インプレッション

フォルクスワーゲン「パサート(8代目)」

欧州カー・オブ・ザ・イヤー受賞

 もともと「パサート」は、世界的に見るとフォルクスワーゲンの準主役級の車種だ。ところが、これまで日本での販売台数は5000台未満/年と、あまりパッとしていない。本来の実力からすると、その数字は不本意といえそうだ。

 従来型もそつない仕上がりで、内容のわりに価格も控えめで買い得感があったように思う。しかし、ただでさえ縮小した日本のセダン市場ではドイツのプレミアムブランドが強く、ワゴンモデルは日本ではなおのこと、適度なサイズで取り回しに優れ、しかも十分に完成度の高い「ゴルフ ヴァリアント」で多くの人が満足できてしまうであろう状況といえる。パサートはなかなか難しい位置に置かれている。

 そんな現状を打破したいがためか、試乗会会場で実施されたプレゼンテーションでは新しいパサートが「プレミアムカー」であるというフレーズが何度も出てきたことが印象的だった。

 今回で8代目となる新型パサートは、本国より約1年のタイムラグで日本に導入されたわけだが、その間に欧州カー・オブ・ザ・イヤーという栄えある賞も獲得しているし、海外での販売も非常に好調という。さらに、新型では新世代プラットフォーム「MQB」を採用したことが大きな特徴だ。

 ところで、価格面で気づくのは従来型よりも下限の価格が安いこと。これは従来型では日本に導入されていなかった「トレンドライン」を設定したからだ。

8代目となる新型パサート(Rライン)。ボディーサイズは4785×1830×1470mm(全長×全幅×全高)、ホイールベース2790mmと堂々とした体躯。欧州仕様で比べた場合、先代比でセダンは2mm短く、12mm広く、14mm低くなった。ホイールベースはセダン、ヴァリアントともに79mmも延長されている。Rラインの価格は460万9800円
エクステリアデザインはフォルクスワーゲンのアイデンティティでもある水平ラインを特徴とした。フロントグリルもその1つ。Rラインではフロント・リアバンパー、サイドスカートなどが専用品になる(ホイールはオプション設定の19インチを装着)。また、安全装備ではプリクラッシュブレーキシステム“Front Assist”(歩行者検知対応シティエマージェンシーブレーキ機能付)を同社のモデルとして初採用。さらにアダプティブクルーズコントロール“ACC”(全車速追従機能付)などをパサートで初めて装備した
テールランプはフルLEDを採用
Rラインはツインエキゾーストフィニッシャーを標準装備
インテリアも上質で洗練されたデザインに刷新。前述のとおり欧州仕様では全長が2mm短くなったにも関わらず、室内長を33mm拡大することに成功した
トランスミッションはパサート、パサート ヴァリアントともに全車7速DSGを採用
ダッシュボードには全幅にわたって帯のようなエアベントが採用された
Rライン専用のスポーツシートを装備。このほかインテリアではアルミ調ペダルクラスター、レザー3本スポークステアリング、アルミニウムデコラティブパネル、ドアシルプレートがRライン専用となる
パサートのトランクスペース。容量は先代モデルから21L増の586Lを実現

「プレミアムカー」らしいたたずまい

 実車と対面しての第一印象は、たしかに“プレミアムカー”らしく、ずいぶん見栄えするようになった。ワイド&ローイメージを強調する横基調の前後デザインやランプ類のデザイン、ウエストライン下を通るエッジを効かせたサイドのラインなどが新しいパサートをより印象づけている。

 インテリアも上質に仕立てられており、エアベントと一体化したデザインのインパネが特徴的。これによりカーナビのディスプレイが現代の水準からするとやや低い位置にあり、視線の移動量が大きくなるのは否めないが、インテリアのデザインのアプローチとしては興味深い。

 ハイラインとRラインではだいぶ雰囲気が違って、ハイラインは色使いも落ち着いた印象で、Rラインはスポーティさに加えて先進的な感覚もある。40代後半の筆者は、個人的にはRラインのこのセンスはなかなか好みだ。

 そしてMQBの採用がパッケージング面でも恩恵をもたらしている。ボディーサイズは全長と全高が微減ながら、ホイールベースを拡大するとともに、前後オーバーハングを切り詰めた。居住空間と荷室の広さは驚くほどで、とくに後席は本当に広々としている。トランクについてもセダンでこの広さはインパクトがあるし、ヴァリアントは弟分のゴルフに負けていたところ、これで再び上回った。

パサート ヴァリアント(ハイライン)のボディーサイズは4775×1830×1510mm(全長×全幅×全高)、ホイールベース2790mm。欧州仕様で比べた場合、先代比でヴァリアントは5mm短く、12mm広く、2mm低いサイズ。ハイラインの価格は433万9900円
撮影車はオプションの18インチアルミホイールを装着
上級ミッドサイズモデルにふさわしい上質なインテリアを採用。シートカラーはナチュラルブラウン
ヴァリアントのラゲッジスペース。全長は先代から5mm短くなったものの、室内サイズは33mm拡大。ラゲッジ容量は通常時で650L、後席を前倒しすることで最大1780Lまで拡大可能

 運転支援装備が非常に充実していることも特筆できる。フォルクスワーゲンとして初となる歩行者検知に対応した衝突軽減ブレーキや、渋滞路での追従走行を積極的に支援するという世界で初めての機能が与えられたのがニュース。今回は郊外路と高速道路をメインにドライブしたため試せていないが、有益な装備であることは想像に難くない。

MQB採用の恩恵は感じるも……

 ドライブすると、走りは軽やかで穏やか。

 MQBによりホワイトボディーで計85kgの軽量化を実現したおかげもあって、いたって軽快であり、シャシーの味付けに関する唐突な挙動が出ることは基本的に皆無。全体のドライブフィールは、同じくMQBを採用したゴルフに通じるものはあるが、静粛性や快適性ではだいぶ上回る。17インチタイヤを履くハイラインの乗り心地はいたって快適だ。

 オプションの19インチ仕様を装着したRラインでは多少の硬さを感じるのだが、基本的な傾向は同じで、サスペンションがしなやかに路面からの入力を受け流している。高速巡航もフラット感が高く快適だ。MQBの採用もあってだろうが、シャシーに関しては本当によくできていると思う。

 半面、やはりというか、ちょっと気になったのがパワートレーンだ。日本導入モデルは、1.4リッターのTSIエンジンと7速DSGの組み合わせのみ。今回のTSIエンジンはエンジン自体の軽量化と、+28PSという高性能化を実現している。動力性能としては十分で、踏み込めば力強く加速する。条件が揃えば一時的に気筒休止するのだが、いつどうなっているのか、インジケーターを見ないと分からないほどスムーズだ。

 ただし、DSGとの組み合わせというのは一長一短で、もっと小さくて軽いクルマならまだしも、個人的にはパサートには似合わないとあらためて感じた次第。やはりトルコンを持たないDSGは、どうしてもスムーズでない部分が見受けられ、それは車両重量が重ければ重いほど悪化する傾向にある。

パワートレーンはセダン、ヴァリアントともに直列4気筒DOHC 1.4リッター直噴ターボエンジンに7速DSGの組み合わせ。最高出力は110kW(150PS)/5000-6000rpm、最大トルクは250Nm(25.5kgm)/1500-3500rpmを発生。JC08モード燃費は全車20.4km/Lとなっている

 思えば従来型のパサートに初めてDSGが採用されたときにはそれがもっと顕著で、これで大丈夫なのかと思ったほどだった。ところが、その後にだいぶ改善され、今回の新型ではさらに進化したように思うが、それでも気になることが少なくない。

 よくなったとはいえ発進時に若干のギクシャク感は見受けられるし、そこから加速しようとするとクラッチへの負荷を軽減するためか、もっとトルクの欲しい低回転域のトルクが抑えられているようで、ワンテンポ遅れてグッとトルクが出て、しゃくれあがるような加速の仕方をする。エンジンも、十分に過給されれば力強いものの、過給が安定しない状況では排気量の小ささによる線の細さが露呈する。これが「プレミアムカー」に相応しいのかどうか、と思えてくるのだ。

 実走燃費についても、正確に計測していないので数字を出すのは控えるが、感覚としてはそれほどよろしくなかった。車両重量とエンジン特性の関係が、適正値から少し外れているのではないかと。北米向けのパサートように、もう少し排気量の大きなエンジンとトルコンATという組み合わせがこのクルマには似合うように思う。むろん小排気量のTSIエンジン+DSGだからこそ欲しいという人も少なくないだろう。

 筆者がこのクルマを評価するにあたっては、ポロやゴルフであれば分かるのだが、パサートの車格とキャラクターを考えると太鼓判を押し切れない。せっかくほかの部分がとてもよいだけに惜しい、とお伝えしておきたい。

【お詫びと訂正】記事初出時、サスペンションの表記に誤りがありました。お詫びして訂正させていただきます。また、車両重量について一部追記をさせていただきました。

岡本幸一郎

1968年 富山県生まれ。学習院大学を卒業後、自動車情報ビデオマガジンの制作、自動車専門誌の記者を経てフリーランスのモータージャーナリストとして独立。国籍も大小もカテゴリーを問わず幅広く市販車の最新事情を網羅するとともに、これまでプライベートでもさまざまなタイプの25台の愛車を乗り継いできた。それらの経験とノウハウを活かし、またユーザー目線に立った視点を大切に、できるだけ読者の方々にとって参考になる有益な情報を提供することを身上としている。日本自動車ジャーナリスト協会会員。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。

Photo:中野英幸