まるも亜希子の「寄り道日和」

ヤリスとフィットのレース仕様車合同試乗会

前代未聞!? ガチライバル同士の合同試乗会がツインリンクもてぎ・南コースで開催されました! ヤリスvsフィットという、禁断のFF・CVTモデル対決。これをメーカー広報自らがタッグを組んで開催するというのは、私がこの業界に入ってからはおそらく初めてのことではないでしょうか? メインは、トヨタ・ヤリスのラリーチャレンジ仕様車(左)と、ホンダ・フィットe:HEVのJoy耐仕様車の比較試乗でしたが、ノーマルのヤリス(ガソリン、ハイブリッド)とフィットe:HEV(LUXE)も用意されており、ノーマルとレース仕様車の違いも感じられました

 世間はトヨタ「GR 86」とスバル「BRZ」の新型の話題で盛り上がってるところ、恐縮なのですが(笑)。実は先日、歴史を動かしたんじゃないか、というくらい前代未聞のサーキット試乗会が開催されたんです。

 それは、FF・CVTモデルの最速コンパクト対決と言ってもいい、トヨタ「ヤリス」とホンダ「フィット」のレース仕様車同士の闘い! いや、比較試乗会! 同じ日に同じ場所で、両モデルを走らせることができるイベントを、両メーカーの広報部がタッグを組んで開催したというのは、私が知る限り初めての試みです。

 開催場所がホンダのお膝元、ツインリンクもてぎの南コースだったので、トヨタ広報部としては「ちょっとアウェイ感がありますが(笑)」と言っていましたが、自由試乗時間にはトヨタ広報部がフィットに、ホンダ広報部がヤリスにと、お互いのマシンに乗り込んで「お手並み拝見」とばかりに思いっきり走らせている、そんな光景も新鮮でした。

 そしてランチを挟んで午後からは、北ショートコースに移動して、ほぼ全員参加のカート大会を開催。カートに乗るのは初めてという人もいたのですが、練習走行では百戦錬磨のレーシングドライバー、桂伸一さんにカルガモ走行で教えてもらったり、ほかのみんなの走りを見学したりして、思い思いに走ります。

 私も本格的なカートに乗るのは5年ぶり。最初の1周はカンを取り戻せずあちこちでスピンし、その次の周では少しスピードがのってきたと思ったら、コーナリングスピードに腕力がついていかず、コースアウトの連続。そしてストレートでは、5年の間に増えた体重のハンディを痛感……。5年前より、確実に1秒弱は遅くなっていました(号泣)。

 その後、タイムアタックで順位を決め、速い・普通・遅いグループから1人ずつ選出して3名のチームを編成。最後にミニレースを開催したのですが、私だけでなく皆さん同様に体力の衰えを感じていたようで、スタート前から「やばい、もう手首に力が入らない」なんて言う人ばっかり。そんなこんなで和気あいあい、メーカーの垣根を超えてクルマの楽しさ、モータースポーツの楽しさを存分に体験した1日となりました。

 さて、肝心なヤリスとフィットの対決はどうだったのかと言うと、これが本当におもしくて勉強になる対決だったのです。

個人的にラリーは大好きなので、今回初めてこのラリーチャレンジ仕様車に乗れるのを心待ちにしていたのです。ラゲッジを見ると、リエゾンの間に脱いだヘルメットなどを入れておくネットが取り付けられていたり、ラリー用サスペンションもなかなか珍しく、興味津々でのぞいてしまいました(写真の車両はMTモデルです)

 まずヤリスは、ラリーチャレンジに参戦するための部品が取り付けられたモデルが用意されました。具体的には、車高が10mmアップし、ラリー用のサスペンションとLSDが搭載されているとのこと。今回はサーキットでしかもショートコース。タイトなコーナーが多かったので、どうかなと思いながらスタートしてみると、最初のヘアピンコーナーで予想以上にしっかり、でもジワリと荷重移動していく懐の大きな挙動に「おお!」と手応え十分。ステアリングもやや遊びが多いものの、細かいS字での切り返しもややオーバーステアになりつつ最終的には狙ったインにつけるような感覚で、これは操りがいがあるなぁと、すっかり夢中になってしまったのでした。ラリーではグラベルのように滑りやすい路面が多いでしょうから、これくらいのおおらかさで、帳尻合わせができるくらいの操作感が丁度いいのかなと感じました。

もともとはフィットe:HEVのBASICというグレードをJoy耐仕様に仕上げたマシン。内装はすっかり剥ぎ取られ、リアにはデーンとバッテリーが姿を見せています。レース中はここにエアコンから管を引いて、冷風を当ててバッテリーの温度上昇を防ぎます。もてぎ本コースを本気でアタックすると、バッテリーは1周もたずにカラになるので、ドライバーはどこでバッテリーを貯め、どこで効率的に使うかを考えながら走ることが求められます。けっこう、頭脳戦ですね

 対してフィット e:HEVは、2020年11月にツインリンクもてぎ本コースで開催された、2時間耐久レースの「ミニJoy耐」仕様。ボディの軽量化はもちろん、バッテリーマネジメントの最適化、温度管理、出力アップなど本格的な改良が施されています。

 そして改良の大きな目的は、CVTならではの加速のタイムラグを極力なくすこと。会場にはノーマルのフィットe:HEVもあったのですが、乗り比べると確かに、発進でアクセルを全開にしても、その反応が得られるまでに、どうしても1秒弱くらいの空白が。でもJoy耐仕様車は、踏んだら瞬時にドカーンっとターボのような加速が得られ、手計測ながら0-100mのタイムでも3秒近くの差がついたほどでした。この加速が繰り返し、コーナー出口で何度も味わえるのは、かなり爽快。開発主査・田中さんの話によると、このノウハウをなんとか市販車のスポーティ仕様車にもフィードバックすべく、鋭意開発中だとか! もしかすると? ついにRS復活か!? なんて期待が高まっちゃいますよね。とにかく楽しみにしていたいと思います。

 ただ、もてぎ本コースに合わせてセッティングしてあった足まわりは、ショートコースではかなり跳ね気味に。これは、本コースでは最高速度がぜんぜん高いため、バッテリーの重さの影響を受けにくくするためのセッティングでもあったようなのですが、このあたりも今回の経験を踏まえ、改善につながるかもしれないですね。

 実は、現在FF・CVTのヤリスで全日本ラリーにチャレンジ中の清水和夫さんも、今回の試乗会実現を後押ししてくださったそうなのですが、こうしたメーカーの垣根を超えた試乗会や意見交換会は、どんどんやって双方の開発に生かしていくべきだと、みんなが身を持って感じた1日だったと思います。

 プジョー「208」やルノー「ルーテシア」など、世界には強敵がたくさんいるFFコンパクトだけに、メーカー単体だけでなく「オールジャパン」で、もっともっと面白いクルマを作っていこう! そんな気持ちで、今日の一歩が近い将来のよりよいクルマ作りにつながると信じて、私たちもこれからますます応援したいと思います。

まるも亜希子

まるも亜希子/カーライフ・ジャーナリスト。 映画声優、自動車雑誌編集者を経て、2003年に独立。雑誌、ラジオ、TV、トークショーなどメディア出演のほか、エコ&安全運転インストラクターなども務める。海外モーターショー、ドライブ取材も多数。2004年、2005年にはサハラ砂漠ラリーに参戦、完走。日本自動車ジャーナリスト協会(AJAJ)会員。2006年より日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。ジャーナリストで結成したレーシングチーム「TOKYO NEXT SPEED」代表として、耐久レースにも参戦。また、女性視点でクルマを楽しみ、クルマ社会を元気にする「クルマ業界女子部」を吉田由美さんと共同主宰。現在YouTube「クルマ業界女子部チャンネル」でさまざまなカーライフ情報を発信中。過去に乗り継いだ愛車はVWビートル、フィアット・124スパイダー、三菱自動車ギャランVR4、フォード・マスタング、ポルシェ・968、ホンダ・CR-Zなど。 現在は新型のスバル・レヴォーグとメルセデス・ベンツVクラス。