インプレッション

マツダ「デミオ プロトタイプ」

「デミオ プロトタイプ」。量産版では変更される個所もあるだろうが、プロトタイプの試乗記をお届けする

新型「デミオ」は、これまでのBセグメントにはない雰囲気

 これが「デミオ」!?──実車と対面した瞬間に、これまでの日本のBセグメントにはない雰囲気を感じた。初代~2代目から路線変更した従来型の3代目デミオも、なかなかスタイリッシュだと感じていたが、今度の4代目デミオはそんなものではすまない。まるでコンパクトカー界に現れたスペシャルティカーのようだ。

 印象深いエクステリアは、強い前進感を表現した、4輪がふんばって地面を捉えるフォルムに、ディテールにまで凝った、豊かな表情を見せるボディーパネルが、同セグメントにおいて抜きん出た上質さを感じさせる。マツダとしても新しいチャレンジである鋭い眼光を見せるヘッドライトを備えたフロントマスクは、既出の上級モデルをもしのぐ存在感をアピールする。それと呼応させたリアデザインには、どことなく従来型の面影も見受けられる。先発のアテンザとアクセラでは共通する要素が多分にあり、デミオもあくまでのその延長上にありながらも、またひと味違ったテイストが見て取れるところも興味深い。これまでに対して、さらに1つジェネレーションが進んだ印象だ。

ボディーサイズは、2WD(FF)で4060×1695×1500mm(全長×全幅×全高)。1.5リッターディーゼル、1.3リッターガソリンともに4WDが用意され、全高が25mmアップの1525mmとなる。写真は2WDモデル
1.5リッターディーゼルを搭載するモデルは、フロントグリルにボディーカラー同色のアクセントがつけられていた
複雑な造形を見せるヘッドライト。存在感は抜群
リアまわり
新デザインの16インチアルミホイール。185/60 R16のタイヤを装着していた

「世界のベンチマークを目指した」というインテリアの仕立ても、デザイン性、クオリティ感とも素晴らしいく、特別感のあるカラーコーディネーションの設定もある。日本のBセグメントはもとより、最近とかく評判のよいフランス勢やフォルクスワーゲン「ポロ」などの欧州車にもまったく負けていないどころか、むしろ上回ったように思えるほどだ。

 新たに開発されたシートの仕上がりは上々で、点ではなく面全体で身体が包み込まれる感じがして収まりがよい。長距離を走行したときの疲労感も小さくて済みそうだ。ドライビングポジションについても、フロントタイヤを前方に移動させ、室内への張り出しを小さくするとともに、ペダルが外側に移動したことで、Bセグメントの右ハンドル車としては、かつてないほど自然なポジションが得られている。

1.5リッターディーゼルモデルのインテリア全景
アクセラのインテリアと同様の要素を持つデザイン。マツダコネクトやHUD(ヘッドアップディスプレイ)を装備する
ステアリングまわり
シフトレバー
タコメーターを中央に配したメーターパネル
マツダコネクトのコントローラーなど
エアコンのコントローラーなど
USB端子は2系統持つ
ATのペダルまわり。アクセルペダルはオルガンタイプ
本革仕様のインテリア。色使いはかなりオシャレ
ラゲッジルーム

 このように、走る前からすでに、新しいデミオからは既存の日本のコンパクトカーとは次元の違うものがいくつも感じられた。そして実際に走らせてみて、その思いはさらに強いものとなった。

2.2リッターディーゼルとは性格の異なる1.5リッターディーゼル

 まずは注目の新開発の1.5リッターディーゼル SKYACTIV-D 1.5をドライブし、ディーゼルとはいえ排気量がわずか1.5リッターしかないとは思えないほど力強い加速を示すことに感心しきり。

 最高出力77kW(105PS)/4000rpm、最大トルク250Nm(25.5kgm)/1500-2500rpm(AT仕様、MT仕様は220Nm[22.4kgm]/1400-3200rpm)を発揮する1.5リッターディーゼルは、既存の2.2リッターと同様に振動やノイズが抑えられていて、ディーゼルのネガを感じさせない。2.2リッターディーゼルは、大小2つのターボチャージャーを搭載する2ステージターボを採用しており、トップエンドまでディーゼルであることを忘れさせるかのようにスムーズに吹け上がることが印象的だった。それと比べると、新たにシングルの可変ジオメトリーターボを採用した1.5リッターディーゼルは性格が異なり、排気量と過給機の仕様の違いが、そのままエンジンの特性に直結している。

SKYACTIV-D 1.5。最高出力77kW(105PS)/4000rpm、最大トルク250Nm(25.5kgm)/1500-2500rpm(AT仕様、MT仕様は220Nm[22.4kgm]/1400-3200rpm)
SKYACTIV-D 1.5SKYACTIV-D 1.5の展示モデル
新形状のピストン
左がSKYACTIV-D 2.2のピストン、右がSKYACTIV-D 1.5のピストン。段つき燃焼室により、燃焼中心を壁面から遠ざけることで熱効率を向上させている
左がSKYACTIV-D 2.2のインジェクター、右がSKYACTIV-D 1.5のインジェクター
SKYACTIV-D 1.5はシングルターボとなった
可変ジオメトリーシングルターボで、ワイドレンジ過給を実現した
左下がSKYACTIV-D 1.5の水冷式インタークーラー、中央や右下がSKYACTIV-D 2.2の空冷式インタークーラー関連部品

 トップエンドにかけては2.2リッターほどの勢いこそないものの、低回転域でのピックアップに優れ、中回転域のトルク感はかなり力強い。ディーゼルを選んだユーザーにとって、十分に期待に応えるドライバビリティを実現していると思う。

 静粛性も高い。最近では世界的にBセグメントも静粛性に力を入れてきているが、デミオも一気に追いつき、追い越したといえそうだ。

 一方の1.3リッターのガソリンは、最高出力68kW(92PS)/6000rpm、最大トルク121Nm(12.3kgm)/4000rpmと、絶対的な性能ではディーゼルとの差はそれなりにあるものの、こちらはリニアなレスポンスと軽快な吹け上がりが心地よい。新たにスポーツモードが設定されたのも特徴で、選択すると分かりやすく加速感が向上する。どちらを選んでも加速感のリニアリティが損なわれないところもよい。こちらは実用域での静粛性は高く保ちつつも、回したときにはスポーティなサウンドを楽しめるよう、あえて聞かせる演出を施しているようだ。

1.3リッター ガソリンエンジン搭載車
最高出力68kW(92PS)/6000rpm、最大トルク121Nm(12.3kgm)/4000rpmの1.3リッターガソリンエンジン

 どちらのエンジンに対しても、6速ATだけでなく5速MTが用意されることも、MT派には朗報。スカイアクティブの場合、ATでもスリップ感は小さいが、MTではよりダイレクトな走りを楽しむことができる。

エンジンの違いでフットワークの印象も異なる

 スカイアクティブを採用してからのマツダ車は、フットワークの仕上がりも高く評価されているが、デミオも期待を裏切ることはない。操作に対して応答遅れなく、また過敏すぎることもなく、適度なタメを持って、イメージしたとおりに素直に反応してくれる。また、荷重移動によってリアが適度に流れるので、曲がり具合を積極的にコントロールしていける。

 ディーゼルとガソリンのエンジンの違いによって、車両重量にして100kgほどという、けっして小さくない違いがあるため、ハンドリングの印象もけっこう違って、ガソリンはいたって軽快な走り味が心地よい。対するディーゼルは、フロントに重さを感じる半面、ドッシリとした走りの落ち着きも増すため、高速巡航するような走り方には適している。エンジンの性格と併せて、それぞれのキャラクターに相応しいドライブフィールを身に着けているといえる。

 スカイアクティブを標榜し始めてからのマツダのクルマづくりは本当に変わった。デミオのプロトタイプに触れて、さらにそれを確信した次第。末弟のデミオにいたるまで、これほどの仕上がりを見せてくれるとは予想を超えていた。

岡本幸一郎

1968年 富山県生まれ。学習院大学を卒業後、自動車情報ビデオマガジンの制作、自動車専門誌の記者を経てフリーランスのモータージャーナリストとして独立。国籍も大小もカテゴリーを問わず幅広く市販車の最新事情を網羅するとともに、これまでプライベートでもさまざまなタイプの25台の愛車を乗り継いできた。それらの経験とノウハウを活かし、またユーザー目線に立った視点を大切に、できるだけ読者の方々にとって参考になる有益な情報を提供することを身上としている。日本自動車ジャーナリスト協会会員。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。

Photo:安田 剛