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劇的進化を遂げたスバルの安全運転支援技術「アイサイト・ツーリングアシスト」を完全理解

最高速120km/h・全車速対応、車線がなくても先行車に追従

2017年6月19日 発表

スバルの安全運転支援技術「アイサイト・ツーリングアシスト」。アイサイト ver.3と同じハードウェアながら、新たな機能を加えることに成功した

 現在、スバル車の購入動機で大きなものとなっているものの一つに先進安全運転支援機能「EyeSight(アイサイト)」があるのは間違いないだろう。アイサイト ver.2導入時に自動ブレーキ機能を“ぶつからないクルマ?”として大きく訴求した結果、広く人々に受け入れられスバル大躍進のきっかけになったほか、いまや軽自動車にも同様の(仕組みは異なるものの)機能が搭載されるようになり、日本車の標準装備の概念を変革した。

 そのアイサイトだが、「レヴォーグ」のデビューと同時にver.3を導入。ステレオカメラの撮像素子の高画質化&カラー対応、ステアリングアシストによる車線中央維持機能など数々の高機能化を図った。ただ、このver.3では車種によって実装されている機能が一部違った時期もあり、ver.2に対する進化点が分かりにくかったのも事実だ。とくに高画質&カラー化は、実装するメーカーからすると大きな変更点なのだが、ver.2のできがとてもよかったために高画質&カラーになった恩恵はver.2を使い込んでいる人にしか分かりにくい面もあった。

 今回、「レヴォーグ」&「WRX S4」の改良版から投入される「アイサイト・ツーリングアシスト」はアイサイト ver.3の基線長350mm、高画質化&カラー対応ステレオカメラというハードウェアは変更せずに、ソフトウェアで一段進化した制御にするもの。最高速120km/h・全車速対応、車線がなくても先行車に追従など誰でも分かる進化がウリだ。

アイサイト・ツーリングアシストが搭載されるレヴォーグ。そのほかの詳細は不明
レヴォーグのインテリア。詳細な変更点は発表時に明らかになるだろう
アイサイト・ツーリングアシストが搭載されるWRX S4。そのほかの詳細は不明
WRX S4のインテリア

 訴求するネーミングもアイサイト・ツーリングアシストと明確な名称になり、リアルワールドでのロングドライブに最も恩恵のあるものとなっている。とくに最高速120km/h(速度設定は許容されたメーター誤差に対応する135km/hまで可能)をうたっている点は、今後訪れるであろう高速道路120km/h時代を先取りするものだ。また、中央維持機能を持つステアリングアシスト操作の全車速対応はだらだらした渋滞などで威力を発揮するため、高速道路を利用したロングツーリングの疲れを激減し、疲れが減ることで安全や安心といった部分にもつながっていくだろう。

 このアイサイト・ツーリングアシストだが、ステレオカメラのハードウェアはver.3と同じものを使っているものの、従来のver.3をアップデートしてというわけにはいかず、新規搭載車である改良版「レヴォーグ」&「WRX S4」から利用できるようになる。

アイサイト・ツーリングアシストの位置づけ
スバルの安全思想
コア技術
アイサイトの技術
アイサイトの歴史
アイサイトの評価
アイサイトの搭載率
世界100万台を達成
事故低減効果

 まずは、記者の試乗映像を見ていただきたい。試乗パターンは、70km/h設定で発進し、その後渋滞を意識した30km/hの設定に変更するというもの。70km/h設定でカーブを曲がり、ステアリングアシストの効き具合を確認。その後、先行車が(仮想の)追越車線に外れるので、追い抜きや割り込まれ時の動きなどを体感する。

テストコースにおけるアイサイト・ツーリングアシストの試乗パターン

 その後、渋滞を模した区間では速度を30km/hにセット。20km/hの先行車に追従する様子や、先行車が徐々に速度を落とし完全に停止してしまうまでを体験。完全停止後、3秒経つと追従走行モードから抜けるが、リジュームすれば再び速やかに復帰できる。

 この区間では白線のない区間でのステアリングアシストをしつつの追従走行も体験。白線のない区間でのステアリングアシストをしつつの追従走行は、アイサイト・ツーリングアシストに新たに加わった機能で、白線を認識しづらい領域でも先行車に追従することでステアリングアシストを行なう。

アイサイト・ツーリングアシスト 試乗映像

 なんとなく新しいアイサイト・ツーリングアシストの動きは分かっただろうか。試乗コースを3周した程度なので完全把握したとは言えないが、アイサイト・ツーリングアシストの動きを整理しておく。

アイサイト・ツーリングアシストの拡張領域。赤の点線で囲まれた部分

アイサイト・ツーリングアシストの本質は、ドライバーに運転の責任があるレベル2の自動運転

 アイサイト・ツーリングアシストは、これまでのアイサイト ver.3が発展したものだ。これまでのアイサイトでもアクセルとブレーキによる速度調整は100km/h以下の全車速域で行なっていた。しかし、車線中央維持機能をもつステアリングコントロールは約60km/h~約100km/hに限られていた。アイサイト・ツーリングアシストは、速度域の上限を120km/hに引き上げ、同時に0km/h~約60km/hにおいてもステアリングコントロールするものだ。

135km/hにセットしたところ
こちらは、車線(区画線)と先行車を同時に認識しているところ。上の写真は車線のみの認識で、クルマに四角い枠が付くのが異なっている

 つまり、0km/h~約120km/hの領域で、アクセル、ブレーキ、ステアリング制御を先行車を認識しつつ、車線を認識しつつ行なっていることになる。これは運転の責任がドライバーにあるレベル2の自動運転にほかならないが、スバルとしては“レベルx自動運転”という言葉より、“ツーリングアシスト”という効能が分かりやすい言葉を選んだのだろう。これは、「ぶつからないクルマ?」と、自動ブレーキの効能を打ち出したときと同様の考えがうかがえる。

 このアイサイト・ツーリングアシストの動きを理解するには、アクセルとブレーキで車速(縦方向の動き)を、ステアリングで横方向の動きを制御し、クルマのコントロールを行なっている、と整理すると分かりやすい。

 そして、このクルマの動きを決める情報となるのが、先行車、車線、設定車速などの要素だ。とくに先行車と、車線は中央維持制御の大きな要素となっている。

アイサイト・ツーリングアシストの3つの制御パターン。速度域や環境によって使い分けている

 まず、車速制御に関しては、これまで同様の基本的な制御がされている(もちろんスバルなので細部はチューニングされている)。先行車がいなければ設定車速で走行し、先行車がいれば3段階の設定車間に合わせる形で先行車の速度に追随していく。

 新しく加わった全車速(0km/h~135km/h[メーター値])での中央維持制御については複雑な制御が行なわれている。最も優先されるのは車線(区画線)の認識。車線をしっかり認識できれば中央を走行することは比較的容易だ。これは全車速域で行なわれ、車線が認識できていれば車線の中央を維持していこうとする。116km/h以上~135km/hでもできるようになったのが根本的な進化点だ。

 次に60km/h以下でもステアリング制御を行なうようになった。車線を認識した際は車線の中央を維持しようとし、車線がない場所で先行車がいる場合は先行車に追随してステアリング操作が行なわれる。では、車線がなくて先行車がいない場合はというと、これは設定車速で真っ直ぐ突っ走ってしまい、シンプルなACC(オートクルーズコントロール)の動きになる。

 40km/h超~60km/h以下の速度域では、車線認識と先行車認識が選択的に働き、車線認識の場合は車線の中央に(片側車線でも適切な場所を維持しようとする)、先行車認識の場合は先行車に追従した動きをする。両方認識できている場合は、車線認識を優先し制御する。実際、先ほどの試乗映像でも左側の車線認識をしているため、先行車追従ステアリング操作とならないため、ステアリングをあえて右に切って車線認識を外し、先行車に追従させた部分があるのを見て取れるだろう。

 40km/h以下の速度域でのステアリング制御はさらに複雑だ。この領域では速度が低くなるため、時間的な車間距離(衝突を回避可能な車間距離)が上の速度域より短くなる。そのため、先行車との車間が縮まった場合、車線がアイサイトのステレオカメラから見づらくなるということが起きる。そのため、車線認識、先行車と車線認識のミックス、先行車認識の3つのモードを使い分けている。スバルに確認したところ優先順位は、区画線単独(車線認識)>先行車と区画線のミックス>先行車単独となる。

 速度域や車線の有無、先行車の有無によって多数のモード切り替えを行なっているアイサイト・ツーリングアシストだが、実際に運転する際はこれがシームレスに行なわれるのでまったく意識する必要はない。ただ、このように動いていることを理解することで、実際に運転した際に“あれっ?”と思う場面において、不安になることは減るだろう。

 このアイサイト・ツーリングアシストは、現時点で最良の機能をもっている安全運転支援システムであり、ドライバーに運転責任のあるレベル2の自動運転システムだろう。

 新型「レヴォーグ」「WRX S4」発売後は大きな話題となるのは間違いなく、ぜひ販売店での試乗などを行なってみていただきたい。ただし、運転責任は必ずドライバーにあるので、悪条件下での試乗などはお勧めしない。

アイサイト・ツーリングアシストが役に立つ場面は?

 このアイサイト・ツーリングアシストが役に立つ場面はというと、これはスバルがシステム名に込めているようにツーリング、つまり高速道路を使った旅行などが挙げられるだろう。日本の高速道路は車線がはっきりしており、ほとんどの場面でステアリングアシストの恩恵を受けられ、高速道路渋滞時でもアクセルやブレーキ操作をアシストしてくれることから、疲れが大幅に減るのは間違いない。それが結果として安全性の向上となり、旅を楽しく終えられることになる。

 高速道路のほとんどのシーンは60km/h以上の区間となり、アイサイト・ツーリングアシストは車線を認識して走行。先行車の車線変更や高速道路からの離脱に影響されることもない。車線認識と先行車認識がセレクティブで動作するメリットを体感できる。

 動作速度も120km/hの速度域への対応が行なわれおり、高速道路の最高速引き上げへ向けての実験が始まっていることから、実際に最高速が引き上げられても便利につかえるほか、長期保有後のリセールバリューも高いものとなるだろう。

 次が60km/h以下のちょっとしたワインディングロードなど。このような場所を走る際に先行車があれば、ある程度のステアリングアシストが効くため従来よりも楽に走ることができる。コーナーでの先行車追随については、「40km/hで80Rほど」とのこと。さまざまな条件はあるだろうが、これまでとはまったく違ったアイサイトを体験できる。

 そして、最も恩恵を受ける機会が多いのが、40km/h以下のステアリングアシスト機能。クルマを通勤で使っている人ならその便利さを最大限に生かせるだろう。都市部での渋滞、市街地での走行など、これまでよりも遥かに楽に通勤できるはずだ。

人に優しいアイサイト・ツーリングアシスト

 では、アイサイト・ツーリングアシストが役に立たない場面はどんなシーンだろう。まずは、先行車も車線もないワインディングロードなど。この場合、目標物がないため、アイサイト・ツーリングアシストはただのACCになる。例えば40km/hに設定したら、その速度でコーナーに真っ直ぐ入っていく。アイサイト・ツーリングアシストは地図情報と連動しておらず、先行車や車線がないとコーナーの予測ができないためだ。

 次は悪天候時。アイサイト・ツーリングアシストは、環境認識に基線長350mmのステレオカメラのみを用いている。雪が積もれば白線が見えないし、霧が出れば先が見えなくなる。西日については、ver.2からver.3になるときに、撮像素子がCCDからCMOSに変更されたため強い光に対する耐性は向上したが、ちょうどよい角度(わるい角度)で西日がステレオカメラに入れば、やはり厳しい面もあるだろう。

 しかしながら、アイサイト・ツーリングアシストは、ステレオカメラ中心で制御しているため、雪道での車線認識エラーなど、なぜ認識できなかったのかが極めて分かりやすい。豪雨や濃霧で前が見づらかったら速度を落とすしかなく、目で見て環境認識している人間の感覚にマッチしている。

 車線のある道で車線の中央を走る、車線のない道でも先行車に追従して走るなど、これは目で見て走る一般の運転方法と同じだ。そのため、違和感や不安感はなく、アイサイト・ツーリングアシストを使いこなしていくことは容易だろう。

 なお、アイサイトの一番のメリットは「ぶつからないクルマ?」を実現することにある。この自動ブレーキ機能については、ver.3同等の「目標との速度差が約50km/h以下なら自動ブレーキによる衝突回避・衝突被害の軽減が可能」という。条件がよければ70km/hでも可能であるし、条件がわるければ50km/h以下にもなる。

 自動運転に対する期待は高いが、現時点では運転の責任はどんな場合にもドライバーにある。その責任あるドライバーをサポートする機能として、アイサイト・ツーリングアシストがトップレベルにあるのは間違いない。

【お詫びと訂正】記事初出時、レヴォーグのインテリアとして誤った写真を使用していました。お詫びして訂正させていただきます。