イベントレポート CES 2020

日産、格子構造とフィルムの遮音材「音響メタマテリアル」をCES 2020で公開

メタマテリアル技術を音響波へ応用

2020年1月7日 発表

新しい遮音材「音響メタマテリアル」

 日産自動車は1月7日、格子構造の上にフィルムを貼るという構造の新しい遮音材「音響メタマテリアル」を「CES 2020」(ラスベガス コンベンションセンター:1月7日~10日)に出展した。

 日産が開発した音響メタマテリアルは、車両の静粛性の向上と軽量化を可能にすることを目的にしたもので、現在遮音材として使われているゴム板などの素材と比べて、重量が約4分の1と軽量でありながら、それらと同等の遮音効果を実現するという。

 遮音材の構造は周期的な格子構造とフィルムを組み合わせたもので、音が伝わる際の空気の振動状態を材料が制御し、音の透過を抑制することで、ロードノイズやエンジン音など、車内に入ってくる自動車特有の騒音を広い周波数帯(500-1200Hz)で効果的に遮ることができるとしている。

【技術】新しい遮音材 #音響メタマテリアル を#CES2020 に出展

 日産では、電磁波領域で高感度アンテナなどに活用されていたメタマテリアルの技術に着目して、同技術の音響波への応用を目指して研究開発を行なってきた。今回、音響メタマテリアルの基本原理を解明することで、高い遮音性能を持つ遮音材の開発に成功したという。

 同遮音材はシンプルな構造のため、量産化が実現すれば従来の遮音材に対し、同等あるいはそれ以上の価格競争力を実現する可能性を秘めているとし、将来的には車両重量への影響やコスト面から、これまで遮音材の使用が制限されていた車種に活用することへ期待している。

 日産は新素材の開発の狙いや背景について同社の総合研究所で音響メタマテリアルの開発を担当するエンジニアの三浦進氏のインタビューを公開。以下はその内容となる。


日産自動車株式会社 三浦進氏

――新しい遮音材「音響メタマテリアル」について教えてください。

三浦氏:日産は、新しい遮音材「音響メタマテリアル」の開発に成功しました。格子構造の上にフィルムを貼るというシンプルな構造で、そのフィルムが音に対して効率的に震えるという特徴があります。これにより圧倒的な静かさと軽量化を両立します。

――音響メタマテリアルはどのような点が画期的なのでしょうか? また、どの程度軽いのでしょうか?

三浦氏:これまでは、例えばゴムの板のような重い材料で音の侵入を遮ってきました。音響メタマテリアルは、従来の材料と比較して4分の1の軽さで同じ遮音性を実現します。圧倒的な静かさと軽量化を両立するということが新しいブレークスルーです。

――素材が軽いということによるメリットは何ですか?

三浦氏:クルマを軽くするということは、電力消費量の削減や、運動性能の向上にもつながります。これまで重い遮音材を搭載できなかった車両にも今回の材料が適応できる可能性があります。

――音響メタマテリアルはどのような仕組みになっているのでしょうか? なぜ遮音できるのでしょうか?

三浦氏:音に対してタイミングよく膜が震え、震えることによって音を効率的に跳ね返すというのが特徴です。結果的に入ってくる音は小さくなります。音が伝わる際の空気の振動状態を材料が制御し、音の透過を抑制することで、ロードノイズやエンジン音など、車内に入ってくる自動車特有の騒音を広い周波数帯(500-1200Hz)で効果的に遮ることができます。

――音響メタマテリアルの開発のきっかけは何だったのでしょうか? また、なぜその必要性に日産が気付けたのでしょうか?

三浦氏:日産は2008年ごろ、当時すでに電磁波領域で高感度アンテナなどに活用されていたメタマテリアルの技術に着目していました。それ以降、同技術の音響波への応用を目指し、研究開発を行なってきました。今回、音響メタマテリアルの基本原理を解明することで、高い遮音性能を持つ遮音材の開発に成功しました。日産はEVのトップランナーです。2010年に初代リーフを出し、お客さまから色々な声を伺ってきました。そこから、静かさが快適な移動空間につながるということを理解しました。

――遮音性の研究を長年実施する中で、課題は何だったのですか?

三浦氏:自動車特有の「ゴー」というロードノイズです。EVによってエンジン音がなくなり、残るロードノイズをいかに消すかということが長年の課題でした。

編集部:椿山和雄