ニュース

世界の自動車安全評価の担当者が参加するフォーラム「2017 NCAP&Car Safety Forum in Tokyo」レポート(後編)

2日目の議題は安全評価、保険の面から見た自動運転について

2017年8月1日~2日 開催

2日目の議題は安全評価、保険の面から見た自動運転について

 世界の自動車交通の業界に影響力を持つキーマンが参加し、最新の自動車安全評価に関する情報を日本の技術者とやり取りする「第4回 2017 NCAP&Car Safety Forum in Tokyo」が、8月1日~2日に渡って都内で開催された。1日目はクルマの安全性を示すレーティングについてが議題だった。

BASt所属でEuro NCAPレーティングチーフのアンドレ・ジーク氏

 さて、2日目のテーマは自動運転。登壇者はアンドレ・ジーク氏(BASt of Euro NCAP)、エイドリアン・ヘルマン氏(BASt/Euro NCAP Active Safety)、デヴィッド・ズビー氏(IIHS/全米損保協会交通研究所)である。

 1日目と同様、最初に登壇したのはアンドレ・ジーク氏。話のなかでジーク氏が強調したのは、自動運転のレベルと安全評価のレーティングは違うということだった。つまり、自動運転のレベルとはその名のとおり、状況に合わせてどう運転するのかということについての内容である。ゆえに、Euro NCAPが行なっている安全評価とは根本的に異なるということである。

 その例として挙げられたのが、レーンキープアシスト。この機能は車線逸脱による事故を減らす効果があるので、Euro NCAPの立場からいえば常時ONであるほうが望ましい。しかし、クルマは自動車専用道路だけを走るのではない。一般道では割り込みもあるし、車線をまたがないと走れないシチュエーションもある。そういったシーンではレーンキープアシストが機能しない方いいのは事実だ。

 このように、実際の走行ではクルマを取り巻く状況が複雑になるので、自動車メーカーとしてはどの機能を「どこで」「どう使うのか」ということから決めていく必要があると指摘。それに加えて、Euro NCAPとしては従来のスターレーティングとは別に自動運転車のための独自のレーティングが必要であると考えているとのことだった。

 さて、今回のジーク氏の話は自動運転の概要を語るのではなく、自動運転と安全評価に関する専門的な解説に終始したが、一般ドライバーにとっても興味深い発言もあった。それは自動運転の呼び名についてだ。

 ジーク氏は「自動運転にはSAE(Society of Automotive Engineers)によって設定されたレベルがあることはご存じだと思います。このレベルには自動化がまったくないレベル0から、機械だけで行なう完全自動運転のレベル5まであり、その間に1から4まで機械の介入度合いによってレベル分けされています。さて、この自動運転ですが、存在が広く知られるようになったこともあり、1つ問題が起きています。それは自動運転についての呼び方で、“セルフドライビングカー”とか“オートノマスカー”など違う名前で呼ばれることが多いということです。これは混乱を招くものなので懸念すべきことです。なにしろ、それぞれ呼び名ごとに定義づけも違います。とくにオートノマスカーとは、あらゆる状況の時でも完全自動運転が行なえるレベル5のクルマです。このクルマにはドライバーの役割はありません。このように呼び名に関しては意識していただきたいところです」と語った。

 これについて、我々ユーザーも自動化された内容とその呼び方がマッチするかという部分に注目しておくべき点なのかもしれない。

ジーク氏のプレゼンテーションで紹介された資料。自動運転のレベル分けについて
Euro NCAPが行なった自動運転機能のカテゴライズについて
運転の目的とそれに使用する機能をまとめた表

保険業界から考える自動運転について

全米損保協会交通研究所のデヴィッド・ズビー氏

 次は全米損保協会交通研究所のデヴィッド・ズビー氏のプレゼンテーションを紹介する。ズビー氏は実際に公道で走行実験を行なった、無人の自動運転車であるGoogleカーについて触れた。

 提示された資料には、Googleカーが実験中に起こした事故のデータがあったが、その解説では「Googleカーが起こした事故の内訳を見ると、軽微なものが多くなっています。また、Googleカー自体が単独でどこかにぶつかったことよりも、ほかのクルマから追突されたなどの件数が多くなっています。そもそも事故の件数も少なく優秀と言えます。しかし、Googleカーは走行速度がゆっくりです。それにテストを行なっている地域はアメリカのなかでも気候が安定しているところで、なおかつ昼間のみの実験です。つまり雨や雪、夜間といった運転に対して条件がわるい状態でテストをしていないのです。このデータを見るときはそういう点も考慮しないといけません」と、現状のデータに関して慎重な見解を示した。

Googleカーをはじめ、現在でも多くの自動運転車が走っていることに触れたあと、Googleカーの事故について解説した
事故件数や内容についてのグラフ。Googleカーの事故はほぼ軽微なものであり、事故件数には他車からの接触も含まれている。それだけに事故は少ないと思うところだが、テストは天候の条件がよく昼間しか行なっていないので、一般の事故事例データと直接比較することはできない

 次にズビー氏が触れたのは、自動運転のレベルごとの内容をユーザーに正しく伝えることの重要性だ。これについては「メーカーや省庁がレベルの違いを理解することはもちろんだが、一般ユーザー、とくにレベル2システム搭載車のオーナーに対しては、機能情報の公開が必要。レベル2とレベル3の区別が付かないまま、レベル2のオートパイロットを過信するのは危険な面もあるからだ。例えば、テスラのモデルS(レベル2)のマニュアルには自動運転は“インターステイトハイウェイのみで使うこと”と記載されているが、機能自体は郊外の道路でも使えてしまうことがある。オーナーズマニュアルに要点をまとめても読まれないことも多いので、システム的に情報閲覧を強制するということも必要ではないか」とのこと。

 この解説では、テスラのモデルSユーザーが自ら撮影した、レベル2の誤った映像を紹介。何例かあったが、すべてにおいてドライバーは運転以外のことに意識を集中させていて、システムからの呼びかけがあったとしても対応が遅れる、もしくはできないというものだっただけに、ズビー氏の提案は必須と言えるかもしれない。

 次に注目したのは、自動運転中に事故を起こしたときのことだ。ズビー氏は「機能の設定されている範囲を超えた使い方をした結果、クラッシュした場合についてです。これは誰の責任になるかというと、操作マニュアルに記載されていない状況下の事故なので、そういった場所で機能を使ってしまった乗員側の責任はもちろんありますが、そのような道では使用できないようにしていなかったメーカーの責任も問われるでしょう」と、メーカーに対して自動運転の性能向上だけでなく、機能の限界をユーザーにしっかり伝えることについても考えたほうがいいということを保険業界の立場からコメントした。

州によって自動運転車の試験走行への対応は異なっている。一部の州では試験走行を禁止しているところもある
メーカーや省庁がレベルの違いを理解することはもちろんだが、一般ユーザー、とくにレベル2システム搭載車のオーナーに対しては、機能情報の公開が必要とのこと。レベル2とレベル3の区別が付かないまま、レベル2のオートパイロットを過信するのは危険な面もあるからだ

レーンキープアシストとレーンチェンジの機能について

Euro NCAPのエイドリアン・ヘルマン氏

 この日、最後のプレゼンテーションはEuro NCAPのエイドリアン・ヘルマン氏から、自動駐車技術などに用いるACSF(自動操舵)について解説があった。ヘルマン氏いわく「ACSFは部分的な自動化であり、現在は10km/hまでの域で実装されているものです。ただ、一部の機能はレーンキープアシスト時の補正操舵ということにも使われていますが、ACSFを用いてクルマを運転することは、手動でステアリングを操作するのと同じくらい安全なものであることが重要です。そして、いつでもドライバーの意思で手動運転に切り替えできなければなりません」と語る。

 また、「こうしたことから、ACSFはレベル2だけのシステムであるといえますが、ACSFが機能している最中、ドライバーの意識はステアリング操作から離れてしまうこともあります。そのとき、ドライバーがシステムの呼びかけに対して反応するのが遅れることも想定されますが、これについては私達は実験したことがあります。そのときのデータでは、運転に集中している際のドライバーのリアクションタイムは0.7秒~1.4秒くらいの時間が必要なのに対して、手動運転への意識が薄れていると1~2秒となり、さらにドライビング以外のことに気を取られている状態だと、反応するまでもっと長い時間が必要ということでした」とのことだ。

ACSFの解説に使用された資料。この機能は部分的な自動化であり、レベル2に入るものとのこと

 次はACSFのカテゴリーについての説明だ。「ACSFにもA~Eまでのカテゴリーがあり、Aのアシストでは10km/hまでレーンキーピング。Bはレーンキープアシスト用ですが、Bのカテゴリーはドライバーが常にステアリングに手を添えていなければならないB1と、短時間であればステアリングから手を離してもいいB2の2つに分けられます。そして、C~Eはより高度なレーンチェンジに関するものとなっています。それぞれの使用範囲ですが、Aは10km/hまでのものなので駐車などに限られます。対してB1以上は高速道路で使えるもので、高速道路上は歩行者や自転車がいない状況なので、自動操舵のシステムはカテゴリーをまたいだコンビネーションで使用されるものと思います。つまり、レーンキープとレーンチェンジの両方を行なうものです」と解説した。

ACSFのカテゴライズについて

 ACSFでレーンチェンジを行なう場合だが、人間がドライブする際にも横にスペースがあるかを目視で確認するだけに、クルマにも横方向のセンシングが不可欠になるのだが、これについてはスライド画像にあるように、並走するクルマも同じレーンに入ってくる可能性もある。そのため、少し先のレーンの状況も知っておく必要があり、自車から7~8mほど先までセンシングできる能力が必要とのことだ。

 このほかはレーンキープ、レーンチェンジに関するより細かい解説になったので、本稿ではそこは省かせていただき、ヘルマン氏のプレゼンテーションの紹介はここまでとする。

カテゴリーC以上のレーンチェンジについて。車線を変更するためには何をセンシングし、計算するかを紹介するスライド
交通安全環境研究所の河合英直氏

 この日もパネルディスカッションが行なわれたが、ここには交通安全環境研究所の河合英直氏が出席したので、最後は河合氏の発言を紹介しよう。

 河合氏が取り上げたのは、自動運転という名を持つクルマの性能をいかに正しくユーザーに伝えていくか、と言うことについてだ。河合氏は「ジークさんが最初におっしゃってましたが、クルマに乗っていただくユーザーと、製造に関わる側では自動運転についての認識に大きな違いがあります。これは単にユーザーの方が知らないだけと放置せず、いかに正しく理解してもらうかを今のうちに行なっておかないと、もっと普及してきたときに大きな混乱を招いてしまうのではないかと思っています。現状、自動運転に対する“物さし”が、各フィールドのなかでバラバラであることを統一して議論を進めることが、より複雑になるであろう自動運転の開発や、その内容を正しく理解してもらうためには必要なのではと思います」ということである。

モデレーターは国土交通省自動車局の猪股博之氏
パネルディスカッション2日目に参加したアンドレ・ジーク氏
同じくエイドリアン・ヘルマン氏
デヴィッド・ズビー氏
K NCAPのユン・ヨンハン氏もパネルディスカッションに参加

 2日間に渡って開催された「第4回 2017 NCAP&Car Safety Forum in Tokyo」の紹介を終えるが、今回の開催でEuro NCAPのジーク氏と日本の河合氏から出た「自動運転に対する理解の統一」については、自動車メーカーの技術者も重要と考えていたようで、会が終わったあとの雑談レベルの会話でもこの話題が出ていた。それだけに、次回のフォーラムではこの件についての解決策が紹介されるかもしれない。