いたアイテムになる。そのため、SKYACTIVE-D 2.2でも装備することは可能だという。だが、1.5と同じような効果が得られるかは調査が必要とのことで、すぐにナチュラルサウンドスムーザーが装備されることはなさそうだ。

 CX-3で初採用されるナチュラルサウンドスムーザーはオプション設定となっていて、XDグレード以外の6速AT車で選択できる。

(真鍋裕行/Photo:安田 剛)