特別企画

【特別企画】橋本洋平の2013年型軽自動車の魅力を探る

日産と三菱自動車が共同開発した新型軽自動車により、市場はさらに活性化か

6月に発売される日産自動車の新型軽自動車「DAYZ(デイズ)」。三菱自動車と共同開発した軽自動車の第1弾モデル。

 スマートフォンに買い換えておよそ2年。その便利さにようやく気付き始めたが、いまだに慣れないことがある。それは文字の打ち込み作業だ。フリック入力を自在に操り、PCのキーボード並のスピードで文字を打つ若者のようにはなれない。ボタンがあってカチカチと一字一句文字を入力していた頃のほうが馴染みやすい。ガラケーよもう一度、である。

軽自動車の魅力とは?

同じく6月に発売される三菱自動車の新型軽自動車「eKワゴン」。DAYZの兄弟車となる。DAYZとeKワゴンの登場により、今後軽自動車市場は一層活性化することが予想される

 同じことが自動車の世界にも存在する。世界基準に合わせて拡大傾向にある大半の日本車は、狭い日本の道では車線からハミ出ないように気を使って乗ることが多い。また、いまだセットバックが進まない都内の裏道では、クルマを傷つけないかとヒヤヒヤすることばかり。日ごろ運転している時間が長い僕のような人間でさえそんなことを感じるのだから、多くのドライバーは手こずっているのではないだろうか?

 日本に向けて開発が行われていたかつての日本車はよかったな、なんて懐かしく思うことは一度や二度じゃない。世界基準に合わせるっていうのは実に厄介だ。

 けれども軽自動車の世界はそんなことお構いなし。排気量は660cc。全長3400mm、全幅1480mm、そして4名乗車という日本独自の基準で相変わらず作られている。これぞガラパゴス化。ガラケーならぬガラカーが軽自動車だ。だが、携帯電話と違うところは、そのガラパゴス化がみごとに日本の市場で受け、いまや売っているクルマの4割近くが軽自動車というのだから驚くばかりだ。

 売れている理由を挙げるなら、やはり経済性が高いということがあるだろう。車両本体価格のみならず燃費もよく、さらに税金関係も優遇されている面がある。ここ最近ではTPP問題でアメリカからこの優遇されている面を突っ込まれているらしいが、何もソコだけが軽自動車の売れている理由とはならない。これぞ軽自動車が侮れないところである。

 実はいま、現在ラインアップされている軽自動車は安さが一番のものから、スペース効率を狙い軽自動車とは思えない空間を確保したもの、さらには安全装備や豪華装備を充実させてコンパクトカーにも負けないプレミアムな世界まで、あらゆるジャンルを取り揃えている。携帯電話で言うならラクラクホンからワンセグやお財布機能が付いた高機能携帯までなんでもアリなのだ。日本人に向けて細かな気配りを展開し、あらゆるニーズに応えようと努力しているからこそ軽自動車は魅力的で、だからこそ売れるのだ。

 現在の軽自動車があらゆるニーズに応えられていることは、昨年の販売台数にもきちんと表れている。10万台以上売った車種を挙げてみると、ダイハツ工業「ミラ」「タント」「ムーヴ」、本田技研工業「N BOX」シリーズ、スズキ「ワゴンR」「アルト」といったところで、ボディータイプも価格帯もバラバラなのだ。

一口に軽自動車といっても形はさまざま

 では、そんなあらゆるタイプを取り揃える軽自動車を、ジャンル別に見てみることにしよう。

 まずは価格や燃費を追及したワゴンタイプだ。車種はミラ イースやアルト エコといったところが代表的なところだ。これらのワゴンタイプは全高を低めに抑えることで、空気抵抗の低減を狙っているところが特徴的。スペース効率は決して高くはない。だが、部材を抑えシンプルで軽量に仕立てたことで車重を700kg台前半に収め、ミラ イースは30.0km/L(JC08モード燃費、2WD)、アルト エコは33.0km/L(同)という好燃費をマークしている。価格が安いところも魅力的な部分だ。

ミラ イース
アルト エコ

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 続くはトールワゴンタイプ。ワゴンRやムーヴあたりがこのジャンル。価格や装備、そして車格まで、軽自動車界の中核を担うクルマ達ということもあり、ここに自動車メーカーの最新技術がいち早く盛り込まれたところも面白い。

 スズキの場合はこのワゴンRに減速エネルギー回生機構「エネチャージ」と呼ばれるシステムを投入。減速時のエネルギーを助手席下に備えたリチウムイオンバッテリーに蓄電、その電力を後に使い、走っている時にできるだけ発電しないようにすることで燃費を向上させている。また、アイドリングストップの採用や、アイドリングストップ中でもエアコンが効くように考えられた「ECO-COOL(エコクール)」を採用したところも面白い。これはエアコンに畜冷剤を組み込むことでその目的を達成している。

 一方のムーヴは、衝突回避支援システム「スマートアシスト」を他メーカーに先駆けて軽自動車に初設定。衝突軽減ブレーキが軽自動車にまで広がったことは大きなトピックだ。また、近年は軽自動車もNASVA(自動車事故対策機構)が実施している衝突安全性能評価で高い評価を受けているモデルもあり、「軽自動車は安全性能が低い」という考えはもはや古いと言えるだろう。気になる方は、NASVAのWebサイト(http://www.nasva.go.jp/mamoru/index.html)を参照されたい。

ワゴンR
ムーヴ

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 そして最後はスライドドアを装備するハイト系ワゴン。スズキ「スペーシア」、N BOX、タントといったところが代表車種だ。いずれも室内空間はかなりのもので、リアシートの前後のゆとり、そして開放感は極端な話レクサス「LS」にも負けないくらいである。もちろん横幅はないのだが、この空間が得られるのであれば軽自動車でも満足だと考える人も多いのではないだろうか。その気になれば自転車だって積載可能な空間も見どころだ。また、スライドドアもミニバン並みに電動スライドできるタイプも有している。軽自動車だからといって諦めていない作り込みがこのジャンルの見どころなのだ。

スペーシア
N BOX
タント

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 このように駆け足で代表的なところだけを見てみたが、いまの軽自動車がいかに妥協せずに作られているかが少しはご理解頂けたのではないだろうか。かつては軽自動車なんてこんなもの、などと片付けるパターンもあったが、いまや燃費から装備、そして使い勝手に至るまで、コンパクトカーを脅かす存在となっていることは紛れもない事実なのだ。

 そんな全身全霊で造り込まれた軽自動車。だが、そもそもの成り立ちから言って価格をそれほど上げられないのも事実。いまや装備が充実したこともあり、乗り出し200万円に達する車両も存在するが、それでも出来栄えから言えば安い。これは各自動車メーカーが提携し、OEMで販売する体制が整えられたからとも言えるのではないだろうか。

 現在のところ、ダイハツはトヨタ自動車とスバル(富士重工業)に、スズキはマツダと日産自動車に、三菱自動車は日産にOEMを行っている。同じ格好でエンブレム違いとなり、若干ややこしいところもあるが、多くの販売店で多くの人々に供給される体制が整えられたことで販売台数が伸び、そして価格が抑えられているという面もあるのだ。

日産と三菱自動車共同開発の軽自動車に期待

日産のスーパーハイトワゴン「DAYZ ROOX(デイズ ルークス)」は2014年初頭に登場

 この動きをより加速させるのが日産と三菱自動車の協業関係だ。両社は2011年に軽自動車事業の合弁会社「株式会社NMKV」を設立。軽自動車の企画、開発を行ってきた。そしてこの度、同社が造ったクルマを遂に発表。日産は「DAYZ(デイズ)」として、三菱自動車は「eKワゴン」として今年の6月からの販売を予定している。さらに2014年初頭に、日産はスーパーハイトワゴンの「DAYZ ROOX(デイズ ルークス)」を発売することを3月25日に発表している。

 詳細はまだ分からないが、日産の「DAYZ」特設サイト(http://www2.nissan.co.jp/DAYZ/)を見ると、「優れた低燃費性能」「驚くほど広い室内空間」「アラウンドビューモニターやタッチパネル式のオゾンセーフフルオートエアコンなどを軽自動車に初搭載」といった特長が書かれており、その仕上がりに期待が持てる。

 また、スペーシア、N BOX、タントなどと競合することになるであろうDAYZ ROOXに関して。公開されたデザインスケッチを見た限りだが、なんとなく見た目は「ノート」などのデザインを引き継いでいる印象を受ける。日産のディーラーに置いてあっても、違和感なく他の日産車と溶け込んで統一感を得られそうだ。軽自動車でも日産ファミリーであることが伝わってくるエクステリアデザインは、やはり企画段階から開発に参画している恩恵なのだろう。スーパーハイトワゴンタイプらしく快適で広い室内空間を備えるとともに、乗降性や燃費性能も追求したと言う。さらに同社の大ヒットミニバン「セレナ」で培ったノウハウを多く採り入れるというのだから、こちらも大いに期待したいところ。

 OEMでは達成できない仕上がりが、これらの軽自動車には期待されている。DAYZシリーズやeKワゴンが登場することにより、軽自動車界はさらなる盛り上がりを見せるだろう。

 時にガラパゴス化だと揶揄され、時に外圧もかけられてしまうかもしれない軽自動車。だが、だからこそ大切にしたい。なぜなら、これほどまでに日本だけを見つめて開発されたクルマが他には存在しないからだ。日本人をいかに豊かに、そして楽しませようと努力を続ける軽自動車をもう一度見直してみてはいかがだろう? 世界基準など見向きもしないその世界観は、きっと魅力的に映るに違いない。

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橋本洋平

学生時代は機械工学を専攻する一方、サーキットにおいてフォーミュラカーでドライビングテクニックの修業に励む。その後は自動車雑誌の編集部に就職し、2003年にフリーランスとして独立。走りのクルマからエコカー、そしてチューニングカーやタイヤまでを幅広くインプレッションしている。レースは速さを争うものからエコラン大会まで好成績を収める。また、ドライビングレッスンのインストラクターなども行っている。現在の愛車は18年落ちの日産R32スカイラインGT-R Vスペックとトヨタ86 Racing。AJAJ・日本自動車ジャーナリスト協会会員。